その人は何処へいった?   作:紙コップコーヒー

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32.種は人知れず芽吹く

―――中央地上本部 地上本部総司令官執務室

 

 

 

 

 

ミッドチルダ首都クラナガン

 

世に名高いミッドチルダ式魔法発祥の地であり、次元世界経済や物流交流、外交政治の中心地である。

そんな中心地の一等地に居を構える、天を突き刺す威容を誇る、時空管理局ミッドチルダ中央地上本部ビル。

平時は首都クラナガンの治安維持を司り、また各管理世界に駐屯する管理局地上部隊の総括・総指揮を執る。

地上本部地下に設置される、最新鋭の大型魔導炉から供給される魔力により鉄壁の魔力防壁を誇り、さらに早期防空警戒システムに代表される防衛構築網システムにより、如何なる外敵やテロリストの侵入も許さない正に首都防衛の要。

 

 

―――その信仰(くうそう)は、わずか一夜にして脆くも崩れ去った。

 

 

 

『―――こちらは昨日、大規模テロの被害を受けた時空管理局ミッドチルダ地上本部の上空です。

施設の被害や負傷者の数、事件の詳細については未だ管理局側からの発表はありません。

事件直後に犯人らしき人物からの犯行声明が在った模様ですが、その内容については慎重な検討の後に公表すると広報部からの発表がありまし――――――

 

 

ガシャン!!

 

 

そのニュースは最後まで報じられる事は無く、レジアス・ゲイズの剛腕によってウインドウごと薙ぎ払われた。

鈍く響く重音と共に高級感のあるオーク材で作られたデスクに巌の様な拳が振り下ろされる。

堅く握りしめられた拳には、余りの憤怒と興奮で血管と筋が浮かび上がっている。

 

 

―――広域指名手配犯(テロリスト)によるミッドチルダ中央地上本部への侵攻

 

 

治安維持の象徴である地上本部の陥落。

在る筈のない事態。いや、在ってはならない事態。

一夜明けて、次第に事態の全容が明らかになって来た。

 

 

真っ先に制圧された、本来すべての地上部隊を指揮するべき中央指揮所。

莫大な予算を掛けて整備した防衛システム網は、数分の内にテロリストによりクラッキングされ無効化。

鉄壁を誇る筈の魔力障壁もガジェットによる負荷増大によりあっさり消失。現場の地上警備部隊はデバイスも無く迫り来るガジェットに右往左往し、辛うじて応戦した部隊も通信管制システムのダウンにより連携も取れずに各個撃破された。

重要機密である中央指揮所や地下魔導炉の位置、警備部隊の配置やタイムスケジュールなどの警備計画も外部に漏れていた事から、かなり深々度の機密も漏れている可能性もある。

 

嘗ては天突く威容を誇った中央地上本部ビルも、今では所々が損壊しており黒煙を上げて無様を晒している。

 

 

今まで自身が感じた事がない程の憤怒と憎悪に、レジアスは己が身を焼かれそうな感覚に陥る。

 

 

何故ッ!?何故こんな事に――――――ッ!!

 

 

もう事態はアインヘリアルの運用がどうのと論じている事態ではない。

 

ミッドチルダ中央地上本部へのテロリストの侵攻。

その電撃的な奇襲に地上本部は成す術も無く陥落。ろくに反撃も出来ず襲撃犯はまんまと取り逃がし、施設・人的被害も甚大。

事実上、管理局側の完敗だった。管理局地上部隊の面子は地に落ち、もう首都防衛隊長官としての責任問題に発展するのは間違いない。潜在的な政敵である本局の連中も喜々としてこの問題を論ってくるだろう。しかも当時は公開意見陳述会の真っ最中で、各次元世界の政府高官をテロの脅威にさらしたのだ。むしろ仕掛けられたテロの規模に比べて、各世界重鎮に何の被害がないのも奇跡みたいなものだ。

 

しかし真に問題なのはこの事ではない。

 

 

この予期出来ぬ筈のテロ事件を、予期して上申した(・・・・・・・・)部隊指揮官が居たという事が問題なのだ。

 

 

まだこれが誰も可能性が予期できないテロ事件だったならまだ遣りようがあるのだ。

一体誰が治安守護の要である中央地上本部ビルを襲撃すると予想できるというのだ。まだ各管理世界に駐屯する支部を襲撃するというのは、まだ情勢不安定な管理局黎明期に事例としては少ないが在るには在った。

それにしてもそれは管理局構想に反対する次元世界政府の正規軍との紛争という形であり、単独のテロリストによる本部襲撃というのは管理局設立以来初めての事だ。

 

本局の連中も首都防衛隊長官としての責任問題を追及してくるだろうが、それよりも管理局としての面子を汚された事の方が重要で、ジェイル・スカリエッティの捜索に血眼になるだろう。

ある程度地上本部としても本局に対して予算配分や権限拡大などの譲歩が必要だろうが、こちらは本局幹部連中の弱みや貸し、なにより最高評議会がバックに就いているのだ。

幾らでも遣りようはあるし、傷口を最小限に抑える自信がある。

 

 

だが、もしも事件発生が予期されていたのならば

 

テロ発生の可能性を示唆したのが、それがよりによって本局所属(・・・・)の部隊だったのなら

 

しかも幾度となく上申された警告を、地上本部側が本局との確執を理由に、報告書を軽視して握り潰したのならば―――

 

 

ミッドチルダ中央地上本部は、阻止出来たかもしれない大規模テロ事件を見逃した大間抜け野郎という事になる。

おまけに昨晩の混乱の中で唯一組織的に対応したのが、警備の隅に追いやった筈の機動六課の小娘共とは……。

 

 

この事が公になれば、首都防衛隊長官及び管理局地上本部総司令官の職を解かれるだけでなく、更迭の上に予備役編入……最悪の場合は査問委員会で裁判に掛けられる可能性まである。

事実、本局の連中がこの事を嗅ぎつけ、レジアス・ゲイズ中将の警備体制が不十分だった事がテロ発生の原因だとして、緊急査問委員会を招集しようとする動きがある。

 

 

尻で提督椅子を磨くしか能がない本局の愚か共めがッ!!

