川なんとかさんルートを妄想してみた。   作:ハーミット紫

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ほぼ原作の流れです。
なので一週間以内投稿出来ました。ぶっちゃけ最後のところがしたかっただけです。


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放課後。

俺のクラスの国語を受け持つ平塚先生に呼び出され、以前課題で提出した覚えのある作文を聞かされた。

 

「なぁ比企谷。私が授業で出した課題は何だったかな?」

 

そういって先程声に出して読んでいた原稿用紙を見せる。

あれはつい先日、授業の中で出された『高校生活を振り返って』を書いた原稿用紙だ。

 

「『高校生活を振り返って』というテーマの作文でしたね」

 

「そうだな。それでなぜ君は犯行声明を書き上げているんだ?バカなのか?」

 

平塚先生は気怠げに足を組み変え、ため息をついた。

しかし、自分の書いたものを他人に読まれると気恥ずかしく感じるものだ。文章力の無さがさらにパンチを効かしている。

 

「君はアレだな。死んだ魚のような目をしているな」

 

「なんか賢そうに聞こえますね」

 

口角が釣り上がり、眉間に皺が寄る。勿論平塚先生のものがだ。

 

「比企谷。この舐め腐った作文は何だ?言い訳くらいは聞いてやる」

 

眼光が鋭くなる。美人がやると様になる。こういた表情は威圧的で圧倒されてしまう。

しかし、どこか覚えのある表情でもある。

川崎だ。あいつの前で失言するとこういった表情をする。

年季が違う分平塚先生の方が恐ろしいのだが…視線の鋭さが増した。何故だ。

 

「ちゃ、ちゃんと振り返ってますよ?最近の高校生は大体こんな感じじゃないですか!大体合ってますよ!」

 

「普通こういうものは自分のことを省みるものだ」

 

「だったらそう前置いて下さい。そうしたらそう書きます。先生の出題ミスですね」

 

「屁理屈を言うな小僧。…まぁ、アレだ。私も怒っているわけじゃない」

 

しまった。謝るタイミングを見逃した。

怒っているわけじゃないから始まる話は大抵長い。ソースは家の母親。

ようはガミガミでは無く、ネチネチ言われる訳だ。この場合前者よりも後者の方が長い上にダメージが酷い。

いっそガツンと怒ってくれた方が楽なのだ。

ネチネチ言いながら最後は結局怒るのだ、たまったもんじゃない。

 

「君は部活動に参加していなかったよな…?」

 

しかし、平塚先生は本当に怒ってはいないようだ。

タバコを咥え、火を付ける。そして真面目な顔でそう問うてきた。

 

「…はい」

 

「……友達はいるのか?」

 

友達いないだろうなこいつって奴にしか聞かない質問をされた。

 

「…平等を重んじる性質なので、特に親しい人間は作らないことにしてるんですよ俺は!」

 

「つまり、いないんだな」

 

「……まぁ、そうですね」

 

「そうか!居ないか!私の見たて通りだ。その腐った目を見ればそれぐらいすぐにわかったぞ!」

 

やっぱり居ない前提で聞かれてたじゃん。つか、目を見て分かっちゃたのかよ。どんな目をしてんだ俺は…そういえば腐ってましたね。

 

「…彼女とか、いるのか?」

 

そう質問され、何故か川崎の事が浮かんだがすぐに思考から外す。

 

「…友達居ない奴に彼女なんて居るわけないでしょう」

 

あくまで一般論だ。

自分も含めてしまうと俺に永遠に彼女が出来ない事になってしまう。

それは困る俺は専業主夫にして貰わなければいけないのだから。

 

「な、なんだ!その反応は?」

 

突然に、平塚先生が落ち着きが無くなる。

 

「大学時代に君みたいな反応をした奴がいたが、そいつが一番最初に結婚した!

くそ、余裕があるからそんな反応なんだろう!あぁ、どうして昔の私は素直に信じたのだろう。

友達が居ない生徒ですら当てがあるのにどうして私は結婚出来ないんだ…!」

 

そういって平塚先生は天井仰ぎ見る。

勝手に勘違いして地雷原に入ってしまったようだ。何と言うか居た堪れない。

…誰か…誰か早く、早く貰って上げて!

