――それはまさに言葉に語るには語彙が足らず説明できないほど壮絶な戦いだった。結界に罅が奔り大地は裂け光と魔力が激突し空間を激震させる。火花を散らす両者共に戦意に迫る表情でぶつかり合う。
「うおおおおおおぉぉぉ―――ッ!! 諦めなければいつかきっと夢は叶うと信じているんだ! だから最後まで穿けばそれは真実となる! 喰らえェ、『閃光と暗黒の龍絶剣』ォォおおおおおお―――ッ!!」
「そ、そんな! オーフェスの力を手にしたこの私が……! せ、せめて最後にレオナルドきゅんの滅茶苦茶に犯してから死にたかった……あぁ、レオナルドきゅゥゥゥうううううう―――ん!!」
「よっしゃああああああっ!! 万歳ァァィ!、万歳ァァィ!、おおおぉぉォッ、万ッ、歳ァァァァィ!!」
「うわ、泣くほど喜んでやがる」
最後、アザゼルの放った『閃光と暗黒の龍絶剣』がカトレアを斬り裂き彼女はレオナルドの方を見ながら何かを呟きながら無念そうに消滅していった。ちなみにその様子を見て一番喜んでいるのはレオナルドである。ガチで男泣きしており正直隣に居たラスロは引いていた。
「ラスロには分からないんだよ、尻を狙われる男の気持ちなんてね! あのネットリ全身を睨め回すような視線を感じたら冗談なく鳥肌が立つんだからね!? ぶっちゃけ痴漢とかあれする人はやるまでバレてないと思ってるんだろうけど視線で気づくもんなんだよ!!」
「なんか女の子みたいな発言だな」
「ヤメロォ! ただでさえまだ成長期が来てなくて女顔なのにこれ以上女の子扱いされたら僕は死ねる! この前なんかジャンヌに無理やり女装させられて軽く首吊ったのに!!」
「――安心しろ、レオナルド」
トラウマを思い出したせいか暴走するレオナルドを鎮めるべくなるべく安心するように優しい声音でレオナルドの肩を叩く。レオナルドもラスロのその表情に少し落ち着きを取り戻したのか笑みを浮かべ、
「お前の女装撮影写真は『禍の団』でもトップ10に入るほどの高売れ行きだからさ」
「離してェ! 死んでやる! 今直ぐその写真を持ってる奴ら皆殺しにしてから灰も残さず死んでやるぅぅぅッ!!」
精神崩壊し暴れだしたレオナルドを雁字搦めにしてラスロが抑えていると、戦いが終わったアザゼルが戦闘直後の高揚感ゆえか、まるで三下悪役の如く三段階の高笑いを披露していた。
「ふふ、ふははは、はーははははははっ! 見たか、これがおまえ達が散っ々馬鹿にしていた『閃光と暗黒の龍絶剣』の真の力……! 今度はてめぇの番はミカエルゥ! てめぇとの長きに渡る因縁、今ここでケリつけてやらァ!!」
「いや和平持ちだした人が何戦争おっ始めようとしてるの!?」
「ふふっ、いいでしょう。貴方との因縁――お弁当のオカズを奪われたこと、最後の楽しみに取っておいた好物を奪われたこと、私のセンスを笑ったこと――その全ての因縁に幕を引いて差し上げます!!」
「因縁小っさ! 子供の喧嘩かあんたら!?」
膨れ上がる戦意。アザゼルは漆黒の十二翼を広げ『閃光と暗黒の龍絶剣』を構え、ミカエルはその手に光の槍を形成する。その波動だけで大気は悲鳴を上げ、部下たちも悲鳴を上げる。共に相手の姿だけしか見えていない。ゆえに、
「ふははははは、死に晒せこの彼女いない歴イコール自分の年齢の童貞やろごべェッ!?」
「落ち着けアザゼル」
頭上から降ってきた白銀の鎧を身に纏っているヴァーリに頭部を踏まれ、アザゼルは地面に陥没し頭部の部分だけが見える状態で固定される。
「少しは頭が冷えたかアザゼル? まったく、人に冷静になれといっているあんたがその様でどうする」
「いや先ず人の頭の上からどけよ!?」
「俺の本名はヴァーリ。――ヴァーリ・ルシファーだ」
「そ、そんなルシファーですって!?」
「人の話を聞けぇ!?」
そして明かされるヴァーリの出生の真実。真のルシファーの血縁者と人間との間に生まれたヴァーリは、高い素質を持って生まれながら『白い龍』の神器を持つという運命の悪戯とも呼べる存在として生まれてきた。
まさに歴代最強となる白龍皇だろう。
「正直言うなら、俺は赤龍帝よりもキミと戦って見たいんだがな。ラスロ―――いや、かの英雄。湖の騎士として謳われたランスロットと呼ぶべきかな?」
「ゴグペガッ!?」
「ああ、ラスロが在り得ない悲鳴を上げながら吐血した!」
