「腹が……とてつもなく痛い……」
はやえもんからバイトを紹介してもらうように頼んでから二日が過ぎた。 色々と俺よりもちゃんとした人脈があるはやえもんのことだ。 きっと俺がそれなりにサボれてお金がもらえる仕事を探してくれているに違いない。 でも、やっぱり一生懸命バイトして沢山金集めたほうがいいかもしれない。
まぁ、それはそうとしていまの俺は大変危険な状態である。 なにが危険かというと主に腹が危険なことになっている。
それは朝のことだった。
俺が冷蔵庫から牛乳を取り出し、コップに注いで飲んでいる途中、二階から降りてきたなのはが言った。
『あ、その牛乳腐ってたよ。 ヴィヴィオが飲もうとしてたから止めたけど。 もー! ちゃんとしてよね! 冷蔵庫の管理、キミの仕事でしょ!』
指を突き付けるなのははそれはとてもとても可愛かったのだが、
「いまの俺にはその可愛さを楽しむ余裕が全くないわけで……」
もう30分はトイレにいるような気がする。 このままではトイレのひょっとこさんになってしまう。 七不思議として語り継がれてしまう。
ぐぎゅるるるるるるるるるるるるるるる
「はぅっ!?」
何度目かの余波攻撃がくる。 既に体の中の排出物は全て出したはずなのに、それでもこのじゃじゃ馬は鳴き止んでくれないらしい。
コンコン
「……はい。 ただいま俺が占領しております」
『その……大丈夫?』
「……あぁ、フェイトか」
『うん……。 その、朝ごはん私となのはで……私一人で作ったから。 お腹が痛くなくなったら食べてね?』
「あぁ……ありがとう……」
フェイトの声を聞けただけで少しはよくなった気がする。 けど、ちょっと食べれそうにないかな……。 いや、でもせっかく作ってくれたんだから食べたいな。 でも
なんで自分一人って言い直したんだろう。 まぁ、なのははおにぎりに砂糖だから戦力にならないと思うけど。
『それじゃ、私達はお仕事行ってくるからね。 ……その、がんばって』
「うん、がんばる……」
応援はとても嬉しいが、場所が場所なだけに顔を覆いたくなる。 なんで俺は普通の場所では応援されねえんだよ。
やがて玄関から二人のそろそろとした声が聞こえ、ヴィヴィオの元気な『いってらっしゃーい!』の声が聞こえた。 ヴィヴィオは元気だな。 俺の穴は騒ぎすぎて疲れているのに。
どうしたものか……そう思っていると、突然二日前庭に埋めたネコもどきが俺の前に立っていた。 いや、しゃがんでいたのほうが正しいかもしれない。
「やぁ、奇遇だね。 こんなところで会うなんて。 ボクとキミとは縁があるような気がするんだ」
「そうか。 だったらお前も腐った牛乳飲んでこい」
というかネコもどきは庭に埋めたはずじゃ?
「それは遠慮しておくよ。 そういえば、キミがボクを埋めたところなんだけど、そのままだと庭が可哀相だからちゃんと元に戻しておいたよ。 これでもボクは優しいほうなんだ。 なんだったらキミの願いも叶えてあげてもいいんだよ?」
「それじゃ俺の下痢をかわってくれ」
「キミの願いはエントロピーを凌駕したよ」
「ゲリピーはエントロピーを凌駕するのか」
そりゃ学生がもっとも恐怖することだもんな、下痢。
「というか何しにきたんだ? ヴィヴィオやなのはやフェイトに手出したらマジで殺すからな」
「そこは大丈夫だよ。 ボクの対象はキミに移ったからね」
それはそれで嫌なんだけど。 お前にかかわると碌なことにならねえだろ。
「そもそも、ボクは間違っていた。 魔法少女だからといって、少女にこだわることはなかったんだよ!」
「いや、こだわれよ」
男がやっても意味ねえよ。 ゾンビ狩るしかできねえよ。
「だ か ら 、ボクはキミと契約を結ぼうと思うんだ!」
「人の話聞いてた?」
我が家の姫様が被害を被るくらいなら俺が被害を被るほうがいいんだけどさ、トイレの中で叫ぶな。
「はいはい、考えとくよ」
嘘だけど
「それじゃダメなんだ! ボクはいますぐキミと契約しないとダメなんだよっ!」
「えー……なんでそんなに焦ってんの?」
俺の問いにネコもどきは、首を項垂れながら小さくボソボソと喋りだした。
「ボクの先輩にケルベロスのケロちゃん先輩っていう人(?)がいるんだ……。 ケロちゃん先輩はとってもエリートですぐに魔法少女と契約して、大活躍。 それに比べてボクは「紙とって」はいどうぞ。 それに比べてボクは、まったく違う魔法少女とばかり契約して……ついにケロちゃん先輩に怒られちゃってさ……。 だからボクは決めたんだ。 ケロちゃん先輩を超えるために旅に出ることにした! そしてボクはキミにたどり着いたんだ!」
「大丈夫大丈夫。 それただの通過点だから、本当の終着点に案内してやるよ」
「ほんとぅっ!?」
尻を拭き、流して手を洗いトイレから出る。 ただいま、そしてただいま。
「さて、お前が目指した終着点につれてってやるよ」
俺はネコもどきを抱き上げながら、ヴィヴィオとともに家を出た。
☆
フェイトの手作り朝食を食べた俺は、ヴィヴィオと手をつなぎながらとある店にやってきた。
「
「あら、いつもいつもありがとぉねぇ、ひょっとこくん。 あら、この娘が噂の女の子?」
「こんにちは! ヴィヴィオです!」
「えらいわねぇ~! あいさつできるなんて! なのはちゃんとフェイトちゃんの教育の賜物ね!」
緑髪をドリル風にし、年もそろそろ三十路まじかなのにもかかわらず、ふりふりピンクのスカートを履いているこの女性。 この人の名前は猫井兎さん。 ミッドでペットショップを営んでいる。 猫のお姉さんの愛称で親しまれている(小さい子たちから)。
俺は抱き上げていたネコもどきを猫井さんに預けることに。
「ほら、ここがお前の終着点だ。 あ、猫井さん。 こいつは非売品のしといてくださいね」
「あら? そうなのねぇ。 わかったわね」
まぁ、誰かが間違って買うと大変だしな。
「ねぇねぇ! ヴィヴィオ、いぬさんさわりたい!」
ジャンプするヴィヴィオの頭をよしよしと撫で、俺はそのままヴィヴィオと犬と戯れることにした。
『ちょっとまってっ!? このままじゃ、ケロちゃん先輩に怒られるよっ!?』
知らねえよ。