その人は何処へいった?   作:紙コップコーヒー

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22.迷子はパイを好まない

―――拝啓

 

―――ユーノ・スクライア様

 

 

風薫る五月、ますますご健勝の事とお喜び申し上げます。

ついこの間は一方ならぬ(・・・・・)お力添えにあずかり、誠にありがとうございます。

 

 

お陰さまでここ、古代遺物管理部機動六課で毎日を大変楽しく過ごさせて頂いております。

配属された後方部隊の方々も大変良い人ばかりで優しさ半分、同情半分の割合で、大変親身になって仕事を教えてくれます。

貴方様の元で学んだためか、私は処理能力が大変良いらしく、皆さん大変筋が良いとおっしゃってくれて、八神二等陸佐殿に仕事を大量に押し付けられる日もそう遠くはないと思います。

それと先日、この新部隊の設立を思い立った経緯と、機動六課の目的について八神二佐殿からお話を聞かせていただきました。

 

 

―――時空管理局本局(・・)所属古代遺物管理部機動六課

 

様々な事態に有機的かつ迅速に対応する少数精鋭の即応部隊としてのテストケース

 

しかも登録は陸士部隊。

指揮系統はあくまで本局、しかし登録は陸士隊なので本部としてもそれなりの援助をしなければ陸の面子が立ちません。

しかも部隊設立目的が犯罪・災害・ロストロギア対策と多岐にわたるので、本部としても捜査協力や後方支援などをしなければなりません。

おまけに隊舎のある場所は郊外の湾岸地区とはいえ、地上本部のお膝元であるミッドチルダ首都クラナガン。

自分の縄張りを荒らされたと、地上本部が喧嘩を売られたと考えていても無理はありません。

 

 

胃 が 痛 く な り ま し た。

 

 

もう貴方様が首になろうが、強引にでも出向を拒否すれれば良かったと思い始めています。

八神二佐は笑っておられましたが、そんな事をしてたらそれは嫌がらせも受けるでしょうよ。

しかも八神二佐が巧妙なのは、機動六課設立を本部が表立って批判できないことです。確かにこのテストケースの有用性が証明できれば、人材不足に悩む管理局に一石を投じる事になりますし、その恩恵は地上本部にも齎されるでしょう。表向きは陸士隊なので、困ったときは六課に『要請』出来る事ですし、八神二佐は特別捜査官として顔が広く、地上警備隊とも親しいので下手な手出しが出来ません。

さすが魔導師キャリア組とは言え、若干19歳にして頭の固い上層部に新部隊設立を認めさせただけはあります。

狸ですね。まっ黒です。

 

・・・・・・この部隊は本当に大丈夫なのでしょうか。

本局と本部の足の引っ張り合いに成らないかと不安でたまりません。

管理局から禄を貰っているとはいえ、私はただの外部職員です。管理局内の勢力争いに巻き込まないで貰いたいものです。

私の関係無い所でなら幾らでもやってかまいません。

 

 

これもすべて貴方様のお陰です。

いつかお礼をしなければと考えているのですが、未熟な私にはなにが良いか皆目見当がつかず、同封したリストの中から好きな物を選んでいただけると大変助かります。

私はリスト2ページ目にある20項の『わくわくミッドチルダ無重力体験ツアー ~ルナティックモード~』などが大変お勧めです。貴方様を物理的、魔術的にぐるぐる巻きにした後、我が六課が誇る最新鋭ヘリでミッドチルダの青空高く、それこそ限界高度までお連れするだけなので証拠隠滅(・・・・)がとても楽です。

ぜひご一考ください。

 

 

では長々と書き綴ってしまいましたが、これで筆を置かせて頂きます。

なにかとご多用とは存じますが、くれぐれもご無理などなさらないようご自愛ください。

 

 

―――敬具

 

―――迷子あちら

 

 

 

・・・追伸。

 

確か今度、アグスタホテルで講演会でしたね?私も休みを取って行くので逃げないように。

私をここにねじ込んだ理由を説明してもらいます。

 

 

・・・追々伸。

 

アルフに伝えといてください。

休暇中の旅のお土産として買ったドックフードはトランクごと焼けちゃいました。ごめんネ!

 

 

 

 

――――――だってさ。

 

へぇ・・・あちら。はやてが新しく作った部隊に行ったんだ?

