その人は何処へいった?   作:紙コップコーヒー

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23.前篇/ラン・オン・ザ・エッジ

そんな二人の様子を、あちら笑いながら眺めて、こう言い放った。

 

 

「報酬は・・・そうですね。

 

 

第97管理外世界―――日本の老舗店の最中でいいですよ。

 

 

勿論、最高級の玉露も付けてね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▼その人は何処にいった?

 

「前篇/ラン・オン・ザ・エッジ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・すこし物語は巻き戻る。

 

 

 

 

―――八神はやては悩んでいた。

 

 

さてさて。この依頼をどうするべきやろか?

 

 

騎士カリムを通して本局から依頼されたロストロギア回収任務。

そもそも機動六課は表向きとは言え、本来レリック専任で事態に対処するために設立された実験部隊なはず。

 

いくら遺失物管理部の捜査課も機動課の手が回らないとはいえ、それを知るはずの本局からこのような派遣依頼が来るのも可笑しな話だった。

緊急即応部隊としての側面を持つ機動六課がミッドチルダを離れるのはあまり好ましいことではない。

 

特に最近になって、悪名名高い次元広域犯罪者がレリック事件の捜査線上に浮かび上がってきたばかりなのだ。

なにか裏があるのかと調べてみたが、別にこれと言って不審な点は無かった。

カリムやクロノくんも依頼は正規の指揮系統から出されたもので、そこに六課を快く思わない他の派閥の横槍も無かったと言う。

 

 

―――考えすぎ・・・か?

 

 

まぁ確かに他の課が忙しい事は捜査官時代から知っていたし、この部隊を設立するに当たって随分無茶もして来た。ここで断れば他の部隊と無用の軋轢を生みかねない。

それに依頼理由にもあったように、万が一ロストロギアがレリックであるとしたら目も当てられない。

 

何の偶然か、派遣先は自分達の故郷である第97管理外世界の海鳴市だ。もし故郷がロストロギアが暴走したら洒落にならない。

 

しかしあの街はとことん物騒なモンに縁があるなぁ・・・。

なんかあの街はロストロギアを惹き付ける力でも働いてるんやろか?

 

・・・まぁ、人外魔境月村家やら戦闘一家高町家っちゅう前例もあるし、あながち冗談でもなさそうやけど。

 

 

―――そう考えたら、結構私危ないとこ住んどったんやろか?

 

もしかしたら探したら結構、妖怪やら吸血鬼やら超能力者やらメイドロボやら居たかも知れんなぁ。

 

 

・・・あ、あかん。やめや、やめ。

あんまり深く考えんほうが良さそうや。とらいあんぐる的な意味で。

 

ま、カリムもそんな深刻な依頼ちゃう言うてたし、オチとしてはホンマに私らがあの世界の出身で、土地勘あるからこの依頼が回ってきただけなんやろなぁ・・・。

 

―――よし。

 

ちょうどええ息抜きや。これからさらに忙しくなろやろうし、英気を養うっちゅう意味でもええやろ。

久しぶりにアリサちゃんやすずかちゃん達にも会いたいしな。

 

前線メンバーもこの間は結構ハードな初出撃にもかかわらず、無事レリックも回収して成果も上げてくれた。

いつ出動が掛かるか分からんから、いつも緊張感を持ち続ける事は大事やけど、それを新人達に常にし続けろゆうのは酷な話や。

少なからずストレスはあるやろうし、メンタルケアも兼ねてご褒美がてらのガス抜きも必要やろ。

 

え?部隊長が行く必要があるか?

当たり前やろッ!?私の中の血が囁くんや―――行けと!!

こんな面白そうなイベント参加せんでなにが関西人やッ!?

 

私が不在の時の部隊指揮はグリフィス君に代行してもらったらええし、万が一の緊急の場合はハラオウン家のトランスポーター使わせてもらったら本局経由ですぐ戻れる。

一応保険としてザフィーラ残して行くし、交替部隊(バックアップ)もおるから滅多な事もないやろ。

・・・ごめんな、ザフィーラ。留守番押し付けてもて。お土産の骨ッコはちゃんと買ってくるさかい許してな。

 

 

―――それに、あちらさんもおる。

 

 

さすがユーノ君が推薦してくるだけあって、実務能力はとても高い。

外部の職員ゆう事であまり重要な書類とかは回さんかったけど、これなら大丈夫そうやな。

ロングアーチの面々とも結構早くに友好関係を構築したみたいやし、なんやフェイトちゃんやシグナムなんかとは結構仲良さげにしとる。

―――前に似たようなとこにおったんやろか?あちらさん、妙に場慣れしとったけど・・・。

 

