畜生先生ポチま!   作:お話下手
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最近シリアスばかりだったせいか、禁断症状があああ。
UQ HOLDER!要素があるので未読の方は注意。


とあと刀子

 「と、あ?」

 

 思わずポチとは異なる名前が口から零れた。エヴァンジェリンにはあまり自然なことで違和感が一切感じられず、目の前の青年が死んだはずの人物だと不思議なことに信じられる。

 

 「お? 今のでわかるか。流石だね」

 

 彼の放つ無機質なプレッシャーが霧散し、能天気なその言葉に胸が苦しくなった。

 

 「うっ」

 

 「うっ?」

 

 「うわあああん! わあああん!」

 

 「え、ちょっ…号泣ううううう!?」

 

 さっきまで私は闇の福音エヴァンジェリンだ!(キリ。

 が、どこへ行ったのか。600年生きた精神ババアの女王は見た目通りの幼い女の子みたいに、みっともなく涙と鼻水をドバドバ垂れ流し。顔を真っ赤にして泣き出した。

 

 「だ、だってぇ…お前が死んだって聞いて、信じられなくて…でもそれじゃいけないと思って無理に受け入れて…でもやっぱり生きていたから…うぅ!」

 

 嗚咽混じり。最後なんてもう限界が来そうである。

 

 「カメラ持ってれば良かったな」

 

 恐らくこれほどの表情、一生に一度しか見られぬであろうレアな物だ。是非とも写真に納めて弄りネタに使いたいと思うが、実に惜しい。

 

 「まぁ、そのまま待ってよ。さっさと、この爺さんぶっ飛ばすから」

 

 正面にはチャチャゼロに剣を向けたまま此方に警戒心を強めるお爺さん。とあのプレッシャーが弱まった今でも油断した様子が見えない。

 

 「成る程、貴方が白銀の閃光ですか」

 

 「時空間忍術使いそうな呼び名止めて、恥ずかしい」

 

 自分の呼ばれたくない呼び名で、暗い影を落とす。背後にどよーんとした空気が。

 

 「いやね? 別に良いんだよ? 俺も最初は良い気分だったし、格好いいと思っていたけどあまりにも回りが閃光閃光言うから居心地悪くってさぁ? ほらあるじゃん? 〇〇ちゃん可愛い可愛い!って連呼して困らせるアレ? あんな感じみたいにさぁ、わかるでしょ?」

 

 「どうでもいいです」

 

 「あ、はい」

 

 この手の話しが通じない相手だった。エヴァンジェリンとチャチャゼロなんか、白い目を向けてくる。

 

 「いくら英雄であろうと、その形で勝てますか?」

 

 全身鎧を身に纏っておらず、彼の身体はかなり細く、また重症だった。

 

 「うーん、ムリポ(はぁと)」

 

 「なっ! だったら速く逃げろ、奴の狙いは私だ!」

 

 そういわれて、はいそうですかと引き下がれるわけがない。もう、決めていたのだ。今度こそ、絶対に彼女のもとから離れないと。

 

 「大丈夫だよ、そろそろ援軍も来る」

 

 爺やのすぐそばで煌めく刀身、剣となった右腕が音もなく斬り飛ばされる。無駄のない洗礼された斬り込み、傷口も斬られたことに気づかないのか、一拍置いてから血が吹き出た。その再生に、停滞が見られる。

 

 「むぅ、これは…!」

 

 「神鳴流奥義、斬魔剣です」

 

 チャチャゼロを素早く抱え、一時その場から離れる長身の女性。一瞬、彼女のタイトスカートから神秘的な光景が見えたが黙っていよう。多分余計なこと喋ったらエヴァにぶっ殺される。

 

 「葛葉刀子か!」

 

 「はい、助太刀に参りました」

 

 麻帆良学園高学部教師、警備担当もとい、学園長の秘書も任されている新婚ホヤホヤ、もうすぐ挙式も行う予定の美人剣士。葛葉刀子。ここに見参。

 日本刀の剣先を敵に向けたまま、チャチャゼロを静かにエヴァのそばへ。彼女の制服もまた、とあと同じように濡れていたのを、この距離で気付く。

 

 「そうか、お前がとあを引き上げたのか…」

 

 更にはチャチャゼロもこうして救ってくれた彼女に、エヴァは頭が下がった。

 

 「当然のことです。生徒を御守りするのが我々教師の役目なのですから」

 

 至極当たり前のように語り、エヴァはそこで気付くのだ。全ての人間が愚かではない常識に。しずなもそうだった、エヴァが闇の福音だろうと気にしないで接してくれた。人間という一括りにまとめ見聞を誤るのは、それこそ愚かだ。眼前に立つ敵のように。

