パンツ脱いだら通報された   作:烈火1919

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A's35.一家崩壊1秒前

 本日、高町ハラオウン家はちょっとした騒動となっていた。

 

「フェイトちゃんわたしのブローチ知らない!?」

 

「え?たしか部屋の鏡台に置いてあったよ?それより私のイヤリング知らない?」

 

「わかんない!」

 

 原因はなのはとフェイト。バタなのとバタフェイが家の中を駆け回りながら身支度に追われているためだ。かくいう俺も人のことはいえないが、それでもワイシャツをきてネクタイ締めて、あとはスーツを羽織るだけなので二人よりも随分ゆっくりとした時間を過ごすことができる。

 

「パパー!ヴィヴィオもおきがえする!」

 

「はいよー」

 

 そして本日の主役であるヴィヴィオは嬉しそうに自分が着る服をもってきた。いかにもかわいらしい服だ。いつもの萌え萌えとした服は抑え気味で、これなら学校に行くのも問題なさそうだな。

 

「はいバンザイして」

 

「ばんざーい!」

 

 両手を上にあげるヴィヴィオから寝間着を脱がし、服を着替えさせる。シワがつかないように丁寧に着替えさせた後は靴下を渡す。ヴィヴィオはそれを受け取ると床にぺたんと座って一生懸命に靴下と格闘しはじめた。それをぼーっと眺めておく。視界の端には忙しなく動くなのはと、薄く化粧をするフェイト。二人ともそんなことしなくても可愛いのに、やっぱ女なんだな。

 

 袖をちょいちょいと引っ張られる。それに釣られて視線を向けると、ガーくんが黒のスーツと白のスーツを掲げて、

 

「ドッチガイイカナ?」

 

 そう聞いてきた。

 

「とりあえず白はなしかな。するなら黒だろ。青はダメだぞ、有名なキャラと被るから」

 

「ハーイ」

 

 白のスーツを直しにいくガーくん。お前まで気合い入れてるのか。

 

「ねぇパパ。ヴィヴィオちょっとねむくなってきた……」

 

 本日の主役、早くも退場しそうなんだけど。

 

 目をこするヴィヴィオを抱き上げる。うん、ちゃんと自分で靴下をはけるようになってるな。

 

「いまから桃子さんの家に行くんだから我慢しなさい」

 

「はーい」

 

 そういいながら完全に俺の胸に頭を預けるヴィヴィオ。まぁ本人も興奮して昨日は中々寝つけなかったからしょうがないといえばしょうがないか。

 

「俊くん洗濯物した!?」

 

「したよ。家事は全部やっといたよ」

 

「わかった!あ、あとこの服大丈夫かな!?」

 

 白のスーツとスカートでほんわかとした雰囲気を演出しているなのは。胸元には星のブローチ、首元からはレイジングハートをかけている。化粧もこなし普段より可愛い。

 

「問題ないよ。かわいく仕上がってる。しかし早くないか?今回はただ説明きいて書類とかの準備するだけだろう?入学式でもあるまいし──」

 

「俊くんのバカ!こういうときからちゃんとしないといけないの!わたしたちは若く見られるんだから、その分きっちりしておかないと!あぁ……いまから見える。脱線した瞬間にはじまる保護者いびりが……」

 

 高町家相手にそんないびりする人物がいるか?なのはの後ろに控えている人物達が恐ろしすぎてそんなことできないだろ。

 

「まぁ実際俺らは若いしな。成人迎えてないし」

 

 ……いま思えばなのはってこの年で子持ち人妻になったんだよな。なんだろう、このエロスな響き。

 

「魔法淑女人妻なのは……えろいな」

 

「なに考えてるのかなー?」

 

「痛い痛いネクタイ締めないで!?首がモゲる!」

 

 怒った顔で俺のネクタイを引っ張るなのは。さすが必殺仕事人、手練れすぎて一瞬なにをされたか理解できなかった。

 

 ギブを言い渡しているのに、なおもネクタイから手を離してくれないなのは。ふとだんまりを決め込んだかと思うと、何を思ったのかふいに俺のネクタイを緩めて外

していた。

 

「えーっとたしかこれをこうして……」

 

 何かを考え込みながら俺の首にネクタイを巻きつけていくなのは。これは完璧に殺しにかかってるな。

 