首都クラナガンを、ミッドチルダの平和を護って来たのはこのワシだッ!!

このワシが護らないで、一体誰が地上の平和と市民の安全を護るというのだッ!!!

貴様らの思うようにさせて堪るものかッ!!

 

 

レジアスの厳めしい凶相が、憤怒と憎悪でさらに歪み、雷鳴の様な怒声が執務室に響き渡った。

 

 

「何故だ!何故こんな事態になっているッ!?

 

 

――――――あの男はッ!!あの男に連絡はッ!?」

 

 

レジアスは側に控える神経質そうな部下――不正規作戦・計画管理担当官――を怒鳴りつけた。

いかにも気の弱そうな小役人風の部下は、殺気を帯びたレジアスの形相に慄きながらも、なんとか徹夜で調べた調査結果を報告する。

 

 

「か、回線が変えられています。け、研究所ももぬけの殻で……ひッ!?」

 

 

部下の報告はレジアスの”机よ、砕けよ”と言わんばかりに叩きつけられた拳で中断させられた。心なしかデスクが凹んでいる。

レジアス自身、スカリエッティ直通の盗聴防止秘匿回線がアクセス不可になっている事を確認し、怒りのあまり奥歯がぎりりと不協和音を鳴らす。

 

 

何故ッ!

 

何故何故何故ッ!!

 

何故だッ!?ジェイル・スカリエッティッ!!!

 

何故今になってワシをッ!管理局(われら)を裏切るッ!?

 

 

ここまで十分に重用して来た筈だッ!!―――なのに何故ッ!?!?!?

 

 

 

「―――オーリスはどうしたァッ!?」

 

「い、今は対策(・・)に駆け回っております。警備部隊と関係者に順次相談を。」

 

 

――――――対策

 

対策は対策でも、テロ事件やスカリエッティ追跡の対策ではない。

それならば今更、陳述会警護担当の警備部隊と順次相談する必要など無いのだから。

 

それは中央地上本部への責任問題を回避する目的の対策だ。

担当警備部隊の責任者と事件当時の”認識”を擦り合わせる事で、『当時、中央地上本部の警備体制は万全であり、事件は卑劣なテロリストによる予測不可能で不幸な事例』と非難を回避する事が目的なのだ。

 

……だがそれも時間稼ぎにもならない。

 

 

「そ、それと先程、管理局理事会より連絡がありました。

 

……中将閣下への緊急査問のため、査問委員会が招集されるそうです。同時にアインヘリアルの運用に関しても。」

 

「緊急事態は継続中だッ!!査問など引き延ばせ!!

あの男の掌で踊ってたまるものかッ!!事態を動かしてきたのは常にワシだぁッ!!!!!!!」

 

 

―――査問などッ!!

査問に掛けられ、委員会の調査が進んでしまえば……スカリエッティとの繋がりを知られてしまえば身の破滅だ!!

 

激情に駆られ、思わずデスク上のモニュメントを壁に叩きつける。

甲高い音と共にガラス製のモニュメントは砕け散った。その狂気にも似た激情に部下は震え上がる。

 

 

「―――歯向かうのなら全て叩き墜とすまでだ。」

 

 

一刻も早く、あの男を捕えなければならない。

奴の口を封じてしまえば、管理局(われら)と奴を繋ぐ糸口は切れる。後は査問会などどうとでもなる。

子飼いの管理局理事会の常任理事共があの方々(・・・・)の意向に逆らえるはずもない。

 

長年、本局の連中が取り逃がしてきた奴を捕えた功績と、鹵獲した戦闘機人プラントを元にワシが地上の平和を守護するのだ。

 

 

―――誰にも邪魔はさせん。

 

それは本局、理事会、機動六課、聖王教会も例外ではない。

立ち塞がる者は誰であろうと容赦せん。

 

 

―――ジェイル・スカリエッティめ。この裏切りのツケは高くつくぞ…っ!