道理で休暇期間が終わっても顔を見せないはずだよ。

 

で?どうするんだい?ユーノ。

この文面見る限り、あちら怒ってるよ?」

 

 

鮮やかな紅い髪色をした、耳と尻尾を生やした幼女が、先程まで音読していた便箋から顔をを上げる。

今時、紙媒体の手紙は珍しいが、その手紙に書かれてある筆跡から、その手紙の送り主の心境が読み取れる。

 

ユーノと呼ばれた蜂蜜色の髪をリボンで纏めた青年は、すこし顔色を青白くさせながらも頷いた。

幼少の時分に、あちらを怒らせた時の記憶が鮮明に蘇る。あばばば。

 

 

「―――仕方ないよ。ちゃんと明後日説明してくるよ・・・。

 

分かってくれる。分かってくれるはず。――――――分かってくれるといいなぁ。」

 

「あぁそうした方が良いね。怒った時のあちらは、それはそれは怖いからねぇ。

 

ま、骨は拾ってやるよ。」

 

 

そう言って紅い髪の犬耳幼女―――アルフ―――は、他人事のようにからから笑う。

事実、他人事だ。いつもはどっちかというと自分があちらを怒らせるだけに、自分ではない他人の事だと気分がいいし、なにより面白い。

それがいつも柔和な笑みしか浮かべないユーノだと尚更だ。いつも笑みを絶やさず、落ち着きを払っている姿が、それは今では悪戯がバレて怒られるのに怯える子供のようだ。

なら、最初からしなければいいのに。

・・・・・・ところでお土産のドックフードが燃えたというのは、どういうことなのだろう?

 

 

「とりあえずアルフ。」

 

「なんだい?」

 

「アコース査察官に連絡を。」

 

「いえっさー。りょーかい、司書長殿。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▼その人は何処にいった?

 

「迷子はパイを好まない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――ホテル・アグスタ ラウンジ

 

 

 

 

 

 

ラウンジには人で溢れかえっていた。

皆いる人々はそれぞれ着飾った格好で、オークションが開催されるまでの時間を過ごしている。

着飾っている衣装はどれも一目見て最高級の逸品だと判断がつく。さすがロストロギアを買い取ろうという好事家ばかりだ。

経済紙に載る様な企業のCEOから資産家、さらには各管理世界の政府高官にいたるまで、そうそうたる面々が談笑している。

 

そこに一人の黒髪の青年がいた。

高級感のあるダークスーツを着た彼は、暇そうにラウンジのカフェで、ゆったりとコーヒーを飲んでいる。

周囲にはいつもニュースに載る様なお歴々がいるにも関わらず、彼は自然体で完全に寛いでいる。

そんな彼は少なくない視線を集めていた。ふと目が合えば笑みをたたえて、軽い会釈をする。

そんな彼の仕草は軽やかで優雅、立ち振る舞いは洗練されたものなのに、それでもどこか拭いきれない胡散臭さが空間に滲み出ていた。

 

そんな空間を横断して、彼に歩み寄って行く人間が一人。

歩く度に揺れる緑のリボンは、彼が淡い想いを抱く幼馴染からの大切な贈り物だ。

 

 

「あちら。」

 

 

彼が視線を上げる。にやりと笑った。

 

 

「ユーノ。」

 

 

そんなあちらにユーノも苦笑いを浮かべた。

 

 

「どうも注目を集めているみたいだね…。場所を移そうか。」

 

「くすくす。そうしようか。」

 

 

あちらが立ち上がり、周囲を見渡した。

先程よりも視線を集めている。だが視線の大半はユーノへと注がれていた。

それもそうだろう。

彼は今日のオークションの為に態々招かれた特別ゲストだ。

 

―――ユーノ・スクライア

若き新鋭の考古学者にして、時空管理局本局統合データベース無限書庫の初代司書長。

若干10歳にして当時、放置されていた無限書庫を運用可能段階にまで引き上げ、数々のロストロギア事件に貢献。

ミッドチルダ考古学士会にも幾多の論文を発表し、多大な功績を上げている。

おまけに、うら若き乙女と見紛うばかりの美貌と温厚な人となり。局員待遇の外部協力者とは言え、彼の持つ権限は本局提督にも劣らない。

彼と縁を結ぼうという有力者は幾らでも居るし、実際に縁談を持ち込まれた事もある。

無論、受けるはずも無く、すべて断ったが。

 

そんな彼が、先程まで注目を集めていた黒髪の青年と親しげに会話しているのだ。

いやでも注目が集まるに決まっている。特に年若い令嬢などはユーノに熱い視線を向けていた。

 