「あ、あれ?ちょ、ちょっとまってね俊くん。これ意外と難しいよぉ……」

 

 困った顔で呟くなのは。俺もさっきから酸素をうまく取り込めなくて困っている。

 

 なんとか必死でヴィヴィオだけは床に落とさないようにしているが、そろそろ本格的にヤバくなってきた……。

 

「あーもうわかんない!これちょっと外すからね!」

 

 何故か締めていたネクタイを取られる。するすると首元から抜けていくとネクタイはなのはの手に。そして何故かネクタイを自分に結び始めるなのは。お前時間がないんじゃなかったのか……?

 

「あ、なるほどなるほど。つまりここをこうすれば……」

 

 納得したような表情で再び俺の首にネクタイを締めていくなのは。一生懸命に俺のネクタイを結んでくれているので、俺も一生懸命になのはの匂いを嗅ぐことにする。……少し香水を振りかけているな。いつもの匂いではない。

 

「これでよしっと。はい俊くんもういいよ」

 

「おう、サンキュ」

 

「えへへ、どういたしまして」

 

 ネクタイを結び終えたなのはは満足したように頷き、自分の作業へと戻っていく。

 

「ちょっとネクタイは歪だけど嬉しいなぁ」

 

 俺無職だからまずネクタイを結ぶ機会なんてないし、裸ネクタイくらしかないもんな。いいい機会を作ってもらったヴィヴィオにも感謝だな。

 

「ほらヴィヴィオ。しっかりしろ。もうすぐいくぞ」

 

「ん……あーい」

 

 ヴィヴィオを床におろすと、丁度着替えを終えたガーくんがやってきた。手に蝶ネクタイをもっている。

 

「コレシテー」

 

 アヒルに蝶ネクタイは厳しいものがあるよな。俺はスーツを自分で着る時点で厳しいものがあると思うけど。

 

「はいはい。ちょっとまってろ」

 

 ガーくんから蝶ネクタイをもらい膝をついて締めていく。

 

「ワーイ!アリガトウ!」

 

「どういたしまして。さて、フェイトー!なのはー!そろそろ時間だぞー!」

 

 壁時計をみて事前に話していた時間が近づいてきたためフェイトとなのはに声をかける。

 

『はーい!もういくからちょっとまって!』

 

 遠くからなのはの声が聞こえてくる。フェイトは黒の七分袖のジャケットとタイトスカート、中は白のブラウスだ。普段はしないイヤリングが大人の色気を醸し出し

ている。はい確定。これもう勝利確定。上矢俊、たったいま陥落しました。

 

「おまた──」

 

「あー!なんでフェイトはそんな色気で俺の理性を刺激してくるかなー!これもう犯罪だなー!犯罪的なエロスだよな!これもうダメだ、我慢できない!」

 

「あ、俊。ネクタイ曲がってる。はいそこでストップ」

 

 ルパンダイブの最中ふいのストップ。なんとか空中浮遊で動きを停止すると、フェイトは俺のネクタイに手をかけた。

 

「しっかりしてよね。いまから高町家に行ってそれから学校に行くんだから。それにお母さんもくるんだよ?こんな曲がったネクタイしてきたら……結婚報告するときに殺されるよ」

 

「そんなことしなくても殺されそうなんですが」

 

「そのときは二人で駆け落ちでもしよっか」

 

 当たり前だと言わんばかりのフェイトの表情は、至極真面目なものだった。……頑張ろう。

 

「それにしてもフェイトってネクタイ結ぶのうまいのな」

 

「練習してたしね。ほらやっぱりお嫁さんはネクタイ結べないとダメでしょ?」

 

 おっとフェイト選手、親友である高町なのはに喧嘩を売りました。

 

 しかしなのは選手それを聞いていない。友情はなんとか守ることができましたね。

 

「それじゃ俺もブラとパンツをスムーズに脱がせることができるように練習しておこう」

 

「……なんか手慣れる感を出されるとちょっと引くかも」

 

 ……女心って難しいな。

 

 そうこうしているうちになのはがやってきたのでようやく高町家へ行くことにした。

 

「ヴィヴィオちょっときんちょうする……」

 