 

 

「継続して奴の足取りを全力で追え。必要なら貴様の不正規戦部隊を動かしてもかまわん。」

 

「それですとかの御三方(・・・・・)の警護任務に支障が生じますが……」

 

「構わん。

元々あそこはどの機密情報にも記載されていない存在しない区画(ブラック・エリア)だ。警護は二個小隊あれば良い。

 

それよりも必ず本局の連中より……機動六課の小娘共よりも先に奴を捕捉しろ。

あらゆる支援は惜しまん。結果を出せ。

 

 

……出せなければ―――分っているな?」

 

 

部下の喉がごくりと大きく鳴る。

先程までレジアスが怒鳴り散らしていただけに、一言一句押し殺すように出された命令に背筋が凍る。

任務に失敗した非合法作戦担当官など、下手に口を割らぬように闇から闇へ……悲惨な最期を迎える事は間違いない。

己の暗い未来に思わず気が遠くなる。

 

 

「ぜ、全力にて取り計らいます。……そ、それと、とり急ぎご確認頂きたいものが…」

 

「なんだッ!!」

 

「昨日、中央地上本部に向かおうとしたアンノウンの映像です。

航空魔導師が迎撃に出て水際で侵入を阻止しましたが、この男は――――――」

 

 

レジアスはその言葉を最後まで耳に入れる事は無かった。

 

映像に映ったその男に、その騎士の姿に目が離せなくなる。

あの頃とは髪色が異なり、その風貌はやつれてしまっているが、その姿を。その武の冴えの輝きを見違える筈もない。

 

 

なぜ。

 

なぜだ?

 

 

なぜ今になってお前が――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

   ほぅら。後ろを見て御覧、レジアス・ゲイズ

 

 

   過去に置き去った筈の罪 / 理想が貴様を追い立てる

 

 

 

   運命がひたひたケタケタと、嗤いながら忍び寄ってきているのが聞こえるか―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▼その人は何処へいった?

 

「種は人知れず芽吹く」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――クラナガン首都郊外 聖王教会傘下 聖王医療院

 

 

 

 

首都郊外にある聖王教会が運営する聖王医療院。

そこは周囲を穏やかな山々と豊かな自然に囲まれた場所にある。

時空管理局が運営する高度な先端医療が受けられる先端技術医療センターとは比べるべくもないが、それでも十分な先端医療と福祉サービスが受けられる。

 

そこには昨日の機動六課隊舎襲撃によって負傷した隊員が収容されている。

本来、管理局員である機動六課の部隊員が、聖王教会傘下の病院にいるのはすこし不自然な事ではあったが前例が無かった訳でもなく、逆に快くベットが提供されていた。

 

 

「さて?まずはどこから話したもんかな……。」

 

 

その医療院の一室。恐らく面会者用の談話室だろうか。

目の前のソファにずらりと並ぶ機動六課の主要な隊長陣を前に、第108部隊長であるゲンヤ・ナカジマ三佐は疲れた様な笑みを浮かべた。

ゲンヤは前に置かれている湯呑をすすり、大儀そうにソファにもたれ掛った。

視線を横にずらせば幾つもの空間ウインドウがオンラインで並び、重傷で病床を離れられない機動六課隊員達の病室に繋がっている。

 

その中にある一際目立つウインドウに、本局で強い影響力を持つ”海の若き英雄”クロノ・ハラオウン提督と、管理局理事会常任理事官の肩書も持つ事聖王教会騎士団所属の”予言者”カリム・グラシアの姿もあった。

 

クロノが口火を切る。

 

 

『三佐が追っていらした戦闘機人事件からでしょうか。』

 

「できればスバルやギンガの事、それに奥さまの事についても……。」

 

「――――――あぁ。」

 

 

フェイトのその言葉に、ゲンヤはどこか遠い目をしている。

その時の情景が今でも鮮明に思い出せるのだろうか。

 

妻との結婚。

二人の愛娘が初めて家に来た日。

 

最愛の妻が手の届かぬ場所に逝ってしまった日の雨音。

 

棺に添えられた葬送の白百合の花―――。

 

 

込み上げて来る何かを抑え込むかのようにゲンヤは語り始めた。

 

 

「―――戦闘機人の大本は人型自立戦闘機械。これは随分古くからある研究でな。

古くは旧暦の時代からだ。人間を模した機械兵器……。全天候・全状況対応を謳い文句に、幾つもの世界で色々な形式で開発はされて来たが、ユニットコストが馬鹿高くさらに実戦に耐えうる兵器はあまり多くねぇ。

 

……それがある時期を境に劇的なブレイクスルーを迎えた。25年ばかり前の事だ。」

 

『機械と生体技術の融合事態は特別な技術じゃない。

人造骨格や人造臓器は古くから使われている。ただ……。』

 

『足りない機能を補う事が目的ですから強化とはほど遠く…。

拒絶反応や長期使用に置けるメンテナンスの問題もあります。』

 

 

ゲンヤの言葉を補足するようにクロノとカリムが説明を入れる。

ここまでは少し医療問題の教養がある人間ならば誰もが知っている事だ。

説明を聞いていた隊員達の何人かは人造臓器移植などの問題点などを知っていたのか頷いている。

 

だが、次のゲンヤの言葉を聞いて凍りついた。

 

 

「だが戦闘機人はな。素体となる人間の方を弄る事で、その技術的問題を解決しやがった。」

 

 

当然といえば当然で、非常に効率的で経済的な解決方法。

しかし、そのあまりに生命倫理を無視した非人道的な解決手段に、話を聞いていた隊員達は凍りつく。

隊長陣を含む何人かは、その技術に因縁があるのか。その美貌を険しく歪めている。

臓府から絞り出すように、フェイト・テスタロッサ・ハラオウンは険しい表情で語った。

 

 

「……受精卵の段階で戦闘機人のベースとなるよう、機械の身体を受け入れられるよう調整されて生まれてくる子供達……。

 

それを生み出す技術を…あの男は造り出した。」

 

 