未だアザゼルの頭上に鎮座するヴァーリはそう言って赤龍帝ではなくラスロの方を見る。その名前で呼ばれた瞬間、彼の奥底に眠りしトラウマが発動。胃に一気に穴が空きストレスで蹲った。
「ごひゅ、ごひゅ……っ! レオナルド……頼む、胃薬を……ッ!!」
「まさか対ラスロ用真言を既に知っていたなんて……! 第一、その名前は『禍の団』でも英雄派しか知らないはずなのにいったいどうやって……!」
「俺の同士が知っていてね。もしキミに会ったら伝えておいてくれと兄妹に伝言を頼まれていたんだ」
「で、伝言……それに兄妹……だと……?」
嫌な予感しかしない。だが聞かなければより恐ろしいことになるとラスロの危険察知がガンガンに警報を鳴らしている。というか兄妹の時点でもう駄目な気がする。
「ああ―――『近い内にあなたを必ず助けだしてみせます、ランスロットさま』と『次私たちが相見えるときは存分に死合いましょう』とのことだ―――ルフェイとアーサーからな」
「ゴッガガガガがァァァアアアアアア―――ッ!!??」
「なんかラスロが壊れたスピーカーみたいな悲鳴揚げ出した―――!?」
トラウマが完全にラスロの意識を直撃し壊れたスピーカーのようにガタガタ震えながら人間では明らかな致死量を吐血する。それでも未だ震えが止まらないのは過去に刻まれた恐怖ゆえだろう。
ラスロ―――本名はランスロットだが、今の名前を名乗る前はイギリスのペンドラゴン家に仕えていた騎士であった。親がなぜ自分にそう名付けたかは知らないが、年齢が近いせいでもあり気が付けばルフェイとアーサーの最も親しい友人となっていた。
そう、それだけならば良かった。断じて彼らにそれ以上の意識などしておらず、神に誓って不埒な感情など向けていなかった。しかし、アーサーはともかく箱入り娘として育てられてきたルフェイにとってランスロットは家族以外で初めて親しくなった友達であった。
つまり、どうなったかというと。
『ランスロットさまー! 一緒の魔術の勉強をしませんか?』
『ランスロットさまー! 共にお風呂に入りませんか?』
『ランスロットさまー! ランスロットさまー! ランスロットさまー!』
友達関係の距離が分からず、かなり親しくなってしまったのだ。もうそれは、端から見ればそういう関係なのではと疑ってしまうほどの距離。食事の際もまさかの皆の前で『あ~ん』をするという愚行、異性の壁というかもうゴールインしてんじゃね? と城の中でも噂になるほどの始末。ちなみにこの頃から『やはりNTR騎士だな』という呼び名が広まった。
そしてそんな事になっていれば黙っていられない人もおり、
『ランスロット、私と少し稽古でもいかがでしょうか? えっ? この剣刃引きされてない? ははははっ、実践稽古ですよ、私も殺すつもりでいくので覚悟して下さいねHAHAHAHA……!』
可愛い妹を取るような屑ぶっ殺してやると言わんばかりに殺気に溢れた剣でアーサーが毎度稽古を挑んできた。実力でいえばラスロの方が僅かに上だったのだが何故か妹のことになると戦闘力が急激に上昇しバーサーカーの如く迫ってくるのでラスロにとって毎回命懸けだった。
そしてアーサーとしてはこれ以上ラスロとルフェイの中を深めまいと毎朝会うたびに稽古に誘い、配下であるラスロがそれに逆らえるはずもなくルフェイは当然一人っきりになってしまう。
そうして誰にも気づかれる事無くどんどん日にちが過ぎ、
『ランスロットさまー。こうすればずっと一緒にいられますよー?』
―――
何処で間違った知識を吸収したのか既成事実さえ作ってしまえばずっと一緒にいられると判断したらしく、その日からラスロの真の地獄が始まった。
朝、部屋に手錠と薬を持って薄い下着姿で入ってくるルフェイの気配を探知しすぐさま着替えを持って部屋の窓から飛び出し、何故か部屋の外でスタンバっていたアーサーと対面同時に妹が薄着(しかも何故か若干着崩れしている)でラスロの部屋から出てくるのを見て暴走。なんとか逃亡し朝食を食おうとすると無色無臭の精力興奮剤が混ざっているためすぐさまトイレに直行。朝の鍛錬を終え、ルフェイの勉強会が開始。一応護衛なので傍にいることになるが、わざとラスロの膝に座ったり身体をこすりつけたりされるのを鋼の精神で押さえる。午後はアーサーが稽古という名の死合いが勃発し日が沈むまで何度沈めても幽鬼の如く蘇るアーサー。風呂に入ろうものなら全裸で突入してくるルフェイ。それらを退けようやく夕食に手を付ければ朝食と同じ精力興奮剤入り。夜再び部屋に侵入してくるルフェイを何とか精神を沈ませて帰らせればアーサーが突撃してくる後始末。