「大丈夫大丈夫。少し高町家で落ち着いてから学校へは行くか」

 

「ん、そうだね」

 

 そんなわけでヴィヴィオを落ち着かせるために、高町家でゆっくりしてから学校へは行くことに決まった。

 

        ☆

 

 最近ご無沙汰な高町家に帰ってくると桃子と士郎が快く出迎えてくれた。二人とも相変わらず見た目が変わらない化け物だということを追記しておこう。

 

「いらっしゃいヴィヴィオちゃん。今日は頑張ってね」

 

「うん!ヴィヴィオがんばる!ヴィヴィオむてきだからだいじょうぶ!」

 

 力いっぱい拳を振り上げるヴィヴィオに桃子は頭を撫でる。嬉しそうに笑うヴィヴィオをみていると俊やなのはやフェイトまで嬉しくなってしまう。桃子に頭を撫でられて少し落ち着いたのか、さきほどまでのそわそわとしていた雰囲気が若干薄らいでいた。

 

「なのはもフェイトちゃんも俊ちゃんもガーくんもお疲れ様。ほら時間までゆっくり休みなさい。ケーキと紅茶を用意してるわよ」

 

「うん!ありがとうおかあさん!」

 

「ありがとうございます。あの……母はまだですか?」

 

「さっき買い物にいったけど……まだ帰ってきてないみたいね」

 

「ほ……。それは安心しました。そのまま鍵をかけておいてください。母がこの場にいるとめんどくさいことになりそうなので」

 

「あ、あいかわらず厳しいのねフェイトちゃん……」

 

「今日はママとして本気ですから。私がしっかりしないと……」

 

『俊くんそれわたしのイチゴ!とらないでよ!』

 

『お前は胸についてる乳首でも食べてろ!』

 

『ガーくんこれなーに?』

 

『モンブランダヨ!』

 

『お~。モンブラリンか~』

 

「私が……しっかりしないと……!」

 

 少しばかり涙をみせながら強い意志を覗かせるフェイトに桃子は乾いた笑いを送りながらそっと肩を叩く。

 

 後ろにいる大きい子ども二人と小さな子ども達のお世話は大変だろうと心の中で思いながら。

 

「ま、まぁフェイトちゃんも少しはリラックスしないとね。ほら紅茶だけでも飲んで落ち着いて?」

 

「は、はいありがとうございます」

 

 ソファーにはヴィヴィオがなのはの膝の上に座りながらモンブランを食べさせてもらっている。なのははイチゴのショートケーキを食べながらヴィヴィオの面倒をみているのだが、ヴィヴィオのことに気がいきすぎて自分の服にホイップクリームが落ちそうなことに気づいていない。

 

「なのは、自分のクリームが落ちそうだよ」

 

 なのはの横に座ったフェイトはなにげない動作でなのはがもっていたフォークに付着するホイップクリームを舐めとる。

 

「……」

 

「ん?どうしたのなのは?」

 

 フェイトのほうをじっとみるなのはにフェイトが首を傾げると、なのはは無言で自分の頬にホイップクリームをちょこんとつけた。そのまま何事もなかったかのようにヴィヴィオの相手をする。

 

「……えっと、なのはついてるよ?」

 

「え?なにが?」

 

 ぴこぴことなのはの頭にネコ耳の幻覚がみえるフェイト。目をくしくしと擦るがその幻覚は消えないどころか、さきほどよりも動きが激しくなっている。それによくみるとシッポもぶんぶんと振られている。

 

 ヴィヴィオはガーくんに自分のモンブランを食べさせており、俊は二人をよそに誰かと連絡をとっていた。

 

「……はぁ」

 

 だれにも見られないうちに済ませよう。

 

 そう決心したフェイトはそっとなのはの頬に口寄せて、かわいらしい舌でぺろっとなのはのホイップクリームを舐めとった。

 

 なのはのネコ耳としっぽは千切れんばかりに振られていた。

 

 フェイトは周りを確認しながらさっと身を引いて、誰にも聞こえないようにひそひそ声でなのはに耳打ちする。

 

「なのは……いきなりどうしたの?昨日もあんなに甘えたでしょ?」

 

「んー?べつにー。ただフェイトちゃんが不安そうな顔してたから元気づけてあげようと思って」

 

