『同窓会』に登場する雲雀恭弥と小鳥遊杏の過去話……。


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犬猿の仲

 晴れた空

 眩しい程に大地を照らす太陽

 ここ、並盛中学校にもさんさんと陽が降り注いでいた

 だが、校舎の中には冷たい空気が漂い、その発信源には2人の生徒が対峙していた

 1人は並盛中学の女子生徒

 短めの髪に意思の強そうな瞳で目の前に立つ男子生徒を睨み付けていた

 一方その男子生徒は皆がブレザーなのに対し学ランを肩に掛けている

 切れ長の目で自分を睨み付けている女子生徒を見つめていた

 男子生徒の名は雲雀恭弥

 女子生徒の名は小鳥遊杏

 

「ちょっと、雲雀さん!アレはどーゆーこと!?」

「アレって何?」

「掲示板に貼ってある奴よ!」

「そのままの意味だけど?」

「納得いかない!」

 

 杏の指すアレとは玄関近くにある掲示板に貼られた一枚の紙のこと

 それには雲雀恭弥の名前でサインがされていた

 その内容に不満で杏は並盛最強と呼ばれる雲雀に声を掛けたのだった

 そんな2人に周囲にいる生徒達は距離を取り固唾を飲んで見守っていた

 

「どーして『男女交際禁止』なの!?」

「勉強に必要ないから。」

「そんなもの自分達の勝手でしょ!?」

 

 掲示板に貼られた紙に書かれていたのは男女交際を全面的に禁止する、との一言

 学校の校則ではなくあくまで雲雀恭弥の独断で作られた物だった

 

「節度は必要かもしれないけどいくら何でも全面的に禁止はないでしょ!?」

 

 実際杏が誰かと付き合っているとか誰かが好きだとかそういう話はない

 だが自分の友人の中には付き合っている子や好きな人の話で盛り上がる子もいる

 そんな友人達が嬉しそうに話すのが杏は可愛くて好きだった

 

「何で君が怒るの。…そーゆー事をしてるってこと?」

 

 雲雀の視線が一気にキツくなる

 

「そーゆー事ってどーゆー事よ!?」

「誰かと…付き合ってるの?」

「はぁ?」

 

 自分はただ友人達が悲しそうな顔をしたから雲雀に意見を言っているだけなのだが、良く考えるとそういう風に捉えられても可笑しくはないと杏は考えもしなかった

 雲雀の問いに気が抜けてしまう

 

「付き合ってるの?」

「いや?」

「そう。」

「だから、そう。じゃなくて!」

 

 何故かどこかほっとしたような雲雀に訝しげに思いつつも杏はびしっと人差し指を雲雀に向ける

 

「全面的に禁止は横暴だ!」

「そんなことないでしょ。」

「あるから言ってんでしょうが!」

「君が誰ともそーゆー事になってないなら関係ないでしょ。」

「いつそーゆー事になるか分からないでしょ!?」

 

 何となく売り言葉に買い言葉で反論した杏だったが言ってから、ん?と首を捻る

 杏の発言を聞いて周りで行方を見守っていた生徒達が額を押さえた

 

「……どういう事?」

 

 雲雀の纏う空気が一気に冷える

 じり、と近付く雲雀に杏の足が後ろに下がる

 

「いや、今のは…。」

「いつ誰とそーゆー事になるの?」

「いや…。」

「ねえ。」

 

 じりじりと近づいてくる雲雀に気圧される杏だったが腹に力を入れて雲雀を睨む

 

「…あたしが誰と付き合おうが勝手でしょ!?それを雲雀さんにどうこう言われたくないよ!」

 

 その言葉を耳にした雲雀の足が止まる

 周囲の生徒達は顔を青白くして口々に逃げろ!と叫んでいた

 杏も危険を察知して腰が引ける

 

「そ、そーゆー事だからっ!」

 

 くるり、と踵を反すと杏は全速力でその場から逃げ出す

 

「い、委員長…?」

 

 近くにいた風紀委員が雲雀に恐る恐る声を掛けた

 雲雀は目を据わらせてぽつり、と告げる

 

「今すぐ杏を連れて来て。」

「は、はい!」

 

 今日ばかりは一般生徒も杏を助ける気になれなかった

 雲雀に意見してくれたのは嬉しかったがその雲雀の気持ちに気付かない杏に呆れてしまったのだった

 そしてもし、雲雀と杏がくっつけば交際禁止も撤回されるかもしれない、と淡い期待も抱いていた

 その為の障害は雲雀自身がその気持ちに気付いていないことと、杏が鈍いこと

 雲雀の方に関しては実は委員会の皆が何とか気付かせようとしているらしい

 実はそんな風に雲雀を煽っていた委員達が煩わしくて今回の交際禁止令が出たことは誰も知らない

 

