雪ノ下が製作したテストを受けた結果。総武高校の秀才の頭を悩ますことになったとだけ言っておこう。
結局、しばらくは雪ノ下のもとで勉強を見てもらうことになった。一人でどうこうなるレベルではないとのことだ。
誰かと勉強をするのは新鮮で、気付けば梅雨も終わり夏休みを間近に向かえていた。
職場見学と期末考査を終えれば夏休みになるという時期にその依頼主は奉仕部の門を叩いた。
依頼人の名は葉山隼人。なんでもクラスで流れているチェーンメールを何とかして欲しいとのことだった。
話を聞いた時に、これまた面倒な依頼を持ち込んでくれたなと思ったものだ。
しかし、意外にも依頼は長い期間を必要とすることなく解決することとなった。
割愛するが、職場見学を予期せぬメンバーとすることになることでこの件は終息を迎えた。
「まぁ、俺が試験ならおまえも試験だよな」
「う~、勉強大変だよ。お兄ちゃん」
特に目立った事件も無く職場見学を終えると、当然ながら試験が待ち構えている。
一学期の試験なんてものは中学も高校も大して差はなく行われるものだろう。
小町は現在、頭を悩ませながら教科書に向き合っている。どうやら数学で思い悩んでいるようだ。
「中学3年の一学期の数学なんて簡単だろうが、俺ですらそこそこ点数取れたぞ」
当時は高校の入試を控えていた年でもあり、高校入学試験でも数学の試験があったのでそれなりに身を入れて勉強していた。そこそこ点数をとれたのもそのおかげだ。
むしろ俺の人生の数学史において最高得点だったともいえるのでがないだろうか。
「むぅ、別に勉強が大変って言っただけで数学駄目だんて言ってないもん」
「妹が可愛くない屁理屈みたいな言い訳してる」
「お兄ちゃんの真似だよ」
妹が可愛くないと思ったら俺だった。
当然すぎてぐうの音も出ないわ。はい、ここテストに出るよ覚えとくように……いや、出ないか。
高1の時の歴史の先生が『先生の歴史トリビアからもテストに出すからね』と言って必死こいてノートとらせて、結局一問も出さなかったあの先生を俺は絶対に許しはしない!もう、異動して総武高校にはいないので二度と会うことはないだろうけどな。
「どうりで可愛くないわけだ。」
「ほんとにお兄ちゃん可愛くないよね。どこで育て方間違えたんだろう」
「おまえは俺の母ちゃんかよ。バカやってないで勉強しろ勉強」
こんなやり取りをしながら互いにリビングで向き合いながら勉強している。
小町から勉強を一緒にしようと誘われたので兄として見てやっているのだ。
テスト前に悩むくらいなら普段から勉強すればいいのにと思うのだが、小町曰く『それが出来たら苦労しなよお兄ちゃん』とのことだ。
「なんかお兄ちゃん一人で集中してて一緒に勉強してる気がしない。もうちょっと教え合ったり、雑談したりするもんだよ勉強会って」
「俺がおまえに何を教えてもらうってんだよ。嘗めんな」
「その発言、小町的にポイントひくーい」
「うぜぇ。だいたい雑談なら今してるだろうが」
「お兄ちゃんが休憩してるから小町に付き合ってくれてるだけじゃん」
「まぁ、そうだな」
区切りが付いたので俺はマッカン片手に休憩中。結構小町には付き合ったし、効率を上げるためにそろそえお自室に引き上げてもいいかもしれない。
「お兄ちゃんって真面目だよね」
「だろ」
「はぁ、普通はそんなことないよって返すとこだよ」
「妹相手に謙遜してどうすんだよ。事実、俺真面目に勉強してるし」
「ほんとこのごみにいちゃんは……」
「おい、何で 真面目にしてるのに貶されなきゃなんねぇんだよ」
ここまで真面目に勉強をしているのだから高校生の鏡だといっても過言ではないまである。
え?違う。そんなバカな…
「そういえば沙希さんって勉強できるの?」
「露骨に話題を変えやがったな。
まぁいいけど、あいつも出来るほうだと思うぞ。根が真面目だしな」
「ふーん、やっぱ総武高校入れたんだからそうだと思った。
そうだ!沙希さんと大志くんも入れて勉強会しようよ明日にでも」
「明日は駄目だな。用事がある」
雪ノ下達との勉強会だ。
中間考査も視野に入れつつ俺は数学を重点的に、同じく教えてもらう側になる川﨑と由比ヶ浜もそれぞれの苦手教科を教えて貰うのだろう。
「またまたー」
「いやマジで」
「えっ、本当に?」
「馬鹿にしてんのか。俺にだって用事のある日くらいできる」
「数学の補習とか?」
「テスト前に補習があるわけないだろう。それはテストの後の用事だ」
雪ノ下に教えてもらっているとはいえ、まだ教えを受けて間もない状態でのテストなので赤点を脱出できるかどうかすら危うい。
ただ、教えを受けているわけだから赤点を取ろうものなら悲惨な目に合う気がするので出来るだけ避けたくはある。
「そこまで真面目にやってるのに補習前提とかある意味凄いよお兄ちゃん」
「普段なら捨ててるんだけどな。今回は一応頑張ってるからなんとかするつもりだが、難しいな」
「やっぱり国立目指すの?」
「そりゃな。あの条件なら目指さない理由にはならないな」
「お金目あってて…動機が不順過ぎない?」
「バッカおまえ。いいか小町
奨学金の為に勉強を頑張る=立派
つまり俺も超立派」
「流石ゴミにいちゃん。最低だね!」
妹がゴミを見るかのような視線をこちらに向けている。
何故だ。
「そんなことよりも本当に用事あるの?