 

「よし、こうしよう。レポートは書き直せ」

 

これ以上は自身の傷を抉ると判断したのか、不自然な形で話が変わる。

本来それで呼び出されたので問題ない。無事に元の話に戻ってこれた。

今ならネチネチと説教をせれても素直に聞き入れれる気がする。

いや、本当に居た堪れなかったわ。

 

「だが、君の態度や言葉や態度で私の心は傷付いたことは確かだ。なので君には奉仕活動を命じる。罪には罰を与えんとな」

 

態度が二回出てきた気がする。

なに、大事なことだから2回言ったの?話を振ってきたのは先生の方なんですがねぇ。

 

「奉仕活動ってゴミ拾いかなにかですか?」

 

まぁ、確かに舐めた態度をとったことは事実だ。一回くらなら甘んじて受け止めよう。

 

「ついてきたまえ」

 

え、今からなの?急過ぎるだろ。

呆然と立ち尽くしていると着いて来ない俺を睨み付けた平塚先生はせかすように呟いた。

 

「おい、早くしろ」

 

怖えよ。あと怖い。

長い廊下を歩き特別等まで辿り着いた。どうやら目的地はここらしい。

大方荷物運びか何かだろう。肉体労働じゃないですか。ヤダー。

 

「着いたぞ」

 

開け放たれた扉の向こうには少女一人佇んでいた。

倉庫として使われているであろう教室に机が乱雑に積まれている。

その中で読書に耽る少女に、正直に言うと見惚れてしまった。

 

「平塚先生。入る時にはノックをと何度もお願いしたはずです」

 

端正な顔立ちの呆れたように声を上げた。

 

「ノックしても君は返事をしないじゃないか」

 

「返事する間もなく、先生が入ってくるんですよ」

 

まるでいつの遣り取りかのような会話の後、視線がこちらを向いた。

 

「それで、そちらの人は?」

 

冷たい視線が刺さる。

この少女は雪ノ下雪乃という。俺でも知ってるこの学校の有名人だ。

国際教養科の才女。テストと名のつくもので常に一位に鎮座する成績優秀者。

その上に容姿端麗と天が二物を与えた少女。

 

「彼は比企谷。入部希望者だ」

 

「二年F組の比企谷八幡です。ん?おい、入部ってなんだよ」

 

つか何部だよここ。部員さんもお一人様でいらっしゃいますけども…

ボッチ同士仲良くしろってことか?勘弁してくれ。

 

「君にはペナルティーとしてここでの部活動を命じる。口答えは一切認めないからな。

しばらく頭を冷やせ。反省しろ」

 

一方的に判決を下される。反論の余地を一切認めないと怒涛の勢いそう告げた。

 

「というわけで、見ればわかるが彼の眼は大層腐っている。あと根性もな。

そのせいでいつも孤独な憐れむべき存在だ」

 

やっぱり見れば分かっちゃうのかよ。

 

「人との付き合い方を学ばせてやれば少しはまともになるだろう。こいつをおいてやってくれるか。

彼の捻くれた孤独体質の更生が私の依頼だ」

 

先生は雪ノ下に俺に大変失礼な物言いで向き直る。

彼女は面倒くさそうに口を開いた。

 

「それなら先生が殴るなり蹴るなりして躾ければいいと思いますが」

 

こっちも大変失礼な奴だった。あと怖えよ。

この女子高生躾ければいいって言いましたよ!

 

「私だってそうしたいが最近は小うるさくてな。肉体への暴力は許されていないんだ」

 

なるほど、だからさっきから俺の精神は暴力に晒されているんですね。分かりたく無かったこんな現実…

 

「お断りします。そこの男の下心に満ちた下卑た目を見ていると身の危険を感じます」

 

襟元を掻き合わせるようにしてこちらを睨み付ける雪ノ下。

そもそもお前の慎ましすぎる胸元なんか見てない。俺はもっと包容力のある方が好みだ。

一瞬視界に入って気を取られただけ、本当にそれだけだから。ほ、本当だよ!

