パンツ脱いだら通報された   作:烈火1919

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41.新しいバイト先

 俺がバイトをはじめたきっかけは,高町なのはとフェイト・T・ハラオウンにお礼がしたいからである。

 

 そのために、はやえもんに頼み、此処聖王教会を紹介してもらった。 バイト経験は高校時代になのはの両親が経営している喫茶店くらいなものであったが、バイト内容が清掃及び雑用だったので、そこまで苦労することなく、客観的にみればかなり楽にバイトできていると思う。

 

 雇ってくれた人がとてもいい人であったのもそれに拍車をかけている。

 

 聖王教会のトップにして、管理局にも多大な影響力をもつらしい、アニメとマンガ大好きな女性、カリムさん。 いつも素っ裸で堂々と教会内を歩いているマッパさん。

 

 この二人は、とても優しく非常に見習いたいほどの人格者である。 ヴィヴィオが懐いているのがいい証拠である。 教会内でたまに会う人も、いい人ばかりで、バイト始めてから10日しか経ってないが、俺は少しだけ愛着とでもいうか、なんというか、ともかくそういったものが芽生え始めていた。

 

 まぁ、そろそろなのはとフェイトが俺を疑いの眼差しでみているわけだが。

 

 それはともかくとして、そんな良い人達ばかりの聖王教会──で、終わればよかったのだが、そうはいかないものである。 これから起こることに関しては、誰が悪いわけでもない。 強いていうなら、運が悪かった。 と、言うべきである。

 

 

           ☆

 

 

 いつものように、バイトの清掃を終えた俺は、いつまでも来ないマッパさんのことが心配ではないけど、なんとなく心配という体を装って、ヴィヴィオと二人でカリムさんの私室に行こうとしていた。 カリムさんの私室にはすぐについた。 何分、ここでは問題行動など起こしていないのでガードが甘いなんてもんじゃない。 いまなら顔パスも余裕である。

 

 さてさて、そんなこんなで私室についた俺の耳に入ってきたのは、カリムさんと初老の男くらいの話し声。 初老の男のほうがカリムさんに怒っているようで、それをカリムさんはかわしている、といった感じだ。

 

「ん~? どうしたの~?」

 

「んー。 なんか話し合いをしているみたいだね。 ちょっと待ってな。 お兄さんはもう少し詳しく聞いてみるから」

 

 詳しく聞いて、なんだか面白そうなことになってたらパイ生地もって乱入でもしにいこう。

 

 そう思いながら、耳を扉に近づける。 そこから聞こえてきたのは、なんとも面白くないものであった。

 

 曰く、ヴィヴィオを引き取らせろ。

 

 簡潔かつ簡単に言ってしまえば、そんな感じの内容である。

 

 なんとも面白くない。 ちっとも面白くない。 誰がそんなふざけたことをぬかしているのか。 どうせ愛玩にでも使うんだろ、このロリコン野郎が。

 

 カリムさんはずっとこの言葉を述べていた。

 

 却下します。

 

 それはいつもと違う声色で、なんだか天使が魔王にでもなった瞬間を目撃したときのようであった。

 

 どうしたものか、と俺はここで考える。

 

 もしも俺がここに残っていたら、いずれこのロリコン野郎とヴィヴィオが会う可能性がでてくる。 しかしながら、俺がここでバイトを辞めてしまうと、二人へのプレゼントが渡せなくなる。

 

「ねぇねぇ、まだダメなのー?」

 

 待ちかねたヴィヴィオが俺の袖を引っ張りながら、そんなことをいってくる。

 

 ヴィヴィオは俺の袖が伸びるのを気にせず、むしろ楽しそうに袖を伸ばして遊んでいた。 その笑顔をみた瞬間、俺の行動は決まった。

 

 その前にヴィヴィオの許可を取ることにしよう。

 

「なあヴィヴィオ?」

 

「なーにー?」

 

「お兄さん、無職に戻っちゃうけどいいかな?」

 

「ん~? いいよー!」

 

 自分自身、卑怯な手を使ったと思っている。 ヴィヴィオが断るわけないとわかって、こんなことを言っているんだから。 だけど、それでも、最低限の言質は取った。

 

 俺はヴィヴィオを後ろに下がらせて、確実性を出すためにそばに置いてあった結構な値段のしそうな壺を思いっきり、力の限り叩きつけた。

 

 ガシャンッ!!

