パンツ脱いだら通報された   作:烈火1919

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46.サーカス団

 今日をもってこのバイトも終わる。 それも意味すること、つまりは俺のバイト代がついに10万に達するということだ。 長かった。 予定通りならば今頃はプレゼントを渡し終えているはずなのだが、ちょいと狂ってしまいこのような時期になってしまった──のだが、それもこれもいまではいい思い出だ。

 

「ということでおっさん、早く1万くれ。 それで10万になるから」

 

「いや、働けよ。 交番にきてすぐにバイト料要求する奴がどこにいるんだ」

 

「ちっ、クソ使えねえ局員だな」

 

「お前くらいだぞ、局員を目の前にして堂々と暴言吐く人物は」

 

 いや、俺よりもっとすごい奴いるぞ。 あの六課に対してババア発言した猛者がいるからな。 結果ははやてに瀕死の状態まで追い込まれてたけど。

 

 それはさておき、

 

「今日のバイトってなんなの?」

 

「その前に、あの女の子はちゃんと信頼できるところに預けたか?」

 

「シャマル先生に事情を話したら、快く引き受けてくれた」

 

「それならよし。 それじゃ、今日のバイト先にいくぞ」

 

「だからバイト先どこだよ。 変態女子高生大好き野郎」

 

「黙ってついてこい、変態キチガイゴミクズ野郎」

 こんな調子で口喧嘩しながらバイト先まで行きました。

 

 

           ☆

 

 

 何ども言うようだが、ミッドは他の世界よりかはるかに治安がいいと言える。 それは強力な抑止力として管理局がすぐに駆けつけることができるからであり、ミッドの極一部(主に俺たちが住んでる周り)の奴らがキチガイ的に強いからである。

 

 世界的にみても、(この場合の世界的とは遍く次元世界のことだ)犯罪の件数が年々減っている。 これは管理局の上層部や、一般局員が頑張ってくれているおかげだろう。

 

 しかしながら、だからといって、犯罪がなくなるなんてことはありえないわけである。 捕まえる者がいれば、その対極となる捕まえられる者がいるわけだから。

 

 世界とは相応にして、調整されている。 バランスをわきまえている。

 

 善と悪

 

 幸福と不幸

 

 男性と女性

 

 どちらか一方が増すことがあっても、どちらか一方が消えることはない。

 

 幸福の中に不幸があるように

 

 不幸の中に幸福があるように

 

 善の中に悪があるように

 

 悪の中に善があるように

 

 世界はそうやって作られている。

 

 だからこそ、正義と平和を掲げる管理局は凄いと思うし、大変だと思う。 そして──報われないな、とも思う。 だって、この世に悪は消えないから。 それでもなお、世界を平和にするために管理局は存在する。 決して、支配でもなく、管理でもなく、人々が平和に過ごせるように存在する。

 

 だったら、その人々に──犯罪者というカテゴリーに位置する人間たちは入っているのだろうか?

 

「と、いう疑問があるんだけどぶっちゃけどうなのよ?」

 

「お前がもし魔導師ランクSSSでも、そんな考え方をもっているかぎり主人公にはなれないだろうな。 次元犯罪者や犯罪者だって、一度でも助けを求めたのなら、それは俺たちにとっては助ける側の存在になるわけだ」

 

「裏切られたらどうすんの?」

 

「笑って殴り倒すくらいの心の広さがないとな」

 

「その考え方、嫌いじゃないぜ」

 

 そういえば俺の近くにもそんな奴らが沢山いたわ。 主人公気質のあいつらが。

 

 まあ、だからといって──

 

「犯罪者の説得を俺に任せるなよ!?」

 

 場所はミッドの郊外。 ちょっとやんちゃな奴らが集まる場所だ。 ミッドで唯一、犯罪者がいる場所といっても差し支えない。

 

 おっさんは困った顔で、頬を掻きながら答える。

 

「いやー、な。 俺も連中がただの犯罪者ならボコって連れて行けば済む話なんだけどよ。 ……こいつらの犯罪歴が問題なんだ」

 

「えー……そんな奴らの説得しなきゃなんねえの?」

 

「まあ、害はないからな」

 

 おっさんと俺はスタスタと歩いていく。

 