その視線にあちらは気づき、ユーノににやりと笑いかける。

ユーノはそれに苦笑で答え、二人は肩を並べてラウンジを後にした。

 

ラウンジにいた人々は去っていく二人を見送り、おもいおもいの話題や先程途切れていた話を再開させる。

もう彼らの脳裏には胡散臭い青年の様子など、欠片も残っているはずも無く、あと少しで始まるオークションの話題に心を躍らせていた。

 

 

 

―――そして、そんな去って行く二人の背中をじっと見つめる視線が一つ。

 

 

 

ずっと(・・・)あちらを観察していた一人の男性は、先程まで広げていたクラナガン・タイムズをたたんだ。

年の頃はやや初老に差し掛かった中年といった所か。容姿は人の良さそうな雰囲気ではあるが、どこか平凡・没個性的で、顔を見かけてもものの数分でその事自体を忘れてしまうだろう。

 

たたんだ新聞紙を小脇に抱え、彼は二人が歩いていった先とはまた別方向に向かって歩き出す。

向かう先はアグスタホテルのエントランス。

途中、華やかなドレスに身を包んだ美しい三人組の女性とすれ違うが、周囲の人々は女性達に目を奪われているのにも関らず彼はそれに見向きもしない。

 

やがて彼はエントランスに集まる人々に紛れてしまう。

もうどこを探しても彼の姿は影一つ無く、ただ後には人々の喧騒だけが響いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あちらが連れて来られたのは、ユーノがオークションの主催者側に与えられたホテルの控え室。

扉をくぐると、成るほど。さすが『ホテル・アグスタ』と云うところか。

見る限り部屋に置かれている調度品は、どれも高級な造りながらも、それを下品にすることなく、人に安らぎと落ち着きを与えている。

 

部屋の中にはすでに一人の先客がいた。

用意された湯気を上げるティーポットとカップ。皿には香ばしい香りのスコーンやらクッキーやらが並べられている。

腰までかかる長髪に、深緑の髪色。

精悍な、でもどこか甘い顔たちは、今はあちらに向かって固定されている。

男が着ている白いスーツは、決して人に嫌味な印象を与えず、逆に清涼感と誠実さを与えていた。

ここまで白のスーツを臆面も無く、しかも見事に着こなしている人も珍しい。

 

そして、なによりもその目だ。

その目はあちらと視線を合わせて尚、決して外そうとせずにまるでこちらの考えを読み取ろうとしているかのようだ。明らかにあちらを測っている。

 

脳裏に一瞬、なぜか違う(セカイ)にいるはずの霞の姿が浮かぶ。

 

ここに来てあちらは確信した。

六課に配属されることなど、序の口に過ぎなかった。

 

 

―――真の厄介事はこれからだ、と。

 

 

すると突然男が相好を崩して、友好的に話しかけてきた。

 

 

「やぁやぁ。初めまして。

 

僕は本局査察部で査察官をやっているヴェロッサ・アコースと申します。

ユーノ君とは友人同士の付き合いをさせて貰っていましてね。

それで今日はユーノ君の講演会の激励もかねて遊びに来たんですよ。

 

迷子あちらさんですよね?

ユーノ君からはかねがねお話は伺っていますよ。」

 

 

それに、あちらがにこやかに答える。

 

 

「そうなんですか?あまり恥ずかしい話をしていなければ良いのですが。

 

―――おっと、申し送れました。

本局無限書庫で非常勤で勤めております迷子あちらと申します。

以後よろしくお願いします。」

 

「確か機動六課に異動になったのでは?」

 

「――――――おや?良くご存知ですね?

 

出向はほんの数日前に決まったことなのに。」

 

「――――――、ええ。

実ははやては僕の妹分のようなものでしてね。親しくさせてもらっているのですよ。」

 

 

「そうなんですか。それはそれは。」

 

 

ふふふふふ

 

 

ははははは

 

 

あくまで笑みを崩さないあちらとヴェロッサ。

それを傍から見ていたユーノはあちらに席を勧めながら、こっそり溜息をついた。

 

自分もそれなりに管理局の勤めは長い。

司書長という立場のお陰で、望む望まざるに関らずに駆け引きというものに関ってきた。

それなりに自分では出来るつもりだったが、それはどうやら思い上がりだったようだ。

 

永い時を生きてきた老練なあちらに、不正や悪事を暴く査察官のヴェロッサ。

それに一考古学者が適うはずも無い。この間にも二人は世間話をしながらも、水面下で話の主導権争いの駆け引きをしていた。

 

