パンツ脱いだら通報された   作:烈火1919

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22.幼女ヴィヴィオ

 わたがし雲が青色の海を悠々と泳いでいる。 海には鳥が自由に滑空しており燦々と降り注ぐ太陽が肌を焦がす勢いで容赦なく襲ってくる。

 

 俺はそんな太陽を眺めながら、庭で洗濯物を干していた。

 

「今日も二人のパンツはかわいいなぁ……一つくらいとってもバレないのではないだろうか?」

 

 この頃は色々と不幸が重なり、なのはとフェイトの警戒が強くなってきている──のだが、それをかいくぐって得られる下着こそ興奮するというものではないだろうか。 そうに違いない。 しかしここにあるものは既に洗濯してしまった下着だけ。 こんなものでは俺の迸るパトスを抑えることなんてできやしない。 そう……使用済みの下着でないと……! 溢れ出るパトスは抑えることはできないのだ……!

 

 そうと決まれば早速行動である。 残りの洗濯物は自分のものだけなので適当に干す。 ある程度シワを伸ばして洗濯バサミを使って物干しざおにかけたら、さっそく二人の部屋にいくことに。

 

 ヴーヴー

 

「ん? スカさんからじゃん。 なんでこんなタイミングで。 はーい、もしもしスカさん? いまから世界の滅亡よりも大事な用事があるから後にしてくれる?」

 

『おお、ひょっとこ君。 突然だが幼女に興味はないかい?』

 

「詳しく聞こうか」

 

 スカさんから興味をそそる単語が聞こえてきたときには知らないうちに口が開いていた。

 

『うむ、ちょっと電話ではあれなので私の家に来てほしいのだが……』

 

「んー、オッケーオッケー。 すぐ行くよ」

 

 スカさんの声が少しだけ重かったけど、どうしたんだろうか?

 

 

 

           ☆

 

 

 家の戸締りを済ましてからバイクに跨りスカさんの家へとやってくる。

 

 インターホンを押して数分、いつぞやと同じようにウーノさんが出迎えてくれた。

 

「お邪魔します、ウーノさん。 スカさんはなにしてるの?」

 

「ちょっと外せない用事がありまして……」

 

 スリッパを差し出してくるウーノさんに頭を下げながら、スカさんって暇人じゃなかったのかと考える。 おかしいなぁ……俺と同じ無職だと思ったんだけど。

 

 スカさんの部屋へと移動中、別の部屋から大きな丸メガネをかけた女性で困った様子ででてきた。

 

「あ、ウーノ姉様。 私の一人亀甲縛り用の縄知りませんか? どこかにいってしまったんですけど」

 

「クアットロ、お客様の前ですよ。 そういった発言は控えてください」

 

「これは失礼しました。 あまり他人のことなど気にしない性格なので」

 

「そんなことだから、真夜中に一人亀甲縛りを路上でして大変なことになったのでしょう」

 

 ウーノさんが溜息とともに額に手をおく。 なのはやフェイトが俺のときにやる仕草と同じだ。 それが意味すること、それは『ダメだ、こいつ』というわけである。

 

「この方がドクターがよく話に出す男性ですか。 ……なんだか無職のような顔をしてますね」

 

「そっちこそ、ドMっぽい顔してるな。 調教でもしてやろうか?」

 

「ご心配なく。 あなたじゃ役者不足ですわ」

 

「まあまあ、そこらへんにして。 ひょっとこさん、ドクターがお待ちですよ。 クアットロ、あなたは夕食の買い物にでも行ってください。 縄は私が探しておきますから」

 

 ウーノさんの言葉に納得した様子で、クアットロと呼ばれた女性は玄関のほうへと歩いて行った。 まさかウーノさんにあんな妹?がいたとは……。

 

「ではひょっとこさん、行きましょう」

 

 ウーノさんの言葉に頷きながら、スカさんの部屋へ歩いていく。

 

 スカさんの部屋の前につくと中から1オクターブほど低いスカさんの声が聞こえてきた。

 

