その人は何処へいった?   作:紙コップコーヒー

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5.迷子と常識人

「ご利用ありがとうございましたー」

 

 

現在、私はバイト中です。

何のために?それは生活費を稼ぐためだよ。

一応、他の世界でもらった貴金属とかを換金すればいいんだろうけど、これを生活費で使うのは何かもったいない。

なら働こうと言うことでバイトです。

 

今の私は司書見習いではなく、麻帆良商店街『まほら書店』店員迷子あちらなのです!ヤッタネ!」

 

「おい、あちら。周りの客が引いてるぞ」

 

 

そこに話しかけてきたのは、今時珍しい大きな丸眼鏡をした中等部の征服を着た女の子だった。

 

 

「おや、これは千雨さん。こんにちは。学校の帰りですか?」

 

「そうだよ。今日は始業式だったから早かったんだ」

 

 

彼女の名前は長谷川千雨さん。麻帆良学園中等部の学生さんだ。

まあ出会った切っ掛けは、簡単に説明すると彼女が思い詰めていたので相談に乗りそれを解決した。

それからも友好関係は続き、今に至ると。

するといきなり彼女が爆発した。

 

 

「オイ、あちら!信じられるか!?十歳の子供が来たんだぞ!?

しかも先生として赴任してきやがった!!!

高畑のヤローも自習がやたら多かったが、これはねぇだろ!!!

いくらエスカレーターで上に行けるっても来年、受験だぜ!!!どうすんだよ!!!」

 

 

あちらの襟元につかみ掛り、首よ折れろといわんばかりに振ってくる。

あっ、ちょっと気持ち悪くなってきた。

 

さっきまで奇声を上げていた店員と、その店員につかみ掛り喚く女子中学生。

どう見ても修羅場です。本当にありがとうございました。

本当はそんな色気は欠片も無いが。

 

とりあえず落ち着かせよう。

 

普段はなるべく目立たず、普通を心がけている彼女がここまで取り乱すとはよっぽど溜め込んでたらしい。

店長に視線を送ると、今日はもう上がっていいよと視線が帰ってきた。

アイコンタクトで伝わる意思。ここは理想的な職場です。

 

昨日の夜、不眠不休で棚卸しさせてくれた恩は、今店長が読んでいる小説のラストシーンを糊付けすることで許してやろう。

読めずに悶々とすればいいのさ!あははは!

 

 

「オックスフォード!?エッて顔してんじゃ無ぇ!!」

 

「はいはい、千雨さん。こっちに行きましょうね」

 

 

18時間労働なあちらは若干テンションを上げつつ、未だに壊れている千雨を引きずって奥に引っ込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

「すまん、見苦しいとこ見せちまった」

 

「かまいません。前はもっとひどかったですし」

 

「うッ!?」

 

 

そういって彼女の前にコーヒーを置いた。

ここはまほら書店の二階にある、あちらが間借りしている部屋だ。

ここであちらは住み込みで働いている。

 

彼女は出されたコーヒーを一口啜り、溜め息を吐いた。

 

 

「やっぱ、不思議関係には慣れないな」

 

「……不安ですか?」

 

 

一度、彼女の人生はその所為でボロボロだった。

 

 

「いや、不満はあるが不安はないな。

 

……だって、なんかあったら助けてくれんだろ?」

 

 

彼女は心底信頼しているといった感じで私に笑いかけてきました。

あまりに、綺麗で、無垢で。

 

 

「……まぁやぶさかではありません」

 

「クックク。」

 

 

たぶん顔が赤くなっているのが丸分かりだったのだろう。

彼女はまるでわかってるよと言いたげに満足そうに笑っていました。

この子は本当に中学生なんでしょうか?

 

自分で入れたコーヒーを啜り、一息入れた後、彼女に訊ねた。

 

 

「で?なにがあったんです?」

 

「そう!それだよ!!」

 

 

彼女は溜まった物を吐き出すように話し始めた。

学校で本音を言える友達はいないのかな、いやいないんだろな。

あちらに出会う前の事は彼女に深い傷として残っている。簡単には癒えないだろう。

自分もいつまでもここに入れる訳ではない。

来年の夏には自分がここに来て丸一年になる。そろそろ次の世界に移動しなくてはならない。

 

 

ままならないもんだな。

 

 

心の中で溜め息をついた。

本当はここまで深入りするつもりは無かった。

ただ、自分には悩みを解決できる方法があったのでしただけだ。

それすらも初めはするつもりが無かった。

 

 

ただ、傷だらけになっても背筋を伸ばして歩く姿がかっこいいと感じたから。

 

 

自分もあの様になれたらと。

 

 

彼女を手助けすることで自分がそれに近づいたような気がするから。

 

 

 

気がつけばどっぷり嵌まって、しかもそれが居心地が良い。

どうしたものかと、あちらは思った。

 

 

「おい!あちら!聞いているのか!」

 

 

その言葉で思案の海から自身を引き上げる。

 

 

 

「ええ、つまり新しく赴任した担任と副担任を血祭りにあげたいと……」

 

 

「違ぇーよ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ええ、つまり新しく赴任した担任と副担任を血祭りにあげたいと……」

 

「違ぇーよ!?」

 

 

あたしの目の前でとんでもない事をのたまいながら、のほほんとコーヒーをすすっているこの男。

 

 

―――迷子(まよいご)あちら

 