 

 「再生出来ないと言っても、時間の問題だね。どうやって倒そうか、美人さん」

 

 「そうですね…。とあさん、貴方は封印術が使えますか?」

 

 「え? 封印式が書かれた御札ないの?」

 

 「はい。生憎切らしており、斬魔剣で首を両断した後、封印をかけたかったのですが…」

 

 とあと刀子は不死の吸血鬼に対抗するため、簡易な作戦を建てる。内容としては魔の力を抑える斬魔剣で身体から頭部を離し、封印を掛ける神鳴流や陰陽師で最も使われる手だが…。

 

 「うぅん…。あまり使いたくないけど、出来る───かも?」

 

 「なんですか、その曖昧な」

 

 「色々と制限があるんだよねぇ。不発の可能性があるし」

 

 「全く出来ないってわけではないようですね。ならば覚悟してください、どの道やるしかありませんので」

 

 「はーい。じゃあ、美人さんもあのやり方行くよね?」

 

 「うっ。し、仕方ないです…」

 

 決心がついたのか、とあは若輩者が喧嘩の時するようなファイティング・ポーズを取り、足を肩幅に開く。その時、左足の傷口に障ったのか、少しばかり血がブシュリと溢れる。痛々しい姿だが、本人はやはり気にしていない。

 

 「いくぜ! フォーメーション・ハミガキじょうずかな!」

 

 『え?』

 

 エヴァンジェリン、チャチャゼロの時間が一瞬止まる。

 

 それは、此所に来る前、とあと刀子が事前に用意したコンビネーション攻撃だった。勿論提案はとあ。

 このフォーメーションは今までにタッグを組んだことがない者同士でも息の合った動きが出来るよう、とあとナギが開発した究極の連撃である。

 まず重要なことは必ずどちらでも良いので、歌うこと。そして羞恥心を捨て、あとはタイミングに合わせひたすらボコる! 以上!以上です!

 

 「大事なことなので二回言いました!」

 

 ハ・ミ・ガ・キ・じょうずかな?

 

 「か、葛葉刀子。 二十二歳です…!」

 

 赤くなりながら自らの名と年齢を口にする。とあはその間に歌いながら爺やに突っ込んでジャブで牽制。

 

 クチュクチュ「はあああ!」シュワシュワ「うおおお!」クチュクチュ、ハミガキ。シュワシュワ、ハミガキ。クチュクチュクチュクチュシュワシュワ──「ぐお!?」

 

 とあと刀子のダブルキックが爺やの水月を直撃、くの字に曲がった吸血鬼は苦悶の叫びをあげ後方へ弾き飛ばされる。

 

 クチュクチュクチュクチュシュワシュワ──「がはぁ!?」

 

 完璧な阿吽の呼吸。とあのふざけた歌に合わせて両者の攻撃タイミングが見事に合い、吸血鬼の再生が追い付かないスピードの連打が襲いかかる。欠点と言えば擬音だらけで何が起こっているのかサッパリわからないこと。

 

 「仕上げはお母さーん!」

 

 「誰がお母さんですか!?」

 

 グリグリ(ザクザク)、シャカシャカ(ボコボコ)。

 上の歯ぁー(殴る!)、下の歯ぁー(斬る!)

 前歯ぁー(殴る!)、奥歯ぁー(斬る!)

 グリグリ、シャカシャカ、グリグリ、シャカシャカ───「ぐはぁ!?」

 

 「食べたら磨く、約・束・げん・まん」

 

 チャンチャンチャン。

 

 「んな、バカな…」

 

 エヴァンジェリンの茫然とした声。本当に圧倒してしまった、あんなアホなやり方で。

 よくよく思い出してみれば、ナギやアリカ達と旅をしていた時もこのようなことばかりしていたなと、改めて思う。完全なる世界とか、よくわからん連中と戦っていた時も常々こんな感じだった。二番目という名前の人形も泣きながら退散していたのを鮮明に思い出せる。

 

 「やったかしら?」

 

 「ちょっと美人さん!? まだ封印掛けてないのに、それは言っちゃダメエエエエエ!!」

 

 斬魔剣で四肢を切り落とされた爺や。傷口に再生の様子はなく、勝利を確信した刀子の言葉にとあのストップが入る。合わせたように起き上がる吸血鬼。

 

 「ほらぁ! まだピンピンしてるじゃん! 今のはやってないフラグになるんだよ!」

 

 「いやはや、貴方のそのふざけた態度少々神経に触りますね」

 