『レジアス、これ以上人造魔導師や戦闘機人の戦力運用はやめにしないかい?』

 

『何を言っているスカリエッティ。 これ以上地上の戦力がなくなっていいと思っているのか?』

 

『地上の戦力が危ないことは知っているよ。 でも……ほんとうにこれでいいんだろうか? これが正しいことなんだろうか?』

 

『何を世迷言を。貴様がそれを言える立場にあると思っているのか? 私利私欲のために動いたお前が』

 

 ここからでは誰と会話しているのか、どんな会話をしているのかわからないが……真剣な様子であることだけは声の低さでわかった。

 

 ほんとうに入っていいのだろうか? 思わず躊躇ってしまう俺とは反対にウーノさんはトビラを軽くノックし、スカさんに俺がきたことを伝える。

 

『おお、ひょっとこ君。 入ってくれたまえ』

 

「お邪魔するよー、スカさん。 ……どしたの? なんか疲れているみたいだけど」

 

「これくらい、盗撮目的で完徹して作り上げたガジェットのときと比べればどうということはないよ」

 

 そういうスカさんの表情は少しだけ暗かった。

 

「ふ~ん、そっか。 それでさ、電話の件なんだけど」

 

「おおっ! そうだ、そうだ! そのことなんだけどね。 君に……というよりも六課の人達を信じて頼みたいことがあるのだ。 簡単に言ってしまえば、幼女を一人預かってほしい。 いや待ちたまえ、ひょっとこ君っ!? そのいますぐプッシュしそうな携帯電話をまずは置くんだ!」

 

 スカさんから幼女の単語が出た瞬間に、携帯を取り出しおっさんの携帯にかけようとしたのだが……そこはスカさん、俺が打ち込むよりも早く制止させる。

 

「え~……だってアレだろ? 俺に犯罪の片棒を担がせようという魂胆だろ?」

 

「いやいやいやっ!? 君は私が幼女を誘拐してきたというのかねっ!?」

 

 なにを当たり前のことを。

 

『ねーねー、チンク。 あそこにいるひとだ~れ? なんだかおしごとしてなさそうなかおしてるね』

 

『いくら無職そうな顔をしているからといって、指を指しながら言うのはどうかと……』

 

「……スカさん。 もしかして俺を攻撃するためにわざわざ呼んだの?」

 

「いや……そういうわけではないのだが。 チンク、ヴィヴィオ君と一緒にこっちにきてくれないかい?」

 

『はい』

 

 俺とウーノさんが出入りした扉から小さい女の子の二人組が入ってきた。 赤と翡翠色の厨二チックな目の色をした天真爛漫という言葉が似合いそうな幼女がどたどた

と俺のほうに向かってくる。

 

「こんにちは! ヴィヴィオです!」

 

「こんにちは、ひょっとこです。 えらいね~、自分のお名前が言えるなんて」

 

 ついつい頭を撫でてしまう。 ヴィヴィオと自己紹介してくれた幼女は気持ちよさそうに目を細めて笑っている。 なんだか小動物とコミュニケーションをとっているような気分に陥る。

 

「え~っと、ウーノさんの妹かな?」

 

「そこのチンクはウーノの妹だけど、君がいま撫でているヴィヴィオ君は違うよ。 そしてこの娘がいまさっき話題に出した女の子だ」

 

「この娘が?」

 

「うむ。 あまり長々と話しをしたくないので単刀直入にお願いするよ。 ──この娘を預かってくれないかね?」

 

 その時のスカさんの目にはいつも遊び心なんて微塵も感じなかった。 スカさんは真剣なんだ、真剣に俺に対してお願いしてきたのだ。 やがて頭をゆっくりと下げる。 それにつられる形でウーノさんたちも頭を下げる。 正直、なにがなんだか全くわからない。 一人だけ感じる疎外感。 俺だけがフィールドに立っていないような……そんな感覚を覚える。

 

「なぁスカさん。 理由は話してくれないのか?」

 