いつも穏やかに笑みを湛えるフェイトには似つかわしくない、怒りとも怨嗟とも取れる声色に、ジェイル・スカリエッティと彼女の因縁を知らない者達は驚きの眼差しをフェイトに向けた。

 

 

「11年前、まだジェイル・スカリエッティなんて男が関わってるなんて知らなかったが、ウチの女房は陸戦魔導師として、捜査官として戦闘機人事件を追っていた。

違法研究施設の制圧、暴走する試作機の捕獲。

 

……スバルとギンガは事件の追跡中に女房が保護した戦闘機人の実験体なんだ。

 

ウチは子供が出来なくてな…。二人とも髪の色や顔立ちが自分に似てるしってよ。」

 

 

まぁほんとにウチの女房の娘だと知った時はひっくり返ったが……。

 

 

「はぁ…。兎も角、俺達の娘として、人間として育てるって言い出した。技術局でのメンテだの検査や研究協力だの多少はあったが、二人とも実に普通に育ったよ。

 

―――女房が死んだのは、あいつらにそれなりに物心が付いた頃だったよ。

特秘任務中の事故だとかで死亡原因も真相も未だに闇の中だがな……。女房はどっかで見ちゃいけねぇモノを。踏み込んじゃいけねぇ場所に踏み込んじまったんだろうと思ってる。」 

 

 

ゲンヤはどこか悔しさをにじませる声で語った。

それは妻を奪った原因を突き止められなかった、仇を取れぬ自信の無力さに対する悔しさ。

 

その仇が今度は娘達に牙をむく事になろうとは。

ここまで悲劇的だと、もう運命(フェイト)の悪趣味さを笑うしかない。

 

 

「命を捨てる覚悟で事件を追っかけりゃよかったんだが、女房との約束でな……。

ギンガとスバルをちゃんと育ててやるってな。だがまぁずっと地道に調べちゃいたンだがな。そのうち告発の機会も在るかも知れねぇってな。

 

八神やぁ自分とこの事件に戦闘機人が絡むって予想して俺に捜査を依頼して来た訳だ。あのチビ狸わよ。

 

ま、ウチの女房と娘達についてはこんなとこだ。」

 

 

そう語ると、ゲンヤはふんと鼻を鳴らして湯呑をあおった。

チビ狸と呼ばれ、あまりにはやてのイメージと一致したのか、なのはやフェイトはおろか守護騎士達まで苦笑を浮かべた。

 

ゲンヤは湿っぽい過去話を切り上げ、本来話し合おうべき事柄について話を戻した。

 

 

「お嬢。合同捜査についてだが『その前に少しハラオウン提督にお伺いしたい事があるのですが。』

 

―――ってお前さんは……」

 

 

上官同士の会話に割り込んできたのはグリフィスだった。

全身の所々にガーゼを張り、包帯を巻いている姿は痛々しいが、その眼差しは険しく凄惨に輝いている。

割り込んだグリフィスを叱ろうとしたヴィータもその鋭い視線に言葉を呑みこんだ。

いつもなら真っ先に叱りつけるであろうシグナムも、何故か今回は静観し目を瞑って腕を組んでいる。

 

 

『グリフィス・ロウラン准陸尉であります。三等陸佐殿。

機動六課で部隊長補佐と交代部隊の責任者(・・・・・・・・)を務めております。』

 

 

ゲンヤは自身で判断できる事ではないと考えたのかクロノに視線を向けた。

水を向けられたクロノは、今まで見た事のない幼馴染みの眼差しに緊張した様な。―――いや、来るべき時が来たという覚悟が見える。

 

 

『グリフィス……。構いません、三佐。

 

それでグリフィス―――いや、ロウラン准尉。何が聞きたい?』

 

『―――迷子あちら二尉の事です。』

 

 

そのグリフィスの言葉に今度こそ部屋の空気が凍りついた。

 

 

【迷子あちら二尉】

 

多数の重傷者を出した機動六課襲撃戦で唯一の戦死者。

機動六課主力部隊が出払っている中、六課を警備していた交換警備支援分隊イプシロンと共に戦闘機人一体を撃破。

しかし代償にイプシロン分隊は壊滅。迷子あちらもその時の負傷が原因で大量出血により心肺停止、KIA(戦闘中死亡)。二階級特進により臨時三尉から二尉に昇格した。

 

現在、迷子あちらの遺体と重傷を負ったイプシロン分隊員達は、機動六課とは別の中央地上本部管轄の病院に収容されている。

 

 

『……今思い返せば、彼の六課出向は不自然な点が多々有りました。

司書長推薦による不自然な出向。予め用意していたかのような、異様に早い人事部の移動受理手続き。それにあちらさんの白紙にされた経歴。』

 

『つまり迷子あちら二尉があやしい、と?』

 

『―――違うッ!!あちらさんと曹長は私の拙い指揮を信じて最後まで戦ってくれたッ!!

そして約束通りライトニング到着まで時間を稼ぎ死んだッ!!曹長も重傷で意識不明だ!!

 

ならば今度は私がその信頼に応える番だッ!!その為にも彼が何の目的で機動六課に来たのかを確かめたいッ!!