 

・・・・・・最も。勝敗など最初から決まっている。

 

最終的に主導権はヴェロッサ・アコースが奪うだろう。

 

どちらにしてもあちらには圧倒的に情報が足りないのだ。

そもそも今日ここに来たのは、それら(・・・)の事情を聞くためなのだ。

 

だが蓋を開けてみれば、なぜか本局の内部監査(・・・・)を主任務とする査察官が一人。

そしてユーノは管理局の統合データベースの管理責任者。

これはもう厄介事な予感しかしない。せめて会話のイニシアティブを奪おうとしたが、それも無理だ。

いくら交渉術が香月夕呼直伝とはいえ、手札が無さ過ぎる。

 

だがそれすらも手札にする。

手札が無い状況で互角以上に争えば、それが相手の自分の評価につながり、今後の事がやり易くなる。

今のあちらの勝利条件は、”迷子あちらは手強い”と相手に評価させることだった。

 

 

表面上は和やかな時間が過ぎていったが、頃合を見てあちらがユーノに当初の目的を尋ねた。

 

 

「―――そういえばユーノ。

どういうつもりで私を六課に出向させたんですか?

 

しかも八神二佐に、部隊の詳細については手続きが完了してから話せ、とまで指示を出していたそうですね?

 

 

・・・どういうつもりです?」

 

 

最後の一言はユーノだけでなく、アコースにも向けたものだった。

二人はしばらく沈黙を保っていたが、やがてユーノは魔法を行使して結界を構築する。

話の内容が外に漏れ聞こえないようにするためだ。

 

そしてヴェロッサ・アコースは何でも無いかのように口を開いた。

 

 

 

「最高評議会とミッドチルダ中央地上本部上層部に特別背任の疑いがあるんですよ。」

 

 

 

あちらは笑みを崩さず、しかし温度を感じさせない声色で聞き返す。

 

 

「……貴方は今、自分が何を言っているのか理解しているんですか?」

 

「勿論です。」

 

 

あちらはヴェロッサの眼をしっかり見つめて問う。

しかしその瞳は些かなブレの無く、それどころかあちら以上の意志が込められていた。

 

 

「・・・その根拠は?」

 

「ミッドチルダ中央地上本部に関しては相当額の予算が不透明に外へ流れています。

一見、今話題沸騰中のアインヘリアル開発の下請け企業や管理局の外部研究所に資金が流れているように見えますが、巧妙に流されていて入っている額と出て行く額が釣合いません。

 

流出ルートも不規則に変更されていますが、まず間違いないでしょう。

一個人が横領したにしては細工が巧妙で規模が大きすぎますし、額が大きすぎます。

軍事開発費並ですよ?個人ではとてもじゃありませんが使い切れません。

 

・・・今の首都防衛長官はレジアス・ゲイズ中将です。

彼は過激な所もありますが、職務に熱心な人柄で『地上の守護者』とも言われているような、ミッドを第一に考えるような人物です。

 

そんな彼は一体、その軍事開発予算並の資金をどこに流用させて活用しているのでしょうか」

 

「・・・・・・なぜ彼が関っていると?」

 

「指揮系統を無視した、不自然な命令が地上本部から直属を飛び越えて、直接部隊の方に何度か出されています。

それもある案件(・・・・)に関しては中将直々に引き上げ命令が出されています。」

 

「最高評議会の方は?」

 

「アインヘリアルの開発計画は最高評議会承認の肝いりですよ?

資金の不透明な流れはアインヘリアル関連企業が多いですし、外部の研究所にしても最高評議会認可の直属です。

切り離して考えるのは不自然でしょう。」

 

 

あちらはカップを手にとって、お茶で口を潤す。

お茶は冷めていて香りも飛んでいるが、どうも予想以上に口が渇いていたらしい。

一気に呷って飲み干した。

今は切実に酒が欲しい。素面でこんな話は聞きたくなかった。

 

 

「・・・それで?私の六課出向とどういう関係が?」

 

政治(ポリティクス)ですよ、迷子さん。」

 

 

ヴェロッサは組んでいた足を組みなおした。

話続けて喉が渇いたのか、ヴェロッサはお茶で喉を潤した。

 

 

「詳しくは言えませんが、そう遠くない未来、少なくとも一年以内(・・・・)に未曾有の大事件が起きる。これは間違いありません。

そしてそれはこの件と決して無関係ではない、と僕は考えています。

 