戸籍不明。経歴不明。出身不明。年齢不明。不明、不明分からないことだらけ。

容姿は悪くないのだが、良くも無い。いや、よーく見ると美形なのが彼の雰囲気が台無しにしている。

名前もあからさまな偽名だ。なんだ迷子って。そんな苗字があるか。

よくここの店長はこんな男を住み込みで雇ったものだ。

そこらへんは奴に言わせると「人徳?」らしいがそんなことは無い。

店長もあまり気にしていないみたいだ。そこは流石麻帆良というべきか。

つまりこの迷子あちらという男は端的に言うと正体不明。

だが、一つだけはっきり分かっていることがある。

 

 

―――迷子あちらは、長谷川千雨の恩人である。

 

 

あの二年の夏が終わりかけた曇天の日に、確かに長谷川千雨は迷子あちらに助けられた。

別に命を救われたわけじゃない。

映画のようなドラマチックな出会いがあったわけでもない。

ただ声をかけられただけだ。

そして話をしただけ。

 

時間にすれば10分位の出来事だ。

だけれでもあたしはたったそれだけで救われた気がした。

初めて人前で大泣きしてしまった。

散々のあちらには脈絡の無い暴言を、罵声を吐いた。

だけれでも、あちらはずっとあたしが泣き止むまで傍にいてくれた。

 

……今思い出しただけでも赤面する程恥ずかしいが。

しかしそのお陰かこの学園都市との心の折り合いがつき、前向きにここでの生活を捉えることができた。

 

それでも、やっぱりストレスは溜まるし、認識の違いからか親しい友人は未だできない。

そんな時はあちらに愚痴を言いに会いに行く。

 

あちら曰く、彼も所謂非常識な世界の住人らしく、そういうことを話しても問題が無い。

この麻帆良とは系統が違うらしいのだが、そこは詳しく教えてくれなかった。

これ以上心労を増やす必要もないだろうとの事だが、・・・気に食わない。

いつか聞きだしてやろうと考えている。

 

 

「冗談ですよ。ちゃんと話は聞いてます」

 

「ヤロウ……」

 

「まぁその先生方は十中八九こちら側の人間でしょうね。流石麻帆良です。

こうも堂々と人員を表に送り込んでくるとは」

 

「そっち側の人間は表の人間を巻き込まないんじゃなかったのかよ」

 

「まぁどこでも原則そうですが、ここ麻帆良は彼らの・・・口の悪い言い方をすれば支配地域です。

認識阻害もあることですし、表沙汰になるようなことは無いでしょう」

 

あなたのクラスは一概に一般的なクラスとはとても言えないですし……。

あははと笑うあちら。

 

ちくしょう。笑い事じゃねぇぞ。

こっちはそこに一日の大半は居なくちゃいけないんだ。

 

大体なんだ。

ロボットに忍者にサムライガールだったり、しかも吸血鬼や幽霊まで居るらしい。

おまけに今度は子供の担任と銀髪|金銀妖瞳(ヘテロクロミア)の副担任。

 

……確かに一般的とは言えないなぁ。

なんであたしがこんなクラスに。けどクラス替えとかは無いしなぁ。

この学園都市でも一杯いっぱいなのに、さらにそれを煮詰めたような我がクラス。

 

あたしが意識を飛ばしていると

 

 

「まあそれでも、あのクラスには一般人もそれなりに居ます。向こうもそんな無茶はしないでしょう。

用心していればそちらに巻き込まれることもないでしょうね」

 

「へっ慰めドウモ」

 

「しかしその子供先生にはちょっと注意して置いてください。

こちら側でスプリングフィールドの家名はとても大きい物ですから。

とばっちりが無いとも言い切れませんし」

 

「マ、マジかよ……。あのガキそんなに有名なのか?」

 

「彼の父上が超が付く程の有名人でしてね。その関係です」

 

「じゃあ副担任の方もなんかあったりするのか?なんか出身が同じらしいんだが」

 

 

そこで彼はちょっと困ったような、困惑したような表情で首を傾げた。

彼はコーヒーを啜りながら、記憶を探る様に訊ねてきた。

 

 

「そこなんですがね……。その方の名前は何でしたっけ?」

 

「あー、確か―――スザク・神薙・フォン・フェルナンドだったはず」

 

 

ゲホ、といきなり彼は口に含んだコーヒーを気管に入れてしまったのかむせ始めた。

 

 

「お、おい大丈夫か?」

 

「だ・・・だい、じょうぶ、です」

 

「そ、そうか」

 

 

しばらく彼は何かつぼに嵌ったのかこちらに帰ってこなかった。

ようやく帰ってきた彼は先ほどの話の続きを話し始めた。

 

 

「それでフェ、……。フェルナンド先生についてですが。彼に関しては聞いたことがありませんね。

ウルトラVIPの息子を補佐するんであれば元担任の高畑先生か、他の経験積んでいる先生だと思うんですが……?

……それでも彼に補佐を任せるとなると、よほど優秀か事情があるんでしょうね」

 

 

ま、金銀妖瞳(ヘテロクロミア)なんて多分何かの異能持ちですし、この方にも余り近寄らないほうが賢明ですね。

そういって彼は話を終わらせた。

 

 

「さて、話し込んでしまいました。いい時間です。晩御飯でも食べに行きましょう。

今日は学期初めということもありますし、御祝いにおごりますよ」

 

 

彼は飲み終わったマグカップを流しに浸けて、キーホルダーの付いた鍵をチャリチャリ回しながらあたしに提案してきた。

 

 

 

もちろんあたしに異論はあるはずも無く。

 

 

 

 

この変な男。

 

胡散臭く、飄々としていて、まるで掴みどころがない変人。

 

しかし、確かに長谷川千雨の心を救ってくれた恩人。

 

ほころびそうになる口元を引き締め、恥ずかしくて決して口には出さないが……

 

 

 

 

―――友達だと想っている迷子あちらとの楽しい夕食に思いを馳せた。

 

 

 

 


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