十分ほどして、注文した料理が運ばれてきた。
「お待たせしましたニャ。こちら、『たてがみマグロ海鮮丼』、『こんがり肉G』、『はじけイワシのアンチョビサンド』、お飲み物の『炎熟マンゴージュース』でございますニャ」
料理名と共に、空腹のハンターたちの前に食事が置かれる。それらは、視覚情報だけで香ばしさが伝わってくるようなものばかりだった。
「それでは、ごゆっくりどうぞニャ。追加注文は大歓迎でございますニャ」
そう言い残して、ウェイターアイルーは客の波に消えた。レストランは大繁盛である。
「よし。じゃ、いただくか」
「そうだねっ。いただきまーすっ」
「いただきます」
レオンは海鮮丼を、ソラは肉を、ナナはサンドウィッチを口に運ぶ。
「おぉ、新鮮な海の幸が口いっぱいに広がっていいな」
「香ばしさと肉の弾力、それにスパイシーな味付けが相まって、これ以上ない最高級のこんがり肉だってことを演出してるみたい……」
「悪くないわね」
そして、それぞれがコメントを残す。客を唸らせる料理を提供できるあたり、さすがは三ツ星レストラン。その名に恥じない。
「……このあと、どうする?」
食事の途中で、レオンがそう訊いた。
「そうだね……」ソラは、骨付き肉を手に持ったまま考え込んだ。「ちょっと、港を回ったりしてみたいかな。珍しいもの……っていうか、目につくもの全部が珍しいんだけどね、いろいろ見て回りたい」
「そうか……。うん、そうだな……それがいい」
せっかく来たのだから、見て回るほかに手はない。これでこそ、旅である。
「それで、別に、一緒じゃなくてもいいよな?」
「え?……あぁ、うん、大丈夫だよ。レオンは何かするの?」
「ちょっと、な」
ソラは少し眉を上げたが、すぐに「……そっか」とだけ呟いた。
「じゃ、あとで落ち合う場所を決めておこう」
「んー、だったら、この広場でいいんじゃないかな? 一番わかりやすいと思うし」
「まぁ……半端なところじゃわかりにくいし、そうだな、ここにしよう」
彼らは頷きあってから、食事を再開した。
*
腹ごしらえを済ませたあと、レオンは、ソラ・ナナの二人と別れてタンジアの港を散策することにした。
しかし、ただ、ぶらりぶらりとするわけではない。
(ルーク……、あいつを捜そう)
さっきすれ違った男は、ルークで間違いないのだ。雰囲気こそ変わっていたものの、顔つきや容姿はほとんど変わっていない。
酒場エリアに行こうとしてすれ違ったので、彼は今、港エリアあたりにいるはずだ。
レオンは、南方へと足を速めた。
タンジアの港は、本当に賑わっている。今までに訪れた場所の何倍、いや何十倍もの人がいるのではないか。レオンにはそう思えた。
数分後、タンジアの港・南部に到着した。
南部は港エリアとなっていて、大小さまざまな漁船や交易船、旅客船が桟橋の側に停泊している。そのほとんどは帆船だ。ところどころに、ボートのようなものもあった。
漁船からは、船員が箱を持って降りてきている。中身は魚だろう。離れていても、魚類特有の匂いが漂ってくる。レオンの嗅覚は鋭いので、間近で嗅いでいるかのような感覚を覚える。
交易船には、背の高い竜人族の男性が乗っているのが見えた。胴着に袴、背中に長い太刀を背負っている。彼もハンターなのだろうか……、とレオンは考えた。そして、竜人族の彼は、隣にいるアイルーと大声で笑い合っていた。
旅客船は帆を畳んでいて、まだ出航の気配は見せていない。いつ出航してどこへ向かうのか、レオンはあとで聞いておこうと思った。
今の目的は、ルークを捜すことである。
レオンは、港をぐるぐると回った。船の甲板も確認した。
しかし、影すら見当たらない。もう、彼はここにいないのか……。
「仕方ないか……」
溜め息混じりに、彼の口からそんな言葉が洩れた。
会っていろいろ話をしたいと思っていたのだが、それは叶わなかった。もしかしたら、本当に人違いだったのかもしれない。
レオンは、元来た道を引き返し、酒場エリアへと歩いた。
少しゆっくり歩いて戻ったので、十分ちょっとで広場に着いた。
ソラたちは、まだ買い物をしていることだろう。まだ時間がありそうだったので、今度は、広場周辺を見てみることにした。
まず、クエストカウンター。一般人や王政からハンターズギルドに集められたモンスターの「狩猟」依頼を、ハンターに紹介する場所である。
クエストカウンターには普通、ギルドガールと呼ばれる受付嬢がいる。ここタンジアの港も例外でなく、水兵の姿をしたギルドガールが三人、クエストカウンターに立っていた。それぞれ、青、赤、白を基調とした服装だ。
地方によってギルドガールの服装は異なっており、レオンが以前訪れていたユクモ村のギルドガールは着物だった。
タンジアの港のギルドガールは人気らしく、ハンターの男たちが彼女らの周りに集っていた。あの中に、依頼を受けようとする者が何人いるのだろうか……。
(どこかへ狩猟しに行ってもいいんだけどな……。次は、どこに行こう……?)
そんな思案にふけていると、
「レオーン!」
声がして、レオンは振り返った。ソラが、ナナと肩を並べて向かってきているのが見える。彼女らは、手にいろいろなものを持っていた。
「ただいまっ!」
「あぁ、おかえり」
「いろいろと買ってきちゃったぁ」
「何を買ったんだ?」
「んーと、食べ物がほとんど」
「……ソラ、なんか最近、タイガに似てきてないか?」
「え? そう?」
「食欲旺盛なところというか……、なんだか、似てきてる気がするよ」
「そうなのかなぁ……、全然わかんないや」ソラは首を傾げる。
「それで、ほかには何を?」
レオンが訊くと、ナナがポーチをごそごそと探って何かを取り出した。
「これ。【
「おっ。そりゃありがたい」
汗臭いのが強敵のレオンにとっては、消臭玉は強力なアイテムだ。そこのところ、ナナはよく理解している。よきオトモアイルーだ。なんだかんだで、ナナもレオンのことを考えている。
「それで、レオンはさっきまで何してたの?」今度はソラが訊いた。
「あぁ……。あいつを……、捜そうと思ったんだけどな、いなかったよ」
「ここ広いし、見逃しちゃったんじゃない?」
「ま……、もういいんだ」
レオンが首を振ると、ソラは少し悲しそうな顔で、「そう……」と少しうつむいた。
「それでさ、ソラは、どこか行きたいところはある?」
「え? どこかって?」ソラは顔を上げる。
「次の目的地だよ。タンジアの港からなら、世界中どこへでも行けるからね」
「あ、そっか……」ソラは、少し唸った。「んー……。もうちょっとここにいてもいいかもしれないけど……」
ソラは、指を唇に当てている。彼女が考えるときのポーズだ。
少し経って、彼女の口が動いた。
「……じゃあ、レオンの故郷なんてどう?」
タイガというのは、ユクモ村にいたときのソラのオトモアイルーです。
若葉トラの毛並みに、食欲旺盛なアイルーでした……(過去形だからって、死んだわけではないです)。
そういえば、前作よりも1話を短め(2000字程度)にしたんですけど、どうなのでしょうか。
これで亀更新になったら悲惨ですが……(フラグかな?)。