・・・恐らく最高評議会と地上本部の失態は明らかになるでしょう。

そしてそれは本局にも取っても楽しい事態ではありません。地上本部だけのスキャンダルならまだしも、管理局のトップである最高評議会が背任などと、管理局システム―――ひいては次元世界の治安維持の根幹を揺らがしかねません。

 

事はどうしてもミッドチルダ中央地上本部だけで(・・・)収める必要があります。

 

 

・・・これから背任の監査が進むにつれて、それぞれの勢力の思惑はさらに深まっていくでしょう。

それは聖王教会であり、本局であり、地上本部であり、首都航空隊・・・。

少なくない予算を出しているミッドチルダ政府も無関係ではないでしょう。

 

―――皆さん、急に湧いて出た権力のパイを切り分けるのに必死になるでしょうね。

 

そして機動六課はその未曾有の大事件に対処するために設立された部隊だ。

渦中の機動六課もその勢力争いに無関係ではいられません。無形有形に影響があるでしょう。

 

いや、寧ろ真相に近づくにつれて、状況がさらに悪化する可能性もある。

 

 

―――そしてはやてにその政争を乗り切る力は無い。」

 

「―――六課には後見がいると聞きましたが・・・・・・。」

 

「情勢が混乱すれば、クロノ提督もカリム義姉さんも自分たちの派閥を纏め上げる事で精一杯でしょう。

各勢力の有力者とはいえ、トップではありません。本局や教会の意見を統一するのに奔走してそのような暇はないでしょう。

 

―――あぁ・・・伝説の三提督も一応非公式ながら後見人でしたが、期待できないでしょうね。

統合幕僚会議も名目上は管理局の最上位とはいえ、もはや形骸化した会議です。

ミゼット・クローベルも耄碌しました。もし統合幕僚会議の下で次元航行部隊と地上部隊の戦力が運用できていれば、無用な軋轢を生まずに、ゲイズ中将も道を誤る事もなかったでしょうに。」

 

「・・・・・・。

 

つまり、貴方が言いたいのは―――。」

 

「―――厚かましいお願いとは分かっているのですが、あなたにはやてを・・・機動六課を守ってもらいたいのです。

 

・・・彼女は魔力があってもただの19歳の小娘だ。多少悪知恵が働くからといって切り抜けられるほど政治は甘くない。」

 

「私にそんな力がある訳じゃないんですがねぇ・・・。」

 

「別に特別な事をしてくれと言う訳じゃないんです。

ただ、機動六課にさえ在籍してくれていればいい。それだけで意味がある。」

 

「…成る程。

世にも名高い無限書庫の司書長の鳴り物入りで、職員が一人急遽六課に出向になった。しかも何か(・・)を調べているようだ。

 

右手を派手に見せて、左手を目立たなくする。

―――まるで手品ですね。」

 

 

先日の接触(・・・・・)はそういう事か・・・。

まったく、唯の非常勤の司書に、一体何を期待しているんだか・・・・・・。

 

先程から黙っているユーノに視線をやる。ただユーノは目を瞑って話を聞いていた。

 

―――はっきり言ってヴェロッサの頼み事はお門違いに近かった。

 

六課に配属された経緯を聞きに来たのに、なぜか管理局内の汚職スキャンダルについて聞かされて、挙句に管理局内の権力争いに巻き込まれそうな機動六課への囮をして欲しいなどと。

ちゃんちゃら可笑しな話だ。こんな話を受ける人が居る筈が無い。

権力(パイ)を奪い合いたいなら勝手にすればいい。

 

 

だからこそ、この話を持ってきたユーノの話を聞いてみたかった。

こんな話を聞かされて、私が断ると分かり切っているのにも関わらず。

 

―――まぁ、大凡の予想はつくが。

 

 

「―――昔、なのはが墜ちた時、本当に後悔したよ・・・。

 

自分は一体何をしていたんだってね。なのはから話を聞いていたのに。

今まで寂しさや未来への不安を感じている時に、お伽噺に出て来る様な、夢の様な魔法の力を手に入れてた。

その才能は稀少で、それを必要としてくれる人が居て、困っている人々を実際に救う事も出来た。

それはその魔法にのめり込んで行くだろうね。

 

今までいい子にしていた自分が、誰からも必要とされるんだ。

無理をしてでも、それに答えようとするだろうね。

周りも僕も、なのはは強い子だから、優しい子だからと止める事もせずにただ見ていた。

 

そして無理をして・・・

 