 起き上がった爺やは何を考えたのか、自らの牙で先を失った腕に噛みつき、血を流し始める。

 

 「アレハ、ヤバイゼ!」

 

 チャチャゼロの警戒に目を見張る一同。爺やは流した血を刃として飛ばし、とあ達ではなく自身の切断された四肢を更に深く切り落としたのだ。それにより魔の力を封じられた傷口は無くなり、新たな傷痕からは再び肉が生えてくる。

 

 「あんなの、ありなの?」

 

 誰の声だったのか。再生が完了して立ち上がった爺やの服装は、闘いによるダメージであちこちに傷みが見られ、スルリと脱げた。

 

 「なっ…!」

 

 そこには、とても年老いた老人とは思えない程、鍛え上げられた剛毅な筋肉が現れる。無駄な脂肪は一切無く、しなやかな肉体。しかし、エヴァンジェリン達が呻いたのはそれではなかった。

 その肉体に刻まれていたのは、夥しい数の傷痕があった。切り傷、銃痕、火傷、薬品で爛れたような跡さえ。数百、いや数千はあろうかという、彼のそれまでの人生を語るような壮絶な記録だった。

 

 「爺や、それは…!」

 

 「私はお嬢様程の再生力はありません。銀や聖水を受ければ傷が無くなろうと、跡は完全に消え去ることはないです」

 

 爺やな上半身裸になろうと、帽子は深く被り続けたまま。淡々と語るその言葉に表情がやはり見えない。

 

 「それにしても鮮やかな剣筋です。私の再生をここまで封じるとは…」

 

 「あれ、連携なかったことにされてない?」

 

 帽子越しに刀子を見る。ボロボロの指先で髭を撫でると、爆発的に殺気が膨れあがった。周囲に緊張が走る。

 

 「昔、アオヤマと名乗る少女との闘いがなければ斬魔剣の対策は無かったでしょう」

 

 もう、数十年前の話しだ。今では老婆になってもおかしくない年月である。

 

 「貴女はその少女よりも圧倒的に実力がある。剣筋もそうですが、足さばき、気配の読み、そして賢い───だが」

 

 瞬動術。足の裏で一気に放出した気は術者に一瞬の超加速を与え、刀子の目と鼻の先に接近する。咄嗟の回避で彼女も同じように瞬動を使うが、僅かに遅れたせいか爺やの持つ血の剣に頬に掠り切り傷が。

 

 「残念ながら経験が足りない」

 

 「まさか今のがそうだって言うの? この程度、何度も味わっているわ」

 

 額に汗をかき言い放つ刀子。確かにあの程度の瞬動ならば、彼女の反射神経で対応出来る。しかし、爺やは落ち着いた様子で血の剣を体内に納めると、ひとつ…頷いた。

 

 「ふむ、なるほど…どうやら近々式を挙げる御予定のようですね」

 

 「…何故貴方が知ってるの」

 

 彼は答えず、更に口内を咀嚼するように動かし再度頷く。まるで、何かを味わうように…何かを読み取るように。

 

 「御相手は…西洋の魔法使いですか。しかも貴女と幼馴染み」

 

 「ちょっと待って…どうしてそこまで…っ!?」

 

 皆が気づく。あの行為は刀子の血を味わっているのだと。そしてその血から得られる者の情報を吸血鬼が詳細に読み取っていたのだ。

 

 「あの爺さん、そこまで出来んのかよ!」

 

 血を操る能力とは知っていたが、それほどまでに強力な能力だと予想出来なかった。

 

 「それだけではございません。更に血の感情を読み取ることも可能で、相手の思考さえも探知出来ます。どうやら貴女は御結婚に向けて幸せな感情を抱いていますが、僅かな隙間に不安要素を押し込めていますね」

 

 「…っ」

 

 刀子の手がビクリと揺れる。

 

 「御相手、幼馴染みでしたか。彼は昔から暴力的で女癖もあまり宜しくないようだ」

 

 当然、そんなことを聞いてしまえば、とあとエヴァンジェリンは刀子を思わず見てしまうに他ない。相手の男性について全く知らなかったが、幸せ絶頂期にも思える彼女からその不安要素は、まさに寝耳に水である。

 

 「黙りなさい…」

 

 「そして大人になってからは賭け事に手を出し、酒乱の体質も持つ」

 

 「止めたげてよぉ!」

 

 聞いてはいけないことを聞いてしまった。とあとエヴァンジェリンは居たたまれない気持ちになる。流石に見過ごせない…もとい、これ以上は聞いていられないとあは爺やに攻撃を仕掛けるが、先ほどまでより速い彼に対して片足が不自由なとあの攻撃が当たるはずもなく、続けざまの言葉を止める術がない。

