その人は何処へいった?   作:紙コップコーヒー

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26.舞台裏に迷子の足音は響き

「……――――――でな。

そこで真っ黒い何かに飲み込まれる所で目が覚めてん。」

 

「―――八神部隊長・・・。

あの能天気そうな部隊長がそんな夢をみるなんて・・・。

 

―――そんなに疲れてたんですね。

 

すいません。今まで気がつきませんでした。

これからはからかうのを心持ち減らしますね。」

 

「そんな可哀想な子を見る目でこっち見んといてッ!?

あと、心持ちッ!?からかうのは止めへんのかいッ!なんか優しさ足りてへんのとちゃうかなぁ!?

 

ホンマやで?ホンマに見たんやってッ!!

めっちゃリアルで、『あ、これは死んだな・・・』って思うぐらい怖かってんからな。

 

・・・だから、ちょっと位優しくしてくれてもバチ当たらへんで?」

 

「はいはい。それでも貴女の決済する書類の量が減る事はありませんよ。

 

・・それで?

貴女を夢の中でぱっくんちょした美女はどんな方だったんです?」

 

「―――あんな、あちらさん。

 

目の前にこんな可愛い才色兼備はやてちゃんがおんのに、他の女について聞くなんてデリカシーがあらへんのとちゃう?」

 

「――――――。

 

………―――――――――ハァァァ・・・。」

 

「なんでそんな残念そうな深い溜息つくん?

 

おっかしいなぁ・・・。何時から私こんなキャラ扱いになったんやろ?

そろそろ話の流れ的にフラグの一本でも立つ頃やん?この話、私がヒロインちゃうの?

 

デレるで?

何時でもデレるで?

それではやてちゃんルートに分岐して外伝の一本も出来るっちゅう流れちゃうの普通。

 

やのにあちらさんが欠片もデレる気配がない件について。

ていうか女性として見られてない?むしろおもちゃ?みたいな感じやん。

 

それがどういうこっちゃねん。

 

もう完全にギャグ要員扱いやん。

 

・・・私、部隊長やで?二等陸佐やで?オーバーSの魔導師やで?偉いねんで?」

 

「さっきからぶつぶつ五月蠅いですよ。仕事しろ部隊長。」

 

「ひどッ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▼その人は何処にいった?

 

「舞台裏に迷子の足音は響き」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――機動六課 隊舎食堂

 

 

 

 

 

早朝の新人達の第二段階リミッター解除の考査も兼ねた教導も無事終了し、機動六課隊長陣は少し遅めの朝食を取っていた。

 

フォワードメンバーは急に降って湧いた休暇に心を弾ませ、自室であーでもないこーでもないと少しでも充実した休日を過ごそうと計画を練っている。

今頃、お出かけに着ていく服を前に悩んでいることだろう。

 

 

なのは達隊長陣もフォワードメンバーが抜ける為、今日は一日中待機任務だが心なしか穏やかな空気が流れている。

とは言ってもそれは別に気が抜けていると言う訳ではなく。

リラックスした自然体で日々を過ごしているという意味だ。適度の緊張感は作業効率を向上させるが、過度にするのはそれこそ新人(ルーキー)のする事だ。

幾多の死線や戦場を潜り抜けた古参の騎士であるヴォルケンリッターや、実年齢の割りに異常な場数をこなしている歴戦の高ランク魔導師にそれは愚問だった。

 

少し時間帯がずれている事もあり、いつもはもっと賑やかな隊舎の食堂は人もまばらで、端の方ではナイトシフト明けの隊員が眠そうにしながら欠伸をかみ殺しコーヒーを飲んでいる。

 

食堂に備え付けのメディア・ウインドウからは、MNN(ミッドチルダ・ニュース・ネットワーク)の看板キャスターが明朗な滑舌で朝のニュースを読み上げる声が聞こえてくる。

なのは達は聞くとはなしにBGM代わりの読み上げられるニュースを聞き流していた。

 

 

次のニュースが読み上げられる。

 

 

『……―――以上、芸能ニュースでした。続いて政治経済。

 

昨日、ミッドチルダ管理局、地上中央本部において来年度の予算会議が行われました。

三度目となる再審要請に、税制問題に関連して各世界の注目が集まっています。

 

当日は首都防衛隊の代表、レジアス・ゲイズ中将による管理局の防衛思想に関しての表明も行われました。』

 

 