 

実験部隊である機動六課の人事裁量権は、本局人事部長でるレティ・ロウラン提督の認可と、後見人である貴方達の承認無しには効力を発揮しないそうですね…。

貴方はあちらさんが六課に送り込まれて来た本当の目的を知っているはずだッ!!』

 

 

いつもはどんな時でも冷静沈着なグリフィスが声を荒げて激する姿に、幼馴染みであるシャーリーも驚愕の表情を浮かべている。

 

 

『機密だ。君には知る権限が無い。ロウラン准尉。』

 

『嫌だね。知っている事を全て話せ。クロノ。』

 

 

クロノは何の感情も浮かばない顔で。

グリフィスは苛烈な想いを胸に秘めた顔で。

 

 

『……俺がそれで話すとでも?グリフィス・ロウラン。』

 

『……話すさ。お前はそういう男だ、クロノ・ハラオウン。』

 

 

二人はウインドウ越しに睨み合う。

じかに面と向かって相対している訳では無いにもかかわらず、談話室の空気は重苦しく息苦しい。

 

誰かの喉がごくりと鳴った。

 

 

 

『―――本局上層部が迷子あちらに求めた役割は”撒き餌”だ。』

 

 

 

「……撒き餌?―――まさか…クロノッ!?」

 

 

執務官であるフェイトはその言葉の意味の裏側を推察し、その陶磁器の様に白い顔色を青褪めさせ叫んだ。

他の面子も意味が分からないながらも、その言葉の持つ不吉さに背筋を凍らせる。

努めてクロノは淡々と、機械的に言葉を紡いでいく。

 

 

『……秘匿名称”ディナーアウト”。

機動六課運営に支障を来すであろう地上の謀略や悪意を、すべて彼一人に集中させる事で機動六課の機能健全化を図る事が作戦趣旨だ。

司書長推薦の胡散臭い男が地上の何か(・・)を調べ回っているんだ。否が応でも彼の動向に注目が集まり、真面目にレリックを追っている六課の注目は薄れるだろう。

その間に八神はやては予言を阻止し、その過程で偶然(・・)捜査線上に浮かび上がった”悪の首謀者レジアス・ゲイズ”を本局所属の六課が逮捕する。

 

―――そして本局は地上本部の力を削ぎ、一つクラナガンに影響力という名の明かりを灯す。』

 

 

その余りに身勝手な人を人とも思わぬ傲慢な計画に、権力闘争に疎い者達は異星人の言語を聞いている気分になる。

とても同じ人間が考える事とは思えない。

 

 

『本局が機動六課設立の為の予算を景気良く出してくれたのもこの動機が大きい。

いくら数多のエースが属する精鋭部隊とはいえ、普通はたかだか一年で無くなる実験部隊の為に隊舎を新築したり、数が少ない最新鋭の立体投影演習場を新設したりはしない。

 

本局が期待したのは予言阻止は勿論の事だが、一番の狙いはレジアス・ゲイズ中将を失脚させる事だ。』

 

 

若手のフォワード・メンバーがこの場に居ない幸運に感謝するべきだろう。

幼い頃から捜査現場を駆け回り現実の生々しさを知ったなのはやフェイト、経験豊富な歴戦のシグナムやヴィータは兎も角、この話は未だ管理局の理想に純真な人間が聞くには毒が効き過ぎている。

事実、あまりそういう経験の無い技術職や後方勤務の隊員達は、現実の裏の陰湿さに顔が青褪めている。

 

 

『無論、ゲイズ中将ももし六課がレリックでは無く戦闘機人事件を探っていると分かれば、ありとあらゆる手段を使って機動六課の捜査活動を妨害して来ただろう。

はやては優秀な捜査官だが、その手の政争の経験は余り無い。本局はそれを危惧した。

分水嶺を見誤ると地上本部がもっと直接的な最終解決方法(・・・・・・)を選択する可能性もあった。実際、戦闘機人事件を捜査していたクイント・ナカジマ捜査官を始めとする、多くの捜査官や執務官達が不可解な事故や急病により殉職している。

 

その点、迷子あちら二尉は期待以上の成果を上げてくれた。

中央地上本部の意識を六課に向かぬよう撹乱しつつ、さりとて暴発しない様に適度に捜査情報を流して見事に状況をコントロールした。

 

本局上層部もおおよそ結果に満足している。

おかげで地上の横槍もほとんど無く、六課のレリック及び戦闘機人の捜査も捗った。

レジアス・ゲイズの逮捕も時間の問題だろう。すでに査問委員会から召喚状も届いているはずだ。

 

そこに昨夜の大規模テロだ。

あれだけ大口叩いていた中央地上本部が成す術も無くテロリストに好き勝手にやられて、本局上層部はもう政敵(りく)の凋落ぶりに笑いが止まらないのさ。

もう予言は終わったと言わんばかりに、レジアス・ゲイズ中将失脚後の首都防衛長官職と中央地上本部総司令ポストについての新人事案について話し合っているよ。

次の首都防衛長官は適当な陸の将官から親本局派の人物が選ばれるだろう。』

 

「……―――クロノくん。」

 

 

まるで穢い反吐をぶちまける様に、上層部の愚かさを嘲笑いながらまくし立てるクロノ。

なのはは声を掛けるが、そのクロノの自嘲にも似た表情の奥に見え隠れする激しい後悔と自責の念に何も言えなくなる。

 

―――なによりクロノは、クロノ・ハラオウンが許せない。

 

 

『―――言い訳はしない。

どの様な理由があろうと、俺はこの作戦を止める事が出来なかった。』

 

 

むしろ、事の発端は図らずともクロノ・ハラオウン自身にあった。

 

