杏の元に届いた同窓会の報せ……それがちょっとした騒ぎに?


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同窓会

 イタリアにある大きな屋敷

 その廊下を足取り軽く歩くのは杏

 ある扉の前で立ち止まるとその扉をノックする

 

「どうぞ。」

 

 中から聞こえた了承する声に扉を開くと中に入る

 

「ボスー!同窓会のハガキ来たー!?」

 

 杏の言葉に机に向かっていた青年、沢田綱吉が笑う

 

「来てたよ。」

「皆で行こうよー。」

 

 机に詰め寄ると綱吉が苦笑する

 

「コラ杏!10代目は今お仕事中だ!」

 

 傍で書類を束ねていた獄寺隼人が声を上げたが杏は気にした様子もなく綱吉から視線を外さない

 

「うーん、行きたいのはやまやまなんだけどねー。」

「息抜きも兼ねて久々の日本!」

「人の話を聞きやがれ!」

 

 無視された隼人が声を荒げるがやはり杏は拳を握り締めて綱吉に視線を向け続けたままだった

 

「京子も武も行きたいはず!」

「そりゃテメェが行きてぇだけの話だろうが!」

「何よ、隼人!久しぶりなんだから行きたいに決まってるじゃない!」

 

 とうとう杏は声を荒げる隼人に向き直ると火花を散らす

 そんな2人に綱吉が苦笑していると更に訪問者が部屋に訪れる

 

「おーい、ツナー。」

「あ、武。京子も。」

 

 隼人から同僚の山本武に顔を向けると手にしたハガキをそのままにひらひらと振る

 

「お、杏のとこにも来てたのな、ハガキ。」

「あたしのとこにも来てたよ。」

「まぁ、クラスメイトだもんね。」

「ねー。」

 

 京子と笑い合っていると隼人が大きく舌打ちをする

 

「獄寺君のとこにもハガキ来てたよね?」

「まぁな。」

「ボスー!行きたーい!」

 

 杏の言葉に綱吉がうーんと唸る

 

「ツッ君は同窓会どうするの?」

「今の仕事が終われば…。」

「じゃあその仕事が終われば行ってもいいの?」

「そうだね。」

 

 京子との会話に杏が割り込む

 言質を取ったと言わんばかりに杏が嬉しそうに笑う

 

「京子も行きたいよね?」

「出来たら行きたいな。」

「ほら、京子もこー言ってるし、ボス仕事頑張って!」

「テメェが働け!」

「ははっ、こっちの任務ばっかだったもんな。」

「ねー。」

 

 青筋を額に浮かべて怒る隼人を無視して武と笑う杏

 

「じゃ杏、これ宜しくね。」

「OK、ボス。」

 

 受け取った書類を抱え杏は部屋を飛び出した

 

「…同窓会?」

「うん!今の仕事が終わったら行ってもいいってボスが言ったの。」

「…ふーん。」

 

 恋人である雲雀恭弥の自室でお茶を飲みながら嬉しそうに話す杏

 少しムッとする雲雀に気付きながらも久しぶりの日本に想いを馳せる杏

 すると襖の向こう側から声が聞こえた

 雲雀に促され部屋に入って来たのは雲雀の部下の草壁哲也

 その手には手紙の束があった

 

「恭さん、お手紙です。」

 

 その束を受け取った雲雀は軽く目を通す

 

「あ。」

「え、何?」

「こっちも同窓会するんだって。」

「そうなんだ?どれどれー。…あ、でも違う日だね。」

「……そっちはいつ?」

「ん、読む?」

「うん。」

 

 杏は自分宛てのハガキを恭弥に差し出す

 恭弥はそのハガキに目を通すと杏に返した

 

「恭弥もせっかくだし同窓会参加しなよ。」

「考えておくよ。」

 

 ニヤリ、と恭弥が笑いそれを不思議に思いつつも杏は追及せずにいた

 

「えーっと、ここ?」

 

