畜生先生ポチま!   作:お話下手
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そろそろ、サブタイトルのバリエーションに限界ががが。


覚醒

「ポチ! クソっ!!」

 

 川を静かに揺らす泡が未だに浮かび上がる。しかし、その原因となる者はいつになっても現れる気配がない。水は赤く染まり、一分一秒を争う緊迫した状況だった。

 

 「無駄です。例え真祖であろうと、封印状態で銀を受ければ効果は絶大。今のお嬢様は幼子の力さえ残っておりません」

 

 爺やの言うとおり、両手足は痺れたように力が入らない。肉を引きちぎる痛みを耐えて、無理矢理抜け出すことは可能でもこれでは…。

 

 「彼はもう助かりません。片腕と片足を失った状態では泳ぐことなど不可能でしょう」

 

 「爺や、アイツは無関係だ。何故こんなこと!」

 

 「ええ。ですが、貴女様を拘束するのに一役買いました」

 

 「っ!?」

 

 私のせい…!私と関わったばかりで狙われたと言うのか、コイツは!

 

 …いや、実際にそのとおりだ。私だってわかっている。だからこそ刀子に任せようとしたのに、ポチはけして離れようとしなかった。

 口では憎たらしいことばかり言っていたが、此方を思って色々気を使っていたのは分かっている。右腕を犠牲にしてまで庇い、馬鹿のふりをして、吸血鬼だろうと全く気にしない…。

 

 良い奴だというのに、こんな死にかたをして良いわけがない…!

 

 「頼む爺や、ポチを今すぐ助けてくれ…」

 

 「それは出来かねます」

 

 「何故だ…!」

 

 「生かしておいては危険だからです」

 

 危険だと。ポチがお前にとって脅威になるというのか?

 

 「初めて顔を合わせた時、私は彼に恐怖しました。吸血鬼に昇華してからこれまで、あの感覚は今までに味わったことのない本能の警報でした。古傷が疼き、あの男はマズイと…。」

 

 虚言が。吸血鬼に古傷があるものか。

 確かにポチはこれまで一般人ではない疑う点が幾つかあったが、其れほどの力を持っている様子は無かった。現にこの結果だ。

 

 「ですね、それも杞憂だったようです。少し様子を見ていましたが、とても見ていられぬ程愚俗で痴体、ただの臆病者とは…」

 

 爺やは呆れたように溜め息を吐く。その目には侮蔑の色が含まれていた。

 

 「臆病者だと…?」

 

 ふざけるな、ポチの何を知っている。アイツは確かに変態で馬鹿だ、ムカつくことばかりで人の名前をわざと間違えるが、そこに不快感はけして無かった。

 普通の人間達が、下らないことで笑い、ふざけたことで茶化しあう、ただの日常があった。私が今まで味わうことのない日常が。とあ達と過ごした日常が。それを、愚俗で痴体だと? 貴様が私に与えて来なかった物だぞ!

 

 「アイツは、臆病者じゃない! それは貴様だ!」

 

 「ほう…」

 

 「ポチは危険でも私から離れようとしなかった! なのに貴様は無駄な深読みで奴を即排除とは、これを臆病と言わずして────がっ!」

 

 再度、腹部に衝撃。爺やの杖が私の意識を刈り取る程の力で突き刺した。

 

 「ぐっ…」

 

 「此処は場所が悪いです。少し移動します」

 

 爺やのやけに落ち着いた声が、気絶する前に聞いた最後の声だった。川から浮かび上がる泡が途切れる。しかし、赤く染まり続けるその変化だけはいつまで発っても終わりはない。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 「オ?」

 

 薄暗い部屋。主の帰りが未だ無いリビングにて、一人の従者が何かに気づいた様子で声をあげる。

 

 「…ッタク、本当ニショウガネェ御主人ダナ」

 

