その人は何処へいった?   作:紙コップコーヒー

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21.迷子はカツ丼が食べたい

―――古代遺物管理部 機動六課 部隊長室

 

 

 

 

 

「で?」

 

「で?とは?」

 

 

部屋に通されるなり、開口一番がそれだ。

目の前の立派な造りの執務机に座り、口元で手を組んでいるのは、やわらかい栗色の髪をした、陸士の制服に身を包んだ女性。

美しくも愛嬌のある顔たちは、今は笑顔をしているが、その眼の奥はこちらを測ろうとしている。

 

あちらがそっと襟元の階級章に目を遣ると、そこには二つずつの星とストライプ。

階級は将校で二等陸佐らしい。どうも目の前に居るのはここの部隊長の様だ。

 

……道理でやけに立派な部屋なはずだ。

 

 

「あんさん、なんでなんな所におったんや?」

 

「……あれ?もしかして何か疑われてます?」

 

「―――はぁ……。あんなぁ?

 

あの貨物列車には違法なロストロギアが積まれとってん。詳しくは機密やから言われへんけど、活性化したら良くて(・・・)辺り一面焼け野原っちゅう代物や。どーもあの機動兵器群はその強奪が目的やったみたいや。

そんなとこにリニアレールの職員でも無い、ましてや乗客でもない奴がおってみ。

 

―――そら、詳しい話でも聞こかってなるやろ?」

 

 

・・・どうも、今私は自分で考えているよりもまずい状況らしい。

 

無断乗車のお小言かと思っていたら、どうやらロストロギア強奪の容疑者として疑われているらしい。

自分の背後に立つ、ここまで自分を連れてきた長い金髪の髪をした執務官と、きつい目をした桃色の髪の隊員の視線が背中に突き刺さっている。

敵意などは感じないが、それでも強い視線だ。

 

……しょうが無い。

全部正直に話すしかない。

情けないのであまり言いたくないのだが、背に腹は代えられない。

 

 

「休暇を利用して誰も居ない様な田舎に旅に出たのはいいけど調子に乗ってヒッチハイクなんかを繰り返してたらなかなか列車も止まらない様な田舎に行きすぎてしかも明日から仕事がと今日気がついて慌てて戻ろうとしたけど電車が無くて仕方無いから切符だけ買って貨物列車の屋根に乗り込んで帰ろうとしたけど屋根の上で寝ていたら何か触手の変態ロボが出て来て魔法少女モノだから触手があると大きなお友達大喜びだなとか考えていてけれど私は触手モノは嫌いでそんなものに『ひぎぃ!?』も『アーーー!』もされる趣味が無かったから触手ロボを何とかしようとしたけどどうしようもないからついカッとなってワイヤーでぐるぐる巻きにしてから火曜サスペンスばりに崖から突き落としました。」

 

「―――あー。……つまりどうゆう事や?」

 

 

あちらは真顔ではっきり言い放つ。

 

 

 

「明日から仕事で憂鬱。」

 

 

 

「なめとんかコラ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▼その人は何処にいった?

 

「迷子はカツ丼が食べたい」

 

 

 

 

 

 

 

「え?あちらが六課(そっち)に居るの?」

 

 

久しぶりの幼馴染からの通信で、司書長であるユーノ・スクライアは素っ頓狂な声を上げた。

ウインドウに映る幼馴染はサイドポニーの髪を揺らしながら、ユーノに質問を投げかけた。

 

 

『うん、そうなの。

私たちが出動した先の現場で貨物列車でガジェットと戦っていたの。

その貨物列車が例のレリックを積んでいたから、一応参考人としてこっちに来てもらったの。

身元を調べたらユーノ君の部下の人だって分かったから、どんな人なのかなって教えてもらおうと思って。』

 

 

なのはのその言葉にユーノは苦笑を浮かべる。

休暇中はまったく連絡がつかず、一体どこで何をしているのかと思えば。

 

ついこの間、強引に休暇をもぎ取って、『ヒャッハー!無限書庫は地獄だぜー!!』と叫んできえたあちら。

他の司書たちはそんなあちらを恨みがましく見送りつつも、ちょっと仕事を押し付けすぎたかなという考えが浮かんだとか浮かばなかったとか。

 