 同窓会に参加する為に間に合うように仕事を片付けた杏はハガキに書かれた会場を目指していた

 綱吉は京子と共に来ているはずだし、隼人は絶対その綱吉に付き従っているだろう

 武も現地から向かうと言っていたから皆で同窓会に参加出来ると杏は喜んでいた

 過保護な恋人である恭弥も別口の仕事があり少し寂しい気持ちになるが、目当ての会場に辿り着いた杏は店の表に立てられた看板を見て思考は切り替わり首を傾げた

 

「…合同同窓会?」

「杏さん。」

「あれ、哲?」

「恭さんがお待ちです。」

「は?」

 

 入り口を潜り中に入って杏は哲也の言葉と看板に書かれた文字を理解した

 

「何でいるの。」

「同窓会だから。」

 

 受付にいる同級生と先輩が居心地悪そうに椅子に座っていた

 その横に立つここにいないはずの人物に思わず額を押さえてしまう

 

「あ、杏。」

「武。…どーゆーこと?」

「ははっ、雲雀が合同にしろって幹事の先輩に言ったらしいのな。」

 

 武の言葉に溜め息が零れる杏

 受け付けを済ませて雲雀の前に立つ

 

「もう恭弥!そんな迷惑かけちゃダメでしょ!?」

 

 恭弥を見上げて怒る杏に受付にいた2人がぎょっと目を見開く

 恭弥の威光と恐怖は未だ並盛では健在で杏と恭弥の関係を知らない者からしたら『あの雲雀恭弥を名前で呼んでいる!』『あの雲雀恭弥が怒られている!』と驚愕するのは仕方なかった

 そんな恭弥と杏を受付近くにいた同級生や先輩達もぎょっとして話の行方を見守っている

 

「…杏は僕と一緒は嫌なの?」

 

 少しムッとしながらもその目には悲しそうな色が浮かぶ恭弥に杏は苦笑する

 

「…そんな事は言ってないよ。」

「じゃあいいよね。」

「…はいはい。」

「ははっ。」

 

 一体どんな関係なのかという好奇心の視線の中杏は歩く

 ロビーを抜け広間へと入れば懐かしい顔がいくつも見えて嬉しくなる

 

「あ、杏!」

「うわー!久しぶりー!」

 

 クラスメイトを発見してお互い駆け寄る

 手を取り再開を喜ぶ

 

「杏変わったねー!」

「え、そう?」

「うん、大人って感じー。」

「そっちだって大人でしょー。」

「え、杏?」

「そーだよー。」

「うわ!何か綺麗になったね!」

「そうかな?」

 

 クラスメイト達は久しぶりに会った杏の変わり様に驚いていた

 

「髪伸びただけなんだけどなー。」

「いやいや、めっちゃ綺麗になったって!」

 

 そんな女子達の声に興味を惹かれた他のクラスメイト達も集まり出す

 その中には男子もいて壁に凭れかかりながら見ていた恭弥の眉が寄せられる

 そんな恭弥に気付くことなく話に花を咲かせる杏

 

「昔はショートで男勝りだったのにねー。」

「確かにちょっと活発だったけどさー…。」

「お前、アレをちょっと活発で片付けるか?」

「えー?」

 

 中学時代を振り返るクラスメイト達は杏のしてきた事をつらつらと述べてゆく

 

「そんで一番何がヤバかったって…。」

「ねぇー。」

「え?そんなヤバイことやったっけ?」

 

 今述べた数々の話の上をいく出来事なんてあっただろうかと杏は首を捻る

 クラスメイト達はそーっと視線を壁の方へと向ける

 杏もそちらへ視線を向ければそこにはほったらかされて確実に怒っている恭弥が鋭い視線でこちらを見ていた

 それを見たクラスメイト達は慌てて視線を逸らすと顔を近付け合って小さな声で話す

 

「あの雲雀さんを敵対視してたことだよな。」

「え、敵対視?」

「そうそう。顔合わせるたびに突っ掛かってさ…。」

「いつ咬み殺されるかとひやひやしてたんだぜ?」

「あ、あははー…。」

 