このニュースに興味を引かれたのか、おしゃべりに夢中だったなのは達はニュースの流れているウインドウに注目する。

・・・ただリインフォースだけは無邪気にトマトを噛り付いている。瑞々しい舌触りにご満悦のようだ。

 

彼女達も時空管理局に在籍する組織の人間として全く無関係ではない。

いや、それどころか中央地上本部の目と鼻の先に隊舎を構える機動六課としては、クラナガン防衛の責任者としてゲイズ中将がどういった趣旨の発言をするかは、大いにこれからの彼女らの作戦行動に影響する。

 

今のところ、|それ(・・)を正しく理解しているのは部隊長であるはやてだけであったが。

他はただどういった演説をするのだろうと興味が湧いただけだ。

 

 

ウインドウに流れる映像が切り替わり、演台に立つ立派な顎ひげをした壮年の将官が映る。

 

厳つい、それこそ岩石から削り出した様な顔立ちは、決して無機物にはない覇気と生命力に満ちている。

眼光はすべてを見通すような程に鋭い光を持ち、気の小さい者なら目さえ合わせる事さえ適わないだろう。

そして録画された映像からも分かる程の覇気と威圧感。

 

 

守るべき市民には、安心と平穏を。

 

それを乱す者には、冷たい罰と制裁を。

 

 

―――”ミッド地上の守護者”としてその名を讃えられる時空管理局中将レジアス・ゲイズ、その人だ。

 

 

 

『―――魔法と技術の進歩と進化。それは素晴らしいものではあるが・・・

 

しかしッ!!

それが故にッ!!我々を襲う危機や災害も10年前とは比べ物にならないほどに危険度を増している!!』

 

 

巌の様な体躯から、心胆に響くような声が発せられる。

壇上から発せられる、しかしどこか引き寄せられる声に、それを聞く地上本部所属の管理局員達は厳しい顔つきながらも真剣にその話しを聞いている。

 

 

『兵器運用の強化は進化する世界の平和を守るためのものであるッ!!!

 

・・・首都防衛の手は未だ足りん。

地上戦力においても我々の要請が通りさえすれば、地上の犯罪の発生率は20%!!検挙率では35%以上の増加を初年度から見込む事が出来るッ!!!』

 

 

「このおっさんはまだこんな事言ってんのな。」

 

「・・・レジアス中将は古くから武闘派だからな。」

 

 

―――が、レジアス中将の言っている事に別段目新しい事は見当たらず、ヴィータはすぐに興味をなくして食事を再開した。

 

ヴィータの歯に物を着せぬ物言いにシグナムは当たり障りのないフォローをする。

シグナムも内心同じ事を考えていたようだ。だが群雲の騎士達を率いる将として、何かレジアス中将の主張に感じる所があるのだろう。

その時、カメラのアングルが切り替わったのだろう。壇上をやや斜め下から撮った画面になのはが反応した。

 

 

「あ、ミゼット提督?」

 

「ミゼットばーちゃん?」

 

 

それにヴィータが反応した。その声は心なしか弾んでいる。

映し出された画面の奥には、三人の人影が一段上の上座に座っているのが見ることが出来た。

 

 

統合幕僚会議議長、ミゼット・クローベル

 

 

武装隊栄誉元帥、ラルゴ・キール

 

 

法務顧問相談役、レオーネ・フィルス

 

 

今の時空管理局の礎を築いたと言っても過言ではない、創設されたばかりの管理局の黎明期を支えた功労者達。

 

 

 

―――”伝説の三提督”

 

 

 

どこの次元世界を探しても知らぬ者はいない、歴史にその名を残すであろう偉大な先達の姿に、畏怖と尊敬の念を抱かぬものは居ないだろう。

・・・だがどこにでも、なんにでも例外はあるもので。

 

 

「しかし、やっぱこう見てみると―――普通の老人会だよなぁ。」

 

「もう。だめだよ?ヴィータ。偉大な方達なんだよ?」

 

 

ヴィータの恐れを知らぬ発言に、フェイトが注意を促す。

とはいってもフェイトにしてもヴィータがそんな人の陰口を叩く等と微塵も思ってなく、その軽口は親愛に裏打ちされたものだと覚っているため口調は軽い。

その様子になのはは苦笑を浮かべた。

 

 

「管理局の黎明期から今の形まで整えた功労者さん達だもんね。」

 

「ま、私は好きだぞ。このばーちゃん達。」

 

 

余りに気安いヴィータの態度に、事情を知らぬなのはやフェイトが首を傾げる。

その様子に珍しく悪戯気な笑みを浮かべたシグナムが、口元をマグカップで隠しながら、なのはとフェイトにネタを明かした。

 

 

「・・・なに。護衛任務を受け持った事があってな。

ミゼット提督は主はやてやヴィータがお気に入りのようだ。」

 

「―――あぁそっか!」

 

「なるほど。」

 

 

納得がいったのか、顔をほころばせながら相槌を打つなのはとフェイト。

 

くすくすくすと笑い声が優しく響く中、シャマルは先程から一言も話さず、メディア・ウインドウに釘付けのはやてに声をかけた。

 

 

「・・・はやてちゃん?どうしたの?