 其れまで動きが無かった一つのマリオネット人形が起き上がる。プルプルと膝が揺れ、立ち上がるのも精一杯なその姿だが、変わらない笑みを貼りつけたまま人形は起き上がる。

 人形はずっと、己の体内に魔力を貯蓄していた。如何なる時でも主の危機を助太刀するため、必要以外は全く動かないようにしていた。

 全盛期に比べれば明らかに戦闘能力は低いだろう。腕力も精々ナイフ一本で限界で活動時間も僅かしかない。

 だが、それでも行かねばならない。大切な主の為に、大好きな友達との約束を果たす為に。

 

 『チャチャゼロちゃん。もしも俺に何かあったらエヴァを頼むよ…?』

 

 「サテ、ヤルカ…」

 

 今宵のナイフは良く斬れる。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 「おや?」

 

 「どうしたのじゃ、アル」

 

 「どうやら、ピンチのようですよ」

 

 「何! どちらが!?」

 

 「どちらもです」

 

 エヴァンジェリンに良く似た容姿を持つ女性がティーカップを置き、目を丸くする。冷や汗がダラダラと流れていた。

 

 「お、おお…それは大事ではないか! は、速く助けに行かねばならぬ! ぶぶぶ武器は何処へ───」

 

 僅かな時間思考。立ち上がり、シンプルなドレスをはためかせ傍に立て掛けていたショートソードを触れる。

 

 「駄目ですよ」

 

 紅き翼のメンバーの一人、アルビレオ・イマは彼女の行動を戒めた。古本はただ静かに紅茶を口に含む。

 

 「貴女のお腹にはナギの子供が宿っているのです。暴れてもしものことがあれば、私はあの二人に顔向け出来ません」

 

 「ならば主が行くのか?」

 

 「いえ、私もこの場を離れるわけにはいけません」

 

 此処にはナギと“としあき”が命を懸けて封印した者が存在する。もしもこの事件が第三者によって引き起こされた物ならば、アルが出現したことで奴らに封印の場所を教えるような物だ。守りも彼女一人に任せ、手薄になるのは危険すぎる。

 それにしても、事故犠牲を必要とする王族とはいえ、相変わらず他人のことになると慌てるその性格はどうにかならないものか、お腹に宿す子供に性格が移らなければ良いが。

 

 「大丈夫です、彼は強い。もしかすればシステムの拘束から脱け出せるかもしれません」

 

 「じゃが、もしも出来なければどうなる?」

 

 流石に不安要素は大きい。アルビレオは失言でしたと呟くと静かに目を閉じ、そして開く。紛れもなく力強い目だった。いつも柔らかな笑みを貼りつけている顔はどこにもない。

 

 「出来ます」

 

 それは自信。長き間共に戦い続けた仲間に対する、絶対的な信頼だった。

 今、この場において最もしてはいけないことは、彼らの残した想いを無下にしてしまうこと。大丈夫。例え性格が変わろうと記憶が無くなろうと身体が変わろうと、彼が彼であり続ける限り何度だって蘇る。

 

 鋼の肉体は己を守るためではない、大切な者の盾となるために。

 破壊の力は敵を殺すためではない、己の悪意を壊すために。

 覚悟の想いは弱さを捨て去るためではない、己の弱さを受け入れるために。

 

 永久に戦う彼が辿り着いた真実。これが彼の強さだった。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 「うっ…」

 

 エヴァンジェリンが目を覚ますと、其処は世界樹の根本。身体は十字架に貼り付かれており、やはり四肢には銀の矢が突き刺したまま。最悪の拘束だった。これ程の用意、恐らく相手もただでは済むまい。爺やの腕は再生しかかっていたが、ドス黒く変色している。

 

 「少し手こずりました。しかし、お嬢様にはこれくらいしておかねば完全に押さえ付けるなど不可能ですから」

 

 離れである此処は学園の風景が良く見える。チラホラと灯りは見えるが殆どは街灯で、外出してまで活動している人間は見えない。葛葉刀子が此方の異変に気づけば良いが。

 

 「貴様、何をする気だ…」

 

 「決まっております、お嬢様の呪いを解除するつもりです。ですが、その前に貴女様から今一度“宣誓”して頂けないでしょうか」

 