 そう言われれば中学時代、恭弥の横暴な態度にいつも怒っていた気もする

 そして顔を見れば文句の一つでも言いたくなり周囲の生徒はいつも遠巻きに見ていた

 そんな杏に恭弥もいつもトンファーを構え追いかけてきていた

 だが持ち前の逃げ足の早さと他の生徒達の協力を得ていつも逃げ切っていたのだった

 

「そんなこともあった…ね…。」

 

 過去を思い出して杏は頭をぽりぽり掻いて苦笑する

 

「…でもさ…。」

「うん…。」

「え、何?」

「いや…。何か雲雀さんこっちずーっと睨んでんだけど…。」

「まさか杏、また何かやった?」

「え、何もしてないよ?」

「ちょっと雲雀さんから離れない?」

「そうだな。」

「あ、無理だと思うよ。」

「え、何で?」

「だって…。」

 

 クラスメイト達は恭弥の鋭い視線に耐え切れず離れたいと口々に言いだす

 だが杏は自分がいる限り恭弥がついてくるだろうと容易く予測出来て乾いた笑いを浮かべ、その理由を口にしようとしたが自分に向けられる恭弥とは違う視線に顔を上げた

 そちらへ顔を向ければ昔の面影を多少は残しつつも様変わりした男子がこちらを見ていた

 

「どしたの?」

「えーっと、あの人誰?」

「え?」

 

 話をしていたクラスメイト達もそちらへ顔を向ける

 

「あぁ、あれ西村だよ。」

「え、西村君?」

「おーい、西村ー!」

 

 呼ばれてその男子がゆっくり近付いてくる

 

「…やぁ、小鳥遊さん。」

「ホントに西村君?」

「そーだよ。」

「うわ、何か変わったね。」

「そうかな?でも小鳥遊さんは綺麗になったね。」

「そう?」

「うん。」

 

 西村という男は勉強も出来てスポーツも出来た人物だったと杏は記憶していた

 穏やかな口調で人望もあり、よく女生徒からも告白されていた

 だが今目の前にいる西村はどう見ても堅気の空気ではなく、違う空気を纏っている

 穏やかな口調はそのままだが目の奥にある濁った光は隠しきれていない

 

「…西村君、今何の仕事してるの?」

 

 鋭くなりそうな自分の目や声を押さえて至極平静を装いながら西村に問いかける

 

「実家を継いだんだ。」

「実家?」

「小鳥遊、コイツん家やくざだったんだってよ。」

「え、そうなんだ?」

「実はね。」

「全然知らなかったよねー。」

「でもやくざって感じしないよね。」

「あはは。」

 

 クラスメイト達と談笑する西村にふうん、と杏は呟く

 

「あれだね、ジャパニーズマフィアだね。」

「何だよ、小鳥遊。今更勉強出来る風に言っても無駄だぞ?」

「杏は机に向かってるイメージないよね。」

 

 あはは、と笑うクラスメイト達の話に耳を傾けながら杏は違う事を考えていた

 

(西村ってつくやくざ…か。いや、もしかしたら違う名前かも?)

 

 一人違う事を考えていてクラスメイト達の問いかけに一瞬間が開く

 

「え?」

「だからー。杏は今付き合ってる人いるの?」

「え?いるよ?」

「えー!マジかよ!?」

「まぁ、綺麗になったしねー。もしかして恋人のおかげで綺麗になったの?」

「いや、そんなことは…。」

 

 こういった話にあまり免疫のない杏は慌てる

 クラスメイト達が杏が恥ずかしそうに頬をうっすら染めるのを見て口々に「あの杏がねー。」と言うので杏は更に恥ずかしくなる

 

「杏可愛いねー。」

「小鳥遊さんは昔から可愛いよ。」

「え?」

「何だよ、西村ー。」

「綺麗になった小鳥遊に惚れたか?」

「うん、惚れ直した。」

 

