畜生先生ポチま!   作:お話下手
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超シリアス。 しかし最後は…。


青山詠春との出逢い・前編

 

 【1976年、冬】

 

 日本、京都にて。

 

 「詠春君、今日もええ天気やなぁ。 おてんと様が優しく照らしとる」

 

 「ええ、そうですね」

 

 青山詠春は幸せ絶頂期だった。 ここ京都の5本指に入る由緒ある家系、近衛家のお嬢様とこうして会話出来るこの瞬間を。

 勿論、彼女がお嬢様だからというそれだけの理由ではない。 桜のような美しく可憐で華やかさを持ちながら、何処か儚さや不気味さを感じさせるその容姿、そしてまさしく此方を安心させてくれる、おてんと様のような笑顔に惹かれていたからだ。

 

 近衛さん、マジ天使!

 

 だが、そんな幸せも最近居座っている問題児のせいで打ち砕かれる。

 

 「おーい、詠春! 帰ってきたぜー!」

 

 広い屋敷に響く生意気そうな声。 ナギ・スプリングフィールド、イギリス出身の西洋魔法使いらしいが、自分探しの旅という痛々しい理由で家出をしているとのこと。

 …学校はどうしたのだろうか。 後先考えない行動ばかりで少々頭の悪い印象を受けるが、魔法使いとしてその実力はかなりのもので、下手を打てば歳上である自分が負けそうになるくらいだ。

 所謂、天才と呼ばれる人種なのだろう。 後、数年も経てば追い抜かれるのも間違いない。

 

 「詠春ー! いないのかあ! ウ〇コしてんのかあ! おーい、ウ〇コー! …あ、やべ…ちょっとクラクラしてきたわ、どうしよこれ」

 

 「近衛さん、ちょっと待っててください」

 

 危うくはち切れそうになった血管を鎮め、彼女をその場に残し、そそくさと部屋から退出する。 あのクソガキ、人をウ〇コ呼ばわりして。 厠にぶち込む…!

 

 「おーい!」

 

 「喧しい! そんなに叫ばんでも聞こえとるわ!」

 

 瞬動術の無駄使いで一気にナギのもとへ向かう詠春。 一発ぶん殴ろうと、木刀を構えたが、そこに現れた光景に口をあんぐりと開けた。

 全身に鎧兜を纏った謎の人物に抱き抱えられたナギが、これまた全身血塗れで此方に手を振っていたのである。

 

 「え、ちょ…おま。 何をしたんだあああああ!?」

 

 「お前も充分喧しいな」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 「何ぃ!? 狗族の禁断の地に入ったのか!」

 

 屋敷の一室。 治療を終え、布団へ横になったナギに何があったのか事情を聞いた詠春は、開口一番に怒鳴り声をあげる。

 

 「偶然な。 フラフラーって行ったらこうなった」

 

 なんてこと…。 頭に頭痛が走ったため額を押さえた。

 

 彼処には今から九百年以上前に、始祖アマテルと呼ばれる、古の人物から譲り受けた使用者に無二の力を与える神とやらが納められていたのだ。 お伽噺としては此方の世界と魔法世界の和平的存在として贈られた物と伝えられているが、実際は違う、残された記述によると当事者達はこう書いている。

 

 アマテルはこの神の力の一端を授ける代わりに、選ばれた者が現れるまで誰の手にも触れられない、誰の目にも映らない場所へ封じ続けて欲しいと頼んだようだ。 危険な代物とわかっていたが、神の力を欲した人間はそれを引き受けた。 しかし、人の性か、アマテルの願いを聞かずに己の私利私欲のために手に入れようとした者が多くいたのである。

 

 そこで人間達は、アマテルの言葉を守るため知的生命体の中で最も忠実な思考を持つ狗族に管理者として定め、彼らの里地中深くにアマテル自身が作りあげた罠仕掛けと、魔力で可動する人形町と共に封じたとされる。

 

 その、あまりにもあの時代の日本において“先進的で未知の技術が詰め込まれたそれは”式神の原種であり、狗族の固有術である影装術の元となった。 後に狗族を壊滅に追い込む事件以来、彼処は百年以上前から立ち入りを禁じられており、九世紀経った今でも恐ろしい罠が作動し続けているとされていたが…。

 

 「まさかお前が選ばれるなんてな…」

 

 「別に神の力なんて必要ないんだけど」

 

 「いらないのか!?」

 

 「だって充分強いし、流石俺だよな!」

 

 包帯グルグル巻きの死に体が何を呑気に言っている。 コイツには反省という文字を知らないのか?