「いまはまだ……話せない。 ただ──私達といるよりもよっぽど幸せになれると思うんだ。 だって私は犯罪者なんだからな」

 

「幸せの定義なんて人それぞれだと思うけどね。 それに俺だってなのはとフェイトがok出さないことには無理だよ。 あいつらのことだから、絶対にok出すだろうけどさ。 それにこの娘自体はそれに納得してるのか?」

 

「それは大丈夫だよ。 なにも会えないわけじゃないんだ。 会おうと思えばいつでも会える距離にいるんだしね」

 

 どうにも要領を得ない会話が続く。 スカさんが何かを隠したい気持ちは伝わってくるのだが……

 

「ねーねー、ヴィヴィオおなかすいたー」

 

「ん? あー、わるい。 ビスコしか持ってないんだけど」

 

 ポケットからビスコを取り出す。 それをヴィヴィオは嬉しそうに受け取ると思いっきり袋を開けた──ことによってビスコが床へと落ちる。

 

 止まる刻

 

 ヴィヴィオの頬に伝わる一筋の涙。

 

 あ、もう決壊寸前だ。

 

 ここで泣かれても困るので予備にもってきたビスコを袋から破って手渡すことに。 嬉しそうに受け取るヴィヴィオ。 やはり幼女の笑顔というのは何よりも勝る宝である。

 

 それにしてもどうするか……。 これは俺一人では決めることができないし、一度帰ってから三人で話し合うとしよう。

 

「ちょっとだけ時間をくれ。 三人で話し合うから──」

 

 腰かけていた椅子から立ち上がったところで、なにかが自分の手を引っ張る違和感を覚えて振り返る。

 

「ねーねー、かえるの? ヴィヴィオもっとほしい」

 

「あー、ごめんな。 それ家にしかないんだよ」

 

「だったらヴィヴィオもいく!」

 

「…………ん?」

 

 なんだろう……いま三段飛ばしくらいで話が進んだような気がする。

 

「え~っと、君が欲しがってるビスコは家にしかないのはわかるよね?」

 

「うん!」

 

「それじゃ、俺が一旦家に帰ることもわかるよね?」

 

「うん! ヴィヴィオもついていく!」

 

「まって、そこがおかしい。 俺が君を連れて帰ったりなんかしたらおっさんが瞬時にやってくるから。 撲殺どころの話じゃなくなるから」

 

 流石のおっさんも釘バットで治せないから。

 

 なんとかして言い聞かせる。 しかしそこは子ども特有の力、話をまったく聞いてくれないパワーで俺が根負けしてしまうことに。

 

 どういう教育をしたらこんな娘になってしまうんだ。 この娘の将来が本気で心配になってきた。 とりあえず、なのはとフェイトの二人に電話することに。

 

 フェイトは仕事中なのかつながらないので、なのはにかける。 1コールの後に口になにかを入れたままの幼馴染の声が届いてくる。

 

『もふぇもふぇ? ほうしたの? 仕事中ふぁんだけど』

 

「菓子を食うのが仕事ってある意味すごいよな。 まあ、それはいいとして大変なんだ、なのは。 真面目に聞いてくれ」

 

『へ? あ……うん。 どうしたの?』

 

「目の前に将来が心配で心配でたまらない子がいるんだけど」

 

『現在が詰んでる俊くんよりかは大分マシだね』

 

「はぁ……」

 

『えっ!? なにその溜息っ!? 溜息つきたいのは私とフェイトちゃんのほうだよっ!』

 

「誰のおかげでお前らの下着が盗まれずに済んでると思ってるんだ?」

 

『誰のせいで私たちの下着がなくなってるか知ってる?』

 

 たぶん家出でもしてるんじゃないだろうか? 俺の部屋に

 

「まあ、それは置いておいて。 今夜は少しだけ早く帰ってきてくれ。 ついでにビスコも買ってきて」

 

『あー、うん。 それじゃなるだけ早く帰ってくるね』

 

 通話終了ボタンを押して一息つく。

 

 なのはたちが帰ってくるまでビスコもつかな?

 


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