 

 と、音をたてて壊れる壺。 そして扉の内側から現れるカリムさんとマッパさんと初老のロリコン野郎。 唖然とする三人をよそに、俺は笑いながらこういった。

 

「すんませ~ん、壺割ったんで、責任とってこのバイトやめます。 あ、請求書はこの住所にでもお願いします」

 

 おっさんの住所をカリムさんに渡し、俺はヴィヴィオを連れてその場を後にすることに。 ヴィヴィオは、ただただ変わらない笑顔でカリムさんとシャッハさんに手を振っていた。

 

 外に出てバイクに乗る直前、思い出したかのように、はやてにメールを送っていた。

 

 文面は簡単なものだ。

 

『バイトやめたったww』

 

 なんともふざけたメールである。

 

 

           ☆

 

 

 今日は大事な来客の日だというのに、あいつからメールがきた。 こんな忙しい日に限ってなんでメールしてくるんや。 もっと暇な日にでもメールしてこい。 なんてことを思いながら、メールの文面を見る。

 

『バイトやめたったww』

 

「ふざけんなこら!!」

 

「はやてちゃんどうしたのっ!? いきなり携帯床に投げつけたりして!?」

 

「あんたの夫、屑過ぎるで!!」

 

「夫なんていないんですけど!?」

 

 隣で一緒に来客の用意をしていたなのはちゃんに向かって叫ぶけど、なのはちゃんはそれより大きな声で叫んだ。

 

「ふぅ……まあ、なんとか落ち着いた」

 

「いやこっちは落ち着かないんですけどっ!? 夫ってだれなのっ!? もしかしてうちのペットのこと言ってるのっ!?」

 

 今度はなのはちゃんが盛大にオロオロする側になったけど、見ていて楽しいので止めないでおこう。

 

「まあ、べつになのはとフェイトのペットとかどうでもいいけどよ~。 それより大丈夫なのか? ミゼットのばーちゃん此処にくるんだろ? 卒倒するかもしれないぞ」

 

「まあ、それは大丈夫やと思うで。 毎回、報告書出してるし、ちゃんとokもらっとるし。 今回は日本の昔からの遊びを教えてほしいらしくて来るみたいやで」

 

「ふ~ん……。 それじゃゲートボールでも教えようかな」

 

 ヴィータもすっかり乗り気みたいやな。 まあ、可愛がってもらってたし、ヴィータも嬉しいか。

 

 それはそれとして、あいつのメール文面なんなん? バイト辞めたって、よっぽどのことがない限りやめないと思うし……。

 

 でも──

 

「あいつにあそこはむかんし、ちょっとだけ安心したかな」

 

 はぁ……聖王教会に謝りにいかなんとな。

 

 

           ☆

 

 

「やっべ……給料もらえねえじゃん。 いまから聖王教会に給料もらいに襲撃しようかな」

 

 そんなことしたら俺が返り討ちにあうわけだが。

 

 それにしてもどうしよう。 出て行ったはいいけど、既にバイトのアテがない。 =なのはとフェイトのプレゼント買うお金がない。 これはなんというか……銀行襲撃フラグじゃないか?

 

 信号をまちながら、ヴィヴィオと二人ネズミの国のテーマ曲を歌っていると、横にいたばあさんが持っている荷物をぶちまけた。

 

「……あの、大丈夫ですか?」

 

「え、えぇ……。 ちょっと、荷物が多かったみたいね」

 

「えっと、手伝いますよ。 ヴィヴィオはお婆さんと一緒に信号渡ろうなー。 俺は荷物運ぶから」

 

「はーい!」

 

「おやおや……お若いのにえらいねぇ」

 

「おばあちゃん、おててつなごう!」

 

「はいはい」

 

 ヴィヴィオがお婆さんと手をつないで、青信号を手をあげながら渡るのを確認して俺もぶちまけられた荷物を持って信号を渡る。 ちょっと時間がかかって赤信号にな

っちゃったけど、車に乗っている人達もクラクションを鳴らすことなく黙って待っていてくれた。 なんともありがたい限りである。

 

 渡りおえて、お婆さんはこちらを振り返り一礼する。

 

「お若いのに感心だねぇ。 助かりましたよ」

 

「いえいえ、女性に優しくするのは当たり前ですよ」

 

「あら、口がうまいのね。 こんな年寄にまで色目を使うのかしら?」

 

「僕の守備範囲はゆりかごから墓場までなので、問題ないです。 ただ、そちらは絶頂した瞬間に卒倒して黙祷することになりそうですが」

 