 

 「書類上結ばれているとはいえ、既に旦那様の悪い癖が目立ち始めたようですね。しかし、貴女はこう思っている。式を挙げればきっと、夫婦としての実感を持ち、彼も心を入れ換えて夫として相応しい男性になってくれる」

 

 「爺さん、マジマインドクラッシュ! 次いでに俺のSUN値も減るわっ!」

 

 「いや、貴女は旦那様に夫としての自覚を持ってほしいのではない。せめて、せめて彼に“女として見続けてほしい”と願っている。既に見放されていると気付きながらも」

 

 「マジかよ、旦那最低だな…。うわぁ、やる気なくすわぁ」

 

 それ即ち、浮気の二文字。

 だんだん目の前の敵より刀子の夫をボコボコにしたくなってきた、とあ。同じ女性大好きとして許せん存在である。顔が崩れるくらい殴りたい。

 

 「皮肉な話しです。結婚において、男は女に変わらないことを望み、女は男に変わってくれることを望む───「黙れえええええ!」───っ」

 

 「美人さん落ち着いてえええええ!?」

 

 何に対して怒りを爆発させたのか。刀子は鬼の形相で日本刀を振りかぶり、大雑でスキだらけの断ちを浴びせる。

 

 「やはり経験が浅い」

 

 これにより、とあと刀子の連携は完全に崩れた。冷静さを欠き一人で突っ走った彼女が600年戦い続けた人外の強者に敵うはずもなく、意図も容易く十数の血の斬撃が直撃し、スーツが切り裂かれた刀子はほぼ半裸状態で地に伏せる。

 

 「ま、まだよ…! まだ戦える…っ」

 

 「その執念、怖ッ」

 

 「イイ加減オ前モ黙レ」

 

 半開きの目をギラギラと輝かせ、闘志が衰える様子がない。片腕で胸元を隠し、痛みに震える身体を無理矢理立たせた。爺やがその姿に溜め息を吐く。

 

 「仕方ありません。あまり“これ”は使いたくなかったのですが」

 

 刀子以外が、嫌な予感に包まれた。

 

 「はあああああ!」

 

 雄叫びを上げて直進する。エヴァンジェリンが制止の声、とあも急いで刀子を引き止めようと走りだしたが、如何せん彼女の方があまりにも速すぎた。爺やは真っ向から刀子の斬撃を受け、肩口から胸にかけ両断されようとしたが、彼女の血が滴る腕に手を添え、決着がついてしまう。

 

 「ぎゃあああああ!?」

 

 とあとエヴァンジェリンでさえ、理解出来なかった。

 

 刀子が突然日本刀から手を放し、とても女性が発したとは思えないような絶叫で悲鳴をあげ自らの右腕を抱え込んでしまったのである。

 

 「あああああ!!」

 

 右腕には何も変化はないが、それでも刀子は耐えず吠え、目が血走り、その場でゴロゴロ転げ回る。

 

 「貴様、何をした!?」

 

 「体内の血を形質変化させただけです。もっとも、血管だけではなく細胞や神経、骨の髄に入り込む僅かな血液も含まれますが」

 

 傷口を再生させながら語り、とあとエヴァンジェリン、二人の顔色が青くなる。それは即ち、腕の中にある痛覚全てを血を使って刺激したということ。常人ではショック死してもおかしくない程の激痛を与えたのだ。幸いにして刀子は剣士、痛みには慣れており“女性”であるためこの程度に済んでいるが、如何に戦う者と言えど、神経を焼き引きちぎるにも似た痛みは耐え難いものであり、発狂か、戦意をそこで失う。

 しかもこれは触れればアウトの防御不可。血を持つ限り防ぐ術はない。

 

 「あ、ああ…!」

 

 刀子が落とした日本刀に手を伸ばすが、指先が僅かに触れただけで、またしてものたうち舞う。

 

 「さて、あとはふざけた貴方だけですね」

 

 爺やが此方に向き合った。そして、とあの行動は速い。相手に接近し、その“目の色”を変えている。美しく輝く瑠璃色に。

 

 「…むっ!?」

 

 「アクセス」

 

 無機質な言葉。独特な鋼のプレッシャーがのし掛かる。爺やは咄嗟に危険と悟った。

 

 刹那、とあはある歴史、場面、人物に触れる。まだ延ばしてはいけないそこへ。 

 

 時空間因子の収束開始。

 

