畜生先生ポチま!   作:お話下手
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そろそろあらすじとタグをどうにかしないといけない。


青山詠春との出逢い・後編

 

 

 「思ったより敵が多い…!」

 

 自身の倍以上の巨体を持つ鬼を、流れるような動きで斬り伏せる。 鳥族が全方位から同時にくるが百烈桜華斬で全て地に叩き落し、雷光剣の衝撃波は狐族の妖術を吹き飛ばした。

 屋敷に侵入されるのも時間の問題か、ナギ達が無事に逃げられていれば良いが、この進行スピードでは厳しい。 このままでは間に合わん…!

 

 「待てぇい!!」

 

 青天の霹靂、闇夜の上空から戦場全体に響き渡る程の怒号が聞こえた。 皆が何事かと上を見上げると、キラキラ輝く何か。

 重落下しながら徐々に此方へ近づく。 詠春と妖怪達の間に割り込むよう、右拳と膝で衝撃を殺しながら着地、白銀の鬼が参上した。

 

 「詠春、あとは任せろ。 お前からの恩義、今返すッ!」

 

 「“とあ”か!? その姿は────いや、それよりも何故此処に来た!」

 

 「従わなかったのは許してくれ。 だが俺は守りたかった、お前達の大切な居場所を。 こんな俺を当たり前のように置いてくれたお前を! だから戦う!」

 

 言葉にするたび、力が溢れる。 空っぽの自分に埋まる、目には見えない何かが。

 

 「おう、兄ちゃんがそうなんかい」

 

 一際屈強な鬼が前に出た。 一本角で肩に狐族を乗せた明らかに格上の妖怪、三白眼の鋭い眼差しが“とあ”を舐めるように眺めるが彼がそれに怯むことはない。

 

 「そうだ。 俺は貴様ら魔を滅する式神の王であり、祖である存在、“とあ”。 またの名を──式王神(シキオウジン)!」

 

 「随分と威勢がええな。 昔はどれくらいの強さだったかは知らんが、獲物がひとりで相手をするなんぞ、大した自信や」

 

 鋼の金棒を担ぎ上げ、自然体で挑発してくる。 腹部ががら空きだが微かな記憶が警告を鳴らす、これは罠だ。

 上等。 もとより目覚めたばかりで大した能力がない、始めから真っ向勝負、“一瞬のち一撃”で罠ごと粉砕させてもらう!

 

 「安心しろ。 どうやら俺は鬼退治が得意らしい、キジやサル、桃太郎もいないが……なに、貴様ら妖怪には畜生で充分ッ!」

 

 その雄叫びが合図だった。 今一度、拳を地面に叩き付ける式王神。

 

 「出力、フルドライブ!」

 

 鎧の隙間から熱風が吹き荒ぶ。 周りにいる者達の産毛がゾワリと逆立つような空気が満ち、大気が揺れ、空間が歪む程の闘気が溢れているのだ。

 

 「コイツァ…アカンな」

 

 鬼の声から焦りが見える。 一秒、また一秒と式王神のオーラが膨れ上がり、視覚出来る衝撃として押し返していた。

 詠春も危険を感知し、全ての神鳴流剣士に屋敷まで退避するよう指示を出す。 皆が急いでその場から離れた、それがスタートのタイミングだった。

 

 「オオオオオッ!」

 

 ガキンと火花を散らして式王神のバイザーが持ち上がる。 隠されていた瑠璃色のツインアイが現れ、発光した瞬間、全てが終わった。

 白銀の閃光となり、一文字を画いて敵陣のど真ん中を貫く彼の拳。 一拍置いて静まりかえると、数千は下らない百鬼夜行の群衆を衝撃波で戦場ごと吹き飛ばしたのだ。

 

 「見事や…!」

 

 大地を抉り、木々が凪ぎ倒れるなか、残されたのは右腕を突きだしたまま戦場の端に静止する彼だけ。 味方を覗いた全ての敵は、ひとり残らず消し去られた。

 

 「なんてことだ…」

 

 これが始祖アマテルが封じていた力なのか。 ただ技術としての塊ではない、かつて狗族を蹂躙した暴力、その恐ろしさを目の当たりにして詠春は息を飲む。

 もしも“とあ”がナギではなく、過激派の者に渡っていたならば…そう考えるだけで頭に冷や水を掛けられたようにな不快感が襲う。 …いやそれは駄目だ、彼は自らの意志で此処に来た、誰に指示されたのではない私達のために戦いたいと、その想いを持って此処に来たのだ。

 それを踏みにじるようなことをしてはいけない。

 

 「“とあ”!」

 

 彼のもとへ向かう。 全く動かない様子に心配し、労いの言葉を欠けながら肩に手で触れるが、その瞬間、硝子のように本体の首輪だけを残してバラバラに砕け散ってしまったのである。

 

 「しっかりしろ、おい!」

 

 「詠、春か…? 無…事か?」

 

 「馬鹿者、それは此方の台詞だ!」

 