書庫(ここ)ではユーノの次に作業効率が良いあちらは、非常勤にも関わらず正規の司書並の仕事をこなしていた。勿論、給与はそれに見合った額を支給していたが、忙しすぎて使う暇がない。しかも必要な物は基本的に本局内で買えてしまう。

 

休み(とき)は金なり”とは無限書庫内で流行っているブラックジョークだ。

 

次々と舞い込んでくるロストロギア関連の資料請求。

事がロストロギアなだけに、情報が遅れると次元世界の危機に繋がる可能性もある。海や陸の人達は早く早くとせっついてくるが、こちらも人員が限られてくる。どこも人員不足でなかなか増員の承認が降りない。

お陰様で無限書庫は年中無休24時間営業を余儀なくされている。

 

 

「あちらに関してねぇ・・・。

 

あえて言えば―――よく分からない人、かな?」

 

『よく分からない?資料にはユーノ君が推薦したって書いてあるけど。』

 

「よく分からないっていうのは少し語弊があったかな。

 

彼と最初に会ったのは、彼がスクライアの一族を尋ねてきた時だから・・・なのはと出会う前だね。10年以上前かな?

過去にスクライアが発掘した遺物や調査資料を見せてほしいってやって来たんだ。彼はしばらく集落に滞在してよく遊んでもらったよ。結界についてもいろいろ教えてもらったりもしたかな。」

 

『・・・そう言えば迷子さんって何歳なの?何故かそこだけファイルが破損して見れないんだけど。』

 

「さぁ?聞いたこと無いな。

けど、初めて会ったときからあまりあちらは変わらないね。

 

・・・リンディさんや桃子さんの同類じゃないかな?」

 

 

その時、二人のうなじを冷たい空気が撫で上げる。

空調の効いた室内で、しかも二人別々の場所に居るにもかかわらず、感じた異様な冷気。

 

 

『―――そこは余り聞かないでおこっか。』

 

「―――賢明だね。」

 

 

二人は気を取り直すかのように、話題を変えた。

 

 

「そう。あちらについてだったね。

 

・・・・・・不思議な人だよ。

いつも飄々としていて、物事をのらりくらりと避けるくせに、本当に困っている人が居ると、なんだかんだ理由をつけて助けるんだ。お礼を言っても大した事じゃないといわんばかりでね。

 

いつも隣に居てくれる訳じゃない。けど辛くなって後ろを振り返ると、見守る位置に立ってこっちを見てくれてる・・・・・・そんな人だよ。」

 

 

そう語るユーノの顔は親愛に満ちていて、そしてその人の事を大切に想っていることが分かる。

話を聞いていてなのははユーノに両親が居なかった事を思い出した。

幼少の頃、共に過ごした時間。いくら部族の人々が大切に面倒を見てくれたとは言え、それでもさびしい気持ちもあったのだろう。なのはにはその時の気持ちが痛いほどよく分かった。

 

―――そんな時に現れた一人の青年。

彼と過ごした時間は、ユーノにぽっかり空いた穴を暖かく埋めたに違いない。

 

 

ユーノ・スクライアにとって迷子あちらという存在は、友達であると同時に家族でもあるのだろう。

 

 

この話を聞けただけでも、連絡した甲斐があった。

自然と浮かぶ笑みをたたえ、なのははユーノを見つめた。

 

 

『ユーノ君、ありがとう。お話が聞けてよかったよ。』

 

「こんな事でよかったのかな?ま、役に立ててよかったよ。」

 

 

ユーノはそのなのはの笑顔を見ると、自分でも照れくさい事を言ったと気がついたのか、誤魔化す様に頬を掻きながら目をそらした。

すると何か良い事でも考え付いたのか、目をきらんと光らせてユーノはなのはに問い掛けた。

 

 

「――――――ねぇ、なのは。

 

優秀な事務能力を持っていて、かつランク制限に引っかからずにある程度戦力にもなる、非常勤の司書に心当たりがあるんだけど・・・・・・

 