 

・・・墜ちた。」

 

 

当時の苦悩をを思い出したのか、ユーノの顔に暗い影が差す。

浮かべる哂いは自嘲の笑みか。ただ当時の心中を吐露し続ける。

 

 

「なのはが飛ぶ所か、歩けなくなるかも知れないと聞いた時、比喩でも何でも無く目の前が真っ暗になったよ。

 

本当になのはに魔法を教えた事を、……こっちの世界に巻き込んだ事を後悔した。

確かになのはが居なければ、フェイトもはやてもヴォルケンリッターのみんなも居なかったかも知れない。

 

けどなのはは平凡な普通の女の子として、争いも戦いにも無縁で、幸せに暮らして行けたかもしれない。

その未来を僕が奪ったと思うと夜も眠れなかった。」

 

「一度、その罪悪感に耐え切れなくなって、なのはに謝った事があった。

 

・・・今思うと子供だね。自分が辛いから懺悔して楽になろうなんて。

なのはの方が大変だったはずなのに。

 

 

まぁ僕は彼女の病室に入るなり彼女に謝った。こっちの世界に巻き込んでごめんなさいって。

すると彼女はその時、車椅子に座りながらこう言ったんだ。

 

『空を飛べて幸せだよ。―――大丈夫、私は絶対に諦めない。

 

だからまた一緒に空を飛ぼうね』って。

 

―――あの時、夕日に照らされた病室は今でも夢に見る。

そしてその時、僕は気がついたんだ。

 

僕が憧れた、心を奪われたなのはは、桜色の光りを曳きながら、青空を自由に飛び回る、白い女の子なんだって。

 

 

だから――――――

 

 

……―――二度となのはを墜とさせないと誓った。二度と。」

 

 

ユーノはあちらの眼を見つめ、そして懇願した。

 

 

「お願いだ、あちら。

どうか六課を影から守って欲しい。

 

僕やアコース査察官だとどうしても立場が邪魔をする。そこから周囲が騒ぎたてて、逆に六課を苦しめる事があるかもしれない。

それじゃダメなんだ。信用できる局員を派遣しようにも、どんな局員にも背景と言う物は必ず存在する。

これ以上人員を送ると今度は地上本部からの査察の標的にされてしまうし、なによりそれらを回避する政治的なセンスが無い。

 

本局にも、本部にも、航空隊にも、教会にも、ましてや行政府とも繋がりが無い、政治センスのある信頼できる局員。

 

・・・そんな人は、僕は一人しか知らない。

 

 

―――お願いします。

―――どうか六課を守ってください。」

 

「僕からもお願いします。」

 

 

そう言って二人はテーブルに額が着くほどに頭を下げた。

それを無表情で見下ろすあちら。

 

内心で溜息をつく。

面倒な事になった。それはもう最大級に。

今まででは無かった事態だ。一つの部隊を助けるために、上手く立ちまわれなどと。

しかもこの話の調子だと、八神二佐などの隊長格には話をしていない様だ。

つまりこれを受けた場合、あちらは機動六課の面々に気づかれる事無く、秘密裏に事を進めなければならないという事になる。

そうなるとこちらに掛かる負担はさらに跳ね上がる計算になる。

 

再度、溜息をつく。

 

今度は実際に出てしまっていたらしく、二人の眼がこちらを注目している。

二人の表情には不安と諦観が浮かびあがっている。

向こうも無理を言っているという自覚はある様だ。

 

 

「―――はぁ。正直お断りですね。アコースさん。

私が貴女の依頼を受けて、八神二佐を助けるなど、そんな理由も義理も無い。

 

例え幾ら積まれたとしても、本局と本部を敵に回してのパワーゲームだなんてぞっとしません。

よってお断りします。」

 

「―――――――――。そう、ですか。

 

すみません。確かに無茶を言いましたね。出向解除の手続きはすぐにでも「しかし」―――……?」

 

「滅多に言わない弟の我儘(・・・・)だ。

 

 

―――極力、ご期待に添える様には致しましょう。」

 

 

二人はあちらが何を言っているのか分からないようで、暫らく呆然としている。

だが脳が理解に追いついたのか、二人は喜色をあらわにする。

 

そんな二人の様子を、あちら笑いながら眺めて、こう言い放った。

 

 

「報酬は・・・そうですね。

 

 

第97管理外世界―――日本の老舗店の最中でいいですよ。

 

 

勿論、最高級の玉露も付けてね。」

 

 

 

 

 


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