モンスターハンター ~漆黒の意志~   作:鷹幸

7 / 10
第7話 あなたは? A Girl

「レーオーン!」

 

「ふぐっ!?」

 

 大きな声が部屋中に響いたときには、レオンの視界は真っ暗になっていた。

 

「帰ってきてたんやね!」

 

 そんな声だけが、レオンの耳に聞こえていた。いや、それだけではない。何か独特な匂いと感触が、彼の嗅覚と触覚を刺激していた。

 だが、何も言葉を発することができない。

 それもそのはず、柔らかい何かが顔面に押し付けられているからだ。

 彼には、何をどうすることもできない……。

 

「あっ!」

 

 少しして、レオンの視界に光が戻ると同時に、躰から何かが離れるのを感じた。

 

「ごめんな!」

 

 淡いグリーンのロングヘアの少女が、彼の目の前で手を合わせていた。背の低い彼女は、煤で黒く汚れた服を着ている。

 

「……ったく、元気なのは相変わらずだな」

 

 眉を下げながら、レオンは吐き捨てるように言う。焦げたような匂いが鼻をつき、彼は少し顔を歪めた。

 

「やって、嬉しかったんやもん……。めっちゃ久しぶりに()うたし……」

 

 上目遣いで少女が言う。彼女は、嬉しさのあまり、正面からレオンに抱き付いていたということらしい。そのせいで、レオンの顔に服の汚れが転写されていた。

 

「……ねぇ、レオン、この子は?」

 

 ソラが、怪訝な表情を浮かべてレオンに訊いた。

 

「あ、あぁ。こいつは……」

 

「ウチは、サラ・リーヴィス!」サラは、長い髪を振り払った。

 

「……うん。サラっていうんだ」

 

「レオン、この子は誰なん?」今度は、サラがレオンに訊いた。

 

「えっと、この子は……」

 

「わたしはソラ。ユクモ村出身だよ」

 

「……うん、ソラっていうんだ」

 

「ふーん、ソラっていうねんな」サラは、唇を突き出す。「歳いくつなん?」

 

「え? じゅ、15だけど……」

 

「あ。じゃあ、タメやんな! よろしく!」

 

「あ……、うん、よろしく」

 

 サラがすっと右手を差し出してきたので、ソラも微かに戸惑いながら右手を出し、二人は握手を交わした。このときソラは、サラの手にマメが出来ていることに気付いた。しかし、そのことについて口にしようとは思わなかった。

 

「そういやレオンは、なんで帰ってきたん? 旅やめたん?」

 

「たまには帰ってみるのもいいかと思ってな……。旅は、まだ続けるつもりだよ」

 

「また会えんくなるんか……」

 

 サラがうつむいて悲しそうな顔を見せたとき、

 

「……む、サラよ」

 

 蚊帳(かや)の外に放り出されていた村長がおもむろに口を開いた。

 

「何か……私に用があったのではないかの?」

 

「あっ、村長」サラは顔を上げた。「用なんてあらへんで」

 

「むっ!?」

 

「なんかね、この近く通ったら、この家に入らなあかんて思ったねん。ただそれだけのことや」

 

「……む、まぁそうか。なら良い……こともないのぉ?」

 

「ごめんて、村長。怒らんといて?」

 

「む、結果的にレオンと会えたから別によかろう」

 

「せやせや! さっすが村長、分かってはるわ」

 

 サラは、一杯の笑顔を村長に手向けた。村長は少し呆れ顔だったが。

 

「そうだ。サラ、仕事は大丈夫なのか?」レオンが訊いた。

 

「せやねぇ……、ま、一通りのことはできるようになっとるし、簡単な武器くらいなら直せるようになったで」

 

「そっちもそっちで成長してるんだな」

 

「にゃはは、ウチを見くびってもらったら困るで!」

 

「サラって、武器職人なの?」今度はソラが訊いた。

 

「せや。まだまだ見習いやけど……、ハンターの武器とか防具とか、ほかにもいろいろ作れるで!」

 

「へぇ……」

 

 同い年の少女が「職人」であることを知って、ソラは驚く。どうしても、「職人」には男のイメージが強く付きまとうからだ。

 そういえば……、とソラは思い出す。さっき握手したときのマメは、工具を持ったときにできたものではないのだろうか。

 

「でもほんま、久々やなぁ……」

 

 サラは、椅子に座ったレオンの背後から手を回して抱き付いた。そして、うっとりした表情を浮かべながら彼の髪に顔をうずめる。少女の温度が、レオンの躰に伝う。

 レオンはとくに嫌そうな顔はしていない。むしろ、少し微笑んでいるようにも見えた。

 

「ほんで、レオンはこれからどないするん?」

 

「そうだな……。とりあえず、ゆっくりするとしか決めてない。オレの旅はいつでも気まぐれだから、どうなるか分からないかな」

 

「そ……」

 

 サラが、レオンの胸の前で両手を強く握った。

 

「む……、いいの、私にも抱き付いてほしいものだの」村長が髭を撫でながらぼやく。

 

 しかし、サラはレオンに接触したまま微塵にも動かなかった。

 

「無視かの……寂しいの……」

 

 何かしらの反応は見せてほしかった、としょんぼりするロリコンエロ(じじい)――もとい、村長。いや、村長は冗談を突っ走ったまでであり、実際にそのような性癖があるわけではない。

 ソラはというと、わずかだが眉間に皺を寄せて、触れ合う二人を見ていた。

 

 ――またドアが開く音がした。それに反応したのか、サラはレオンからぱっと離れる。そして全員が、ドアの方向を注視した。

 

「じいちゃん……」

 

 少しして現れたのは、ルークだった。

 

「……!」

 

 レオンたちの姿を捉えたルークが、わずかに目を見開いた。

 

「ルーク……!」レオンは思わず名を呼ぶ。

 

 すると、ルークはすかさず視線を逸らした。

 

「……なんだ、客人がいたのか」彼は回れ右をした。「じゃあ、僕は失礼するよ」

 

「おい、待てよ!」レオンは椅子から立ち上がる。その反動で、椅子が音を立てて倒れた。

 

 しかし、ルークは背中を向けて歩き出す。その動作は、とても静かなものだった。

 

「待ちなさい」

 

 村長の声が、彼の背中に突き刺さる。そして、彼は歩みを止めた。だが、振り返りはしない。

 

「なぜ出ていくのだ? 友人たちがいるではないか」

 

 村長の問いのあと、数瞬の間があった。

 

「……僕がいれば邪魔になる。人に迷惑はかけたくないので、僕は外に出ておく。ただ、それだけのこと」

 

「ルーク……、見ん間に、随分と人が変わったようだの」村長は溜め息混じりにそう言った。

 

「僕は、出てもいいですか」

 

「……ならん。ここにいなさい」

 

 鼻息を洩らす微音がして、ルークは振り返った。しかし、レオンとは頑なに視線を合わせない。そして、彼は壁にもたれかかり、腕を組んだ。

 村長は軽く目を閉じ、レオンとサラは立ち上がったまま動かない。ソラも、息を殺すようにして座っている。

 ……静寂だけが、その場を支配していた。

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。