 やんやと囃し立てるクラスメイト達に西村はにっこり笑ってそう言う

 

「俺昔小鳥遊さんに告白したことあるんだ。…振られたけど。」

「マジかよ!?」

「えー!そうなの!?」

「聞いてないよ!?」

「あ、その…!」

 

 思わぬ話になり杏が慌てる

 だが、それに気付かずクラスメイト達は西村を質問攻めにする

 確かに昔一度西村に好きだと告げられたことがあった

 それは中学を卒業する日であの時自分の耳を疑った

 まさか自分に告白してくれる人がいるとは思わなかったからだ

 嬉しい気持ちもあったが杏は断った

 その時には既に綱吉について行くことを決めていたから

 自分と西村の歩む道は違う、と…

 そしてもう一つ理由があったからだ

 

「ちょっと。」

 

 クラスメイト達が西村を励ましたり、杏にその時のことを詳しく説明しろ、と言い寄っている中不機嫌そうな声が響いた

 

「ひ、雲雀さん!」

「す、すいません!」

 

 突如現れた恭弥にクラスメイト達の顔が白くなる

 そんな中で杏は変わらず隣に立つ恭弥を見上げた

 あの時断った理由のもう一つ

 それは恭弥の顔が浮かんだからだった

 

「そんなくだらない話をしてるんなら返して。」

 

 何の話か分からずクラスメイト達がきょとんと恭弥を見つめる

 恭弥は腕を延ばして杏の腰を自分に引き寄せる

 

「もう、自分も話してくればいいでしょ。」

「嫌だ。」

「何しに同窓会に来たの。」

「虫除け。」

「は?」

 

 ごく自然に杏を引き寄せ、ごく自然にそれを受け入れる杏にクラスメイト達は杏と恭弥を交互に見つめる

 

「…えっと…。」

「…どーゆー関係?」

 

 呆然とするクラスメイト達の問いに恭弥は見ればわかるでしょ、と視線を向ける

 

「…雲雀恭弥…。」

 

 そこに低い声がぼそり、と聞こえる

 そちらに顔を向ければ鋭い視線で恭弥を射ぬかんばかりに見つめる西村がいた

 その声音にクラスメイト達もぎょっとして西村に視線を向けた

 

「…いい気になってられるのも今のうちだ、雲雀恭弥。」

 

 西村はそう言って笑うとその場を離れた

 その人の変わり様にクラスメイト達も目を丸くする

 

「…今の西村か?」

「何か…やくざっぽかった…。」

「まぁ、10年もあれば変わるよねー。」

 

 呆然とするクラスメイト達に笑ってそう言う杏

 皆もそれもそうか、と納得しつつそれより気になると言わんばかりに杏と恭弥に視線を向ける

 

「何?」

「あ、いえ…その…。」

「早く言いなよ。」

 

 聞きたいが怖くて言い淀むクラスメイト達に恭弥は威圧感たっぷりで見下ろす

 

「ちょっと恭弥。」

「何。」

「威圧感ありすぎよ。」

「普通でしょ。」

「もう拗ねないでよ。」

 

 拗ねるなんて雲雀恭弥になんて似合わない言葉が出た、と皆が驚くのも気付かずに杏は恭弥の厚い胸板に軽く頭を寄せ腕からすり抜ける

 そしてその手を握り笑う

 

「もうちょっと待っててね。」

「…わかった。」

「で、何が聞きたかったの?」

 

 杏はクラスメイト達に向き直りそう問いかける

 

「うん、ラブラブなのはわかった。」

「まー小鳥遊みたいなじゃじゃ馬は雲雀さんで丁度いいのかもな。」

「ちょっと!じゃじゃ馬は酷くない!?」

「アンタ昔の数々を思えば仕方ないわよ。」

「……。」

 

 杏は何となくショックを受けて閉口する

 その隣で恭弥が過去を思い出して小さく笑う

 