……もしかしてこの間から沙希さんと一緒に所属してるとかいう部活関連の用事?」
「あぁ」
「なんだ。沙希さんも一緒なんだ。なら安心」
そこはかとなく馬鹿にされているような気がするが気にしないでおこう。
「そういうわけだ。明日以外ならいいぞ」
「うん、わかった」
◆
それから約一週間が経ち、無事テストは終了しそして全科目返却された。
赤点回避!補習免除!
流石は俺だ。やればできる。
「丁度平均点ぴったりだなんて器用ね」
「だろ」
結果がわかった放課後。
俺は奉仕部で雪ノ下の返却された数学のテストを見せている。
「まぁ、及第点といったところかしら?
テストまで期間が短かかったものね。次回はさらに上を目指して頑張って」
意外にすんなりと結果見せが終わる。
肩透かしを食らった気分だ。雪ノ下ならもっと色々と言ってきそうなものだと思っていた。
「で?由比ヶ浜さん。この点数は何かしら?
赤点ではないとはいえ少し酷過ぎないかしら」
そうそうこんな感じで…ん?
「うぅ〜、いやー、ヤマが外れたというかゆきのんの教えて貰ったところは良かったんだけどね?
暗記系が軒並みヤマが外れて…」
由比ヶ浜よ、あんなに雪ノ下と勉強したのに結果はイマイチだったのか。
「普段から予習復習をあんまりしないでしょ由比ヶ浜は、テスト前に詰め込むから駄目なんだよ」
そう言ったのは川崎だ。ぐうの音も出ない正論だな。
テスト前に慌てて詰め込むと単語だけ覚えて、それが何かが朧げになって、出題された問題と関連付れなかったりするしな
「そうだよね。
テスト終わってから優美子達にあの問題わかった?って話してたら『あー、それだ!』ってなったもん」
「由比ヶ浜さんが進路をどうするかは分からないけれども、進学するのならそろそろ普段から勉強をするようにしたほうが良いと思うわ」
「だよね…うん、頑張る!」
まぁ、確かにそろそろ本腰を入れる奴らもいる時期だな。
俺も夏休みには予備校で夏期講習だしな。
「川崎さんは全教科問題ないわね。どれも平均より少し高いくらいかしら?
その中で国語が少し良い感じね」
「読書する機会を増やしたのが良かったみたい」
「そう、その調子で頑張って」
取り敢えず雪ノ下に教えを乞うた俺達の結果発表は終わったわけだ。
「おまえはどうだったんだ?」
「私?えぇ、特に問題無かったわ」
そういって見せて貰った結果一覧には軒並み高得点の数字。
そして一際目を引く各教科の下に並ぶ学年順位1位の文字。
「すげぇな。マジでこんなことできる奴いるんだな。
漫画の世界だけだと思ってたわ」
「ゆきのんすごーい!」
「凄いね」
本当に感心する。
わかってたけど、こいつが本当にすごい奴だったんだと改めて思い知る。
「えぇ、わたし優秀だもの」
「そこで謙虚にならないあたり雪ノ下らしいわ」
腹に立ちそうな発言なのに、そんな気が微塵も湧いてこないのは俺が雪ノ下のこういった振る舞いに慣れてしまったからだろうか?
「必要性を感じないわね。自負を持つことのどこがおかしいのかしら?