まぁあまり接点の無い他の前線メンバーとは縁ないみたいやけど、それも時間の問題やろ。

新人達は碌に魔力も持たんあちらさんがガジェットⅢ型を撃破した事に興味津々やからなぁー。聞く所によるとティアナが特に興味を示しとる見たいやし。

 

流石になのはちゃんの『模擬戦するなの。』は止めといた。

魔導師ランクも持ってへん様なパンピー事務員が魔導師と模擬戦なんかしとったら、傍目公開処刑にしか見えへんしな。

目をキラキラさせたフェイトちゃんとシグナムが肩をがっくりと落としたのは見逃さへんかった。

・・・止めんかったらヤル気やったんかい。

 

その時、初めてあちらさんに尊敬の目で見られた。

ええ年した男がちょっと涙目でこっち見んなや。

 

・・・べ、別にアンタのために止めた訳じゃないんだからねッ!勘違いしないでよねッ!

別に涙目で可愛いとか思ってないんだからねッ!?

 

―――あかん。私もなんか疲れてるみたいや。

 

ま、懸念されとったロングアーチの実務能力も大幅に向上したし、あちらさん自身も良い人みたいやし。

意外と釣り上げた魚は大きいなぁ。

何気にあちらさん、普通に超優良物件やん。

 

 

・・・それでも多少引っかかる事がないわけやない。

 

初めは機動六課への参加を断ったユーノ君が―――これはユーノが引き抜かれる事で、無限書庫の稼働率が低下する事を懸念した地上本部や本局が(本当に)珍しく一緒になって反対した―――機動六課に参加できへん代わりとして、あちらさんを出向させてきたんやとばかり思っとったけど、なんか違和感を感じる。

 

なんてゆうのか・・・言葉にははっきりと出来へんけど、なんか可笑しい。

ユーノ君らしくないゆーのか、焦りみたいなモンを感じる。

それにあちらさんを出向させる時も、与えられた策がまるでユーノ君らしくない。

それに乗っかった自分がこんな事言うんもなんやけど、いつもやったらあんな自分の立場を人質に取るような事はせーへんはずや。

全くもって、らしくない。つーか変や。

 

それに出向手続きが異様に速かったのも違和感を感じる要因の一つや。

私達がリニアレール上空での戦闘が終結した後であちらさんを保護し、本人のIDを照合してデータベースから身元を割り出して、なのはちゃんがユーノ君に連絡を取った。

そこであちらさんの紹介を受けて、私がその申し出を受諾、それからあまり時間を置かずに出向に必要な書類が送り届けられた。

 

この間、たぶん2時間そこそこや。何処でもお役所仕事はとろいと相場が決まってるけど、管理局の人事部も残念ながらその例に漏れへん。

まして他の管轄からの出向は特に手続きやら何やら多くて実に面倒や。

それがあとは本人の記入だけで、書類がその日の内に受理される状態で送られてきた。

 

やれば出来るんやったら、何時もそれ位のスピードで仕事しろとは思わんこともないけど論点はソコやない。

問題はその当の本人がその書類の存在を知る所か、自分に出向の話がある事すら私に教えられるまで知らなかったことや。

 

 

・・・一体、どういう事や?

 

本人が六課に配属されるという話が持ち上がったのは、なのはちゃんがあちらさんの身元確認のためにユーノ君に連絡したことが発端や。

そこで初めてあちらさんの派遣が持ち上がった。

それはあちらさんがレリック事件に巻き込まれるという偶然(・・)が起こったからや。

 

 

偶然、あちらさんがガジェットの襲撃に遭い。

偶然、機動六課がその救援に向かい。

偶然、あちらさんがユーノ君の部下で。

偶然、あちらさんが優秀な事務能力を持っており。

偶然、あちらさんの出向に必要な書類がすべて揃っていて。

 

 

―――そして偶然、機動六課に配属された?

 

 

一体どこまでが偶然で、そしてどこからが故意に起こされた必然なのか。

 

まぁ、少なくともそこにあちらさんの意思は介在してないやろなぁ・・・。

本人、六課に配属されんのめっちゃ嫌がっとったし。部隊の説明したら顔めっちゃ引きつってたし。

 

ま、まぁ?確かに無茶したんは分かっとるよ?