 

「安心したまえ、雪ノ下。

その男のリスクリターンの計算と自己保身に関してだけはなかなかのもだ。

刑事罰に問われる真似だけは決してしない。彼の小悪党ぶりは信用できるものだ」

 

「何一つ褒められてねぇ…寧ろ貶されてるだろ。

リスクリターンの計算とか自己保身とかじゃなくて、常識的な判断ができるって言って欲しいんですが」

 

「小悪党…。なるほど…」

 

「聞いてない上に納得しちゃったよ」

 

「まぁ、先生からの依頼であれば無碍にはできませんし……承りました」

 

雪ノ下は心底嫌そうにそう言うと、先生は満足げに微笑む。

 

「そうか。なら、後のことは頼む」

 

そう言うと先生はさっさと帰ってしまった。

ぽつんと取り残される俺。

 

「そんなどころで何時迄もぼーっとしてないで座ったら?」

 

「お、おう」

 

言われるがまま俺は空いている椅子に腰かける。

雪ノ下に目を向けると文庫本を開いていた。

文庫カバーをしているので何を読んでいるかは分からないが、きっと見た目にあったものを読んでいるのだろう。

 

「何か?」

 

視線が気になったのだろう。眉根を寄せて、こちらを見返して来る。

 

「ああ、悪い。どうしたものかと思ってな」

 

「何が?」

 

「いや、わけわからん説明しかなくここへ連れて来られたからな」

 

すると雪ノ下は溜息を隠すことなく吐き、文庫本を勢いよく閉じた。

そして虫でも見るかのような目つきで俺を睨んだ後、言葉を発した。

 

「……そうね。ではゲームをしましょう」

 

「ゲーム?」

 

「そう。ここが何部か当てるゲーム。さて、ここは何部でしょう?」

 

「…他に部員はいないのか?」

 

「いないわ」

 

それってもう部活と呼べないんじゃないですかねぇ…。まぁ、一旦置いておこう。

逆に考えよう一人でも問題が無い部活動。

 

「文芸部か」

 

「へぇ…。その心は?」

 

試すように雪ノ下は俺が何故その答えに至った聞いてくる。

 

「特殊な機材を必要とせず、人数がいなくても廃部にならない。

つまり、部費なんて必要としない部活だ。加えて、あんたは本を読んでいた。答えは最初から示されていたのさ」

 

「はずれ」

 

馬鹿にした感じで笑われた。

 

「じゃあ何部なんだよ」

 

どうやら先ほどの不正解でゲームオーバーにはなっていないようで、ゲームは続行された。

成る程、どうやらこちらが負けを認めないと終わらないようだ。

 

「では、最大のヒント。私がこうしていることが活動内容よ」

 

ヒントになってねぇ…

それ答えを知ってる奴しか結びつかないヒントですよ雪ノ下さん。

しかし、それを言った所で結果は目に見えてる。素直に降参するとしよう。

 

「駄目だ。さっぱりわからん。降参だ」

 

「あなた、女子と話したのは何年ぶり?」

 

脈絡無く失礼な質問をされた。

答えは考え込むまでも無く、思い出せる。

あれはけーちゃんとプリキュアを見ていた時の事だ。俺が見たかったのでは無く、けーちゃんに付き合ったのだ。

確か昨日の夕食前のことだ。

 

「晩御飯できたよ。アニメは一旦辞めて先に食べるよ」

 

「はーい!」

 

「おう」

 

「え、何?目が真っ赤だけど…泣いてたの?

…まさかアニメ見てて泣いてた?うわぁ…」

 

川崎さん。アニメは日本の誇りですよ。

クールジャパンなんですよ。それを見て感動で涙を流すのは決して可笑しなことでは無いのです。

目紛るしく変わる価値観の中で、今だに昔のようにアニメは子供の見るものなんて発想するほうが間違っているのです。

今やアニメは一大産業。日本が国を挙げて推進して良いレベルなのだ。それなのに日本社会はアニメの価値を低いものとする。

やはり俺は間違っていない。社会が間違っている。

日本社会の在り方について疑問に思っていると、雪ノ下は高らかに宣言した。

 

「持つ者が持たざる者に慈悲の心をもってこれを与える。人はそれをボランティアと呼ぶわ。

困っている人に救いの手を差し伸べる。それがこの部の活動よ」

 