「…恭弥?」

「笑ってないよ。」

「笑ったでしょうが!」

「被害妄想じゃないの?」

 

 言い合う2人は傍から見れば至極バカップルにしか見えないが恭弥が怖くて誰も突っ込まない

 ただ、誰かこのバカップルのいちゃつきを止めてくれと願うだけだった

 

「ちょっと杏、雲雀さん。」

「あ、ボ…ツナ。」

「皆耐性ないんだからいちゃつくのも程々にね?」

「ははっ、目の毒だよな。」

 

 救いの神が現れた!と杏達のいちゃつきに当てられていたクラスメイト達は喜んだ

 

「おー、沢田じゃん。」

「久しぶりだな、ダメツナ。」

「ダメツナ卒業したかー?」

 

 男子達が笑って綱吉に声をかける

 この10年を知らない彼らにわざわざ教えるつもりもないが、綱吉の頑張りを知る杏は少しムッとなる

 綱吉はクラスメイト達の軽口に気にした様子もなく笑って話を続けていた

 

「あ、ちょっと恭弥。」

「ん。」

 

 綱吉と武が現れたことで話の中身が変わり、杏と恭弥は少しその場を離れる

 そして目当ての人物を見つけると人のいない場所へと移動する

 

「どうしました?」

「うん。」

「哲、避難経路は確保出来てるよね?」

 

 杏の問いかけに哲はしっかりと頷く

 

「勿論です。」

「ちょっと気になることがあったから…。気をつけておくことに越したことはないよね?」

「そうだね。…もしかすると明日の話が今日になるかも。」

「明日の話というと…。」

「そういえば恭弥こっちでやる事があるって言ってたけど…?」

「うん。…さっきの男。」

 

 恭弥の口から出た言葉に杏は一つ頷くと広間へと戻る

 

「あ、どこ行ってたの?」

「ちょっとね。」

「雲雀さんとの馴れ初め聞かせろー!」

「ヤダよー、恥ずかしいもん。」

「お前あんだけ人前でいちゃついておいてそれかよ。」

「雲雀さんと杏には何時ものことだからね。」

「うわ、マジで?迷惑だなー、お前ら。」

「てかダメツナと同じとこで働いてんのか?」

 

 矢継ぎ早に出る質問に細かい所は省略しつつ答える綱吉と杏

 

「10代目!」

「あ、隼人。」

「少しいいですか?」

「うん。じゃ俺ちょっと行くね。」

「おー。」

 

 その場を後にする綱吉の背中を見ながらクラスメイト達は首を傾げる

 

「あれだな、10年って長いよな。」

「あぁ、ダメツナがダメっぽくない。」

「ツナも頑張ってるからね。」

「獄寺は変わらねぇなー。」

「ホント。今でもツナの後ろについてってんだな。」

 

 他のクラスメイト達や交流のあった先輩達とも会話を終え、一人グラスを傾ける杏

 

(いない…。これはマジで何かあるかも。)

 

 空になったグラスを近くのテーブルに置き杏は恭弥を探そうと足を踏み出した瞬間、入り口付近が静かになる

 それを見た者が少しずつ口を閉ざし、徐々に広間が静かになってゆく

 杏もその異変に気付き入り口の方へと足を向ける

 

「雲雀恭弥はどこだ?」

 

 入り口付近にいた者達はそこに現れた人物から距離を取るように離れる

 その人物は先程から杏が探していた人物である西村

 その後ろには屈強な男達がニヤニヤと笑って控えていた

 

「何か用?」

 

 人波を掻き分けて恭弥が西村の前に立つ

 

「俺はお前が邪魔なんだよ。」

「へぇ…、奇遇だね。僕も君が目障りだよ。」

 

 火花を散らす恭弥と西村

 

「あぁ、小鳥遊さん。」

「後ろの方々はどなた?並盛の卒業生には見えないけれど?」

「うちの組の者だよ。」

 