 やがて大きな広場にでる。

 

 そこには──

 

「俺は小さい女の子と男の子の喧嘩止めてやったぞ! すんげえ悪い犯罪しちゃったぜww あいつらモジモジしながら“ごめんなさい”だってよ! 互いに嫌な奴に謝らせるとか俺って犯罪者の鏡じゃねえかww」

 

「俺なんて道で立ち往生してる婆さんをおぶったぜww あのババア泣きながらお礼言ってやがったww 優しくしなきゃいけない年寄を泣かすとか俺ってば鬼畜じゃねww」

 

「俺なんて学校中の窓清掃してやったわww 翌日見に行ったら、学校にいる全員が窓という窓をみていたぜww おかげで授業が遅れたらしいぞw 未来の若者の勉強時間を奪ったww」

 

 世紀末みたいな奴らが恰好に似合わず、いい話をしていた。 なにこいつら、ちょっと可愛いぞ。

 

「あ? なんだよおっさん。 また来たのかよ? 俺らは犯罪者だからな、おっさんのいうことなんか聞かないぞ」

 

 広場の中心で連中の話を聞いていた、俺より頭一つ分背の高い男が、おっさんに気付き話しかける。 そのおかげで、連中も気付きこちらに振り向く。 見事なまでに世紀末。 ここなどくると、黒髪でミクちゃんのTシャツ着てる俺が浮いているようだ。

 

「安心しろひょっとこ。 お前はミッドの市内にいても浮いてる存在だから。 まあ、それはそれとして、いつまで犯罪者ごっこを続けるつもりだ?」

 

「ごっこじゃねえよ! 俺たちは犯罪者なんだからよぉ!」

 

『そうだそうだ!』

 

「……おっさん、説明頼む」

 

「まあ……見ての通りだ。 犯罪者に憧れていてな、此処にいる連中全員とも、犯罪に手を染めようとしてるんだが……元が善人すぎて犯罪者になれてないんだよ」

 

「さっきの話を聞く限りだと、すんごい皆いい奴そうだもんな。 見た目は世紀末だけど」

 

「とりあえず見た目だけでも形作ったんだろうな」

 

 なんかおっさんが呆れている。 いや、そりゃ呆れたくもなるか。 いうなれば、犯罪者ごっこという名のボランティアだもんな。 それで駆り出されてたんじゃ、おちおち変態も捕まえれない。

 

「とりあえず……あちらさんは自分のことを犯罪者って言ってるんだから捕まえてあげれば?」

 

「それができないから困ってるんだよ。 こいつらの悪行を教えてやろうか?」

 

 軽く頷く。

 

「ひったくりした男を集団で取り押さえリンチする。 ちなみにリンチの内容はくすぐりの刑」

 

「まあ……くすぐりは確かにつらいよな」

 

「朝早くから全員でゴミ拾い。 本人たち曰く『俺たちの声で騒音妨害してやる』らしいのだが、朝の6:00から7:30までの間なのでとくに意味なし」

 

「俺とっくに起きてるしな」

 

「足腰のおぼつかない老人たちのために自ら買い物を買ってでる。 その際にお菓子を買ってサイフの中身を軽くしようと目論むが、その金額が100円のため老人たちは逆にお駄賃として当然と思っている」

 

「100円ってヴィヴィオがお菓子を買っていい金額と同じなんだけど」

 

「小さい子どもがいる共働き夫婦のために、小さい子どもの面倒をみる。 炊事洗濯と一通りこなし、なおかつ子どもの面倒もみるので夫婦からは感謝されている。 なお、なにも盗んでいかないうえにお金も受け取らない」

 

「完全にボランティアだな」

 

 まだ色々とありそうだが、おっさんは語るのを止める。 もう面倒そうだ。

 

 なのでこちら側から尋ねることにした。

 

「え~っと、要するにこいつら的には犯罪行為をしているつもりなんだが、世間的に見れば慈善事業であって、おっさんは逮捕することはできない。 しかしながら、こいつらはこいつらで、全ての行いを犯罪行為だと思っているわけか」

 

「そういうことだ」

 

 なんともめんどくさい。

 

「それで? 俺はどうすればいいの?」

 

「こいつらを止めろ」

 

