タンジアの港にやってきたレオンが見つけたのは……
レオンの視線の先にいるその男は、ブロンドの髪色に、蒼い眼をしていた。歳はレオンと同じくらい。身長はレオンより頭一つ分小さい。身に纏っているのは、ハンター専用の防具。それは、黒を基調としたもので、甲殻といった硬い部位を使用せず、機動力を重視した作りになっているものだ。【ナルガクルガ】というモンスターの素材から作られた漆黒の装備、【ナルガシリーズ】である。
レオンは、人々の合間を縫うようにして、男に近づいた。
「おい……」
そして、距離1メートルに差し掛かった辺りで正面から声をかける。
「お前、ルークだよな……!?」
ルークと呼ばれた男の視線が、レオンに留まった。しかし、すぐに目を逸らす。
「……人違いだ」
彼は、小さな声で呟くように言った。
「何だよ……、オレのこと忘れたのか? レオンだよ」
「……だから、人違いだと言っているだろ」
突き放すように言うと、男はぷいとそっぽを向く。そのまま、彼は人ごみの中に消えていった。
「……」口をぽかんと開けたまま、レオンは立ち尽くす。
「ねぇねぇ、今の、知ってる人なの?」
レオンを追いかけてきたソラが、彼の隣で訊いた。
「たぶん、あいつに間違いないと思うんだけどな……。別人なのか?」
「ねぇってば」
「あ、あぁ……、うん。さっきの奴……オレの友人に似てたんだ」
「へぇ。レオン、友達いたんだ?」
「なんだよ、いなかったと思ってるのか?」
「ううん、冗談を言ってみただけだよ」ソラは唇の隙間から、舌を少しだけ覗かせた。「それに、レオンは優しいし、友達がいなわけないもん」
「お、おう……」『優しい』という言葉に、照れくささを滲ませるレオンである。
「それで、人違いだったんだ?」
「いや、あいつで間違いないはずなんだ……」
目が合ったとき、彼の瞳の奥が少し揺れたような気がしたのだ。彼は、レオンのことを覚えているに違いない。
しかし……。
あの態度は何だったのだろう。まるで、避けられているような……。
「ま、いいや……。とりあえず、メシだ、メシ」
口ではそう言いつつも、内心では気にかかっていた。
*
タンジアの港、北部。
酒場エリアとも称されるこの場所には、大きな広場がある。ここには、ハンターが依頼を受注するためのクエストカウンター、レストラン《シー・タンジニャ》が構えており、奥には狩猟船の船着き場があった。そして、広場はハンターたちで埋め尽くされている。
「わっ」
広場に辿り着くなり、ソラは驚きの声を上げた。彼女が見たことのない武器や防具を装備している者がたくさんいたからだ。
「これ……みんなハンターだよね?」
「あぁ。世界中からハンターが集まってるんだ」
甲冑のような防具に、異国風の防具。ゴツゴツしたもの、軽快なもの、奇抜なものなど……。目に入るものすべてが新鮮だ。武器もさまざま。ぱっと見ただけでは、それがどの武器種に分類されるのか分からないものもたくさんある。
自分の見ていた世界は、ほんの一部に過ぎなかったということを、ソラは思い知った。
「レストラン《シー・タンジニャ》は……、あぁ、あれか」
レオンは、海に面した一角を指差した。
巨大な、とんがり帽子のような形の鍋を中心に、そのレストランは展開されていた。広場に面した側には、カウンター席が用意されている。レストラン南側の階段を上がると、海を臨むようにしてテーブルとイスが設置されていて、そこで潮風を受けながら食事ができるという粋な計らいが施されていた。
「どうする? どこで食べる?」レオンが訊く。
「えー、どこでもいいよー」
ソラは、広場のハンターたちに目を奪われているようだった。
「……なら、せっかくだし上に行こうか」
「はーい」
彼らは、階段を上がって高台に足を踏み入れた。撫ぜるような心地よい風が吹いている。この場所は人気なのか、たくさんのハンターがテーブルを占拠していた。彼らは、一つだけ空いていた席を見つけると、テーブルの側のイスに腰掛けた。
テーブルの上には、メニューの書かれた紙が、石の重しの下に置かれていた。
メニューには、
《豪華》
タンジア鍋
紅蓮鯛の尾頭付き
《おすすめ》
はじけイワシのアンチョビサンド
たてがみマグロ海鮮丼
《人気》
こんがり肉G
ラギアテール
《お手頃》
ロイヤルチーズバーガー
極上タンジアチップス
《世界の味》
ガーグァの丸焼き
黄金米炒飯
《肉のオトモ》
ミックスサラダ
…
などとあり、それぞれの隣には価格が表示されていた。手頃なものからちょっと冒険的なものまで、種類も価格もバラエティに富んでいる。
「何、頼む?」
「んー、そうだね……」
たくさんのメニューがある。この中から一つを選べというのは、なかなかの時間がかかりそうだ。
「おすすめとか、人気のメニューあたりがいいかも」
ソラの提案に、レオンは
「それがいいな。なら、オレは『たてがみマグロ海鮮丼』」
「わたしは、『こんがり肉G』を食べてみたいなぁ」
「あたしは『はじけイワシのアンチョビサンド』で」
注文が決まったので、レオンは青いバンダナをしたアイルーに声を掛けた。このレストランは、少人数のアイルーで回されているようなので、シェフ兼ウェイターである。
「ご注文を承りますニャ」
アイルーが手にメモを持ってそう言ったので、レオンは三人分の注文を告げた。
「……ニャ。では、お飲み物はどういたしましょうかニャ? タンジアビールなどがおすすめでございますがニャ」
「うん……」レオンは、ソラをチラッと見てから、アイルーの方を向いた。「なら、『炎熟マンゴージュース』で」
「お三方、同じでよろしいですかニャ?」
「それでいいよな?」レオンはが訊くと、ソラとナナは首を縦に振った。
「承りましたニャ。合計で、2500
レオンは、ポーチから紙幣と硬貨を取り出して、それを渡した。
「ちょうど、いただきますニャ。お時間、少々お待ちいただくことになりますがよろしいでしょうかニャ?」
「あぁ、問題ないよ」
「では、失礼致しますニャ」
ウェイターアイルーは頭を下げて、厨房(?)へ向かっていった。
「ねぇ。さっき、なんでわたしの方を一瞬見たの?」ソラがレオンを質す。
「いや、酒は飲まないだろうなぁ、って」
「……。まぁ、飲んでも問題はないけどねっ」
果たしてそうだろうか……とレオンは思った。彼女には前科がある。いや、あれは、あのときたまたまそうなっただけで……。
「……? どうしたの?」ソラがレオンの顔を覗き込む。
「あっ、いや、なんでもないよ。ま、絶景の海を見ながら飲むものは何でもいいだろうな」
「そうだねっ」
彼らは、潮風の吹いてくる方向に視線をやった。陽の光を反射して美しく輝く
彼女の前科については、前作の第5話をご覧ください。
温泉では、ついつい、あんなことやこんなことになってしま……コホン、何でもありません。
いや、何でもありませんったら!