モンスターハンター ~漆黒の意志~   作:鷹幸

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 実家へと辿り着いたレオン一行。




第10話 なら、いいじゃない How are you?

 木製の矩形(くけい)テーブルの側に置かれた椅子に、彼らは座っていた。レオンは、ソラとサラに向かい合うような形になっている。

 

「ソラちゃんは、ユクモ村出身って言ってたわよね」

 

 レオンの母、ユキが水の入ったコップをソラの前に置きながら言った。

 

「はい、そうです」

 

「いいところよね。温泉もあって」

 

「はい……。正直に言うと、温泉が恋しいです」

 

「ふふ。この村にも温泉はあるから、ゆっくりするといいわ」

 

「温泉があるんですか?」

 

「火山が近いから、地熱で温められた水が湧き出ているところがあるの」

 

「へぇ……」

 

「行きたかったら案内してあげるわ。ちょっと硫黄臭いのを我慢することになるけど……」

 

「はい。そのときはよろしくお願いします」

 

「よかったらウチが案内するけど、どう?」サラが横から口を挟んだ。

 

「じゃ、そうしようかなぁ。よろしく、サラ」

 

「任しとき! 夕方くらいでええ?」

 

「うん」

 

「……せっかく帰ってきたけど、やることがないんだよなぁ」

 

「ゆっくりしといたらええやん。別に、何かせなあかんいうことないんやろ?」

 

「でも、躰が(なま)るのも嫌なんだよな……」レオンは腕を組む。「うん、火山にでも行ってみるかな。ソラはどうする? 行くか?」

 

「うん。いろんなとこ回ってみたいし、ついてくよ」

 

「今から行くん?」

 

「……いや、今日はもう行かないことにするよ。ちょっと疲れたし」

 

 そう言うと、レオンは椅子から立ち上がり、(おもむろ)に腕の防具を外し始めた。

 

「ソラも、普段着に着替えておけばいいよ」

 

「あ、うん。そうするー」

 

 ソラが席を立つと、椅子の側にいたナナがソラを見上げた。

 

「なら、こっちの部屋を使うといいわ」

 

「ナナちゃん、ありがとー」

 

「ここには獣がいるからね」

 

 ふふん、と不敵な笑みを浮かべて、ナナはソラと共に奥の部屋へと入っていった。

 

「獣ってどんな意味なんやろ……」

 

「さぁ。あいつ、時々変なこと言うからな……」

 

「変なこと? なんやそれ」

 

「別に、深い意味は無いのかもしれないけどな」

 

「ナナちゃんとは上手くやれてるの?」

 

 突然、母が口を開く。突拍子な質問だったので、レオンは「えっ?」と間の抜けたような声を上げた。

 

「ほらぁ、最初のほうは全っ然なついてくれてなかったじゃない」

 

「あぁ……そうだったかな」腕の防具を外し終えたレオンは、いったん頭を掻いてから、胴を外し始めた。

 

「今はどうなの?」

 

「うん……、まだまだ、って感じだけど」

 

「レオンも苦労してるのね。ふふ」

 

「でも、頼りになるオトモだよ。姉貴に鍛えられただけはあるかな」

 

「なら、いいじゃない」

 

 そう言うと、母は目を細めた。

 

 

 

       *

 

 

「遅いなぁ」

 

 すべての防具を外し終え、普段着に着替えたレオンが別室のドアを見ながら呟いた。その部屋ではソラが防具を外しているのだが、それにしては時間がかかりすぎている。

 

「女の子は、何かと時間がかかるものよ」

 

 ユキがそう言ったとき、部屋のドアが開いて、ソラが姿を現した。

 

「やっほー」

 

 出てきたソラは着物姿でなく、Tシャツにスカートというラフな格好だった。

 

「あれ? そんな服持ってたのか?」レオンが驚きのために訊く。

 

「うん。タンジアの港にあったから買ってみたんだ」

 

 ソラは躰を一回転させた。遠心力で、スカートの裾がふぁっと広がる。

 

「こういうの着るのは初めてなんだけど……どうかな? 似合ってるかな?」

 

 服装一つ違っても、普段とは変わった印象を受けるから不思議なものだ、とレオンは思う。しかし、感想を求められるとなると、言葉が見つからない。

 

「あぁ……、似合ってる……んじゃないかな?」

 

「……もしかして、似合ってないのかな」

 

 ソラが表情を陰らせたので、レオンは慌てて「あ、いや、そんなことは……」と、取り繕うように言った。

 

「レオンには、センスがないからそんなこと分からないのよ」ナナが言葉を尖らせる。

 

「ふふ、似合ってるわよ」

 

「似合うてるで!」

 

 ユキとサラは、笑顔を手向けながらうんうんとうなずいている。

 

「ありがと!」

 

 ソラは笑みをこぼして、大きく頷いた。

 

 何とかフォローしてもらえたので、レオンはふぅ、と一息ついた。

 ――そのときである。窓の外を、誰かが通りかかるのに彼は気づいた。その姿を捉えたのは一瞬だったが、レオンにはそれが誰だかすぐに分かった。

 

「おい……、ルーク!」

 

 木枠の窓をばんっと勢いよく開けて、レオンはルークに向かって叫んだ。歩いていたルークは立ち止まり、ゆっくりと振り返る。

 

「……あぁ」ルークは鼻息を洩らした。「なんだ、君か」

 

「どうした? どこかに行くのか?」

 

「うん……、ま、そんなところかな」

 

 ルークの反応がいい。レオンは少し嬉しくなった。

 

「で、どこに行くんだよ?」

 

 その問いに、ルークは片方の眉を吊り上げた。数瞬の間のあと、彼が言葉を発する。

 

「そんなことより、君はゆっくりしてるといいよ。折角、家に帰ってきてるんだからね」

 

「まぁ……」レオンは家の中をチラっと見た。「そうしようとしてるところだけど」

 

「なら、ごゆっくり。じゃあ、僕はこれで」

 

「え? あ……、あぁ」

 

 ルークはレオンに背を向けると、スタスタと歩いて行ってしまった。レオンはただ、彼の背中を目で追うことだけしかできない。

 

「どこ行くんやろな?」窓を閉めたレオンに向かって、サラが言った。

 

「まさか、もうどこかへ行くってのか……?」

 

「それにしては早すぎないかな?」ソラが口を出す。

 

「だよな……。だとしたら、火山にでも行ったか」

 

「なんでレオン、そんなにルークに執着しとるんや?」サラが身を乗り出して訊く。

 

「えっ?」

 

 レオンは目を丸くさせて聞き返す。なぜそう思われているのか理解できなかったからだ。

 

「なんか、ルークのことばっか気にかけとるみたいなんやもん」

 

「あぁ……そうなのかな」

 

 自覚は無かったが、思い返せば、ルークのことをずっと気にしていたのかもしれなかった。さっきの村長の話を聞いて、ルークに一体何があったのか気になっているのも事実である。

 

「もしかして……彼のことが好きなの?」ユキが口角を上げた。

 

「はっ?」レオンは顔の前で素早く手を振る。「それはないない」

 

「男でも……悪くはないと思うわよ」ユキは親指を立てて、それをレオンに向けて押し出す。

 

「だから……そんなんじゃないって」

 

 つくづく面倒な母だ。

 レオンは、微かな吐息と共に、瞼を静かに閉じた。

 

 

 

 

 

 




 あっち系の展開はありませんので。

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