その人は何処へいった?   作:紙コップコーヒー

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8.幕間:司書とカミサマ

「確かに妙だな。

ここまで綺麗に自分の痕跡を消せる奴が、六年前から急にそれを辞めちまった。

しかも作られた戸籍もお粗末なもんだ。何か裏でもあんのかと疑っちまう。

 

まるで出来の悪いライトノベルの設定(・・)読んでる気分だぜ」

 

「・・・」

 

 

実はあちらにはこういった存在に心当たりがあった。

その存在には大まかに次の様な特徴がある。

 

 

―――様々な規格外の能力や技能を持ち、大抵は美しい造形を持っている。

 

―――まるで未来を知っているかの様に、問題の発生を事前に阻止又は対処を行う。

 

―――ある特定個人の詳細な、稀に本人自身が知らないようなプロフィールを把握している。

 

 

スザク・神薙・フォン・フェルナンドはもしかするとこれに該当するのではないか?

情報が少なすぎて断定は出来ないが、もしそうだとするとこれ以上の深入りは危険だ。

もしフェルナンド先生がそう(・・)だとしたらどんな規格外の能力を持っているのか想像もつかない。

 

 

私を害そうとしても所詮世界の外側の人間だ。

いざとなれば周囲に被害が及ぶ前に逃げればいいが、千雨さんはこの世界のしかも表の人間だ。

彼の正体に疑問を持ち身辺を漁っていると知れば、未来情報保持のために洗脳やギアスといった強行手段もありえる。

 

―――まぁそんな突拍子も無いことをする輩はごく稀だ。

 

実際に今まで何人かに会って来たが、大体はちょっと過激だが普通?の人達だ。

藪を突かない限り、彼と敵対なんて事態はそうそう起こらないだろう。

 

 

ハァ・・・とあちらは心底疲れた様な溜め息をついた。

 

 

いったいどこのカミサマ(・・・・)だ。こんなめんどくさい事を仕出かしてくれた奴は。

 

 

この世界に来る前に厚木さんが仕事が急に増えたとか言っていたが、原因はこれか。

 

 

まあいい。(セカイ)の保全と管理は司書のお仕事だ。

カミサマは厚木さんが対処している事だろう。

取り合えず千雨さんになんとかこの件から手を引くよう説得しないと。

 

とっておきの栗羊羹と玉露で機嫌が直るといいんですけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▼その人は何処にいった?

 

「司書とカミサマ」

 

 

 

 

 

―――ある図書館世界、「あっち」方面書架群

 

 

 

 

「し・ご・と・が・お・わ・ら・な・いッ!!!」

 

 

うがーと吼え猛る一人の司書がいた。

 

体をすっぽりと覆った、作業には不向きそうな、気のせいか裾がうねうね蠢いている闇色のローブ。

頭には魔女が被っていそうな、同じく闇色のとんがり三角帽子を被っている。

 

また此処とは別の図書館世界(おはなし)を管理している友人から貰ったその衣装は、見た目と違いとても便利な機能がついている。

 

 

「もう全然眠れないしせっかくあちらさんが来たのにお茶は出来なかったし怖がらせちゃったし・・・

 

・・・くくく、見つけたらタダではおきません」

 

 

目の下に隈を作り、壮絶なオーラを発しているのは、あちらに厚木と呼ばれている司書だった。

厚木が不眠不休で作業に明け暮れているのには理由があった。

 

 

 

 

―――(セカイ)が勝手に増えていくのである。

 

 

 

いや、確かに本は増える。それも際限なく無限に。

 

人々の心に浮かび上がった物語の数だけ世界は生まれ、さらに派生して進化し、さらに分岐する。

そしてその数だけ本が生れ落ち、この図書館に収納されるのである。

 

 

しかし逆を言えば、人が居なければ世界は増えない。

 

無限ともいえる蔵書を管理する司書は、その因果を操作して本の現出スピードをコントロールし、世界を本棚に整理整頓していくのだ。

 

 

 

だが、その制御下に無い本の現出が確認された。それも加速度的に増加している。

 

ある例外を除いて、司書はどのような理由であっても(セカイ)を破棄出来ない。

例え自分の制御下に無い本が現れたとしても、本として形になった以上管理する責任があるのだ。

 

 

なので厚木は通常業務に加え、イレギュラーで発生した本の整理とその原因究明に追われたいたのであった。

しかし原因究明といっても原因はすぐに判明した。

 

 

 

所謂、「カミサマ」の仕業だ。

 

 

そもそも「カミ」とは何か。

 

これは言葉通りの神の事ではなく、図書館の蔵書が長年の時間を掛けて力を溜め込み、意識に目覚めて擬人化もしくは精霊化した存在の事である。

 

ここまでなら、問題はない。

精霊化した本はかなりの数存在し珍しくは無い。図書館員として働いている本もいる。

 

問題なのは、自分自身の内容(ストーリー)に影響を受け、錯乱して共喰いを始めた本だ。

 

これは不味い。

 

早期に発見して処理しなければ、他の(セカイ)を危険に晒し、図書館としての業務にも支障を来しかねない。

 