「ふ、不安そうな顔って……」

 

「フェイトちゃんは美人なんだから、そんな顔しちゃダメだよ。リラックスしなきゃ」

 

 ヴィヴィオの頬をぷにぷにしながらにへらと笑うなのは。

 

「むぅ……なのはだって家を出るまであわあわしてたじゃん」

 

「覚悟決めたからね。わたしやフェイトちゃんが不安そうな顔してたらさ、ヴィヴィオだって不安になっちゃうよ。だからわたし達は常に笑顔でリラックスしてなくちゃダメなんだって」

 

 魔導師と戦うよりもこっちのほうが簡単だよ。そう笑うなのはにフェイトはふっと肩で笑った。ようやく笑うことができた。

 

「……かなわないなぁ」

 

 いざというときの決断力と度胆の強さ。この二つをもっているからこそ彼女はエースオブエースになれたのだ。そう悟るフェイトはなのはにそっと寄り添った。

 

「……ありがと、なのは」

 

「どういたしまして。でもまぁ、いまわたしが言ったことが本当なら俊くんは心臓に毛が生えた生き物だと考えたほうがいいかもね。少なくともわたし達より落ち着いて、ヴィヴィオとも普段通りに接してたんだから」

 

「そうだね。なんだかんだで……俊は頼もしいのかもしれないね」

 

 二人で俊を見つめる。携帯で何かを言い争う俊に目を奪われる。二人に視線に気づいた俊はきまずそうにしながら、声量をかなり絞る。冷や汗を垂らしながら手で戸を立てるその様子に、女としての直感が働いた二人はそっと魔法で俊の電話を盗聴した。

 

『だから違うってスカさん。スカさんが言ってるのは“俺とお前のろりぷに天国~カウパー・サラダバー~であって、俺が頼んだのはそれのらぶ・ぽーしょん編だって!え?置いてない?……まいったな、それは困った。やっぱ予約しておくべきだったかな?でもタイトル的になのはとフェイトにもし受け取られたりすると危ないし

──』

 

「「ちょっと奥でお話ししようか、あなた?」」

 

 一人一つの要領で両肩を外すなのはとフェイト。悲鳴すら上げる間もなくバインドと猿轡で封じ込まれた。

 

「言い訳は後で聞くから。まずは奥に行こうか?大丈夫だよ俊くん。返り血なら洗い落とせばいいし、いざとなったらおとうさんの服を借りればいいでしょ?」

 

「ヴィヴィオー、ちょっと桃子さんと遊んでおいてねー?ママ達はすぐに戻るから」

 

『はーい!パパはー?』

 

「塵と化してなければヴィヴィオの元にまた現れるから大丈夫!」

 

 勢いのままにヴィヴィオは首を縦に振った。もちろん理解など微塵にしていないが。

 

 ずるずるとなのはとフェイトに引きずられる俊を手を振って見送るヴィヴィオ。ガーくんと桃子は合掌して見送る。

 

『ち、ちがうんだ二人とも!?こ、これは純愛物語であって──』

 

『あのタイトルのどこに純愛要素が入ってんのー!!』

 

『どんなタイトルかもしらないくせに!』

 

『し、しってるもん!ね、フェイトちゃん!俊くんに言ってあげて!』

 

『え!?私!?え、えっと……ろ、ろりぷ──っていえないよ!?』

 

 奥の間から三人の声が響いてくる。ヴィヴィオは桃子の膝の上に座りながら、桃子を見上げて笑顔を向けた。

 

「パパとママたちなかよしだね!」

 

「そうねー、パパとママも仲良しねー。……死ななきゃいいけど」

 

 それからリンディが帰ってくるまでの間、なのはとフェイトからの無限コンボをお見舞いされていた俊は、フェイトから話しを聞いたリンディにも無限コンボを叩き込まれることになった。

 

          ☆

 

 無限コンボを決められてから2時間ほどの回復をようしたが、そのおかげもあってなのはもフェイトも平常心を取り戻した。代償は大きかったものの、魔法の力で俊の衣服は元通りになり、俊は楽しそうなヴィヴィオにひかれながら自分の母校へと歩みを進めた。

 

「いい、俊くん。絶対に変なことしないでよね?下半身露出しちゃダメだからね?」

 