 ナギの枕元には鉄製の白い首輪を首に嵌めている、鎧そのものが兜の開口部を開け、吉備団子を美味い美味いと言いながらムシャムシャ食べていた。 正直これが伝説上の宝で神と呼ばれる存在なのか少々信じがたい。

 俺の分の吉備団子食うな。

 

 「おい“とあ”、いい加減なんか喋ろ」

 

 拳でガンガン殴っているが止めたほうが良いだろうか。 一応、それは国宝級の古代遺産なんだが。

 

 「ん? なんだ、もう無くなったか…」

 

 「食いすぎだボケ。 お前についてなんか教えろよ、てか喋れ」

 

 「やれやれ、どうやら俺の主は相当な我が儘らしいな」

 

 無機物が口もないのに、溜め息混じりに呟く。

 

 「語っても良いが、残念ながら俺のメモリには眠る前の行動データが破損した状態で残されている。 あとはあの場所に来ようとして死んだ者達の断末魔しか大した物がない、てっきりお前もそのひとつになると思ったのだが…」

 

 「縁起でもねぇ! つか、それって記憶喪失じゃねぇか!」

 

 「厳密には喪失とは違う、破損だ。 ナノマシンによる修復を進めているが難しいだろう。 わかっているのは俺自身の名と、力の使い方が少し、あとは鎧の名前が“式”であることと、主と呼ばれる者が現れるまで眠るぐらいだ。 アマテルなんぞ知らん」

 

 「ナノ……なんだって?」

 

 歴史的発見が何かあると思ったが、そう簡単にはいかないようだ。 しかし、問題はまだ残っている。 

 この首輪もどきをどうするかだ。 国宝であるこれを勝手に持ち出すのは犯罪であり、狗族に対してはなんと説明すれば良いか。

 

 「詠春とやら。 悪いがもしも許されるのならば俺はコイツに付いていきたい、外の世界も見たいうえ、また美味しい物を食べたい」

 

 「だとよ」

 

 他人事みたいに言うな! これはとんでもなく危険なことなんだぞ!

 強大な力が一個人に、しかも西洋の幼い魔法使いに渡ったとなれば、関西呪術協会内による派閥同士の亀裂が深まる。 過激派だけではない、鳥族や鬼族までも狙いにくる可能性も…。

 

 「やはり難しいか」

 

 “とあ”が呟いた瞬間、たどたどしい歩きで畳を踏みつけながら、外へ出ようとする。

 

 「どこ行くんだよ」

 

 「主の迷惑となれば、居て良いはずはない。 大事になる前に、また彼処へ戻る」

 

 確かに、この状況をクリアするにはそれが一番だ。 今のうちに何事も無かったかのよう、全て元通りにしてしまえばそれで済む話しなのである。

 だが、これはけして素直に決められるものではない。 また彼は再びに眠りについてしまうのである、何十年、何百年という歳月を、誰とも触れ合うことなく、誰からも見つめられることもなく。

 それが良いはずがあるまい、彼がやっと長きに渡る眠りから覚めたというのに、結局変わることのない扱いにどのような気持ちなのか。 詠春は鉄仮面からそれを読み取ることは出来ない。

 

 「馬鹿やろ、一々気にしてんじゃねぇよ。 周りがそうさせているだけで、お前は悪くないだろ」

 

 「しかし…」

 

 「大丈夫、いざとなれば詠春がなんとかするから。 なぁ? 次期、関西呪術協会の長様?」

 

 ニヤリと意地の悪い笑顔が此方に向かれる。 …誰から聞いたんだ、近衛お嬢様以外に話して────あの人か。

 まぁ、しょうがない。 ここまで聞いてほっとくことは出来ないからな。

 

 「やってみよう。 別に助けてあげたいとかではなく、この程度、上手く切り抜けられなければ長なんて無理だろうからな」

 

 詠春は立ち上がる。 口ではああは言ったが、まだ若僧である自分がどれだけの発言力を持つなど、たかがしれている、しかしやらねばならない。

 関西呪術協会次期長としてだけではない、青山詠春として、侍、武士道に殉じる己の誇りにかけて、外の世界に想いを馳せる“とあ”を救ってみせよう。 これが後にサムライマスターと呼ばれる男の生きざまであった。

 

 その結果は────。

 

 「────スマーン! やはり無理だったあああ!」

 

 「オイイイイイ!?」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 「あ、式神様や。 おはようございますぅ」

 

 「おはよう、近衛。 一応言っておくが、俺のことは“とあ”で良い。 様付けはどうも苦手だ…」

 