 「宣誓だと? 何か確認したいことでもあるのか?」

 

 「ええ。闇の女王として世界に君臨し、人間どもを支配すると」

 

 爺やは唇で綺麗な孤を画く。しかしながら帽子は常に深く被り続け、その瞳は見えない。

 

 「支配か。ハハハ! 矮小すぎて話しにならんな!」

 

 下らない。実に下らない!私の人生を犠牲に、誰かの命を奪ってまで叶えるべき願いがそれとは、片腹痛い。

 

 「ふざけるなよ下老」

 

 あまりの怒りに沸点が一週回って、逆に静かな声がエヴァンジェリンの口から漏れる。低く重圧を含んだ言葉に爺やが大きくたじろいだ。冷たく鋭い殺意は同業である歴戦の吸血鬼だろうと、おぞましい恐怖、身体が微かに震えていた。

 

 「ですがお嬢様、我々はこれまでに人間から、数多くの苦しみを味わってきたではありませんか。何故このような場所に留まるのです? 貴女様はそれだけのことを成し得る権利があるというのに」

 

 人間は愚かで残虐な存在だ。一人一人は非力で欲深く臆病だというのに、それが束になったとたんに強気になり、なに食わぬ顔で正義を語る。自分達と違う者だからと数の暴力にものを言わせ、排除。周りから異分子がいなくなれば今度は互いに殺しあう。

 

 「確かに貴様の言う通りだ、人間とは愚か者ばかり。…だが、勘違いがすぎるな?」

 

 「勘違いですか…」

 

 エヴァンジェリンの眼が反転する。

 

 「私は別に人間が殺しあいをしようが全く興味ない。それこそ愚者の行いなど眼中にない、わかるか? どうでも良いんだよ」

 

 本気の笑みだった。多重封印状態でこれ程の余裕、女王の風格が滲み出ている。

 

 「私は──私は自分の意思で此処にいる。誰かに強要されたわけではない」

 

 自らの口から溢れた無意識の言葉。それは、エヴァンジェリン自身気づかされた意味を含まれていた。

 

 そうだ、そうだった。これは私が決めた選択だったのだ。差し与えたのは“とあ”だったが、それを手にしたのは間違いなく私だ。

 拒否することは出来た、私にはそれだけのことを成し得る確かな実力があった、それを行使することだって。無理矢理“とあ”についていくことも。

 

 けれども、選んだのには揺るぎない意味があった。

 

 兜に隠されて一度も素顔を見たことかない、悲しそうなアイツの声。

 

 光の中で生きろと言われて。

 とあが勇気を持てるその日まで、待ってやると…信じたのだ。

 

 もう、とあが帰ってくることもない。

 

 しかし、だからどうした。死んだからアイツの想いを捨て去る?そんなことが許されるものか、私自身が許せるものか。今ならハッキリ言えるだって私は───。

 

 「私は“とあ”が好きなんだ!!」

 

 やっぱりアイツが凄く好きだ、大好きだ。私は生きたい、私ならば光で生きられると信じたアイツの想いに応えるためにも、この歪んだ世界で。

 

 「私は闇の福音、悪の女王、エヴァンジェリン・アナタシア・キティ・マクダウェルだ!」

 

 「ッ!?」

 

 「私を呪いから解放だと? 自惚れるな、これは私が望んだ選択だ。私は欲しい物ややりたいことは勝手に、我が儘に手にする」

 

 迫害を受けたから支配する権利があるとは…くくくっ、抵抗出来ん弱者になんの権利があるか?

 答は否。己を高めずに怠惰と生きた馬鹿どもと一緒にするな。モラルによる権利など吐き捨てろ!