率直に言えば限界だった。胃に穴があきそれに看病してくるルフェイにアーサーが暴走して襲ってきて更に胃に穴が空く悪循環。だからこそラスロは名を偽ってペンドラゴン家から逃亡した。
何やかんや合って『禍の団』に所属することになったが、今でもその頃の出来事はトラウマと化しており、思い出しただけで失神するほどである。
「う、うぅ……勘弁してくれルフェイ……俺は決して手をだしていませんからアーサー……」
「いけない、遂にラスロが幻聴を聞き出してる!?」
「ところで、キミは運命とは残酷とは思わないか? 兵藤一誠」
「ここに来てまさかのスルゥー!?」
「……頼むからマジでいい加減どいてくんねえかなぁ」
いきなり運命について語りだすヴァーリ。自分と元人間だったのか如何に違うか語りだした。そして両親を殺すと聞いて、今代の赤龍帝である兵藤一誠が怒りに力を増幅させていく。
「てめぇ……おまえの都合なんかに、俺の両親を殺されてたまるかよォッ!」
「気をつけろ今代の赤龍帝。奴の神器『白龍皇の光翼』は触れたモノを半減させ吸収する力を持っている。おまえの神器とは相性がかなり悪いぞ」
「あっ、ラスロ復活したんだ」
「ふっ、まだ胃の痛みは引いていないけどな……」
ようやく復活したのかラスロは腹を抑えながら一誠に助言する。その言葉に両親を殺されると聞いて怒りを顕にしていた一誠がぐと何か思い当たったように小言を呟く。
「……触れたものを半分にするだと……それってつまり―――おっぱいも、半分になっちまうのか!?」
「……え?」
いや、何いってんだこいつ。
「どうなんだ!? 部長のおっぱいも半分になっちまうのかって俺は聞いてんだよ!!」
「え、えぇっと……まあななっちまうんじゃない?もっともヴァーリがそう選択するわけないが―――」
「……さねえ」
「へ?」
「赦さねえぞォ、ヴァーリ・ルシファァァ―――ッッッ!! 部長のおっぱいをてめえなんかに半分にされてたまっかァァああああああ!!」」
『ちょっと待て相棒ゥ!? おまえ親が殺されることよりそっちにぶちきれるってどうい―――』
『Welsh Dragon Over Booster!!!!』
刹那――赤龍帝は禁手に至り、魔力が赤き覇気と見えるほどの凄まじい力を解き放つ。其処には先程までいた弱い少年の姿はなく、白い龍と何ら実力の変わらない強者がそこにいた。
そこにいた、のだが……
「……正直な話、親殺されることよりおっぱい半分にされてブチ切れるほうが凄まじいって人としてどうなんだろうな……いや、人じゃなくて悪魔だったか」
「ヴァーリは半分にしたものを吸収できる……? つまりおっぱいを吸収したらヴァーリは巨乳になる……?」
「おまえはいったい何言ってんだレオナルド」
突然異界から電波を拾ってきたレオナルドの頭を小突いて正気に戻す間にも今代の赤龍帝と白龍皇の死闘は激戦と化していく。龍殺しの剣や意外な策を思いついて攻める一誠に対し笑いながらそれらを真正面からねじ伏せるヴァーリ。途中赤龍帝が白龍皇の力を吸収するなど予想外な展開もあったが、その戦いを見て思わず思ったことをラスロは口にした。
「しっかし、ここに曹操がいなくて助かったな。もし曹操がこの光景を見てたら絶対テンション上がって暴走して乱入してくるだろうしな。まあそう思ってあいつもきっとお前に任したんだろう」
「う、ううううん。そ、そそそそそうだね!」
「……どうしたレオナルド? なんでそんな冷や汗大量に流してんだ?」
「な、ななななななんでもないよ! ラスロが気にすることなんてこれっっっっぽっちもないよ!?」
……怪しい。レオナルドの反応にラスロの目が訝しげる。何かがおかしい、まるで何か隠しているような反応。わざとらしく下手な口笛を吹くレオナルドを観察すると、何やら手に変な機械が握られている。それは角度的に見づらいが、ラスロの記憶が間違いで無ければ遠視装置の形状をしていた。
「レオナルド。怒らないから正直に言ってくれ。……もしかして曹操、これ見てる?」
「…………たぶん」
そうか、そうなのか、そうなんだなの三段活用。ふは、ははは、ははははははは!!