なかなかカリムやクロノ君には無理してもらったし、私も捜査官時代で培った借りやらコネやら総動員したで?

 

やからってそんな嫌がる事ないやんッ!!

 

しつこい何人かにはおはなし(・・・・)もさして貰ったけど、最後は皆快く賛成してくれたよ?ほんまやで?

一生懸命、部隊作ったんやで!やのにそれ、結構地味に傷つくわ・・・・・・。

 

 

ごほんッ!

まーそれは置いといて。

 

つまりあちらさんが部隊に配属されんのは、恐らくリニアレール事件前からすでに決定事項やったっちゅう事や。

それを誰が演出したかやけど、ユーノ君が仕組んだにしてはあまりに手際が良すぎる。

メンドイ書類をストレートに通せる位に人事部に顔効く人ゆーたら・・・そら勿論レティ提督やろな。ほなリンディ統括官も一枚噛んどるなぁ。

 

・・・なんやユーノ君、すごい貧乏くじ引かされた感じがするなぁ。

うな垂れるフェレットの絵がなんとなく目に浮かぶわ。

 

私がこの工作に気がついてへんとは、リンディ統括官達も思ってへんはずや。

ここまでされて気がつかへんかったら、”敏腕特別捜査官はやてちゃん”の名が泣くわ。

やのに何も言ってこーへんって事は・・・今は知る必要がないって事?それともそれ位自分で気がつけって事か?

 

 

・・・両方やろな。あの二人は。

 

しかし、どういうつもりやろ?

何かあちらさんをこの六課に入れなアカン理由でもあるんか?

 

 

そんなに六課の事務能力に疑問があったんか?

 

確かに充実していたとは言えへんけど、ここまでする事も無い。

どこも足りへんなりに工夫してやっとる。

 

 

じゃあ、あちらさんの戦闘能力が目的か?

 

あちらさんがガジェットⅢ型を独自に撃破した事は、確かに特筆に値するけど、だからと言って前線メンバーに組み込める訳でもない。

魔力資質が乏しいし、他との連携も上手く行くかどうか未知数や。

そんな博打する訳にもいかんし、したくもない。

そもそも少数精鋭や言ってフェイトちゃんやら八神家集めたんや。ここで魔力持たへん司書なんか前線放り込んだら、またいらん所が騒いでややこしい事になる。

デメリットしかあらへん。

 

 

―――つまり。

 

 

―――つまり、や。

 

 

 

・・・なるほど、わからん。

 

やめや。やめ。

 

―――こんな事うだうだ考えてもしゃあないか。

確かに今はレリックにジェイル・スカリエッティに予言と、余計な事に気を取られてる暇なんかあらへん。

思考停止する積りはあらへんけど、知らされてへん言う事は今は知らんでええねやろ。

”Need to Know”って奴や。

唯、頭に留めておけば。

 

うん。そうや。

何も難しく考えることはないんや。

なんやかんや有ったけど、あちらさんが機動六課の仲間としてやって来た。

それでええやないか。

 

本人は嫌々かも知れへんけど、いつかこの部隊に来て良かったと言わしたら私の勝ちや!

 

よしッ!

じゃあ気分も切り替えたところで!!

ほな、ロストロギア回収ツアー海鳴編~入浴シーンもあるよ!~としゃれ込みますか!!

 

 

 

 

「それはよかったですねぇ。」

 

 

 

 

居るはずの無い人物の声を聞き、ガタンと勢い良く執務机から跳ね上がるはやて。

そしてそれを若干呆れた目で見ている黒髪黒目の一人の青年。

 

 

「やっとご帰還ですか・・・。随分長いモノローグでしたね?」

 

「ッッ!?!?!?あぇ!?!?

 

 

―――あ、ああちあちあちあち!?」

 

「―――熱いんですか?」

 

「ちゃうわッ!?

 

あ、あちらさん!?い、いつからそこにおったん!?

 

てか聞いてたんかッ!?」

 

 

動揺しているのか呂律が回っていないはやては、ふるふる震える指先をあちらに向ける。

その様にあちらは手に持った書類をひらひら振って見せる。

 

・・・管理局の事務は基本電子媒体で処理されるが、重要度の高い報告書や書類は機密保持の観点から未だに紙媒体だ。

 

 

「何時からという質問に関しては”割と初めから”と。

確認して頂きたい書類が有ったのでお持ちしたんですが、八神二佐が気持ち良さそうに考え事をしていて、あちら側から帰ってこられないので待たさせて頂きました。

 

聞いていたかという質問に関しては・・・えー

 

・・・八神二佐も若いんですから、仕事中妄想に耽るのはかまいませんが

 

 

―――後で思い返すと必ず後悔しますよ?」

 

「なんか勘違いされてる!?