・・・・・・――――――興味ない?」

 

 

その時、ユーノがにやりと浮かべた笑顔は、どこかの胡散臭い司書に非常に良く似ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なーんてな。冗談や。」

 

「は?」

 

 

先ほどまで厳しい表情だった目の前の女性は、急にそんな事を言う放つと、笑顔を浮かべた。

これから厳しい追求が待っているのかと腹を括っていたあちらは、なんだか肩透かしを食らったような気分になる。

 

 

「自己紹介がまだやったな。私は八神はやて。

ここ古代遺物管理部機動六課の部隊長やってます。以後よろしゅうな(・・・・・・・・)。」

 

 

目の前の女性―――八神はやて二等陸佐―――はやたらフランクに自己紹介を済ませる。

 

・・・なにか今、非常に不穏な事が聞こえてきた気がするが。

 

それにあちらが考えを巡らせようとしたが、後ろに立っていた二人の自己紹介でそれもうやむやになる。

 

 

「後ろにおんのが、ウチのフォワード部隊の隊長と副隊長や。」

 

「フェイト・テスタロッサ・ハラオウンです。フォワード部隊ライトニング分隊の隊長を務めています。

現場捜査であまり居ないけどよろしくね。」

 

「シグナム二等空尉だ。ライトニング分隊の副隊長と交換部隊の隊長を務めている。」

 

「・・・これはご丁寧に。

 

本局無限書庫に非常勤で勤めております、迷子あちらと申します。」

 

 

あちらは挨拶を返しながらも、今までの話の違和感が拭えない。

貨物列車からヘリを見たときに感じた嫌な予感が、ここに来て最大限の警鐘を鳴らす。

 

―――すなわち・・・・・・

 

 

「ほな、あちらさんの出向手続きの書類はこれやからサインよろしゅうな。」

 

「おい待てこら。」

 

 

・・・・・・もう手遅れです、と―――

 

 

ついとっさに言葉が出てしまい、あちらは落ち着いて深呼吸する。

その様子を八神部隊長はにやにや笑いながら眺めている。先ほどまで保っていた部隊長としての威厳などかけらも無い。

それどころか、なぜか八神部隊長の背後に可愛らしい、丸みを帯びた尻尾が見える。

 

 

「―――はァ・・・。その出向というのは?」

 

「ん?出向ちゅうのはな。余所の人員が他に派遣されることを―――」

 

「そういう意味で聞いてるのではないです。

どうして私がこの六課に出向しなければならないのか、その理由を聞いているんです。」

 

 

あちらの質問にはやては椅子にもたれ掛かり、肘掛に頬杖をついてめんどくさそうに説明をした。

 

 

「いや、あんな?ウチ、部隊ゆうても実験部隊で運用期間は一年だけやねん。

それでもやる事ぎょーさんあるから、目ぼしい人材に唾付けてスカウトしっとってんけどなー。

ぶっちゃけ今人たりてへんねん。

 

本局(うみ)からはなのはちゃんやらフェイトちゃんやら引き抜いたさかい、これ以上は無理やし、かと言って本部(りく)から人寄越して貰おうにも、本局と予算やら人員やらの取り合いでめっちゃ仲悪いからなぁ。本局所属のウチには人なんか寄越してくれへんし。

そもそも期待の新人のスバル達ぶっこ抜いたからあちらさんカンカンでなぁ。」

 

 

あっはっはっはっは

 

 

えっ?今の笑うとこなの?

笑うポイントが分からない。

 

この時、あちらは非常に嫌そうな顔をしていたが、そんな事は気にせずにはやては説明を続ける。

面の皮の厚さはさすが部隊長といえる。

 

 

「でな?ウチで扱う案件がロストロギア関連やさかい、フォワードの人材に結構力入れたんよ。

コネやら裏技やら使ってな。」

 

「―――八神二佐、そういうの得意そうですもんね。」

 

「あっはっはっは。褒めるなや。

まぁ、それで戦力は整えられてんけど、弊害もあってな。後方部隊(ロング・アーチ)の人員が不足してんねん。出来たら優秀な事務処理能力持つ人にも来てほしかってんけど、どこもそれだけは嫌がってなぁ。どこも書類仕事が一番の敵やねんな。

 

まぁそれはしゃあないかと半ばあきらめとったんや・・・。

 

―――そこにな?