 すぐさま本体を拾い上げられた。 まるでナギが叱られるように大きな声で怒鳴られたので、安心したのか小さくか弱く、渇いた笑い声を出す“とあ”。

 目覚めたばかりで加減がわからないうえ、思い出した力の使い方がアレしかなかった。 出来れば勘弁してほしい。

 しかし、こうして誰かに叱られるというのは中々悪くないと、彼は思う。

 

 「全く無茶をして! この状態は大丈夫なんだろうな!」

 

 「衝撃を…鎧に移し、ただけだ。 問題は…な、い────多分」

 

 「一番怖いから、多分とか止めろおおお!」

 

 帰り道。 詠春の手の中で揺れながら“とあ”は思う。

 やはり俺を見つけてくれたのがナギで良かった。 此処に居てはいけないと思った時、本当に嫌だった。

 寒くて冷たくて、日の光も入らないあんなところへ戻るなんぞ辛くて辛くてしょうがない。 外に出られた感動は今もこうして感じられる。

 真っ白くて綺麗な雪、日の暖かさ、夜空の星、椿の香り、美味しい吉備団子、子供の声。 どれも素晴らしい、生を感じさせる物だった。

 別にこの世界全てがそうではないことは、昔の俺が知っているのだろう。 今回のように平穏無事を脅かす存在だって腐る程いる。

 だが、それでも此処は美しい。 俺は生きていきたい、この世界を。

 ナギ、そして詠春。 お前達が居て良いと言ってくれた時、嬉しかった…ありがとう。 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 【1994年】

 

 ところ変わって麻帆良学園。

 

 「イイハナシダナー」(白目)

 

 「以上が私と貴方の出逢いでした。 どうです、何か思い出せましたか?」

 

 学園長室内で一通りの話しを終えた、近衛詠春。 質素なスーツに身を包んだ関西呪術協会長は、皺が刻まれた目尻を緩め、すっかり冷めてしまった緑茶を口に含む。

 その隣りには髭を蓄えたヒョウタン頭の学園長、近衛近右衛門。 対峙するように椅子に座り込むのは、不機嫌そうなエヴァンジェリン、そしてポカーンとしたポチこと“とあ”だった。

 

 「いやあああぁ…それが全く! 全然! 欠片も! ていうか普通に良い奴で驚きが隠せない! 俺なんでこんなチャランポランになったの!? つーか、記憶を失う前も記憶ねぇとか超メンドくせぇなッ!」

 

 くわっと表情を一変させ、泣きながら詠春に説明を求める。

 

 「飼い主の影響です。 ナギはともかく、ラカン、アルビレオ、この三人は貴方に変なことばかり教えていました」

 

 変態、不良、馬鹿、そして超変態に教えられていれば、当然の結果であろう。

 

 「最悪だ! 昔の俺だったら絶対モテてたわぁ、ポチハーレム待ったなしだったわぁ」

 

 まるで俺TUEEEE!の最強系主人公だ。 最低系畜生にしたその三人、許すまじ!

 

 「でもなんで機械の身体じゃなくなったんだろうね。 学園には出られないし」

 

 “とあ”が気がついた時は、学園内にいつの間にかいた。 真夜中、スッポンポンの状態で林の中を突っ立っていたのだ。

 自分のこと、ナギ達と過ごした時を全て忘れて…。 容姿が容姿だけに初めはエヴァンジェリンに侵入者、もとい変質者として撃退されそうになったり、なんやかんやでポチと名付けられたり、ポチの正体が“とあ”だと知る事件があったりで、そして今、かつての“とあ”を思い出すために詠春が学園を訪れ昔話しをしてくれたが、効果は無かった。

 

 「魔法世界で英雄になった後、貴方とナギは探し者をすると言って旅へ出ましたからね。 その後はエヴァンジェリンが詳しいでしょう」

 

 あー、俺がストーカー被害受けてるやつか…。 エヴァンジェリン、なんで睨むの? 心読めるの?

 

 「詳しいといっても大したことはない。 せいぜいアルビレオやアリカに出会って、最後は登校地獄をナギ・スプリングフィールドから掛けられたぐらいだ」

 

 因みにヤれと指示したのは俺らしい、ナギやアリカ姫は迷っていたようだ。 ソースはエヴァンジェリン、俺最低だわ。

 その後は皆様ご存じのように、イスタンブールで事故によりまとめて死亡。 帰らぬ人となったらしいが…。

 

 「絶対事故じゃないでしょ」

 

 「でしょうね。 なにかしらラカンと私に対して秘密もあったようですし……」

 

 真実は知らないようだが、秘密の何かには薄々気づいているみたいだな。 だが語らないってことは、それなりに言えない理由があるんだろうね。 それがエヴァンジェリン対してなのか、それとも俺か、或いは両方か…。

 

 「つかエヴァンジェリン、なんでそんな不機嫌なの? 生理?」

 

 「吸 血 鬼 に 生 理 が あるかあああああ!」

 

 「え、そうじゃったの? 儂もてっきりあるのだとばかり…」

 

 学園長も思っていたんだ。 定期的に苛つくからね、この娘。

 

 「じじい黙れ。 私が怒ってるのは、駄目犬の余計な茶々を入れたことだ!」

 

 茶々? あれか、詠春ちゃんが話している最中に俺の独白を勝手に捩じ込んだことか?