「ここに小鳥遊がいますー。」

「ぎゃー!何でー!?」

 

 いつも味方になって誤魔化してくれるはずの生徒達に売られながら風紀から逃げる杏

 当然逃げ切ることは出来ずに応接室で待つ雲雀の前にずるずると引き出されてしまった

 静かな室内で2人きりという状況に杏は冷や汗が止まらない

 雲雀は専用の椅子に腰かけながらじっと杏を見つめていた

 

「…えーっと…。」

 

 挙動不審になりながらも雲雀の言葉を待つ杏

 

「…何で交際禁止に反対なの?」

「だって、こういう話は皆の勝手でしょ?雲雀さんにそれを止める権利はないと思うんだけど?」

 

 怒りも落ち着いたのか雲雀はぶっきらぼうないつもの口調になっていた

 杏もひとまず胸を撫で下ろして口を開く

 

「くだらない事で学業を疎かにしてるからだよ。」

「でも、そーゆー気持ちが活力になる子もいるんだよ?」

「…。」

「全部が全部悪い事に繋がるとは限らないでしょ?」

「…そうかな?」

 

 杏に言われてもどこかピンとこない雲雀は首を傾げる

 それを見て杏もうーん、と唸る

 

「そーだなぁ……。あ、もし雲雀さんが好きな子に褒められたりしたら嬉しくない?」

 

 雲雀に好きな子がいるかどうか分からない、更に雲雀にそういう恋愛感情が備わっているか甚だ疑問だが、等と失礼な事を考えていると雲雀が頭を悩ませた

 

「そーだなぁ。誰かに格好いいとか強いとか…?」

 

 かくいう杏も未だ恋愛感情に疎く、自分でも想像出来ないがとりあえず雲雀が言われて嬉しそうな事を並べてみる

 その言葉を聞いた後に雲雀は小さくこくり、と頷いた

 

「え、雲雀さん好きな子いるの?」

 

 雲雀の反応に心に生まれた小さな黒い感情を上回る驚きで目を丸くする杏

 そんな杏に雲雀は眉を寄せる

 

「聞いたのは君でしょ。」

「いや、そうだけどさ…。じゃあ何で交際禁止令なんて出したの?そんなことしたら雲雀さんだって好きな子と付き合えないんだよ?」

 

 杏がそう言えば雲雀は今初めて気が付いたとばかりに目を見開いた

 

「…気付いてなかったんだ…。」

「…五月蝿いよ。」

 

 罰が悪そうに雲雀は小さく笑う杏から視線を外す

 

「ま、そーゆー訳だから交際禁止令撤回してね!」

「…。」

「…雲雀さんも好きな子と付き合えないんだよ?」

「……。」

 

 じっと杏は雲雀の反応を待つ

 雲雀はそんな杏をちらり、と見ると溜め息を零した

 

「わかったよ。」

「ぃよっしゃあ!」

 

 嬉しそうにぐっと拳を振り上げる杏

 雲雀はまた一つ溜め息を零した

 

「よーっし、皆に教えてこよーっと!」

 

 雲雀が止める間もなく杏は応接室を飛び出した

 そんな杏を見送り雲雀はまた大きな溜め息を零す

 

「…あり得ない。」

 

 先ほどの杏の言葉、『好きな子』と聞いて真っ先に浮かんだ少女の顔に、そしてそんな感情を自分が持っていたことに雲雀は自分自身に驚いていた

 そうしてそんな感情に納得してしまった

 何者にも縛られないはずの自分

 それが簡単に崩れてゆく

 だが不思議と嫌ではない

 杏の笑顔がこんなにも嬉しい

 

「…仕方ない。」

 

 雲雀は机から紙を一枚取り出すとさらさらと何かを書き留める

 

「あ、杏!」

「おはよー!」

「昨日の交際禁止令が変わってたよ。」

「え?撤回じゃなくて?」

「あー…、うん。」

 

 次の日の朝

 下駄箱の所で友人が杏を待っていた

 昨日の雲雀との話でてっきり交際禁止令は撤回されるものだと思っていたがどうやら違ったようで杏は慌てて掲示板へと向かう

 そこには一枚の紙が貼られていた

 

『節度ある交際を許可する』

 

 簡単な一文と、補足

 

『覚悟しときなよ、杏』

 

「な、何であたし!?あたしが何かした!?あ、いや、意見したけどさ!!」

 

 一人慌てる杏に周囲から暖かい視線が送られる

 この日を境に杏は風紀委員からさん付けで呼ばれるようになり、ことあるごとに雲雀に呼び出されるようになる

 そして杏がほんの一瞬感じた黒い感情が何かを知るのはもう少し先の話---

 

 

 

 END




こちらも手入れをせずにそのまま掲載しております。

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