 そんなことになったら、俺が殺人犯として逮捕されてしまう。

 

 お婆さんの口が若干引き攣っている。

 

「あら、もう時間だね。 私は行くところがあるので失礼することにするよ。 ありがとうね、おじょうちゃん」

 

「ヴィヴィオだよー!」

 

「あら、ヴィヴィオちゃんっていうの? 私はミゼットですよ」

 

「あくしゅー!」

 

「はい、握手」

 

 うちの天使の力でお婆さんも骨抜きである。 それにしても……ヴィヴィオが名乗ったからには俺も名乗らないといけないよな。

 

「えっと、俺の……僕の名前は上矢俊です」

 

 そのとき、すこしだけお婆さんの目に力がこもった。

 

 ……まあ、見なかったことにしよう。 お婆さんも追及する様子もないし。

 

「それで、ミゼットさん。 目的地まで送りましょうか? これからずっと暇でして」

 

「あら、お仕事はしてないのですか?」

 

「残念ながら、いましがたクビになったところです。 もともと、彼女たちに養ってもらっている身ですから、生活には苦労しませんが……ちょっと買いたいものがあっただけに無念だなー、なんてことは思ってます」

 

「買いたいものですか」

 

「ええ、彼女たちにプレゼントをと思いまして。 まぁ……折り紙で作ったネックレスでもあげるとしますよ」

 

 こういうのは心がこもっていれば大丈夫。 ただの現実逃避なんだけどな。

 

 お婆さんは、そんな俺をみながら笑った。 そして、

 

「二人も幸せ者ですね。 そして、一坊やもいい息子をもったものです。 あなた自身も、はやてちゃんから聞いたとおりの人でした」

 

 そういった。

 

『ミゼットさまー!』

 

 前から管理局の制服を着た男どもがこちらに走ってきた。 正しくはミゼットさんに向かって走ってきた。 男たちは息を切らせながらやってくると、2・3ミゼットさんと話したあと、ミゼットさんを囲む形で歩き出した。 そのときに、俺に一礼することも忘れていない。 紳士にもほどがあるぜ。

 

 

           ☆

 

 

 ミゼットさんを見送ったあと、本格的に家に帰ることにした──のだが、

 

「俺を笑いにきたのか、おっさん。 笑いたいなら笑えよ! さあ!」

 

「なにを自暴自棄になってるんだ、気持ち悪い。 ヴィヴィオちゃんが危ない人を見る目でみているぞ」

 

 おっさんに捕まった。 パトロール中のおっさんに捕まった。

 

「離してよ! あなたとの関係はもう修復できないのっ!」

 

「修復もなにも捕まる側と捕まえる側だからなっ!? 修復もなにもねえよっ!?」

 

「そうやってあなたは私達を騙してきたのよ! ヴィヴィオだってまだ小さいのにっ! あんな女と浮気したあげく、私達を捨てるなんて!」

 

『うわぁー……最低な人』

 

『おいおい、あれがここらへんを守る管理局員だってよ』

 

『まだ子どもも小さいのに、サイテー』

 

『あんな大人にだけはなりたくない』

 

『制服プレイが大好きらしいぞ。 もしかして円光とかもしてんじゃねえか?』

 

「このケダモノ!」

 

「黙っとけお前!? なんなんだよ、この市民の連帯感!? 普通に考えて俺とコイツでは子どもなんて無理だってことがわかるだろっ!?」

 

「魔法も奇跡もあるんだよ?」

 

「いるかこんな奇跡!」

 

 まあ、俺もこんな奇跡いらないけどな。 でも、おっさん。 密かにあんたの趣味嗜好がバレてるぞ。

 

 閑話休題

 

「それで、お前バイトは? まだバイトの時間じゃないのか?」

 

「俺のバイト時間まで調べてるなんて……。 ごめんな、俺には心に決めた人がいるから」

 

「そっちにもっていくな。 お前の顔面粉砕するぞ」

 

 みなさん、これがミッドの平和を守る男の言葉ですよ? どう思います?