別に思春期特有の病気ちゃうから!中学二年的なもんちゃうから!?

 

やからそんな目で見んといてェ!?私もう19やのにそんなん考えとったら唯の痛い子やからッ!?」

 

「夜天の王(笑)」

 

「げふッ!?」

 

 

あちらからナチュラルなカウンターを喰らいデスクに崩れ落ちるはやて。

 

くッ!?静まれ私の左手!!そう。あれはベルカで認められた称号やねんから関係無いッ!!

別に私が自分で考えたんちゃうもんッ!!人がそう呼ぶねんもん!!

確かにエターナルフォースブリザードぽいの使えるけど違うねん!

相手は死なへん。だって非殺傷設定やから!!

 

 

「あ、あはは。そ、そうなんやー。

それは待たせて悪い事したなー。」

 

 

さっきのは無かった事にするらしい。

苦しくても話題を変えようとするはやて。

 

 

「いえ、それ程でも。」

 

 

しかし、それを全く気にしないあちら。

それどころかにこにこと、実にあちららしくない、無垢な笑顔を浮かべる。

それに不穏な気配を感じてか、はやては半ば引きつったような愛想笑いを浮かべる。

 

捜査官時代に培った第六感が警鐘を鳴らしている。

 

まだここ数日の付合いしかないが、それでも大よそのあちらの人となりは把握しているつもりだ。

 

・・・無邪気な笑顔のあちらさんって、なんか似合わんな。何か企んでそうで逆に空恐ろしいわ。

 

そんな甚だ失礼な事を思いつつ、はやての喉がごくりと鳴る。

 

 

「で・・・どこから聞いとった?」

 

「『うん。何も難しく考えることはない。』」

 

「ふお!?」

 

「『なんやかんや有ったけど、あちらさんが機動六課の仲間としてやって来た。それでええやないか。』」

 

「ああああぁ!?

恥ずい!?恥ずかしい過ぎる!!

 

よりによって本人に聞かれるなんて!?」

 

「『本人は嫌々かも知れへんけど、いつかこの部隊に来て良かったと言わしたら私の勝ちや!』(キリッ」

 

「うわあああああ!?

 

殺せ!いっそ殺してぇぇえええぇええ!!??」

 

 

顔を真っ赤にして悶えるはやて。

それをにやにや眺めて先日の溜飲を下げるあちら。

さり気なくウインドウを最小に開いて、先程からのはやての痴態をファイルに録画している。

 

・・・これは後でシャーリーさんにでもコピーして渡しとこう。

 

 

「それでロストロギアが回収だとかは何なんですか?」

 

「じ、自分からやっといて放置かいな・・・。蒔いた種はちゃんと収穫するんが芸人やで。

 

―――教会からのご依頼でな。

傍迷惑な骨董品(ロストロギア)の回収任務や。出張先が管理外世界でな。

 

しばらく六課を空けることになりそうや。

モノがどんなもんかようわからんらしくてなぁ。万が一も考えて今回はフルで出る。

無論、私もや。

 

あちらさんは申し訳ないけどお留守番や。

私が不在の時の代行指揮はグリフィス君に任せるけど、階級的には三尉相当官のあちらさんが上やからな。

グリフィス君のフォロー任せるわ。」

 

 

はやてのその言葉に苦笑するあちら。

 

この娘はさも当然のように、私が部隊指揮に関してフォローできると思っているようだ。

そんな事は誰にも・・・それこそユーノにすら言っていないのに。

まぁ出来ることには出来るんだが。

伊達に三年間、横浜の魔女の元で働いていない。

 

まったく。

こちらを揺さぶる為に言ったのか、それとも異様なほどに観察眼があるのか。

 

どうもこの娘といると調子が狂うなぁ・・・。

 

 

「―――了解です。八神部隊長。

ロウラン准尉は多少経験が少ないでしょうが優秀です。

彼に任せておけば問題ないでしょうが、微力ながら力になれる様に努力はしますよ。」

 

「うん。よろしゅうな。」

 

 

そして本当に嬉しそうに笑い掛けるはやて。

 

 

―――本当、調子が狂う。

 

 

まるで気を切り替えるかのように、あちらは大袈裟にはやてに話し掛けた。

 

 

「ではそれまでに仕事を片付けなければいけませんね。

 

とりあえず、これ。今日の分です。」

 

 

あちらは持っていた書類をどすんと執務机の上に置く。

 

 

―――どすん?