 恭弥の隣に立ち笑う西村を見る

 西村は笑っているのにその目は冷たい

 杏は後ろに控えている男達に視線を一度巡らせると西村に視線を向ける

 

「どんな御用かしら?」

「用…。そこにいる雲雀に少し、ね。」

「じゃあ他の人達にはないのね?」

「そうだね。雲雀が逃げないのなら。」

「…僕が、」

「恭弥。」

「…。」

 

 西村の挑戦的な言葉に恭弥が言い返そうとするのを杏は制止すると後ろを振り返る

 

「風紀委員の指示に従って全員外に出て下さい。メンバーは一般人に被害が出ないように各自考えて行動すること。」

 

 杏の言葉に風紀委員からはい!と揃って聞こえる

 そんな杏の姿にその場にいる者達が目を丸くする

 

「小鳥遊さんも風紀なんだ?」

「あたしは兼業よ。というか橋渡し。」

「ふーん。…風紀じゃなくてうちに来ない?」

「誰の許しを得て杏に声掛けてるの?」

 

 広間から徐々に人が去り、雲雀がとうとう自分の武器であるトンファーを構える

 その顔には苛立ちがありありと浮かんでいた

 

「全員いるか!?」

「あの…。」

「何だ。」

「ダメツナと獄寺と山本がいないんですけど…。」

「笹川、あ、兄貴の方も…。」

 

 哲の言葉に恐る恐るいない人物の名前を挙げる

 その言葉に哲はそうか、と告げるだけに留まった

 

「そ、それだけ!?」

「あぁ。」

「何で!?」

 

 哲の反応にあちこちから声が上がる

 

「ツッ君なら大丈夫だよ。」

 

 京子の一言に辺りは静かになる

 

「そうだ、俺も杏って呼んでいい?」

 

 恭弥の言葉を無視して西村はそう言って笑う

 

「ごめんね?あたしが認めた人しかダメなの。」

 

 杏もニッコリ笑ってそう答える

 その答えを聞いて西村は鋭い目で恭弥を睨む

 

「雲雀がいなくなれば考えも変わるよね?」

「いなくなればね。」

「じゃあ無理だね。僕はこれからも杏と一緒にいるから。」

 

 恭弥の言葉に西村は鼻で笑う

 

「雲雀さんなら地獄からでも舞い戻ってきそうだよね。」

「ははっ、かもなー。」

「その言い回しムカつくから止めて。」

「けっ!ざまぁみろ。」

 

 広間に響いた声に西村が少し驚く

 皆が外へと向かった出口から現れたのは4人

 

「…沢田が何の用?」

 

 西村はこちらへ向かって歩く4人を訝しげに見つめる

 

「僕だけで事足りる。」

「ヤダなー、雲雀さん。俺だって同窓会ダメにされてちょっと怒ってるんですから。」

「10代目の手を煩わしやがって!」

「じゃあ外に行きなよ。」

「俺は極限に怒っているのだー!」

 

 4人は恭弥の少し後ろに立つと西村達を見る

 

「邪魔だって言ってるでしょ。」

「まぁまぁ、この方が早く終わるっしょ。」

「それに杏にいてもらわないとね?」

「雲雀話聞かねーもんな。」

「極限無視だからな!」

「あー…。」

 

 緊張感のないやり取りをする綱吉達に西村の怒りが増す

 

「お前ら。」

 

 西村の声に後ろに控えていた男達が広間に雪崩の様に押し掛ける

 

「ちょっと痛い目、みてもらおうか。」

「…群れないと何も出来ない草食動物のくせに強気だね。」

「小鳥遊さんは危ないから離れてていいよ?」

「あはは。」

 

 西村は杏に笑いかける

 それを受けて杏も笑う

 杏が一歩足を引いたのを見て西村が声を上げた

 

「やれ!」

 

 その言葉を受けて男達がそれぞれの武器を構えて恭弥達に襲いかかる

 

「…あたしを舐めてんなよ?」

 