 

 「幼子の力も残っていない? 上等だ!」

 

 返しが付いた銀の矢に力を込める。右腕の肉が裂け、タンパク質が焼ける臭いが立ち込めた。傷口をズタズタに広げ、ポッカリと開いた穴から矢を抜く。

 

 「馬鹿な。十字架と銀の拘束から逃れるなど…」

 

 「ぐぅ…!」

 

 激痛が走る。治る気配など一切なく、そのまま血が吹き出る右腕で残りの拘束を解放した。銀に触れたせいか、掌は爛れ、ろくに着地も出来ないまま地面に叩きつけられる。

 土の味に不快し見れば、右腕はほぼ千切れかかっていた。

 

 「無茶シスギダロ」

 

 暗闇から片言の声が。爺やは咄嗟の判断で右腕を盾にしたが、煌めく刃が数回線を引き、両断された肉がズルリと落ちる。

 

 「むぅ!?」

 

 「デモマァ、合格ッテトコカ。カッコイイゼ、御主人?」

 

 「チャチャゼロ!? どうしてお前が…」

 

 エヴァンジェリンの従者、マリオネットの殺戮者が小さなナイフを持ってカラカラと笑う。

 どうやらめんどくさい悩みは気合いで解消出来たようだと、少し溜め息が出たが。しかし、ウチの御主人が正しい答えを出せたことは間違いなく嬉しく、チャチャゼロはとても愉快だ。

 

 「ヘッ、ンナコトドウデモ良イジャネェカ。 ソレヨリ、ポチハドウシタ?」

 

 「ポチは奴にやられて危険な状況だ。 さっさと捻り潰して迎えに行くぞ」

 

 なるほどなと、チャチャゼロもそれには同意見だった。今自分の身体は貯蔵していた少しの魔力で稼働しているに過ぎない。スペックも戦闘時間も全盛期に比べれば、目を覆いたくなるような性能しかない。エヴァンジェリンの傷も吸血鬼ならばまだしも、このままでは危険だ。

 

 「御主人ハ危ネェカラ動クナ、始メカラ全開デイクゼ」

 

 ナイフを振るい、こびりついた血を払う。既に相手の腕は元の形に戻っていた。

 

 「主の危機に自らを酷使して参上するとは。なかなか良い展開へ運びましたね」

 

 「何…?」

 

 爺やの言葉に戸惑うエヴァンジェリン。既に両者は激突していた。

 魔力によるブーストでチャチャゼロはパワーよりもスピードを底上げし、手数で責める。高速の斬撃が爺やの四肢を細切れにするが、瞬く間に吸血鬼の治癒でその姿は元に。

 

 「チッ、吸血鬼ッテノハ厄介ダナ…」

 

 エヴァンジェリンのパートナーとして近接戦闘に特化されているチャチャゼロは魔法が使えない。ましてや吸血鬼のような不死に対抗するような攻撃手段などあるはず無かろう。自身の主が不死なのだから。

 

 「爺や、貴様…どうやって私の呪いを解放するつもりだ」

 

 捨て身の戦法でチャチャゼロにクロスボウを放つ爺や。明らかに差がある速さにまるで掠りもしないが、それは相手としても同じ。幾ら断ちを与えようとそれらが致命になることはない。

 いや、チャチャゼロに限界時間があるせいか若干此方が不利か。魔法教師達が助太刀に来てくれれば勝ちも同然だが、残念ながら“今この時”、エヴァンジェリンが家を開けていても気にかける先生達は居なかったのである。

 

 「簡単なことです、お嬢様も既にわかっていると思いますが」

 

 「何だと」

 

 チャチャゼロのスピードが僅かに落ちる。爺やは此方に注意を向ける余裕があるのが返事を返した。

 

 「全ての魔法に言えることですが、術の行使は精霊であり、我々魔法使いは使役しているにすぎないのはご存知ですね?」

 

 魔法というのは一種の契約だ。土や草木、炎や水など万物全てには意思が存在し、それは属に精霊と呼ばれる。精霊に魔力と引き換えに力を行使してもらうのが魔法。呪文詠唱は契約内容であり、どの力をどの程度で、どの範囲発動させるのか意味を含まれる。簡単でシンプルな魔法ほど契約内容は短く魔力は少ない。

 