多大な権限を持つ総務統括官の要職に就く母に持ち、自身も若い頃から数々の功績を挙げて来た”海の若き英雄”の求心力を目障りと感じる者達が、予言阻止の功績が独占される事を恐れて機動六課設立に関して横槍を入れてきたのだ。

 

些細な嫉妬から始まった稚拙な横槍は、中央地上本部の特別背任及び違法研究の疑いが監査部から報告された事も合わさって、いつの間にか複雑怪奇な利権が絡む魑魅魍魎の巣食う派閥争いへとシフトした。

 

レジアス・ゲイズ失脚に伴うポスト争い。

予算の捻出。人員編成。部隊長の任命―――誰に火中の栗拾いをさせるか。

話は拗れに拗れ、このままでは予言の阻止はおろか、機動六課設立まで危ぶまれた。

 

 

刃の上を踊る様な、緊迫した駆け引きの上に合意した結果―――

 

 

部隊長の任命権、部隊員の選出及び予算編成の一任。

しかしもし仮に事が露見した場合、機動六課は切り捨てられ本局は一切関知しない事。

全責任はリンディ・ハラオウン総務統括官とクロノ・ハラオウン提督が負い、成功した場合は利益は均等に反映される事。

 

 

―――そして保険を一つ掛ける事。

 

 

本局の貴重な予算を割くのだ。火中の栗はしっかりと持ち帰ってくれなければ困る。

万が一、陰謀や暗殺などにより六課が機能不全になる事態は何としても阻止しなければならない。

管理局システム崩壊の予言が成就してしまっては元も子もないのだから。

 

機動六課の狙いに気付かれぬよう、地上の注意をひきつける”撒き餌”が必要だ……。

 

無論、非人道的なこの作戦には反対意見が出た。

しかし―――。

 

幼い頃からの友人達の安全。

中央地上本部の暴発。管理局システムの崩壊。

それによる治安悪化と高まる次元世界間の政治的緊張。再燃する火種。

10000人の犠牲と1人の犠牲。多数対少数。

生命の境界線。

 

 

その全てを天秤にかけ。

 

 

―――そうして、非公式な作戦は承認された。

 

 

 

「―――クロノ……。」

 

『……軽蔑したか?フェイト?

 

誹りは甘んじて受けよう。―――ハハハ、これじゃあグレアム提督の事を偉そうに言えないな…。』

 

「あちらは自分が囮役にされている事を知っていたのか?」

 

『シグナム…。―――あぁ、彼は知っていた。知っていて引き受けてくれた。

ホテル・アグスタでオークションがあった日、本局には報告せずに監査部のヴェロッサ・アコースとユーノ・スクライア司書長が、彼に機動六課に出向させた訳を説明した上で謝罪しさらに協力を願った。』

 

「選択の余地は無い様に見えるがな……。」

 

『断られていれば、すぐに手続きミスという形で出向を取り消したさ。その後は本局の干渉が無い海鳴に移送する手筈だった。

 

……だが、彼は分かっていたのかも知れないな。自分が断れば、また違う誰かが選ばれると。

 

俺達は引き受けた彼にせめてもの手助けをと、上層部には秘密に一枚のディスク(・・・・・・・)を渡した。』

 

「―――ディスク?」

 

『本局査察部が長年にわたり収集し、無限書庫最奥部で極秘裏に保管されていた膨大な調査データだ。そこには表沙汰に出来ない管理局の秘密。地上や本局は勿論、航空隊の将官、クラナガンの政治家のスキャンダルが記録されている。―――それを彼に提供した。

 

俺は初め、新たな火種に鳴りかねないそれの供与を渋ったが、ユーノは”彼は絶対使い道を誤らない”と聞かなくてな。

……事実、彼はそれを上手く使っていたようだ。』

 

 

深い、本当に深い息を吐き出してクロノは呟いた。

 

 

『―――彼がそれを悪用してくれれば良かった。

そうすれば、無関係の彼を謀略の海に突き落とした罪悪感も少しは薄れただろう。』

 

「随分、身勝手な物言いだな。」

 

『……あぁ。自分でもそう思うよ…。

 

だが彼は最後まで機動六課を守る為に行動してくれた。

地上はおろか、六課にちょっかいを掛けようとした本局連中からも守ってくれた。

 

そして昨晩、迷子あちら二尉がヴィヴィオを庇って殉職した事を知り、……俺は彼に許しを請う機会を永遠に失った事を知った。』

 

 

談話室が静寂に沈んだ。誰も一言も発しない。

 

そこに一つ、溜息が響いた。

 

グリフィスだ。

そこには先程まで感じられた激情が感じられず、どことなく呆れた雰囲気が漂っていた。

 

 

『……成程。あちらさんが何処からミサイルコンテナを調達して来たのか分かった様な気がします。』

 

「あぁ。戦闘機人に向かってミサイルぶっ放したんだって?」

 

『あまり大きな声で言いふらさないで下さいよ。

公式報告には敵攻撃による教導資料の誘爆って事になってるんですから。

 

現役局員が質量兵器使用なんて、バレたら一発で懲戒免職ですよ。』

 

「まぁそう言うなよ。なかなか出来る体験じゃないぜ?