 外で中の行く末を固唾を飲んで見守る者達の耳に破壊音が聞こえる

 

「…ちょっと、いくらなんでも沢田と杏は中にいると危ないんじゃない?」

 

 クラスメイトの1人が心配そうに隣に立つ京子に声をかけた

 

「杏ちゃんもツッ君も強いよ?」

「でもあのダメツナだぞ?」

「あんまり怪我しないでくれるといいけどね。」

 

 京子の言葉に首を傾げるクラスメイト達

 そこに盛大な音を立ててガラスを割って男が飛び出してくる

 肩を揺らして驚いていると風紀の1人が素早くその男を捕縛する

 次々に飛び出してくる男達を手分けして捕縛してゆく風紀委員達を見つめることしかできない

 

「…何か大丈夫そう…?」

「…あぁ。」

 

 呆然と呟くクラスメイト達

 暫くすると破壊音も消え店の中が静かになる

 自動ドアが小さな音を立てて開き、杏達が何事もなかったかの様に現れた

 

「恭さん、杏さん。」

「中の宜しく。」

「はい。」

 

 杏の言葉に風紀が中へと駆け込む

 それに続いて店の店長とおぼしき人物が顔を青白くしてついて行く

 

「杏!」

「ん?」

「何で一緒に外に来なかったの!?」

「恭弥ほったらかしとけないから。」

「その割にほったらかしにされたけど?」

「あーあ、折角の同窓会だったのになー。」

 

 恭弥の非難の言葉を軽く無視して杏は背伸びをする

 

「恭弥敵多すぎ。」

 

 杏の言葉に恭弥が眉を寄せる

 

「…ごめん。」

 

 だが口から出た言葉は謝罪の言葉でそれを聞いていた皆が驚いて目を丸くする

 その頭の中は『あの雲雀恭弥が謝った!?』の一色に染められていた

 風紀に捕縛された男達がぞろぞろと店から出てくる

 その中には西村もいた

 

「君のとこは今日で解散ね。」

 

 恭弥が西村に向かってそう告げる

 苛立たしげに恭弥を睨む西村の視線をものともせず恭弥は興味を無くしたのか視線を外す

 全ての男達が連れて行かれ、よろよろと店長とおぼしき人物が店から出てきた

 そのままへたり込みどこか遠い目をしていた

 

「俺の…店が…。」

 

 呆然と呟くその声に杏が傍らにしゃがみ込み肩を叩く

 

「今回はご迷惑を掛けて申し訳ありませんでした。弁償は……、ボスー!どっちに回したらいいー?」

 

 杏は振り返って大きな声を上げる

 周囲の『ボスって誰だよ?』という疑問に答えたのは綱吉

 

「雲雀さんのとこに決まってるでしょ。」

「風紀財団で責任を持って弁償させていただきますので。」

「…仕方ないね。」

 

 杏と綱吉の言葉に恭弥が小さく溜め息を吐く

 

「ツッ君、怪我は?」

「ん、ないよ。」

「お兄ちゃんは?」

「極限ないぞ!」

「良かった。」

 

 皆が呆然とする中綱吉が携帯を取り出す

 耳に当てるとすぐに応答がある

 

「もしもし、沢田ですけど。…そちらの大広間、今から貸してもらえませんか?」

 

 その後二言三言交わして電話を切る

 

「隼人、バスを手配して。」

「了解しました。」

 

 その間にも風紀財団は後片付けや店の修理の手配でバタバタと忙しなく動いていた

 

「杏さん!店の中の物はどこに?」

「今倉庫借りたからそっちに。あ、これ地図ね。」

「委員長。捕縛した奴らの情報の方すぐに用意出来るそうです。」

「わかったよ。」

 

 恭弥と杏の指示の下てきぱきと動く風紀

 

「…なんかホント杏変わっちゃったね。」

「そうだね…。」

「怒られてるイメージしかなかったのに。」

「てかイメージ変わったって言えばダメツナもじゃね?」

「何か人の上に立つ人間って感じ。」

 