そんなにゲイズ中将の表明が気になる?」

 

 

その声に我に返ったのか、はやては苦笑を浮かべながら椅子に座りなおした。

少し可笑しな様子になのは達も心配げに様子を伺っている。

 

 

「いや大した事ないんよ?

ただ今映像が会議場全体を映した時、チラッとあちらさんが映ったような気がしてん。」

 

「あちらさんが?」

 

 

それにシャマルが首を傾げる。

すぐにウインドウに視線を向けてみるも、すでに予算会議関連のニュースは終わっており、今はCMが流れている。

 

 

「あちらさん、今は確か古巣の無限書庫に呼び戻されてるんじゃありませんでしたっけ?」

 

「あぁ。なにぶん急な出向だったからな。引継ぎミスが有ったとかで、向うの知り合いに泣きつかれたらしくてな。しばらく本局に泊り込みで滞在するそうだ。」

 

 

―――明日、明後日くらいに帰って来るそうだ。

 

シャマルの疑問にシグナムが答えた。

何気にあちらとシグナムは仲が良い。波長が合うのだろうか。

天気の良い日に、テラスで二人が仲良く茶菓子と緑茶で和んでいる姿は、なにか近寄り難いものがある。

 

 

「はやてちゃーん。見間違えですよぅ。

昨日、予算会議があったのは中央地上本部ですよ?場所が違うじゃないですかー。」

 

 

その小さい体のどこに入ったのか、ご飯を完食したリインが話に参加してくる。

食べるのに夢中なようだったが話は聞いていたようだ。ご丁寧に口の端と頬っぺたにドレッシングソースとパン屑を付けている。

思わずその姿に吹き出してしまい、けらけらと笑うはやて。

 

 

「もー!はやてちゃーん!!聞いてますか!!」

 

 

さらにリインは無造作にごしごしとほっぺを拭くものだから、更にソースは伸びて悲惨なことに。

その様子に今度は全員耐え切れなくなり笑い声を上げた。

 

 

「―――ッ!!もー知らないですー!!」

 

「あっはっはっは!

 

いやぁごめんな?リイン。ほら、もう笑わへんから。

機嫌直してこっち向いてぇな。かわいい顔が台無しやよ?」

 

 

拗ねてしまったリインを宥めつつ、ハンカチで口や頬を優しく拭くはやて。

未だに頬を膨らましているリインのご機嫌を取りつつ、はやてはもう一度ウインドウに目を遣った。

 

もう政治ニュースは終わっており。

当然、そこにあちらが映っているはずもなく。

 

 

ただ能天気そうに健康食品のCMが流れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――ミッドチルダ 首都クラナガン 某所

 

 

 

 

 

 

薄暗い界隈の、薄暗い雑居ビル、薄暗い会議室の一室。

唯一の光源は部屋の隅に置かれた古ぼけた型落ちのディスプレイのみ。

そのディスプレイはダラダラと最近起きたニュースを垂れ流している。

 

古ぼけたディスプレイの明りが、そこに居る二人の人間の影を写し出した。

そのシュルエットから男性と女性だという事が推察できる。だからと言って甘い雰囲気が漂っているわけではない。

かと言ってその逆。険悪、殺伐めいた雰囲気も感じられない。

 

 

ただ、重苦しい。

 

 

この部屋の一室だけ極端に空気が薄いような。

 

まるで空気が粘性と質量を持って肺に入り込み、そこで固まってしまったかのような息苦しさを感じる。

 

二つの人影は互いに向き合ってソファーに腰掛けたまま一言も話さない。

といっても全くの無言という訳ではない。

 

 

”話し合った”からこその結果がこれなのだ。

 

 

片方の人影が口を開く。

 

女性のようだ。すでに老齢に差し掛かった女性。

仕立ての良い服に身を包みでいる、どこか品の良さを感じさせる女性だ。

 