 「登校地獄の契約は千の呪文の男により、適当かつ、常人には到底理解出来ないような契約で強大な魔力を使用し、無理矢理発動させています」

 

 簡単に説明すると、お前にこれだけの大金やるから、あれとこれとそれとどれとやれよ。破ったら金は没収、罰金もあるからと無理矢理判を押させたようなもんである。

 

 「しかし、それでも突くべき穴はある。契約そのものを解除するのではなく、契約を意味の無い物にしてしまえば呪いも無くなるでしょう」

 

 「貴様……まさか!?」

 

 「この学園を消滅させれば登校という呪いは発動しない」

 

 それは、最悪最低の最終手段だった。

 

 「馬鹿な! 出来るわけがない!」

 

 秘密裏に事を進めるならまだしも、たった一人でこれだけ広大な施設、強力な魔法使いが数多く住む此処を、学園としての体を無くすだけの破壊など不可能だ。

 

 「それはどうでしょう?」

 

 爺やのクロスボウがチャチャゼロのナイフにより両断。追撃を仕掛けようとした時、爺やの血がまるで意思を持ったかのように動きだし、薄く、薄く研ぎ澄まされた刃として射出するとチャチャゼロの左手足が切断される。

 

 「…っウォ?」

 

 「チャチャゼロ!?」

 

 見覚えのある攻撃。ポチを一瞬にして襲ったあの技だとすぐにエヴァンジェリンは気がついた。

 

 「私にはお嬢様のように太陽の下で歩けなければ、強大な力も持っておりません。ですが吸血鬼化した影響により、“血”を自在に操る能力を持っております」

 

 血には大量の鉄分が含まれる。押し固めれば剣として扱えるほどに。

 

 「こんな風に…」

 

 血が滴る掌から刃を形成し振るう。チャチャゼロのナイフが防ぐ度に刃零れしていく。一方爺やの剣は血液が存在する限り刃に衰えはなく、より切れ味は増していた。

 軽さを活かすために固さを捨てた脆いナイフは砕け、エヴァンジェリンが目にするのは従者が五体不満足の姿で地面に落ちる無惨なところ。

 

 「チャチャゼロが負けるだと…っ」

 

 「魔力が供給されない状態で寧ろここまで動けたのが奇跡的です。これは貴女様の弱さが招いた結果ですよ」

 

 「…っ。学園の消滅にも切り札が残っているというのか」

 

 「ええ。準備は全て初日に終わらせました、信じるか信じないかはお嬢様自身ですが」

 

 僅かな時間でそれだけの術式が本当に可能なのか些か疑問だが、確かめる手段すらない。

 

 「 わかっているのか、 自分が何をしようとしているのか…!?」

 

 「勿論、この学園に住まう愚か者は全て皆殺しです」

 

 爺やは深く帽子を被り直し、髭を静かに撫でる。酷く、自然体だった。

 エヴァンジェリンは今ほど吸血鬼ではないこの肉体に歯痒い思いをしたことがない。目の前の老人にただ何も出来ず這いつくばるしか出来ない己の弱さに。

 

 「寧ろ私としては、何故お嬢様が其処までお怒りになるのか疑問なのですが。相手は我々を化け物としか見ない人間です、なのに何故」

 

 「決まっている、私が私を捨てないためにだ!」

 

 エヴァンジェリンは女、子供を絶対に殺さない。それは新たな自分を産み出さないため。

 まだ幼い、何も知らず、何も出来ないか弱い自分が受けたのは身勝手な大人達による理不尽な扱い。どうして?なんでこんなことをするの?