「まるで俺が日常的に可半身を露出しているみたいな言い方はやめてもらおう」

 

 唖然としすぎて言葉がでないなのは。

 

「俺が出してるのはチンコであって下半身ではない」

 

「もっと悪いよ!?そのピンポイントはやばすぎるよ!?」

 

 慌てるなのはに口笛を吹く俊。ちなみにヴィヴィオはフェイトが奪取して身の安全を確保した。

 

「それにしても小学校か。懐かしいな。小学生まだいるかな?」

 

「いるわけないでしょ。そういえば俊くんってわたし達が説明受けてるときなにしとくの?」

 

「うーん、ヴィヴィオと学校見学かな」

 

 少し悩んでそう答える俊。書類や説明ごとはなのはとフェイトのほうが得意、というより局員であるためなのは達が受け持つことになっている。ほんとのところ、俊ではなのはもフェイトも不安なので自分達で事を進めようというのが魂胆であるが。俊もそれを理解しているので何もいわず、自分はヴィヴィオと時間を潰そうと考えた結果、さきの学校見学に思い至った。

 

「でも最初は俺も一緒にいくんだろ?」

 

「そりゃね。親の名前を書かないといけないわけだし」

 

「だよなー。俺となのは、そしてフェイトにヴィヴィオ。それとガーくんか?」

 

 あれ?アヒルは名前書いていいのだろうか。そもそも保護者じゃないよな?

 

 ちらりとガーくんをみて悩む俊に、ヴィヴィオを乗せて歩いていたガーくんはぽんぽんと俊の足を叩いた。

 

「モンダイナイ。ガークンハコトバシャベレルカラ」

 

 それこそ問題なんだよなぁ……。口が裂けても言えない俊であった。

 

 ガーくんをどう扱うべきか。その考えに浸っていた俊はふとあることに気がついた。それはミッドでは当たり前のことすぎて失念していた部分。いや、なかったことにしていた部分。それは──

 

「なぁ……ヴィヴィオの名前ってどっちで記入するの?」

 

 ぴたりと全員の足が止まった瞬間だった。

 

 考えてみればそうだった。地球で生活をする以上、母親は一人しかいないのだ。なのはとフェイトの二人を母親として書くなんて真似をしたらどうなるか、想像しただけでも恐ろしい。だからこそ、高町なのはを母親にするのか、フェイト・T・ハラオウンを母親にするのかどっちか一つを選ばなければならない。逆にいうならば、どちらか一方しか選べないのだ。

 

 そしてヴィヴィオは選んだ母親の名字を地球では使い続けるのだ。義務教育が終わるまでは必ず。

 

 俊は自分に問いただす。

 

 これまでこの問題を一度でも本気で議論したことはあっただろうか?

 

 答えは否。

 

 ではなぜ二人ともこの問題について触れなかったのか?

 

 それは多分──

 

「なにいってるの俊くん?」

 

「そうだよ俊」

 

「「ヴィヴィオは高町(ハラオウン)性を名乗るに決まってるよ」」

 

 二人とも自分が母親で、自分の名字を使うと考えていたからだ。

 

「「……ん?」」

 

 頭を抱えてしゃがみこむ俊。自分が先送りにしていた問題をいま気づいたことに後悔するとともに、この場でどちらの姓を名乗らせるのかで言い争いをしはじめようとする二人を抱っこして高町家へと音速で帰宅することにした。

 

「ガーくんついてこい!とりあえず年長者達に助言を乞うぞッ!!」

 

「オウトモサ!」

 

 ジェットコースターのような速さを体験してはしゃぐヴィヴィオに乾いた笑みを浮かべながら高町家へと帰ると、このことに察知していたのか桃子さんとリンディさ

んが対面して待っていた。

 

「あら俊ちゃん。この時間だと学校に行く前にちゃんと気づいたのね」

 

「えぇ、なんとか……。その、すいません桃子さんにリンディさん。どうかお知恵をお貸しください。このままじゃ……なのはとフェイトが戦争起こしてしまいます」

 

 俊に抱きかかえられたまま、ツーンとそっぽをむく二人。桃子もリンディも自分の娘をみながらそこまで考えが至っていなかった娘に呆れて、ため息を漏らしていた。

 


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