だがその老いた体から満ちる生命力は、彼女を実際の年齢よりも若く栄えさせる。

 

 

「―――もう、どうしようもないのですか。」

 

「―――残念ながら。

 

いや、貴女も薄々は感じていたはずだ。」

 

 

しかし相対していたもう一つの人影―――どこか胡散臭い雰囲気を纏う青年―――が平然と答えた。

かつて強大を誇った女性の、感情の篭った声はそれだけで魔力を含み、すでに物理的な圧力をも持っている。

 

しかしそんな事は知らぬ存ぜぬ、大した事は無いとばかりに青年は涼しい顔で受け流す。

 

部屋の重苦しい雰囲気が変わることは無い。

青年が口を開く。

 

 

「今回の件。いや、事態を先方は非常に重大視しています。

それこそグラシア少将閣下の予言よりもです。

 

当然でしょう?

 

幾らジェイル・スカリエッティが世紀の大天才とはいえ、唯の科学者で人間の領域を出ない。

別段、強力な組織力を持っているわけでもなく、それは資金面・バックアップ面でも管理局の暗部に依存しています。

 

いくらやんちゃ(・・・・)をしようが、数多の次元世界を管理する管理局に自力で勝てるわけではありません。

 

ガジェットドローンなど言うに及ばず。

例えオーバーSに匹敵する戦闘機人にした所で、全体数が少ないといっても管理局にはSランク魔導師は多数在籍しています。

総力戦になれば、背景を失い定期メンテナンスも満足に受けれない機人を破壊することはそう難しくないでしょう。

 

例え、法の塔が焼け落ち、船が砕けようと”法”が砕ける訳ではないのですから。

戦術が戦略を覆すことは無い。どちらにしろ管理局システムの崩壊はあり得ない、というのがクラナガン(・・・・・)の見解です。」

 

 

唯一の光源のディスプレイからは今日の社会ニュースが流れている。

どこぞのホテルのオーナーがロストロギアの不正売買・所持の容疑で逮捕されたらしい。

事件担当の捜査官が会見を開いている。

 

 

「ですが、それが最高評議会と中央地上本部となれば話は別です。

 

時空管理局の戦術と戦略、この前提条件が崩れるのですから。

いったい誰が守るべき市民を人体実験に攫うような治安組織を信用するというんです?

 

それに管理局はたった(・・・)75年前に創設された若い組織です。当時、そして150年前と辛酸を舐めさせられた世界も多いと聞きます。

こんな事が明るみに出れば最悪、管理世界からの脱退・・・いや、管理局システムの解体にまで話が飛び火しても可笑しくありません。

そしてそれは事実上の崩壊と変わりなく、初期に『管理局治安維持構想』を打ち立てたクラナガンとしても楽しい話ではありません。

それは苦労して封じ込めた、燻ぶっている大火の最初の火種に成りかねません。

 

 

クラナガンの見解を言いましょう。

 

”我々は次元の海の安定を守るため、管理局システムの維持を最優先とする”

 

 

・・・クラナガンは本気です。

 

次元世界間の政治・軍事的緊張回避と、それを監視する管理局システムを守るため、彼らは最高評議会に喧嘩を売るつもりですよ。」

 

 

「――――――。」

 

 

そして再び部屋に沈黙が戻った。

だが先程と違うのは、さっきまで立ち込めていた息苦しい雰囲気が、若干ではあるが弱まっているということだった。

 

 

ピピピピピ

 

 

その時通信を知らせる通知が入り、女性は一言断ってウインドウを展開する。

ウインドウは保護モードになっている為、青年側からそれを窺い知る事は出来ない。

送られてきたのは文章ファイルだった。機密保持のため、”一読後、破棄(ユア・アイズ・オンリー)”とある。

 

女性は送られて来た報告書を読み終わると破棄処理を施しフォーマットを行う。

青年の視線に気がついてのか、女性は先程の報告書の内容を告げた。

 

 

「―――機動六課が市街地廃棄区画で戦闘機人と思しき存在と交戦したようです。

 

後見のハラオウン提督による、八神二佐の限定解除許可をAランクで承認。

湾岸海上に出現したガジェット群編隊を殲滅した後、同じく限定解除した高町一等空尉とハラオウン執務官との連携により容疑者を後一歩まで追い詰めるも、敵の増援により取り逃がしたそうです。

 

・・・後、レリックを確保。人造魔導師素体と思しき少女を保護したそうです。」

 