レティ提督にでも自慢してみたらどうだ?羨ましがられるかもしれないぜ。」

 

『何を馬鹿な事を。母がそんな事を言う訳―――無いと言えない所が怖いですね。』

 

「運用部時代、色目使った上司(ハゲ)を大型質量兵器の発射管に詰めてやるって息巻いてたからな。」

 

 

……なにか空気がおかしい。

先程までの緊迫した雰囲気が嘘のように消失してしまっている。

事の推移に着いていけないクロノとゲンヤは怪訝な表情だ。

 

 

「―――はぁ…。ヴィータもグリフィスも最後までやってよ…。」

 

『……どうなってる?』

 

『どうもなにも。こう言う事ですよ。

貴方は普通に聞いても答えてくれそうにありませんからね。

こうして一芝居打たせてもらいました。』

 

 

クロノの疑問にグリフィスが答える。

周囲を見渡してみると、確かに誰もがしてやったりという表情を浮かべている。

……ゲンヤは事情を察したのか、苦笑いしている。

 

 

『なぜ?怒っていないのか?』

 

 

 

「怒っているに決まってるでしょ?」

 

 

 

にっこりと笑いながらも底冷えする声を出す義妹に、クロノは唾を音を鳴らしてを呑みこんだ。

 

 

「あちらさんもあちらさんだよ。こんな大事な事黙っているなんて……。

頼りないかもしれないけど、機動六課のみんなが信頼されてないみたいで腹立たしいよ……。」

 

「まぁそう言ってやるなテスタロッサ。

あの男は我らを無用な危険に巻き込みたくなかったのだろう。でなければ命懸けで抗うものか。」

 

『―――どうしてだ?』

 

 

―――どうしてそんな顔でいられる?

その皆に信頼されていた迷子あちら二尉は謀略に巻き込まれて死んだんだぞ?

もう俺は彼に会う事はおろか、謝る事も出来ない。

 

その事実に押し潰されそうなのに……。

なのに、どうしてそんな真っ直ぐな目をしていられる?

 

 

その言外の真意を察したように、なのははクロノに微笑んだ。

 

 

「―――信じてるから。」

 

 

その笑みには悲壮感はおろか、負に類する感情は一切ない。

ただ、迷子あちらという人物に対する信頼と、その魂に宿る爛々と輝く不屈の心があった。

 

―――彼女はまだ何も諦めていないのだ。

 

 

「あの人は約束を破らない。そういう人。

だからヴィヴィオとの些細な約束を守る為に命懸けで戦ってくれた。

 

ヴィヴィオのお家を見つけてあげる事……。

その約束を、彼はまだ守り続けている(・・・・・・・)

 

そう信じ続ける(・・・・・・・)。」

 

『なのは……。』

 

 

妄想?妄言?現実を正しく認識していない?笑いたくば笑え。

あのお人好しの兄貴分が、ヴィヴィオを泣かせるような真似をする筈がない。

 

あちらさんが私達を信頼してくれたように、今度は私達があちらさんを信頼し続けてやるの(・・・・・・・・・)

 

 

「あちらさんが殉職?ヴィヴィオが攫われた?ジェイル・スカリエッティ?

 

―――はッ!上等なの。

そんなもの一切合財まとめて吹き飛ばす。

 

あちらさんは必ず生きている。

ヴィヴィオは絶対に助け出す。

 

そしてジェイル・スカリエッティには今までのツケを払わせる。」

 

『……つまり?』

 

「スカリエッティが、泣くまで、撃つのをやめない。」

 

 

そうして、どこか精悍さを感じさせる獰猛な笑みを浮かべるなのは。

その笑みは、例え小太刀二刀御神流の業を受け継がなくても、確かに彼女が不破一族の末裔である事を示す何よりの証。

 

そのあまりな言い様と笑みに、静かに話を聞いていたゲンヤは自分が彼女を侮っていた事を悟る。

そして耐え切れなくなったように、心底愉快気に笑い出した。

 

 

「――――ぷ。ふ、ふふ。あっはっはっはっは!!

そうかそうか!!ツケを払わせるかッ!!こりゃいい!!はっはははははははは!!!

 

そういえば忘れていたな!お嬢は九歳から現場に出ていた叩き上げの本局武装隊員(マリーン)だった!!

あぁ、今まで可愛い顔した箱入り(エリート)だと馬鹿にして悪かった!もう二度と『お嬢』などとは言うまい!!

 

アンタは。いや、貴官はもう立派な時空管理局員だ!高町なのは一等空尉殿ッ!!!

あはははははははははははははははははははははははッ!!!!!!!」

 

 

―――”エース・オブ・エース”

 

その異名はその麗しい容姿や絶大な魔力量を指しているのではない。

決して曲らぬ、折れない不屈の精神と果断な行動力。常に人々の先陣を切り、輝き魅せるその彼女の在り方を指す言葉なのだ。

 

 

「ま、確かにあのあちらが死ぬ姿なんて想像もつかないしなー」

 

「確かに。あの男を知る人間からすれば、死んだと聞いても鼻で哂い飛ばすだろうな。

例え大規模次元崩壊が起きてもケロリとして茶を啜ってそうな奴だからな……。」

 

『だが、ちゃんと彼の死亡診断書が出ているぞ。

書いた医師も管理局の医務官で偽装の可能性は考えにくいが?』

 

 

ヴィータとシグナムの言葉にクロノが疑問を投げかける。

だが、ヴィータはその言葉を鼻で笑った。

 

 

「ハッ!ならあちらの遺体をその眼で見たのか?

そもそもどうしてあちらとイプシロンの連中は地上管轄の病院へ?なぜ情報が降りてこない?