 

しょ、書類?

 

 

鈍器をデスクの上に置いた様な音が響き、それは目の錯覚か辞書みたいに分厚い紙の束が置かれる。

分厚さは広辞苑とは言わないが、それでも英和辞書ぐらいの厚さはある。

 

つまりとても多い。

 

さすがのはやてもこれには固まる。

今までそれなりに管理局に勤めて来て書類仕事というものをこなして来たが、ここまで酷いのもそうそうない。

 

 

「な、なぁあちらさん?これなに?」

 

「?何って書類ですが?」

 

「なんでこんな量あんの?いつもの倍くらいはあんねんけど・・・。

あちらさん来てから効率良くなったん違うの?」

 

 

はやての疑問にあちらは得心が行ったのか、手でポンと手の平を軽く叩く。

漫画や小説の中ならまだしも、実際に人がやると胡散臭い。それがあちらなら尚の事。

 

 

「―――あぁ。勘違いしているようですね。

 

自慢ではないですが、確かに私が来てからロングアーチの事務処理能力の効率は上がりましたよ?でもそれはロングアーチ内での話です。

でも八神二佐が最終的に決済する書類の総量は変わらないですから。

 

まぁ、短期で見ればどっちかというと八神二佐の仕事は増えましたね?」

 

「効率上がって、私の書類仕事が増えるとは是如何に。」

 

「まぁ実験部隊ですからね。他の部隊よりは各報告書や書類は多いですよ。

特にウチは地上部隊でありながら所属は本局なんですから。手続きが面倒なのは仕方がないことです。

 

大丈夫、長い目で見ればちゃんと減っていきますよ。」

 

 

げんなりした目で書類の束を眺めていたはやてだったが、何かを思いついたのか手を胸で組み、上目使いであちらを見上げる。

 

心なしか瞳は涙で潤んでいる。

 

 

「私、出張の準備で忙しいんよ。

 

―――帰ってきてからやるから、ダメ?」

 

 

コケティッシュに小首を傾げてお願いしてくるはやて。

 

・・・さすが、元・病弱薄幸入院美少女。

儚げな様子をやらしたら、嵌り役にも程がある。

そこに女性らしさを加えれば、大抵の男はその様子にイチコロで骨抜きにされ、お願いを何でも聞いていただろう。

 

だが、残念な事に”普通の男”というカテゴリーからは一番程遠いあちらには全く意味を成さない。

それどころかはやてを胡乱気に見遣っている。

 

 

「―――先ほど、私が蒔いた種を刈り取らないと仰いましたが、それは八神二佐の勘違いですよ。

 

もう既にちゃんと収穫は刈り取って、お裾分け(・・・・)の準備までちゃんとしときましたから。」

 

「へ?」

 

 

あちらのいきなりの言葉に、はやては演技を止めて素っ頓狂な声を上げてしまう。

 

 

「ミッドって便利ですね。こんなもので録画出来るんですから。」

 

 

そういって空間に浮かぶ一つのウインドウを提示して見せるあちら。

そこにはぶつぶつと恥ずかしい台詞を呟いている姿や、羞恥の余り部屋を転げまわるはやての姿が。

ちなみに今も録画中であり、ぽかんと口が半開きの間抜けな姿も勿論ウインドウに映っている。

 

 

「今日中にこの書類を処理してくれないと、私はショックの余り手が滑ってこの動画を動画投稿サイトにうpしてしまうかも。題名はそうですね……『美少女部隊長(笑)の憂鬱』なんてどうです?再生回数伸びますねッ!」

 

「あんた鬼かッ!?」

 

「ちなみにこれを消去しようとしても無駄ですよ?

動画ファイルは六課のサーバーの方では無く、本局経由で無限書庫のライブラリに保管されていますから。」

 

「―――うぅぅぅ・・・。あんまりや・・・。」

 

 

がっくりと項垂れるはやて。

 

反対ににこにこと笑顔のあちら。

 

 

 

「ちなみにこれは今日の分ですから。

明日の分は、明日の分。出張中の分も明日にしてもらいますからね。」

 

 

 

「さらにまさかの追い討ちッ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 


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