 中学時代とは掛け離れた現在の様子に皆が呆然とする中、隼人が手配したバスが到着する

 

「よし、全員バスに乗れー!」

 

 了平の声に皆が首を傾げながらも武や隼人にも急かされ訳もわからずにバスに乗り込んでゆく

 それを見て哲と恭弥が視線を交わすとどこかへ電話している杏に声を掛けた

 

「杏さん。」

「あ、哲。もう少ししたら業者さんが来るから店長さんと修理の手配しよう。」

「いえ、それは自分に任せて下さい。」

「え、でも。」

「行くよ。」

「わ、ちょっと!?」

「宜しくね、哲。」

「お任せ下さい。」

 

 恭弥は杏の手を引いて歩き出す

 杏が哲に視線を向ければにこり、と笑って頭を下げたのが見えた

 恭弥は手を引いたままバスへと乗り込むと空いている席に腰を下ろす

 そんな恭弥を非難めいた目で見下ろせば強く手を引かれて杏も腰を下ろす形になる

 

「今日ぐらいいいでしょ。」

「…恭弥はいつもじゃない。」

「気のせいじゃない?」

 

 発車したバスに揺られて辿り着いたのは有名な大きなホテル

 皆が何の間違いだ、と困惑していると中から恰幅のいい中年男性がニコニコとしながら出てくる

 

「お待ちしておりました沢田様!」

 

 綱吉もニッコリ笑ってその男性の前に立つ

 

「急にごめんね。」

「いえ!当ホテルをご利用頂き光栄です!」

 

 男性は頭を下げる

 そんなやり取りを見て皆が顔を見合せる

 

「…あれマジでダメツナかよ…?」

「…この10年で何があったんだ?」

 

 皆の疑問を余所に男性がこちらへどうぞ!と先を歩き出す

 

「皆ー、行くよー?」

「テメェら!さっさと歩け!」

「ははっ、行くか。」

「置いて行くぞー!」

 

 京子の手を取りエスコートする綱吉の後ろで武達が声を上げれば皆がはっ、としたようにその後に続く

 恭弥も杏の手を引き後に続く

 向かった先には豪華な内装の大広間があり簡単な食事やドリンクが用意されていた

 綱吉がマイクを借りて同窓会の仕切りなおしを宣言する

 始めは戸惑っていたが、皆徐々に話に花が咲いてゆく

 

「はい。」

「あ、ありがとう、恭弥。」

 

 壁に凭れかかっていた杏に恭弥がドリンクを渡す

 それを受け取りグラスを傾ける

 そんな杏の隣で恭弥も壁に凭れかかる

 

「皆喜んでくれてるみたい。」

「そうだね。」

「良かった。」

「うん。」

「お疲れ様、恭弥。」

「別に。」

 

 杏は恭弥の持つグラスに自分のグラスを当てるとキン、と軽い音が鳴った

 

「杏ちゃーん!」

「あ、京子が呼んでる。行って来るね。」

「うん。」

 

 京子の元へと駆け寄る杏の背中を見送る

 同級生に囲まれて笑う杏を見つめる恭弥の顔には穏やかな笑みが浮かんでいた

 ゴタゴタはあったが杏が嬉しそうに笑うだけで全てが報われる、と恭弥は心の中で思う

 

(杏の幸せが僕の幸せなんだよ?)

 

 杏が恭弥の方に顔を向ければ小さく微笑まれる

 その笑みに満面の笑顔で返す

 

(良かった、恭弥も笑ってる。)

 

 それだけで杏の心が温かくなってゆく

 幸せを噛み締めながら楽しい時間は過ぎていった

 一方騒動に巻き込まれてボロボロになった可哀想な店は数日後リニューアルオープンすることになった

 風紀財団の後押しの元、前よりも豪勢な内装に様変わりして--

 

 

 

 

 

 END

 




結構前に書いたものです。
手直しとかしてないので読みにくい箇所があるかも……。

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