そう語りながら、雪ノ下は立ち上がっていた。自然と座っていた俺は見下ろされる形となる。

 

「ようこそ、奉仕部へ。歓迎するわ」

 

この優等生は歓迎と言う意味を辞書で引き直したほうが良い。

これでは俺をへこましているだけだろ。しかし、さらに追い打ちが掛かった。

 

「優れた人間は憐れな者を救う義務があるわ。

頼まれた以上、責任は果たすわ。あなたの問題を矯正してあげる。感謝なさい」

 

言わせておけばこのアマ…

随分好き勝手に言ってくれるじゃないか。

ここは言い返しておくべきだ。俺は憐れむべき人間では無いことを、言葉の限りを尽くして説明してやらねばなるまい。

 

「…俺はな、自分で言うのもなんだが、そこそこ優秀なんだ!

実力テスト文系コース国語学年3位!顔だって良いほうだ。友達と彼女がいないことを除けば基本高スペックなんだ!」

 

「致命的な欠陥が聞こえたのだけれど……そんなことを自信満々に言えるなんてある意味すごいわ…

変な人。もはや気持ち悪いわ」

 

「うるせ、お前に言われたくねぇよ。変な女」

 

俺が勝手にイメージしていた像とは酷くかけ離れている。

確かにクールで美人だが…そんなことをよそに雪ノ下は小馬鹿にしたように笑って話を続けた。

 

「ふうん、私が見たところによると、どうやらあなたが独りぼっちなのってその腐った根性や捻くれた感性が影響しているようね。

まず居た堪れない立場の貴方に居場所を作ってあげましょう」

 

「必要ねぇよ。今までも1人でやってきたんだ。これからだって問題はない」

 

雪ノ下は溜め息をつき、こめかみに手を当てていた。

 

「あなた、馬鹿なの?

だいたいさっきから聞いていれば、成績だの顔だの表層的な部分に自信を持っているところが気に入らないわ。あと、その腐った目も」

 

「目のことはいいだろう…」

 

「そうね、今さら言ってもどうしようもないものね」

 

怒涛の攻めに頬が引き攣るのが分かった。

それに気付いたのか雪ノ下は申し訳なさそうな表情を浮かべる。

 

「ごめんなさい。ひどいことを言ってしまったわ。辛いのはきっとご両親でしょうに…」

 

「もういい、おれが悪かった。いや、俺の顔が悪かった」

 

もはや抵抗は無駄だろう。

 

「さて、これで人との会話シミュレーションは完了ね。

私のような女の子と会話できたのなら、大抵の人間と会話できるはずよ」

 

雪ノ下は達成感み満ちた表情でそう告げた。

 

「これからはこの素敵な思い出を胸に「あ、こんなところにいた。探したよ」

 

雪ノ下の言葉はガラガラと遠慮なく扉を開けた者によって遮られる。

川崎だ。後ろには平塚先生もいる。

 

「いつまでやってんの。

今日は約束があるんだから一緒に帰ろうって言ったでしょ。ほら、早く行くよ!

先生ももういいですよね。比企谷は貰っていきますから」

 

「あ、あぁ…」

 

一方的に告げた川崎に先生は一杯一杯で答える。

雪ノ下に至っては俺を探す女子がいたことが信じられないようで驚き、目を見開き黙り込んでいる。

 

「ほら、行くよ」

 

「お、おう」

 

何この娘。そこらのイケメンなんて目じゃないくらい男前じゃん。

うっかり惚れちゃうところだったわ。

川崎は俺の腕を取ると先生に会釈をし、足早に奉仕部を後にした。

そういえばお一人様一パックまでというチラシを見せられながら、放課後は開けておけと言われたのを思い出す。

平塚先生はとんでも無い表情で此方を見ていたが、なんてことは無い色気など存在しない話だ。

要するに、いつも通り。ただそれだけのことだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




原作を読み返しながらネタを考えるんですが、最近気付いたのですが修正が難しい箇所が何点かあります。
比企谷家と川﨑家の両親は原作よりも忙しくて帰りが遅いとか、迎えの日は川﨑さんは徒歩で通学しているとかそんな感じで脳内補完してくれると助かります。

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