 

 「ふざけている場合じゃないぞ貴様、記憶を取り戻す気はないのか!? 此方としても色々思い出してもらわんと困るんだよ!」

 

 「んー、別にふざけているわけじゃないよ? まぁ…本当に俺が“とあ”だったらその時、何を考えていたのか教えようと思ってさ。 詠春ちゃんは嫌だった?」

 

 「そんなことはありません。 友人の心境を知れたのは私としても大変嬉しいことです」

 

 あまり本音を語らない人物であったので、なおのこと嬉しい。 思わず頬が緩んだ。

 

 「なら良かった。 これからも頑張って思い出さないとね」

 

 長い間座り続けていたせいか、ポチは大きく伸びをする。

 

 「やはり過去の自分を取り戻したいと?」

 

 「いや、それはぶっちゃけ興味ないッ!」

 

 真顔で速答。 だって厨二みたいで中々キツい。

 

 「何いいいいい!?」

 

 エヴァンジェリンとしてはショックが大きかった。 お前はあんなのが好みなのか?

 あ、そういえば厨二病でしたね。

 

 「結構気に入っているんだよねー、この生活」

 

 「ハハハ! 貴方らしい。 昔の“とあ”もそんな性格でした、過去にあまり興味がなく、今を、これから先に見る世界ばかりを進んでいました。 純粋にただ真っ直ぐ」

 

 過去を知るより、美味しい物を食べたい。 面白いことをしたい。 美しい物を見たい。 沢山の人々と触れ合いたい。 その一心で。

 

 「でも、“コイツ”の使い方ぐらいは思い出さないと。 色々便利そうだし、いざという時戦えるからね」

 

 ポチがポケットから取り出したのは、鉄製の輪っか。 “とあ”の本体であった首輪、通称“式”と呼ばれていた物。

 ある事件からエヴァンジェリンを守るために彼が何処からともなく喚びだした、ポチが“とあ”であったという何よりの証拠だ。

 

 「そうですね。 貴方の場合、戦闘技術や経験も忘れているみたいですし。 これから追々、私が覚えている限り資料にまとめてそちらに送り続けます」

 

 「サンキューベリーマッチョ! 愛してるよぉお!」

 

 「また変なの覚えたな…」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 【1976年】

 

 「もう行くのか? 一応動けるとは聞いたが…」

 

 翌日、これ以上は迷惑はかけられないと、すぐさま屋敷から発つことにしたナギと“とあ”。

 

 「お前の嫁さん候補に無理矢理塞いでくれたしな。 激しい動きをしなけりゃ、大丈夫そうだ。 戦闘になってもコイツが戦ってくれるし」

 

 流石に鎧姿で彷徨くことは出来ないため、現在彼はナギの首へネックレスのようにぶら下がった形で収まっている。

 

 「馬鹿。 俺を使う前にさっさと治せ、コッチも調子は悪いんだ」

 

 「本当に大丈夫なんだろうな…」

 

 あまり仲が良くなさそうな二人に不安を感じる詠春。

 

 「世話になった…いや世話したのは此方だったが、まぁいい。 もし困ったことがあればいつでもこい、数年経てば俺の立場もある程度は変わっているはずだ。 今度はゆっくり出来ることを約束する」

 

 「おう、その頃にはお前が結婚してると良いな」

 

 勿論、近衛家のお嬢様のことである。 そっち系の話しは先程一回目は無視したが、またとなればそうはいかない、ナギの頭をポカリと殴り茶化すなと注意した。

 “とあ”はその様子をよく見て、徐に口を開く。

 

 「なら、俺も約束しよう。 もしも青山詠春に何かあれば恩を返すため駆け付けることを」

 

 「全く、そういうのはいらん…。 来るなら友人としてこい」

 

 呆れながら、だが最後の言葉は優しく、語りかけた。 

 

 「友人か…」

 

 その後もこの三人、色々な事情により再会することが多々あり、紅き翼として共に戦い続ける。 更に数年後、京都にて飛騨の大鬼神、リョウメンスクナノカミの封印が解かれる事件が発生するが、その場には千の呪文の男と式王神がいたという。

 そして長い時が流れ、例え彼が相棒を失っていても、記憶喪失により全てを忘れていても、若かりし頃に交わした約束は再び果たされることとなる。

 




Q・ポチにアルビレオのイノチノシヘン使えないの?

A・使えません。 イノチノシヘンの条件が対象の名前を知らないといけないためです。
前にも後書きで書きましたが、実は“とあ”は真名ではないです。 ポチの本当の名前はとしあきで、式という自身の名前が入っている能力の存在により、記憶に混乱が生じているせいで“とあ”が本名と勘違いしている。







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