村長の家は、村の一番奥にあった。石造りで、村のどの家とも比べものにならないくらいに、大きい。さすがは村長の家、といったところだ。
木板のドアに掲げられた金属製のドアノックを、レオンは三回叩いた。返事はなかったが、中で物音がしたので、気づいているはずだ。
「村長って、どんな人なんだろう……?」ソラは、レオンの顔を見上げた。
「ま、見れば分かるよ」
ドアが開いた。
白髪に、髭をたくさん生やした、いかにも「長老」であるかのような男性が顔を出す。身長も、レオンと同じくらいだ。
「村長、ご無沙汰しておりました」レオンは一礼する。
「お……?」
村長は少しだけ顎を引くと、レオンを見つめる。
「おぉ、レオンか。いや……、少し見違えたぞ」
「オレ、そんなに変わりましたか?」
「む、雰囲気は少し変わったようにも見えるがな……。それにしても、久しいの!」村長は、にっこりとほほ笑む。
「村長は、お変わりないようですね」
「まだまだ若いからの!!」
はっはっは、と村長は高らかに笑った。そのあと、視線が下に移る。
「……おっと、そちらのお嬢さんは?」
「あ、はじめまして」ソラはお辞儀をした。「わたし、ソラっていいます。ユクモ村から来ました」
「私は、ライナス・グリフィン。ここアルバ村の村長をしておるよ。そうか、ユクモ村から……。遠路はるばる、こんな
「いえ、素敵な土地だと思います。火山が近いっていうから木とかないのかなーって思ってたんですけど、緑もたくさんあっていいところですね!」
「うむ……、それはよかった。む、立ち話もなんじゃろうし、中に入らんか?」
「いいんですか?」レオンが身を乗り出す。
「何を遠慮する必要があるか。来る者拒まず、さあ、入ってこい」
村長は身を翻し、スタスタと家の中へと戻っていく。
「すごくいい人だね、村長さん」とソラ。
「うん。みんなから慕われるのには、理由がちゃんとあるんだよな……」
「あたしの存在には、気づいてくれたのかしら……」ナナはぼそりと呟いた。
家に入ると、暖炉のある大きな広間があった。木製の大きなテーブル、それを挟むようにソファがある。
「そこに座りなさい」
さきにソファに座っていた村長は、向かいのソファを指差した。テーブルには、水の入ったグラスが三つ置かれている。
レオンはレウスシリーズを装備しているので、ソファには座らず、近くにあった木の椅子に腰を据えた。ソラは、ソファに座った。
「……む、レオン、旅はどうじゃったかな?」村長は、レオンに視線をやる。
「そりゃ、楽しいですよ。自分の知らなかった世界を切り拓いていくワクワクと緊張感……。子どものときの……あの、見るものすべてが新鮮だったような感じがまだ体感できるのはいいですね」
「たしかに。童心を忘れぬことは、良き人生を送ることにもつながる。心はいつまでも若く! 躰は老いていくが……これは、仕方のないことだの」村長は、髭をいじりながら深くうなずく。
「でも、旅はまだ続けていくつもりです」
「うむ、それが良い。私も村長でなければ、世界を回ってみたいものだがの……」
「一緒に行きますか?」レオンは歯を見せた。
「む……、迷うところだの……」村長は唸る。「この際、村長を引退してしまおうかい!」
「それは、村の人が困りそうですけど……」
「はっはっは! それもそうじゃの!」
村長は笑ってから、ソラに視線を注いだ。
「して、ソラお嬢は、レオンの婚約者かね?」
「「へっ!?」」
瞬間、ソラとレオンの声が重なる。
「え? え、え、えぇっと、そ、それは……?」
「村長! ソラはただの旅の仲間だよ!」
二人とも、声が裏返っている。突然の言葉に、彼らは困惑せざるを得ない。
「む……? 何を焦っておるのだ。冗談が通じぬ奴らじゃのぉ?」
村長は、子どものような無邪気な笑顔を見せる。その輝く瞳は、子どもと同じものだった。童心を忘れていなさすぎである。
「そ、村長……からかわないでくださいよ」
レオンが呆れて溜め息をつくのを見て、村長は声を出して笑った。
「すまんすまん! いやぁ、ついつい……」
「ついついでそんな言葉が出てくるものなんですか……」
「出てくるもんじゃよ。……とまぁ、そんなことよりも、旅の土産話でも聞かせてもらおうかの」
「そうですね、どこから話しましょうか……。じゃあ、オレが水没り――」
レオンが言いかけて、ドアの開く音がした。
「む……?」
「?」
部屋にいた全員の視線が、音のした方向に向けられた。そして、ドアの閉まる音がして、足音が近づいてくる。
人影が姿を現す。
「村ちょ――」
影の動きがピタリと止まった。
「あっ!」
レオンの目が開かれる。
彼らの見据える先に立っていたのは……