「そうですか。」

 

「えらく淡白ですね。彼女達が心配じゃないのですか?」

 

「まさか貴女の口からそんな事を聞くとはね。

 

・・・彼女達は経験も豊富なプロフェッショナルですよ?そこは信頼しています。」

 

「―――ふふふ。その割りに足がさっきから組み変わっていますけどね?」

 

 

表情を緩めた女性に、憮然としながらも青年は足組みを解いた。

言われてやめるあたり、自覚していたらしい。

 

同時に部屋の雰囲気も緩んだ。

そのせいか、さっきよりもディスプレイの音が大きく聞こえる。

 

 

「安心なさい。負傷者はゼロ。

むしろフォワードメンバーは無事レリックを回収して大活躍だったらしいですよ。

 

もう、青二才(ルーキー)だなんて言えないわね。」

 

「・・・一人、心配な人がいたんですけどね。

私は戦闘要員ではありませんし、無用な口出しは避けていたのですがその様子だと大丈夫なようですね。」

 

「―――そう。

少し貴方の事を誤解していたのかもしれないわね。

 

貴方に関する報告書も読ませていただいたわ。ここ数週間、陰に隠れて頻繁に動いてみたいね?

 

・・・正直、危ぶんだわ。なにか野心があるのではないかと。

 

 

けど、それも杞憂なようね。今、すべてが納得がいったから。」

 

「では今はなんとお思いで?」

 

「身内に甘い、過保護なお兄ちゃん・・・と言った所かしら?

 

六課のあの子達を利用しようという連中には悪辣な所が特に。」

 

「―――ただの意趣返しですよ。」

 

「ならそういう事にしておくわ。」

 

 

古ぼけたディスプレイにMNNの政治・経済ニュースが映る。

トップニュースは勿論、昨日に行われた来年度管理局予算会議について。

映像の中でレジアス・ゲイズ中将は管理局防衛構想について熱弁を振るっている。

 

それを見ていたMNNのコメンテイターが、数ヶ月先に行われる公開意見陳述会で議論になるであろう拠点防衛兵器”アインヘリアル”と今回の表明に関しての関係性について解説を行っていた。

 

 

「・・・これに関して、貴方はどう思う?」

 

 

女性が青年に意見を求めた。

 

 

「―――別にゲイズ中将自身に思うところはありません。

多少傲慢で独善的な所も見受けられますが、地上を守ろうとする職務に対する責任感と意欲は誰よりも強い、とても立派な方だと思います。

 

それに各政財界の重鎮達の覚えも目出度く、強いパイプを持っている。

 

まぁ当然ですね。自分達のいる首都を必死になって守ってくれるのですから。

悪印象を持てと言うほうが難しい。

 

 

この賛否両論な地上本部の防衛思想、所謂”ゲイズ・ドクトリン”に関しても良く出来ていると思います。

 

本局と本部では要求される能力が違います。

 

本局は広大な次元の海を巡回しなければならず、未知のロストロギアや次元断層と言った大災害にも遭遇しやすい。

巡航艦単独で対処にあたなければならない場合も多いため、高ランク魔導師や高価な装備などすべてに対処しなければならない”万能型”が必要になってくる。

 

だが本部はその管理世界の治安維持が職務である以上、性質的にあまりそこからは動かない。

それ故に要求される能力もカウンターテロなどに限定され、戦術単位である”万能型”の高ランク魔導師は投入場面が難しい。街中で砲撃魔法をぶっ放すわけにはいかないですからね。それが逆に海への人材流失の要因となっているのは皮肉な話ですが。

能力のある人間ほど、それが日常的に使われる環境を求めるものです。

ましてや管理局全体としては人手が足りず、さらに高ランク魔導師は更に希少だ。

 

だが、地上本部もあまり出番が無いと言っても、やはり凶悪犯罪に対処するため高ランク魔導師は一定数確保したい。

しかしそれに気付いた時にはもう手遅れで人材の流失は止まらず、年々犯罪の凶悪化も問題になっている。

 

ではどうするか。

簡単です。

 

”無いならば、造って持って来ればいい”

 

兵器運用の解釈を拡大して、事態に対応するため必要に応じて防衛兵器を適時運用する。

航行艦搭載兵器のアルカンシェルという前例もある。実に合理的です。・・・まぁ固定砲台にする意味は疑問ですが。」

 

 

 

―――しかし、それが日の目を見ることは、もう無いでしょう。

 

 

 

「・・・。」

 

