植物病   作:アリス・リリス

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悪夢のはじまり
~ある医師の手記~


―20××年 アフリカ アルザラオアシス―

 

悪夢のはじまりは、この地で起きた。

 

緑豊かなオアシスの一つ、“アルザラオアシス”。

この地で一人の少女が姿を消した。

彼女の名は、イサラ・アルーナ、

 

 

…………最初の“植物病”患者である…………。

 

彼女を治療した医師…………エドウィン・ウッズの手記が残っている。

 

――――――――――――

 

―3月16日―

 

初めてイサラの姿を見た時、彼女は手首・足首まで植物に侵されていた。

 

こんな症状は、診たことも聞いたこともない。

 

未知の病かもしれないので、症状を詳しく記録しようと思う。

 

まず、彼女の母親に詳しい話を聞いた。

 

しかし、母親は「わからない、わからない」としか答えない。

 

わずかに得られた情報を縫い合わせると以下のことになる。

 

・初めて症状が現れたのは、私の来る1週間前の朝。

 

・初めは指先が土のようにパサパサしているが、4日ほどで植物に変化する。

 

・痛みはほとんど感じないが、植物に変形するときだけ激痛が走るそうだ。

 

 

しかし、肝心の原因がわからない。

 

食物の劣化を考えたが、ちゃんとした温度管理がされているので、この経路が原因とは考えにくい。

 

地下水が問題かと思い、水質検査等を行ったが、異常は全く見られなかった。

 

原因がまったくわからないため、どのような治療が適切なのかわからないが、イサラのためにも完治させたいと思う。

 

 

―3月18日―

 

朝方、イサラが痛みを訴えた。

 

パサパサした皮膚がボロボロと崩れて、中から緑が現れる。

 

私は、イサラと母親の承諾を得て、植物に変化した部分の組織の一部と粉状になった皮膚をサンプルとして採取した。

 

詳しい分析は、少し時間がかかりそうだ。

 

しかし、結果が出れば、イサラを苦しみから救うことができるだろう。

 

 

―3月19日―

 

サンプルの分析が終了した。

信じられない結果が出た。

 

粉状になった皮膚は、土の成分とまったく同じだった。

患部のサンプルは、明らかに植物の性質を示している。

 

そして、原因となる物質が何一つ見つからない。

 

 

この病は、一体……。

 

 

―3月24日―

 

両足が完全に植物に変わってしまった。

足裏には、根のようなものも生えている。

そのために、イサラは寝たきりになってしまった。

 

 

「また外を駆けていきたい……」

 

 

イサラは、窓を見つめて呟いていた。

 

どうすればよいのだろうか……?

 

 

―4月2日―

 

イサラは、とうとう水以外、口に出来なくなってしまった。

 

心なしか、弱っているように見える。

 

 

「日の光を浴びたい……」と弱々しい声で訴えたので、日の光を部屋に取り込んでやった。

 

 

―4月3日―

 

不思議なことに、イサラは元気を取り戻した。

 

依然として、症状が進んでいるものの、日の光を浴びせてやると良いことがわかった。

 

しかし、未だに治療の糸口が見えない……。

 

 

―4月12日―

 

イサラの体は、首から下は植物に変化してしまった。

声帯までも植物に変化してしまったために、声が出せなくなってしまった。

 

このままでは、イサラの愛らしい顔も植物に食らわれてしまう。

 

 

―4月20日―

 

イサラの体が枯れはじめている……。

それに伴い、イサラが弱っていく。

 

 

植物のように土に根を下ろすべきなのだろうか?

しかし根を下ろしても、ここは砂漠地帯にポツンとあるオアシス。

昨今の砂漠化で、この地も何時(いつ)砂漠に埋もれるかわからない。

 

 

イサラの母親に「これ以上、手の施しようがない」と伝えた。

 

母親は、泣き叫んだ。

 

「貧しいのにも関わらず、なんとか治療費を捻出していたのに……。

 

それなのに、あなたはイサラの病気を完治してくださらないつもりですか!?」

 

 

私は必死に事情を説明した。

 

 

時間が立つにつれて冷静になったのか、私の言葉に耳を傾けるようになった。

 

 

「未知の病……、ですか……。

 

…………わかりました、もう手の施しようがないのですね。

その代わりに、約束してください。

 

イサラの体を研究に役立ててください。

この病気の謎を解明してください。」

 

 

―4月25日―

 

今朝、イサラが息を引き取った…………。

 

植物に半分覆われた顔を見つめる。

 

これから彼女は検体として扱われると思うと、心苦しい。

 

 

明日の昼、彼女を搬出する。

 

 

――――――――――――

 

 

手記は、ここで終わっており、その後は報告書となっている。

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