 

地上の嫌がらせとも考えられるがどーも胡散臭せぇ。

そして、迷子あちらつぅ奴はな。そういう胡散臭い(・・・・・・・・)のが大の得意なんだよ。

 

本局のジジイ共はすべて自分の掌の上だとほくそ笑んでるみてーだが…、

 

一体何を敵に回したか(・・・・・・・・)わかってんのか?」

 

「あの男の事だ。

 

”計画が上手く行ったと喜んでいる奴らの目の前で、全部ひっくり返して台無しにしてやるのがいいんですよ”

 

と言う姿が目に浮かぶようだ。」

 

「言えてるぜ。

普通、ドラマとか映画ならここで上層部の腐敗を嘆いて管理局の改革を誓う場面なんだろうが……

一年分のアイスを賭けてもいい。絶対、寿命とか運とか毛根の数とか預金通帳の残高とかが知らない内に減ってるぜ?」

 

 

その不穏な話をまるで世間話でもするかのように話すヴィータとシグナム。

会話の内容は荒唐無稽で、出来の悪い喜劇のようなのに、はやてを除くけば六課で一番多くあちらと過ごした副隊長同士の会話は、妙に生々しく現実味を帯びて説得力のあるものになっていた。

 

なのはやフェイト、グリフィスの脳裏に演劇の舞台裏で高笑いするあちらのイメージが浮かぶ。

……洒落にならない。絶対何か大事になる。

 

ぽかんとヴィータ達の話を聞いていたクロノは、やがて本当に小さくクスリと笑った。

 

まだ彼女らと彼が出会って半年しか経っていないはずだ。

なのに一体どうすればこの様な信頼関係が出来上がるのか……。

 

道理を曲げてでも彼が生きていると信じるその関係に若干の羨ましさを感じた。

 

 

『―――本当、一度彼と会ってみたいものだ。』

 

 

クロノはそう小さく呟き。

そうして先程から一言も話さないカリムの横顔を怪訝そうに窺った。

会話には参加せず、ただ静かに眼前に置かれた紅茶の波紋に視線を落としていたカリム。

 

クロノが心配気に見つめている事に気が付いたのか、カリムは顔を上げて視線を重ね合わせ……

 

 

『―――本当に、どの様な方なのかしらね?』

 

 

そして、カリム・グラシアは微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

=====《MNN News Online》=====

 

 

【TOPICS】政治・社会

◇特集;中央地上本部へ大規模テロ

    背景に強大な資金力と技術を持つ組織の陰か?

 

 

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 『公開意見陳述会を狙った犯行か 高まる次元世界の緊張』

NS75/9/16

 

【クラナガン=共同】テロ発生から数日たったが、未だ事件解決の糸口は未だ見えていない。テログループの首謀者と目されている人物から地上本部襲撃に際し、犯行声明を発表したとの未確認情報があるが、地上本部は非常事態を理由に未だにその詳細の公開を拒んでいる。

 

 12日にミッド地上本部を襲った大規模テロは、同日に行われていた公開意見陳述会を狙った犯行だという見方が強まっている。しかし、なぜ警備が厳重なはずの中央地上本部を襲ったのか。そもそもなぜ短時間に地上本部は正確に制圧されてしまったのか。疑問は多く残る。

 

 国際関係に詳しいシンクタンク所長は匿名を条件にこう語った。「各世界の政府要人を狙ったテロ行為とも考えられる。しかし反体制的なテロ活動と考えると多くの謎が残る。EWAD(早期警戒防空網)へのクラッキングやHQの無力化の手際は、明らかに一介のテロ組織には行えない事だ。明らかに旧暦時代の物ではない、新型UAV(無人航空機)が大量に投入された事を考えると、相当な資金力と技術開発力を持つ組織という事になる。はたしてそんな組織が秘密裏に存在し得るのか?甚だ疑問だ」

 

 彼はさらにこうも指摘した。「もし仮に出来る可能性があるとすれば、それは各次元世界の政府機関、もしくはそれに準じる組織だけだ。」

 

 それを裏図ける様な証言もある。中央地上本部所属の捜査官は口を濁しながら「容疑者の絞り込みは終わっている。後は居場所を特定して踏み込めばいい。問題なのはその軍事開発費並みの莫大な資金や局の機密情報をどうやって彼が手に入れたかだ」とインタビューに答えた。

 

 今回の大規模テロ事件がただ単なるテロ組織の犯行ではなく、背後にちらつく強大な力を持つ組織の陰に、クラナガンや各世界の政府関係者は”よくある陰謀論”と鼻で笑いながらも、互いの動向に神経を尖らせている。

 

 地上本部と本局はこの難局を合同捜査本部設置という協力態勢で乗り切ろうとした形だが、両者の長年の確執はそう簡単なものでは無いらしく、早くも合同捜査本部は暗礁に乗り上げている。さらに、首都防衛隊代表であるレジアス・ゲイズ中将への防衛責任を問う声もあり、査問委員会は中将を証人招致する方向で調査を開始している。

 

 時空管理局は創設されてから今年で75年目を迎える。創設から質量兵器や古代遺失物によるテロリズム、次元世界間の紛争調停や民族自治問題、次元震などの未曾有の大次元災害など、様々な難題に立ち向かってきたが、今こそその真価が問われようとしている。

 

 

 

 

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11時08分 更新

 

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