「―――てめぇ何してんだこの馬鹿野郎ォおおおおおお!」
「ひーんっ! 怒らないって言ったのに――!」
「怒るに決まってんだろこのケモノフェチ! どーすんだよあれ絶対曹操テンションマックスになってるよ! 弱者が気合と根性で乗り越えるとかあいつ特過ぎんだろ! 絶対今か今かと横槍入れる準備待ってるよ! つーかレオナルド! おまえ端からそうなると分かった上で俺を巻き込んだな!?」
「ここまで来たら何とやら。一緒に乗り越えようぜ!」
第一、 レオナルドが誘ってきたか最初から不可解だったのだ。第一直接会うのが嫌なら
ばいつものよろしくコピーを送ればいいだけの話なのだから。しかし今回は曹操直属の命令。だからこそ本人が直接いかなければならず、もし暴走した時のためにラスロを巻き込んだのだろう。
そんな二人が騒いでることなど露知らず、二人の戦いは激戦と化していく。共に鎧は回復していないほどボロボロに砕け、傷ついた顔から血が流れている。それでも二人は拳を止めず、信念を込めて殴りつける。
「これは部長のおっぱいの分! これは朱乃先輩のおっぱいの分! これはゼノヴィアのおっぱいの分! これは成長中のアーシアのおっぱいの分! そしてこれがァァ、半分にされちまったらまるっきり無くなっちまう子猫ちゃんのロリおっぱいの分だァァああああああ―――!!」
「ぐあああああああっ!!」
「……イッセー先輩、あとで潰す」
……信念を込めて戦っている!
「グハァッ! ……ふふ、ふははは、ははははははは! 見事だ兵藤一誠。訂正しよう、キミは取るに足らない存在なんかじゃない。俺が『覇龍』を使うに相応しい好敵手だと……!」
『ヴァーリ、その傷で『覇龍』を使えば命を削るぞ! 選択を誤るな!』
「おっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱいいいいいいいいィィィ――――!」
『相棒、せめて人語を喋ってくれ!?』
更に戦気を高めていく二人。更なる火蓋が切って落とされたと誰もが思ったその時、
『―――素晴らしい。見事だ今代の赤龍帝、及び白龍皇。君たちの戦いは実に素晴らしかった。ああ、讃えさせてくれ。満天下に轟かせてくれ、おまえ達は至高の輝きだと!』
声が―――天から轟いた。
「これは―――」
「な、なんだよいきなり!?」
誰もがその声に耳を傾ける。そうせざるを得ない何かをその声の持ち主は持っていた。一種の覇道――カリスマと呼ぶべきか。唯一分かっていたレオナルドもラスロも辛気臭そうにしながらも声を聞く。
『愛のために己の限界を超え最強に挑む。なんの王道で手垢の付いたような筋書きだが、そのゆえ達成するのは困難だ。何故ならそれは誰もが思いつくがゆえに、誰もが簡単にはなせないことだと理解しているからだ。勝利できるのは同格か格下のみ。なんとも解りやすく、真理であり――ゆえに俺は叫びたい。そんなことはないのだと!!』
『不可能を可能に変えるのが人の力だ! 未来が絶望しかないと知りながらそれを変えるべく足掻きもがき苦しみ、それでもなお前へ進み続けるその強さこそ人間の美しさ! 人間賛歌の輝きだ! ゆえにそれを実行したおまえを、俺は心から敬意を払おう、兵藤一誠。おまえこそ俺の求めた英雄だと』
『だからこそ今一度言わせて貰おう―――もう一度、その強さを俺に魅せてくれ!』
『絶望を超え限界を超越し、その至高の輝きを――――アァァクセス! システム、インストォォォルッ!!』
『和の神よ、大地に眠りし穢れし龍神よ、今こそその咆哮を解き放て! ―――唵 呼嚧呼嚧 戰馱利 摩橙祇 娑婆訶―――百鬼ィ、空亡ォォォン!!』
―――それは即ち、最悪の言霊。
言葉に意志が宿り、世界を書き換える。空は裂け、空に巨大な眼が浮かび上がる。それは実際に存在したものではなく、人々が信仰する『災害』そのもの。人が敵うとは在り得ない究極の一。
「かーごめかーごめ」
「かーごのなーかのとーりーは」
「いーつ」
「いーつ」
「でーあーう」
「よーあーけーのーばーんーに」
「つーるとかーめがすーべった」
「うしろのしょうめんだーあれ」
「オン・コロコロ・センダリマトウギソワカ――六算祓エヤ滅・滅・滅。滅・亡・亡・亡ォォォ!」
ここに、最悪の人の悪夢が具現化した。
はい、やらかした!