 

 俺は頬を掻きながらバイトについての質問にこう答える。

 

「辞めたった」

 

「は?」

 

「だーかーらー、バイト辞めたった」

 

「……どうして?」

 

「セクハラして、高価な壺割ったから、辞めたった」

 

「…………給料は?」

 

「ないよ」

 

 なるだけ感情を出さないように勤めて機械的に平坦に喋る。 壺を割ったのは事実だし、カリムさんにセクハラしたのも本当のことなので、俺は喋っていいはず。 ──なのに、おっさんは自分の息子が試験に落ちたときのような顔をしていた。 有大抵に言えば悲しい顔をしていた。

 

「…………そっか。 それなら、しょうがないな。 セクハラして、壺割ったならしょうがない」

 

「うん、しょうがないよ」

 

 それでもおっさんは、俺の頭を無造作に乱暴にグリグリと掻きまわす。 せっかくセットした髪もこれでは台無しだ。

 

 おっさんは続けて言う。

 

「もともと、お前のような犯罪者で人格ひん曲がっている奴をバイトとして採用したほうがおかしいんだよ。 お前には向いてない。 好き勝手にできないバイトなんて向いてないさ。 お前の個性を殺してまでするバイトなんて──つまらない」

 

「……うっさいな。 それは俺の勝手だろ……。 個性を殺したっていい、俺は金を稼げればよかったんだよ。 バイトをお膳立てしてくれたはやてにも申し訳ないことしたさ」

 

「そうか? たぶん、お膳立てした奴も内心では喜んでるぞ? お前のバイトの現状をみて、そう確信すると思うけどな。 一度でも来なかったか? その子が」

 

 ……そういえば、きたな。 はやて。 あいつがそこまで俺のことを思っているのか? ──いや、思ってるんだろうな。 あいつなら、きっと。

 

「……でも、俺は結果としてあいつの信頼を裏切ったよ。 バイト辞めたんだし」

 

 どんなことを言っても後の祭りだ。 バイトを辞めた事実は変わらない。

 

「バイトなら、またやればいいだけの話だろ?」

 

 おっさんは優しく諭す。

 

「わかってるさ、でも……俺を雇ってくれる狂ってる人なんてそうそういないもん」

 

 もし俺を雇ってくれる人がいるというのなら──それはきっと変人であり、奇人である。

 

 そう言った俺の顔を、正しくは頭を掴み──後ろに向けた。

 

 首をひねったとか、完璧に変な音がしたとか、そんなことが気にならないほどの光景が目の前に広がっていた。 そこには、ありえない光景が広がっていた。

 

『やっぱりクビになったかひょっとこ! お前これから暇だろっ! 俺の店手伝わねえか!?』

 

『ひょっとこ君、君は高校は卒業しているらしいね。 ちょっと地球式の勉強法というのを教えてくれないか?』

 

『ひょっとこく~ん! 赤ペン先生やる気ない~?』

 

『ひょっとこ! お前パン好きだろ! ちょっくら手伝え!』

 

『君の交友関係の広さを活かしたバイトを頼みたいのだが』

 

 そこには、ミッドの──俺の知り合いの人達が、変わらない笑顔で、当たり前の笑顔で、俺のことを指さしながら笑って、それでいて──バイトの勧誘をしてくれていた。

 

 茫然と唖然とする俺に、おっさんは笑いながら言う。

 

「驚いたか? 皆、お前が家事に専念してるのかと思って、バイトの勧誘できなかったみたいだぞ? 昨日お前の知り合いの人達に話したら、こぞってお前を引き抜こう

としていたさ」

 

「はっは……ありえねえだろ……」

 

「ありえない? おいおい、お前はさっき言っただろ? ──魔法も奇跡もあるんだぜ? 魔法や奇跡に比べれば、お前のバイト先なんて簡単に見つかるぞ。 ちなみに、俺もお前にバイトを頼んでやるよ。 お前にピッタリのバイトがあるんでな」

 

 とんっと押された背中。 それによろけながら、俺はミッドの皆の前に立った。

 

『よお! クビ男!』

 

「はは、うっせーよ」

 

 ほんと、こいつらなんで俺がクビになったのに、嬉しそうにしてるんだよ。

 

 まったく……俺はこんな初歩的なことを忘れていたらしい。 説明書の一番初めに書かれていることを読み飛ばしたらしい。

 

 だって──

 

「あー……その……俺を雇ってください!」

 

『馬車馬のように働けよ!』

 

『休憩したらぶちのめすからな!』

 

『ゲイバーにも来なさいよ!』

 

『目指せ! 無職脱出!』

 

 勝手気ままにそれぞれが言う。 それをまったく不快とは思わないし、それよりも先に自然と笑みが零れていた。

 

 まったく……忘れていたよ。

 

 だってミッドは──奇人・変人が多いんだった。

 


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