 深い霧が立ち込める寒い朝。 屋敷の庭に立ち尽くしていた“とあ”に、小さな子供達を連れた近衛が挨拶を交わす。

 昨日の夜に降り積もった雪は、真っ白に美しい景色を生み出し、ずっと見つめていると自分が溶けてしまいそうな錯覚に陥った。 子供達は楽しそうに黄色い声をあげながら雪ダルマや雪合戦で遊び、近衛は庭の隅にポツンと生える植木に近づく。

 

 「椿か…。 綺麗だな」

 

 白景色に映える、淡い赤の花弁。 鉄で出来た指先が優しく触れた。

 

 「花に詳しそうな物言いやね。 椿、好きなん?」

 

 「いや、嫌いだ」

 

 椿の花が丸ごと“ボトリ”と落ちた。

 

 「…散る姿がまるで、首を落としたみたいだから」

 

 地面にも花を咲かせるその姿はまさしく、血溜まり。 近衛もその様子を光が消えた目で見つめていた。

 

 「“とあ”さんはウチと同じことを感じるんやなぁ」

 

 椿の花を両手で優しく掬いあげる彼女。 じっとそれを凝視していたが、花弁を一枚一枚、ゆっくりと、丁寧に千切っていく。

 

 「でも、ウチは好きや。 椿」

 

 光を失ったままの目で頬を染めながら苦笑。 クスクスと嬉しそうに笑いながら立ち上がった。

 

 「本当はな、嫌いやったんよ。 でも詠春君がな、椿好きって。 近衛さんみたいに綺麗で可愛らしいからって、だからウチも好きになった」

 

 「…そうか」

 

 形はどうあれ、二人は互いをとても大切にしていることがわかる。 詠春の真っ直ぐな心が彼女の心を動かしているのが理解出来た。

 なら俺も、いつか椿を好きになれる日が来るのかもしれない。

 

 「“とあ”君、お願いがあるんよ。 もし出来るなら、この椿…守ってくれへん?」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 「何やってんだよ青山さんよー、じゃなくて役立たずさんよー」

 

 「喧しい! 全く、何故ドイツもコイツもドンパチやりたいのだ! 奴らはイライラしているのか? カルシウム足りないのか? 今度のお歳暮は茶葉ではなく、牛乳送ってやる!」

 

 怒りながらも次の贈り物を考える青山さん、マジ詠春。 

 

 とかそんな冗談を言ってる場合ではない。 “とあ”の存在は昨日の今日話したばかりだというのに、既に奪いにくる為の準備が着々と進められているらしいのだ。

 報告の様子から、恐らく今夜中には襲撃がくるとみて間違いない。 だが、これはいくらなんでも速すぎる!

 まさか、“とあ”とは関係なしに前々から何かしらの準備が成されていたのか? もしかすれば、近いうちに大きな戦が起こるかもしれない。

 

 「鬼族、ならびに鳥族と狐族までも“とあ”を狙って此方の屋敷に向かっているとの伝達があった。 何れ、この屋敷は戦場になるぞ」

 

 部屋には上半身だけを起こしたナギ、緊迫した詠春、そして壁に背もたれている“とあ”が集まっていた。 やはり予想が適中した、高台から見れば数千の妖怪達が文字通りの百鬼夜行を体現し、ゆっくりと此方へ向かってくる様子がわかる。 不幸中の幸いだったのは、狗族がこの戦いに参加しなかったぐらいか。

 やはり忠実な種族であったおかげか、例え選ばれた相手が西洋魔法使いであっても掟に従い静かに身を引いたのである。 先人達は恐らくこうなることも予想して彼らに管理者として選択したのだろう。

 

 「どうすんだよ、俺はこの状態で動けないぜ?」

 

 「お前がいなくとも、私ひとりで退治くらいはどうとでもなる」

 

 剣士としての実力行使なら詠春の右に出る者はない、まずこの戦場において敗北は有り得ないだろう。 しかし、それが守りに入るとなれば圧倒的不利になる。

 女、子供の存在により屋敷には戦えない者が多すぎた、他の神鳴流を合わせても、それを補うのはかなりの困難を極めるに違いない。

 

 「詠春様! 敵の第一陣、来ました!」

 

 若い少年に近い容姿を持つ青年が庭から叫ぶ。 詠春は刀を手にした合図に外へ飛び出した。

 

 「お前達は近衛さん達を連れて此処から離れるんだ。 頼んだぞ!」

 

 駆け抜けていく彼の背中を見つめながら、“とあ”は大きな動揺に襲われる。 見ず知らず、得体の知れない自分のことを何故、ここまでしてくれるのか。

 あるはずのない胸に、こうまでして鋭い痛みが走るのは何故なのか…。 

 

 「きっと、彼の指示通りに動けば犠牲者は出ることなく、この戦いは終わるだろう。 だが、この屋敷は無事ではすまない」

 