「彼はもう、終わった人間です。

 

確かに彼は真面目で模範的な管理局員だったかも知れない。

確かに今まで彼の成した貢献は大きいのかも知れない。

 

 

―――だが彼は手段と目的を取り違えた。決して超えてはいけない一線を越えてしまった。

 

だから終わるんです。どれほど栄華を極めようとも。

 

 

忘れてはならない初志を忘れ、自ら穢した理想を理想と妄信して。

理想のために手を穢す事と、手を穢した事による理想は、同義のようで異なります。

 

・・・目的と手段とを履き違えた者の末路など、総じて悲惨なものです。」

 

「……――――――。」

 

「・・・。」

 

 

それまで黙って青年の話を聞いていた女性はおもむろに話し出す。

しかしそれは青年に話しかけているといった風ではなく、独白のような、記憶の向こうの誰かに話し掛けているような感じだった。

 

 

「私達は―――私とレジー坊やは、一体、何時どこで道を違えてしまったのだろうね・・・。

 

所属の違い、意見の違いはあるけれど、同じ局員として歩んでいく道の先は、共に同じだと信じていたのに・・・。」

 

 

返答が無いと思われた独白に、青年が答えた。

 

 

「―――僭越ながら、議長。

 

私にはゲイズ中将と議長の関係を知りません。

どのような過去があったのか。どのような志があったのか。

 

正直、余り興味もありません。

私はただ、私の身内(・・・・)に火の粉が降り掛からなければかまわない。

 

ただ、言える事があるとすれば一つだけ。

 

 

・・・議長。ミゼット・クローベル”統合幕僚会議議長”。

 

貴女はレジアス・ゲイズ”中央地上本部総司令”とちゃんと話し合ったのですか?

 

確かに互いの立場や機密が絡めばそうそう出来る事ではないでしょう。

ですが対等な土俵に立って話し合いましたか?互いの理想や胸中をさらけ出しましたか?

 

とてもではありませんが、私にはそうは見えません。

貴女は時空管理局統合幕僚会議の議長。序列で言えば最高評議会を除けば最上位だ。

 

そんな貴女が安穏と議長の席に座り、ゲイズ中将を信じていた?志は同じだと?

 

……それは余程、議長席の椅子のクッションが効いていたのでしょうね。」

 

「―――どうしてそう思うの?」

 

「・・・少なくとも私はレジアス中将の内職(・・)は兎も角、中将の今までの功績と地上守護の対する熱意には一定の敬意を払っています。

あまり関心が薄い私ですらそうなのです。他の管理局員はどうでしょう?

 

語り合っていればその様な功労者に、例え管理局の先達であろうと、・・・いや混迷の黎明期を知る先達だからこそ”レジー坊や”等と下に見た物言いなど、決して口が裂けても言えないでしょうよ。」

 

「・・・ふふ。そうね。その通りだわ―――。

 

言葉にしなくても、心が通じ合うなんて世迷言ね。

 

 

―――想いは言葉にしなければ、伝わらない。」

 

 

「……――――。そう、ですね。世迷言です。」

 

 

その言葉に何か思い当たることがあるのか。

青年は重いモノを呑み込むかのように、それを肯定した。

 

 

―――それっきり言葉は絶えた。

ただ静かに二人は沈黙を守り、ソファーに腰を沈めている。

 

 

青年は対面に座る女性―――ミゼット・クローベルに視線を向けた。

 

 

彼女はそれに反応する事無く。

ただ静かに、語ることなく目を瞑っている。

 

考え事をしているのだろうか。

それともいつか在りし遠き日々を想い起こしているのだろうか。

 

それは当人しか分からない。

 

 

しかしその姿は―――

 

 

 

”伝説の三提督”ミゼット・クローベル

 

 

今の時空管理局の体制の礎を築いたと言っても過言ではない、創設されたばかりで混迷の続く管理局の黎明期を支えた功労者の一人。

 

かつては次元の海を股に掛け、膨大な魔力と緻密な術式で、強力無比な魔法を自在に操った偉大な大魔導師(アークメイジ)

 

どこの次元世界を探しても知らぬ者はいない、歴史にその名を残すであろう偉大な先達の姿に、畏怖と尊敬の念を抱かぬものは居ないだろう。

 

今や老いてもなお、その存在感を示し続ける伝説の三提督の女傑。

 

 

 

だが、しかしその姿は―――まるで

 

 

 

 

 

―――まるで、疲れ果てた老婆、そのものだった。

 


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