今回は、前作の続編ということで……
よろしくお願いします。
目の前に広がるのは、母なる大海、すべてを包み込まんとする蒼天。
そのふたつの青は、果てなき世界の広大さを物語っているように感じられる。
そして、その海に面する、大きな港があった。大小さまざまな帆船が波に揺られており、陸地ではたくさんの人やものが行き交っている。
「ここが……〝タンジアの港〟!」
潮の香りを
彼女はハンターだ。この世界でいうハンターとは、人間よりもはるかに強大な存在である「モンスター」を狩ることを生業とする者のことだ。彼らは、道具や知恵を駆使してモンスターを狩猟することで、人類の繁栄を目指し、自然との調和を図る役割を持つ。
15歳の少女の名は、ソラである。黒髪セミショート、前髪ぱっつん、くりっとした目が特徴的だ。身長は高くない(標準的なアイルーの約1・3匹分)。【ユクモノ弓】、【ユクモノシリーズ】を装備している。
そしてソラは、旅を始めたばかりのハンターだ。少しまえに、彼女の故郷・ユクモ村を発ったばかりである。ハンター歴は1年を過ぎたくらいで、まだまだ新米ではあるが、ジンオウガの狩猟経験もある。
「活気に溢れてて、いいところだな」
ソラの隣でそう呟くのは、レオンという18歳の少年だ。
「こんなに大きな港は、初めて見るわね……」
レオンの足元で腕を組む黒のアイルー、ナナ。彼女はレオンのオトモアイルーで、【どんぐりネコシリーズ】の装備に、大きなブーメランで武装している。
そんな三人組が到着したのは、〝タンジアの港〟という巨大な港だ。
タンジアの港――交易の中継地として栄える港であり、数多の海の男たちが集うことから、『船乗りのオアシス』とも呼ばれている。そのほかにも、商人やハンターたちが多数行き交い、とても活気のある場所だ。クエストカウンターやハンターズギルド公認の三ツ星レストラン「シー・タンジニャ」がある広場、高い水準の技術力を有する工房のほか、土産から役立つアイテムまで幅広い商品を販売する多種多様な店が並んでいる。
彼らが現在いるのは、タンジアの港南部の、港エリアである。
「……でも、あまり寒くないね、ここ。冬が近いのに」
ソラが、レオンの顔を見上げて言った。
「割と南の方だからな。温暖な気候なんだよ」
「……ってことは、ずっと南に行けばどんどん暑くなって、灼熱地獄になるってこと?」
「いや、その逆。行き過ぎれば、極寒の氷の大地しか広がっていない。北もそうだけど」
「ふうん……、なんだか不思議だね、世界って」
「世界には、多様な気候・風土・文化があるんだ。世界は一つだけど、見せる姿は場所によって大きく異なる。それが、おもしろいところだよ」
「うん……。わたしも、いろいろと勉強になりそうだよ」
ソラは、うーん、と躰を伸ばした。ここまでの移動で、かなり疲れているというのもある。
「ここ、温泉ってないのかな? ちょっとゆっくりしたいよ」
「それは……さすがに無いだろ」
「うーん、ま、そうだよね……」
あはは、とソラは苦笑いに似た笑みを浮かべた。
彼女の故郷・ユクモ村には良質の温泉があった。それに浸かれば、一日の疲れはほんの数瞬で吹き飛び、癒されるのだが……。今まで恵まれた環境にいたせいか、温泉が無いと少し残念な気持ちが表れてくる。それほど、温泉は偉大なものだった。
「なら、食事はどうだ?」レオンが提案する。「ユクモ村を出てから、あまりロクなものを食べてなかっただろ?」
「そう言われてみれば……そうだね。うん……なんだか、急にお腹が空いてきちゃったよ」
「おう。ここまで巨大な港なら、食事場もあるだろうし」
「《シー・タンジニャ》というレストランがあるそうね」
いつの間にか側から消えていつの間にか戻ってきていたナナは、パンフレットのようなものを目の前で広げていた。それには、タンジアの港を簡略的に書いた図に、施設情報などが余すところなくギッシリと書かれている。
「……しー・たんじにゃ?」ソラが聞き返す。
「えぇ。この先の広場にあるそうよ。なんでも、ギルド公認の三ツ星レストランだとか……」
「わぁ、すごく高級そう……」
「でも、リーズナブルな値段の料理から、最上級の料理までを取り揃えてるみたい」
「なら大丈夫だな。……行こうか」
海岸沿いに、彼らは進んだ。少し歩くと、タンジアの港中部、商業エリアに着く。貿易の要所だけあって、モノや人で溢れている。横に並んで歩くのも邪魔になりそうだったので、レオン、ソラ、ナナという順に縦一列で進んだ。
すれ違う人は、肌の色もさまざま、顔もさまざま。人間も竜人族もアイルーも入り交じっている。これだけ大勢いれば、知り合いの一人や二人に会ってもおかしくなさそうだ。
(もしかして、姉貴もここに来てたりして……)
レオンはそう思ったが、首を振った。あまり会いたくはない。別に、姉のことが嫌いというわけではない。絡みが面倒なだけなのだ。
「どうしたの? レオン」ソラがレオンの背後から声を掛ける。
「いや、なんでもないよ。ただ、こうも人がいると……、知り合いがいても――」
レオンは、急に足を止めた。
「わっ!?」
ソラの額が、レオンの背中にぶつかった。防具なので、とても硬い。
「ったぁ……。急に立ち止らないでよ……」
「――」
レオンは何も言わない。ただ、何かを一点に見つめている。
「……まったく、どうしたっていうのよ?」ナナは呆れ顔で肩をすくめた。
「あ……」
レオンがやっと口を開いた。
「あいつ……、もしかして……」
その瞳が捉えていたのは、ある男の姿だった。
タンジアの港編、始まりますか?
――いえ、始まりません。
えっ?
――はい。
そ、そうなんですか……。
――そうです。
では、具体的にはどういう……?
――それにはお答えできません。
無能ですね。
――誠に遺憾です。