共喰いを始めた本は、喰った本の影響を受けて内容物(ストーリー)が混ざり合ってしまう。

自身の世界観が破壊され、ごちゃごちゃに狂って正常な思考は出来ないが、世界を喰った事により力は増す。

発見して処理しようにも、奴らは逃げ足が速くて中々捕まらない。

 

 

今も逃げ回っている本は少数存在する。

しかし最近、その本たちの間で流行っている事がある。

 

 

―――神様を気取って、他の(セカイ)から登場人物(じゅうにん)を剥ぎ取り、その登場人物にあれこれ設定を付け足して他の(セカイ)堕とすのだ(転生させるのだ)

 

 

何が目的かよく分からないのだが、恐らくその本の内容が引っ掻き回されるのが楽しいのだろう。

悪趣味なことだが、もっともその所為で新しい分岐した世界が生まれるのだから皮肉な話だ。

 

 

厚木にしてみればそれで眠れないのだからいい迷惑だが。

 

長くなったが、その様な行いをする本を「紙の本が神様の真似事をしている」という皮肉をこめて”カミサマ”と呼んでいるのだ。

 

 

 

 

 

今、厚木はその睡眠不足その他の元凶となったカミサマを探して書架群を飛び回っていた。

闇色に蠢くローブの裾の繊維を解き、辺りの本棚に蜘蛛の糸のように通していく。

そこを通して本棚に精査術式を走らせ、異常が無ければ次の場所へ。

一度に五キロ四方を精査しても地平の先まで本棚があるので、一向に作業が進んだ気がしなかった。

 

 

その時、術式が一つの本棚に異常を感知した。

 

示す異常は「書籍の書架配置ミス」

 

本来そこにあるはずの無い番号の書籍がその本棚にある。

 

 

……ビンゴだ。

 

 

「見つけたぁ!!」

 

 

厚木は音を置き去り、森のような本棚を抜けてその問題の本棚に急行すると、あわてた様子の幼女が逃げようとする所だった。

 

 

「マテや、私の睡眠時間!!」

 

 

厚木はそばにあった本棚から本を引っ張り出すと、その幼女目掛けてブン投げた。

高速回転した本は運悪く(運良く?)幼女の後頭部に突き刺さり、幼女はぐぇと奇声を上げて倒れこんだ。

 

 

「よぅカミサマァ。会いたかったぜぇぇぇえぇ?散々引っ掻き回してくれたなァああ?」

 

 

興奮の余り口調が変わってしまっている。

目線はとんがり帽子の影に隠れ、ただただ真っ赤な三日月が顔の下に張り付いている。

 

精霊化したとはいえたかが本が、それを管理する司書に敵う筈もない。

カミサマである幼女はただ司書の発する恐怖と、これから自身に訪れるであろう本としての潜在的な危機にただただ震えていた。

 

 

「”神様ごっこ”は楽しかったか?ん?

無邪気にも転生だとかはしゃいでいる哀れな人間達が、与えられた力や環境に酔い痴れて破滅していく様を見るのは。

 

……まァ処分を言い渡す。いくら頭が狂って分けわかんなくなっても、世界が幾つか喰われたのは間違いない。

 

 

―――おまえは書き直し(・・・・)の後、禁書庫行きだ。

 

頭ん中ァはっきりさせて反省して来い」

 

 

 

 

―――書き直し

 

図書館内規の中で三番目に重い処分だ。

カミサマは自分がまったくの違う存在に"書き換えられて"しまう恐怖に悲鳴を上げ逃走しようとした。

 

しかし闇色のローブが一斉に解れ、カミサマに覆いかぶさって悲鳴を消していく。

すると覆いかぶさった後にはもうカミサマは居らず、闇色のバンドで固定された一冊の本が転がっているだけだった。

 

 

それを白いブラウスと紺のパンツを着た女性(・・)が拾い上げた。

とんがり帽子を小脇にかかえ、金糸のような髪をかき上げ溜め息をついた。

 

 

「・・・疲れました。」

 

 

とりあえずこれ以上問題が増えることは無いだろう。

これでこの問題が解決した訳ではない。

やる事は無数にある。

この件の報告書を纏め上げ、喰われた本はバックアップからもう一度手で書き直さなくてはならないし、このカミサマも共食いした異常個所を修正して以前の状態に修復し、地下書庫に戻さなくてはならない。

 

ああ引き剥がされた登場人物(じゅうにん)も探し出して元に・・・いや無理だな。

もう分岐した物語は始まってしまっている。その人はもう、そこの世界の登場人物(じゅうにん)として組み込まれてしまっている。

 

出来るとすればその人が元の世界に帰れたという物語(セカイ)を紡いであげる事だけか・・・。

何人かの人生が確実に狂ってしまった事実が重く圧し掛かる。

 

 

ふと先ほどブン投げた本に目が行った。

その分厚い本はページを開いた状態でそこに落ちていた。

なんとはなしにそのページの一文を読み上げる。

 

 

「……世界はこんなはずじゃなかった事ばかりだ、か。至言ですね。」

 

 

そして厚木―――彼女は投げた本を拾い上げ、元の本棚に戻してその場を去っていく。

 

 

 

 

 

後にはいつも通りの静寂が戻ってきた。

 

 

 

 

 


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