 ◆年月【2087年】クリア。

 ◆所在【仙境館】エラー、【貧困街】クリア。

 ◆人物【近衛刀太】エラー、【時坂九朗丸】エラー、【夏凜】エラー。

 

 これでは駄目だ、全員得意体質すぎる。もっと、今の俺にもギリギリ扱える能力を持つ人物を選び、発動が容易な攻撃手段を再検索。

 

 ◆人物【灰斗】クリア。

 

 この人狼族だ。

 

 ◆特技【虚空瞬動】エラー、【瞬動】エラー、【封印術】クリア。

 

 インストール開始。因子のトレース完了。

 

 「吸血鬼封印術───」

 

 とあの動きが別人のように変わる。左足の代わりとした木の枝で、爺やの上半身に十字を画くよう、十の打突。健全な左手で狙いを定め、敵の胸に強烈な掌底を叩き込んだ。

 

 「───零式『十字封棺』!!」

 

 衝撃に後方へ吹き飛ばされる爺や。大地を破砕しながら漸く身体が止まる。

 

 「はぁはぁ…───ッぐぅ!」

 

 だが、ダメージを受けているのは明らかにとあの方だった。エヴァンジェリンが見たところ相手の血を操る攻撃は受けていないにも関わらず、本人は油汗をかき、土毛色の顔で頭を押さえつけている。

 

 「やっぱ、人間の脳じゃこの辺が限界か…」

 

 「今のは一体…」

 

 エヴァンジェリンが事情を聞こうとしたが、破壊された大地から爺やが現れることで続かない。

 

 「おいおいマジかよ…。効力が三割減ってるとはいえ、まだ立てるとか…」

 

 「私も驚きました。まさか触媒どころか気や魔力を練り込まれていない封印術でこれ程とは…」

 

 爺やの胸元は血の鎧に覆われていた。掌底の跡がクッキリと残されており、鎧は効力を失ったのかサラサラと灰に変わり零れ落ちる。

 

 「爺さん、アンタの血を操る能力万能すぐる…」

 

 「600年も生きれば流石に、能力の工夫も一つや二つ増えますよ」

 

 「ですよねー」

 

 そう、目の前にいる男はエヴァンジェリンと同じように一筋縄ではいかない。そういう存在だ。技術的にも精神的にも他の者とは一概に違い、これを潰すとなると、小細工は通じず、より上回る力で押さえつけるしかない。

 

 「ねぇ、爺さん。もう止めない?」

 

 「残念ながら私はお嬢様を王にするという、重大な使命が…」

 

 「違う、それじゃないよ」

 

 とあは悲しそうに呟く。爺やの動きが止まった。

 

 「流石にね。確信しちゃったんだ、俺」

 

 「ほう…」

 

 老人は初めて帽子を取り、そこには、怒りに顔を歪ませた吸血鬼が。

 

 「貴方は本当に私の神経を逆撫でする…!」

 

 エヴァンジェリンとチャチャゼロからして見ればあまりにも突然な激昂だった。すると、急に筋肉が膨張し体格を大柄に変え、汗腺から血を流すと全身に真っ赤な鎧兜を身に纏った。防御、攻撃共に最大限の効率を発揮させる彼の本気の形態だった。

 チャチャゼロの時も、刀子の時でもけして使用しなかった姿。

 

 とあは、彼が本気で潰しにかかってくることを知り顔を小さく伏せる。

 

 「やるしかないのか」

 

 人間の肉体でどこまで耐えられるか、あまりに久しぶりすぎて覚えていない。自身そのものである“式”の鎧は本来人間が扱える代物として設計されていないのだ。攻撃の反動は全て装備者に跳ね返り、システムの干渉を受ければ処理能力に限界がある脳は簡単に破壊されてしまう。ナノマシンと併用して使えば死ぬことはないが、メモリが破壊されれば記憶を再び失い、エヴァンジェリンをまた忘れてしまう。

 

 それだけは絶対に避けたかった。

 

 でも、やらなければならないのだ。

 

 理由なんて、決まってる。

 

 「エヴァに、貴様を殺させるわけにはいかない」

 

 とあは、唱える。自身の力を呼び覚ます言葉を静かに。

 

 【式 王 神 解 放】

 

 何もない空間がひび割れた。

 

 




次回、ポチが人間形態での本気を出します。

【爺やの能力まとめ】
不老不死、血で斬撃を飛ばす、血で剣を形成、血で鎧兜を形成、相手の血を体内に取り込み記憶や感情の情報を読み取る、相手の血に触れ操る、自身の血を操り身体能力を高める。

元々は剣を形成するだけで精一杯だったが、600年の時をかけ様々なバリエーションを生み出した万能タイプ。








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