「レーオーン!」
「ふぐっ!?」
大きな声が部屋中に響いたときには、レオンの視界は真っ暗になっていた。
「帰ってきてたんやね!」
そんな声だけが、レオンの耳に聞こえていた。いや、それだけではない。何か独特な匂いと感触が、彼の嗅覚と触覚を刺激していた。
だが、何も言葉を発することができない。
それもそのはず、柔らかい何かが顔面に押し付けられているからだ。
彼には、何をどうすることもできない……。
「あっ!」
少しして、レオンの視界に光が戻ると同時に、躰から何かが離れるのを感じた。
「ごめんな!」
淡いグリーンのロングヘアの少女が、彼の目の前で手を合わせていた。背の低い彼女は、煤で黒く汚れた服を着ている。
「……ったく、元気なのは相変わらずだな」
眉を下げながら、レオンは吐き捨てるように言う。焦げたような匂いが鼻をつき、彼は少し顔を歪めた。
「やって、嬉しかったんやもん……。めっちゃ久しぶりに
上目遣いで少女が言う。彼女は、嬉しさのあまり、正面からレオンに抱き付いていたということらしい。そのせいで、レオンの顔に服の汚れが転写されていた。
「……ねぇ、レオン、この子は?」
ソラが、怪訝な表情を浮かべてレオンに訊いた。
「あ、あぁ。こいつは……」
「ウチは、サラ・リーヴィス!」サラは、長い髪を振り払った。
「……うん。サラっていうんだ」
「レオン、この子は誰なん?」今度は、サラがレオンに訊いた。
「えっと、この子は……」
「わたしはソラ。ユクモ村出身だよ」
「……うん、ソラっていうんだ」
「ふーん、ソラっていうねんな」サラは、唇を突き出す。「歳いくつなん?」
「え? じゅ、15だけど……」
「あ。じゃあ、タメやんな! よろしく!」
「あ……、うん、よろしく」
サラがすっと右手を差し出してきたので、ソラも微かに戸惑いながら右手を出し、二人は握手を交わした。このときソラは、サラの手にマメが出来ていることに気付いた。しかし、そのことについて口にしようとは思わなかった。
「そういやレオンは、なんで帰ってきたん? 旅やめたん?」
「たまには帰ってみるのもいいかと思ってな……。旅は、まだ続けるつもりだよ」
「また会えんくなるんか……」
サラがうつむいて悲しそうな顔を見せたとき、
「……む、サラよ」
「何か……私に用があったのではないかの?」
「あっ、村長」サラは顔を上げた。「用なんてあらへんで」
「むっ!?」
「なんかね、この近く通ったら、この家に入らなあかんて思ったねん。ただそれだけのことや」
「……む、まぁそうか。なら良い……こともないのぉ?」
「ごめんて、村長。怒らんといて?」
「む、結果的にレオンと会えたから別によかろう」
「せやせや! さっすが村長、分かってはるわ」
サラは、一杯の笑顔を村長に手向けた。村長は少し呆れ顔だったが。
「そうだ。サラ、仕事は大丈夫なのか?」レオンが訊いた。
「せやねぇ……、ま、一通りのことはできるようになっとるし、簡単な武器くらいなら直せるようになったで」
「そっちもそっちで成長してるんだな」
「にゃはは、ウチを見くびってもらったら困るで!」
「サラって、武器職人なの?」今度はソラが訊いた。
「せや。まだまだ見習いやけど……、ハンターの武器とか防具とか、ほかにもいろいろ作れるで!」
「へぇ……」
同い年の少女が「職人」であることを知って、ソラは驚く。どうしても、「職人」には男のイメージが強く付きまとうからだ。
そういえば……、とソラは思い出す。さっき握手したときのマメは、工具を持ったときにできたものではないのだろうか。
「でもほんま、久々やなぁ……」
サラは、椅子に座ったレオンの背後から手を回して抱き付いた。そして、うっとりした表情を浮かべながら彼の髪に顔をうずめる。少女の温度が、レオンの躰に伝う。
レオンはとくに嫌そうな顔はしていない。むしろ、少し微笑んでいるようにも見えた。
「ほんで、レオンはこれからどないするん?」
「そうだな……。とりあえず、ゆっくりするとしか決めてない。オレの旅はいつでも気まぐれだから、どうなるか分からないかな」
「そ……」
サラが、レオンの胸の前で両手を強く握った。
「む……、いいの、私にも抱き付いてほしいものだの」村長が髭を撫でながらぼやく。
しかし、サラはレオンに接触したまま微塵にも動かなかった。
「無視かの……寂しいの……」
何かしらの反応は見せてほしかった、としょんぼりするロリコンエロ
ソラはというと、わずかだが眉間に皺を寄せて、触れ合う二人を見ていた。
――またドアが開く音がした。それに反応したのか、サラはレオンからぱっと離れる。そして全員が、ドアの方向を注視した。
「じいちゃん……」
少しして現れたのは、ルークだった。
「……!」
レオンたちの姿を捉えたルークが、わずかに目を見開いた。
「ルーク……!」レオンは思わず名を呼ぶ。
すると、ルークはすかさず視線を逸らした。
「……なんだ、客人がいたのか」彼は回れ右をした。「じゃあ、僕は失礼するよ」
「おい、待てよ!」レオンは椅子から立ち上がる。その反動で、椅子が音を立てて倒れた。
しかし、ルークは背中を向けて歩き出す。その動作は、とても静かなものだった。
「待ちなさい」
村長の声が、彼の背中に突き刺さる。そして、彼は歩みを止めた。だが、振り返りはしない。
「なぜ出ていくのだ? 友人たちがいるではないか」
村長の問いのあと、数瞬の間があった。
「……僕がいれば邪魔になる。人に迷惑はかけたくないので、僕は外に出ておく。ただ、それだけのこと」
「ルーク……、見ん間に、随分と人が変わったようだの」村長は溜め息混じりにそう言った。
「僕は、出てもいいですか」
「……ならん。ここにいなさい」
鼻息を洩らす微音がして、ルークは振り返った。しかし、レオンとは頑なに視線を合わせない。そして、彼は壁にもたれかかり、腕を組んだ。
村長は軽く目を閉じ、レオンとサラは立ち上がったまま動かない。ソラも、息を殺すようにして座っている。
……静寂だけが、その場を支配していた。