 

優秀な事務能力を持っていて、かつランク制限に引っかからずにある程度戦力にもなる、非常勤の司書に心当たりがあるんやけどどうですか、っと言うて来る優しい友達(・・・・・)がおってん。」

 

 

あちらの脳裏には一人の蜂蜜色の髪をした友人の姿が浮かぶ。

 

 

「・・・もしかして――――――」

 

「ユーノ君、ウチらの幼馴染やねん。」

 

 

がっくりと膝から下が崩れ落ちそうになるあちら。

あぁそう言えば言ってたな。幼い頃からの友達が部隊を立ち上げたとかどうとか。

仕事に忙しくて聞き流していたが、しっかり聞いておけばよかった。

 

後悔は先に立たないとはよくいったものだ。

後ろから視線を感じて振り返ると、ハラオウン執務官が哀れみの篭った目でこちらを見ている。

可哀想に。明日にはお肉になっちゃうのねと言わんばかりだ。

シグナム二尉は相変わらずの無表情。

 

―――ユーノめ。憶えてろよ。

貴様の大好きな高町教導官にない事ない事吹き込んでやる。

 

 

「拒否します。」

 

「却下や。」

 

 

間髪居れずに拒否された。

 

 

「どうしてです?普通、出向手続きには本人の同意が必須でしょう?」

 

 

その質問に、はやてがにやりと笑う。

あちらを毎度お馴染みの嫌な予感、もうすでに悪寒になっている―――が襲う。

 

 

「休暇中、非常勤とはいえ、現職の管理局員(・・・・・・・)無断乗車(・・・・)はいかんのとちゃう?」

 

 

――――――やられた。

 

 

「まあ?六課に配属されれば、前線部隊出動前の先行偵察(・・・・)しとったって言い分も立つやろうけど。

 

・・・・・・なぁ?

嫌やゆうて、もし辞職しても推薦した誰か(・・)は責任負わなあかんやろな。

 

ちなみに無限書庫の司書長は激務やけど、権限も大きい結構な重要ポストや。

成りたいゆう奴はいくらでも居るやろな。」

 

 

――――――詰んだな。

 

しかもこの筋書きを書いたのは・・・・・・

 

 

「―――ってあちらがごねたら言え、ってユーノ君がゆうとったで。」

 

「・・・やっぱり。」

 

 

もうやだ。

あの時の可愛いユーノ(小)は一体何処に行ってしまったんだ。

いつの間にかこんな陰謀紛いの事をするようになってしまって。一体誰に似たんだか。

 

目の前には勝利を確信した子狸がにっこにっこ、それはもう楽しそうな笑顔で返答を待っている。

 

 

「で、どないする?ウチはどっちでもええよ?」

 

「・・・・・・精一杯、努めさせていただきます。」

 

「うん。素直な人は大好きやで。」

 

 

はやては椅子から立ち上がり、笑顔ながらも格式張った言い方で、あちらを歓迎する。

 

 

「では古代遺物管理部機動六課はあなたを歓迎します。

 

―――これからよろしく。あちらさん?」

 

「はぁ・・・了解。

 

 

・・・・・・ひとつお願いがあるんですけどいいですか?」

 

「なんや?」

 

「一回ぶん殴ってもいいですか?」

 

「軍法会議モンやで?」

 

 

もう何もかも嫌になって天を仰ぐあちら。しかし目に映るのは空などではなく、味気ないモルタルの天井だけ。

両肩にぽんっと何か叩かれる感触がする。

驚いて後ろを振り返ると、ハラオウン執務官とシグナム二尉が、それはもう満面の笑みで立っていった。

 

―――まるで仲間を見つけて喜んでいるかのようだ。

 

 

その時、あちらは真にここ、機動六課に歓迎されている事を実感した。

 

 

 

・・・すこし涙が零れそうになった。

 

 

 


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