謙虚を美徳とする価値観があるのは理解しているけれども、必要以上に自分を下に置くなんて実に下らないわ」
「自負……?」
「自分の能力とか才能に自信を持つことだよ」
「あー、ち、違うからね!ちょっと忘れてただけで知らなかったわけじゃないからね」
「由比ヶ浜さん…」
「由比ヶ浜…」
「ゆきのんもヒッキーもそんな目で見ないでよー」
いや、流石にな。由比ヶ浜らしくていいとは思うけど…
「失礼するよ」
突然に入口が開かれ平塚先生が入室してきた。
「先生…ノックを」
「すまないね。次は気をつけるさ。
ところで、君たちのテストの結果はどうだったのかね?」
雪ノ下が先生がノックをしなかったことを咎めるが、そんな小言をどこ吹く風と先生は気にした様子は無い。
あれは次もしないな。
「勉強会の甲斐あって、全員上々の結果ですね」
「それは良かった。
では、そんな君たちにご褒美の代わりに一夏の想い出をプレゼントしようじゃないか」
「プレゼント!?やった!」
素直に喜んでいるのは由比ヶ浜だけだ。
川崎と雪ノ下は先生の次の言葉を待っている。
「千葉村で奉仕部での合宿をしようじゃないか!!」
「合宿ですか?」
「そうだ。丁度、近隣の小学校の林間学校があってな。
それのサポートもしてもらいながら君たちには二泊三日の合宿をしてもらいたい」
「…ボランティアじゃねぇか」
「だね」
「そういえば、私達の時もそういえば高校生か大学生の人がいたよ」
「反対という訳ではないのですが、具体的にはどのようなサポートを?」
嫌だぞ。朝早くから寝るギリギリまで小学生のお守りとか。
夏休みなんだから休みましょうよ。
「ふむ、細かくは向こうからの連絡待ちの状態だ。
しかし、毎年のことだ。大きく変更はないだろう。レクリエーションの手伝いに夕飯作りの手伝いぐらいなところだろう。
2日目に肝試しかキャンプファイアー、若しくは両方といったところだろう。
それらの手伝い以外は君達の自由にしてくれて構わないよ」
いや、それだと初日の夕食後と二日目の午前中くらいしか自由時間は無いんですが…
二泊三日でだいたい仕事って何それ辛い。
「わかりました。
私は参加することに問題はないのだけれども、皆はどうなのかしら?」
「お盆とかじゃないなら大丈夫かなー?
家族旅行に行く予定だからその当たりだとちょっと厳しいかも」
「私も大丈夫かな。
弟が来年受験だしね。他に家族で何処かに出掛ける予定は今のところ無いよ」
「なら大丈夫ね」
「おい、ちょっと待て。
ナチュラルに俺を省くな。俺にだって予定があるかもしれないだろう!
家族が出掛けたりするかもしれないじゃないか!」
「はぁ…それ貴方は行かないことになっているじゃない」
ばれた。流石は国語総合1位だわ。
「ん?……あぁ!家族が、だからだ!」
「まぁ、うちも妹が来年受験だから控えるだろうよ。
いつもなら小町と両親でどっか遊びに行ってるがな」
「やっぱりヒッキー行って無いんだ」
おい、やめろ。
その可哀想な人を見る目で俺を見るな。
「夏のクソ暑い中出掛ける気にならんだけだ。
クーラー最高。文明の利器って素晴らしい」
「比企谷…若い時からそんなどうする」
「先生こそ、なにを言ってるんですか。
若い時に受けた紫外線のダメージは加齢と共に如実に現れるのを知らないんですか?
将来のシワ、シミを積極的に作りにいくとかお肌の自殺行為に他ならないですよ」
「ぐはぁっ!!」
「比企谷君。それ以上は辞めて起きなさい」
俺の想像以上に平塚先生には効いたようで、先生は10カウント取られそうなボクサーみたいになっている。
「あんた一体何視点もの言ってたの?」
「この前、小町が家で読んでた偏差値引くそうな本に書いてあったらしい。
読んだ後に得意気になって話してきたから間違いないだろう」
「…? ねぇねぇ、ヒッキー。偏差値引くそうな本ってどんなの?」
「おまえが昨日部室で読んでた雑誌みたいなのだな」
「なっ!そんなこと……あるのかなぁ?」
「由比ヶ浜さんその男の言うことをまともに効いては駄目よ」
「そうだな」
「本人が認めたっ!?」
茶番はこれくらいにしてそろそろ平塚先生に話の続きをしてもらおう。
話が終わらないと、いつまで経っても帰れないしな。
先生は川崎に支えてもらいながら立ち上がった。
「…詳細は後日メールで通知する。
今日はもう帰る」
「お、お疲れ様です」
覇気が無くて、まるでゾンビだ。
肩を落としながら帰る平塚先生を、奉仕部全員で見送った。
サブタイやめました。