 

 「此処には全く無関係の子供がいる。なのに貴様は“また”しようと言うのか、私のように…!」

 

 どれだけ泣き叫んでも、父親も爺やも助けてくれなかった。

 あの時、エヴァンジェリンを救ったのは黒い狼と、自分が飲み込まれそうになった光の中手を引いてくれた炎の男。

 

 「今ここでその行いを認めてしまえば、私は貴様らと同類だ。あの日の私を見捨てるのと同じことだ…!」

 

 言いたいことは全て吐き出した。過去に、怒りをぶつける場所が無かったあの日の代わりに。

 

 「では、自らの誇りを貫くと言うのならば……大切な仲間を失っても構わないと言うのですね」

 

 爺やの掌から血の剣が出現し、地に伏せるチャチャゼロの頭頂部に添える。

 

 「止めろ! 貴様はどうしてそこまで…!」

 

 「ただの操り人形かと思えば…そうでもなかったようです。この木偶はお嬢様に修羅の道を歩ませる。私が望むのは恐怖による支配で永劫の安寧を約束される王の道」

 

 「ヘッ、ツマンネェ生キ方ダナ…」

 

 相変わらずチャチャゼロはマイペースにニヤニヤ。

 

 「御主人ヨ、俺ノ知ッテル闇ノ福音ナラ、脅シデ屈シタリシネェヨナ?」

 

 「チャチャゼロ…」

 

 「安心シロ、大丈夫ダ」

 

 チャチャゼロはもう、笑っていなかった。思えばコイツは憎まれ口を叩きながらも、常に私の進むべき道を間違えないよう遠回しに指摘していたとエヴァンジェリンは気付く。私ならば迷ってもけして間違えないと確固たる自信を持ち、今更何を言っているのだと言わんばかりに。

 

 「爺や、私は此所を離れるつもりはない」

 

 「残念です…」

 

 声質に暗い影を落とした。

 

 剣を振り上げ、そのままチャチャゼロを真っ二つにしようとした刃は……最後まで落ちることがない。

 

 「其処までだ」

 

 静かに、誰かの言葉が。

 

 『ッ!?』

 

 “チャチャゼロ”以外のエヴァンジェリンと爺やが驚愕に目を見開く。何かが来るのだ。それも並の気配ではない、冷たく、無機質で鋼がのし掛かるような圧倒的プレッシャーが襲いくる。

 

 「な、なんだ…この感覚は!」

 

 暗闇からコツコツと小気味の良い音が近づく。まるで、爺やが杖を突いていたような歩くスピードに合わせて。

 

 「ヤット来タカ」

 

 現れたのは、全身ずぶ濡れで髪が肌に貼り付いた女性のような容姿。深い傷が刻まれた左半分の顔、左眼球が失われポッカリと瞼には穴が開いている。右腕も失われたままだというのに、何故か彼は二足歩行で歩み寄っていた。

 

 「これは一体…」

 

 爺やは、彼の切り飛ばした左足の切断面を見て理解する。上着のシャツを使用し木の枝を腿肉に固定していた。当然そんなことをすれば歩く度に傷口から激痛が走り、立つことすら困難のはずが、彼は無表情のままで苦痛の様子がとれない。

 

 「ポチ……なのか?」

 

 あのふざけた態度を取り続けた青年とは、様変わりしていた。雰囲気だけではない、顔つきも、目に宿す力強い意思もこれまでに見たことのない、戦士としての風格がそこにはあった。

 ポチはゆっくりとエヴァンジェリンに顔を向け、頬を緩める。そしてその口から出た言葉は、とても、とても優しく懐かしくて待ち焦がれた言葉。

 

 「エヴァ、待たせたな」

 





エヴァンジェリンの思想や言葉が上手く書けているか不安。軽く打っていた時は「な、何言ってんだ、このキャラ…」みたいな内容だったので、伝えたいことが果たして伝わっているか。

Q・アルビレオと話していたのは?

A・アリカ姫です。ナギの奥さんでアマテルの子孫、そして真 祖 の 吸 血 鬼のあの方。

Q・チャチャゼロが…負けた…!?

A・寧ろ動けるのが奇跡。エヴァンジェリンは右腕宙ぶらりん、残りは穴が開いて動けない。

Q・あれ? アルビレオ、ポチの本名知ってる?

A・このタイミングでは知ってます。あとナギとアリカ姫も。残りはアマテルと造物主のみ。因みにイノチノシヘンも使えます。なので、この五人だけポチの本当の過去を知ってる。







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