 命が救われることに比べれば大した損害ではない。 しかし、帰る場所は失われる。

 近衛や詠春、そして子供達の安らぐ場所は無くなるのだ。 今は大丈夫だとしてもいつかそれをツラいと感じることはある、俺はそれを、かつては知っていたようだ。

 

 「ナギ、お前の友に不幸が訪れた。 それでもお前は俺を傍に置くのか?」

 

 「当たり前だろ。 ペットを最後まで見るのは飼い主の最低限の義務だからな」

 

 例えこの戦いに勝利しても意味はない。 また再び俺を狙って此処は襲われる、他者から危険を回避するには、あらゆる土地から離れ、永遠に逃げ続けなければならない。 

 

 「ならば修羅の道を共に歩むと?」

 

 「退屈しなさそうで良いじゃねぇか、相棒」

 

 迷いの無い、力強い笑みが俺に心を与える。 ああ、やはり…お前は良い。

 おかげで思い出せた、この胸の痛み、激しい動揺、これが守りたい感情だったのだと。 かつての俺の力の源は、いつだってこれだったのだ。

 畳から草へと足が移る。 

 

 「そうこなくっちゃな。 俺も行くぜ」

 

 「食事も満足に出来なかった奴が無理をするな」

 

 傷は縫合したばかりで少しでも下手をすれば、今度こそ危ない。

 

 「安心しろ俺はお前のペットだ、負けることなど有り得ない。 其処で見ているが良い、お前が手にした力がどんなものかな」

 

 「言うじゃねぇか。 よーし、行ってこい!」

 

 “とあ”は小さく唱えた。 力を奮っていた己を呼び覚ます、覚醒の言葉を。

 眩い光に包まれる全身、銀色に変わる装甲。 武骨で丸みを帯びていた形状は鋭角に、洗礼された物へと変化し、兜に備え付けられているバイザーから鬼を思わせる二本の大きな角と開口部には牙が四本生えた。

 

 「4時の方向、距離8600。 詠春確認」

 

 跳躍し、地を駆ける。 爆音と同時に走るように跳んだ“とあ”は屋敷から消えた。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 昔話しを簡単に説明するとこうなる。

 

 アマテル「このロボットの技術、幾つか使って良いから誰か大事に管理して」

 

 人間「心配だけど技術欲しいお。 アマテル様の頼みだし」

 

 悪い人間1「ヒャッハー! 俺のもんだぜー! 最強だぜー!」

 

 アマテル「お仕置きだべぇー」

 

 悪い人間1「ギャー!」

 

 人間・アマテル「やっぱ人間駄目だわ。 お利口さんの狗族に頼む」

 

 狗族「わんわんお! がんばるわん!」

 

 人間・アマテル「がんばれ」

 

 狗族「式神の技術使えるようになったわん! 機械は無理だから紙で使えるようにしたわん! みんなで使うと良いわん!」

 

 人間・アマテル「良い子良い子」

 

 狗族「もっと頑張ったら影装術が使えたわん! おかげで狗族強くなれたわん! ありがとうだわん!」

 

 アマテル「安心できた。あとは頼んだバイバイ」

 

 狗族「U;ェ;U」クゥン

 

 悪い人間2「ヒャッハー! アマテルいなくなったぜー! 俺のもんだぜー!」

 

 狗族「U`ェ´U」グルル

 

 暴走ポチ「アンギャー!!!」

 

 悪い人間2「嫌だ、止めろー!」

 

 暴走ポチ「アンギャー!!!」

 

 狗族「止まらないわん、アマテル様との約束破っちゃったわん、ごめんなさい…」

 

 百年後。

 

 ナギ「死にかけたけど変なの見つけた」

 

 ポチ「やっと外に出られるわん、嬉しいわん…」

 

 ナギ「凄いみたいだけど興味ねぇ。 俺強いし」

 

 ポチ「気に入ったわん!」

 

 詠春「どないしよ…」

 

 ポチ「U;ェ;U」また戻るわん…

 

 詠春「居て良い。 べ、別にあんたのためなんかじゃないんだからね!///」

 

 ポチ「ありがとうわん!」

 

 詠春「やっぱ無理だったわ…」

 

 ナギ「ダセェ」

 

 詠春「時間稼ぐから逃げろ」

 

 ポチ「嫌だわん! 絶対戦うわん! 絶対に守ってやる!」

 

 続く。

 

 

 




実はナギと出逢う前から記憶がないポチ。
木乃香ちゃんのお母さん、何故かヤンデレ。 詠春が大好き。
狗族はただの被害者、人間最悪。







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