「にしても、村の様子はちっとも変わらないな」
アルバ村を練り歩く中で、レオンがつぶやいた。彼の右隣には緑髪のサラが、左隣には旅仲間のソラがいる。彼の後ろからは、オトモアイルーのナナがトコトコと付いてきている。
「そんな、すぐ変わるもんでもないやろ」レオンにぴったりとくっついているサラが言う。
「まぁ、そうだけど……。2年も経てば変わるところもあるだろ?」
「そんなんより、これからどうするん?」
「……」レオンは小さく鼻息を洩らす。「そうだな、家に帰るか」
「あれ、まだ帰ってなかったん?」
「さきに、村長に挨拶しておこうと思ったんだよ」
「レオンらしいっていうか……真面目やなぁ」
「そうかな。オレは普通だと思ってるんだけど」
「でも、そういうとこ悪くないと思うで!」
「なんだよ、急に……」レオンは少し照れくさそうな様子だ。「とにかく、帰るか。ソラはいいよな?」
「あ、うん。大丈夫」ソラはうなずいた。
「久々の我が家か……母さん、びっくりするかな」
レオンが歩調を上げたので、女性陣も負けじと速力を上げた。
(レオンのお母さんって、どんな人なんだろう……)
歩いている途中、ソラはそのことをずっと考えていた。
*
「ここだ」
レオンの家は、村の端の方にあった。石造りで、大きさは他の民家と大した差がない。この村では標準的な部類の家だった。
自分の家なので、レオンはノックをせずにドアを開ける。
「どなた?」という声が聞こえる。母の声だ。
「ただいま」
レオンは、奥にいる母に聞こえるくらい声で言った。
「……レオン?」
そんな呟きを洩らしながら、一人の女性が姿を現した。長い黒髪、高い身長。そして、若くて美人だった。顔立ちは、レオンやレオンの姉に似ている気がしなくもない(親子だもの)。彼女こそが、レオンの母親である。
「ただいま、母さん」
レオンが微笑んでみせると、母の表情がぱぁっと明るくなった。
「まぁ。久しぶり!」
母は、正面からレオンに抱き付いた。
「ちょっと母さん!」
あまりに突然のことに、レオンは高い声を上げた。女性に抱き付かれるのは、本日二度目のことである。
「ごめんね、嬉しくってつい……。もう、ずっと連絡も寄越してなかったのに、急に帰ってくるから……」母は、レオンから離れた。
「ごめんごめん」
「でも、ホントに久しぶりねぇ。……あら、旅はやめたの?」
「いや、たまたま帰ってきただけ。いつになるかは分からないけど、また旅に出ていくつもり」
「あら……、そう。母さん寂しいから、いつでも顔を見せに帰ってきてもいいのよ」
「なら、母さんも一緒に行く?」
「ふふ。それは遠慮しておくわ。私は、ここでお留守番っ」
母の視線が、レオンから逸れた。彼女の目に、二人の少女の姿が映る。
「あっ、サラちゃんも一緒なのね。……あら、そちらの子は?」
母は、レオンを一瞥してから、ソラに視線を戻した。
「彼女は、旅仲間のソラ。ユクモ村から、ここまで一緒に来たんだ」
「は、初めまして。ソラです」ソラはぺこりと頭を下げる。
「初めまして。私はレオンの母で、ユキっていうの。よろしくね」
「はい、よろしくお願いします!」
ユキが手を差し出したので、ソラは彼女と握手した。
「んもう、可愛い子を二人も引き連れて……」ユキは、レオンを睨むように見た。「まったく、あんたはどうしちゃったんだい?」
「どうもしてない。たまたまだよ、たまたま」
「そういえば、ナナちゃんは? 一緒じゃないの?」
「ここにいるみゃぁー」
ナナが、ソラの足元からひょっこりと姿を見せる。
「あら、そんなところにいたのね。気づかなかったわ」
「あたしは大丈夫みゃ」
「そっか。うん、みんな元気そうで何より!」ユキは、何度かうなずいた。「そう、ずっとこんなところにいるのも何だし、入って入って」
「そうだな。ゆっくりしよう」
「おっじゃましまーす」
「……お邪魔しまーす」
レオンが手招きして、サラとソラ、最後にナナが家に入る。ドアを閉めたあと、レオンは母に話しかけた。
「そういえば、親父は帰ってきたりしてるのか?」
「えぇ。たまーに、顔だけ見せに帰ってくるのよ。事前に何も言わず、ふらっとね」
「そうか……」
「なぁに? まだお父さんに会ってないの?」
「あぁ。まだ会えてない。姉貴には会ったけど」
「リザに? あー、リザには長いこと会ってないわねぇ。どうだった? 元気そうだった?」
「そりゃもう、元気なんて言葉じゃ表せられないほど元気だよ」
「ほーう。さっすが私の娘だ」
「おかげで、いい迷惑だよ」レオンはむくれたような口調で返す。
「なんでよ? 元気なのはいいじゃない?」
「弟の身に危害が及ぶような元気は、いい元気とは言えないと思うんだ」
「へぇ。あんたたちは今も仲がいいのねー」
「オレはあんまり好きじゃないんだけどな……」
「あっ。今度帰ってきたとき、そのこと言っといてあげるよ」
「いや、会うのが好きじゃないってことで、姉貴自体が嫌いなわけじゃない」
「お姉ちゃんのこと大好きなのはいいじゃない! いいわね、
「どうしてそう拡大解釈するかなぁ……」
どうも、姉と母が似ていて困る。でも、親子だから仕方ないか、とレオンは溜め息をついた。
レオンの姉は、前作に登場しております(確か22話だったはず)。