「なんで?」

 

「こいつらのご両親たちが申し訳ない顔で謝りにくるからだ」

 

「うわぁー……それきついな」

 

 こいつら自身は悪いことしてなくても、それでもおっさんは形として出動しないわけにはいかないよな。 あちら側は立派な犯罪行為だと宣言してるんだから。

 

「と、いうわけで見事説得できたならば1万だ。 頑張ってくれ。 俺はここらで見ておくから」

 

 そういっておっさんは、タバコを取り出し一服はじめる。 すると、連中の中の一人がおっさんに『すいません、此処は禁煙なんですけど……』と申し訳ない顔で謝ってくる。

 

 おっさんは慌てて携帯灰皿にタバコをいれ謝る。

 

「まあ、とりあえず説得はしてみるか」

 

 なんか溜息がでてきた。

 

 というか、ミッドで唯一の犯罪者の巣がこんなにも善良な市民たちだったとは……。

 

 ミッド平和にもほどがあるだろ。

 

 

           ☆

 

 

「はじめまして、ひょっとこです。 まあ、そこで座って、出されたお茶飲んでるボンクラ局員のかわりにきたんだけど……おたくのお名前は?」

 

「水納侘須家流《みなたすける》だ」

 

 もう名前からして善人のオーラがある。

 

 俺なんて俊だぞ。 すんげえこの名前に誇りもってるけど、顔文字にすると(´・ω・`) ←こんな感じになるからな。

 

 そもそも顔文字にする意味はないのだが。

 

「え~っと、おたくは犯罪行為をやりたいんですか?」

 

「もちろんだ!」

 

「どうして?」

 

「恰好いいから! 犯罪者って憧れるじゃん?」

 

 お前は中二病患者か。

 

「そして女子どもを泣かせたい! な! みんな!」

 

『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!』

 

「そっかぁ~。 でも、管理局にはすんげえ怖い人いるよ?」

 

「俺たちはあえて魔導師ランクにするならばDはあるんだぜ?」

 

「管理局にはオーバーSやSSがいるよ?」

 

「…………え?」

 

 なんで鳩が豆鉄砲喰らったような顔してるんだよ。

 

「……………すいません、それほんとですか?」

 

「うん。 ちなみに管理局にはエースオブエースと呼ばれてる人がいるんだけどさ、その人はギャラドスなんだよね。 あ、ギャラドスって知ってる? 村とかで争いごとをしてると、どこからともなくやってきて村を壊滅状態に追い込んで去っていくんだけどさ、そのエースもすんごい極太レーザー放って惑星一つ破壊したんだよね」

 

 ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタッ!!

 

 ものすごい勢いで皆が震えだした。

 

 なのは……やっぱお前すげえや。

 

 いや、流石に惑星は破壊してないけどさ。 幼馴染の骨は何でも破壊してるけど。

 

「エースオブエースはね? 残虐非道で極悪鬼畜。 血も涙もないエースでさ。 人を人だと思ってなくて、犯罪者が泣いて謝っても冷たい目で『……その罪、死をもって償え』とか言っちゃう人なんだよね。 もう生身の戦闘でもすごくてさ。 19歳男性の幼馴染に平気でビンタしてその幼馴染口切ったからね。 幼馴染泣いてたからね」

 

「あの……私的なことはいってませんでした?」

 

「黙れ小僧! 貴様にスナップがきいたビンタの痛さがわかるかッ!」

 

「うっ、すいません……」

 

「まあ、あんたらの気持ちもわかるんだけどね。 ただなぁ……俺みたいな真性マジキチじゃないとこの先犯罪行為とかきついよ?」

 

 ちょっとこの人たちには本当の犯罪行為とか無理そうだし。 ご両親も心配?とかしてるみたいだし。

 

 ──あれ? そういえば、

 

「そういえば、女子どもを泣かしたいんだよね? だったら、こんなに人数いるんだからサーカス団でもやればよくね?」

 

『サーカス……団?』

 

『おぉ! それいいな!』

 

 おっさんが興味を示したらしくこちらにくる。

 

「お前面白いこと考えるじゃねえか! いいな、サーカス団!」

 

「だろ? 身体的にもなんとかいけそうだし、練習すればどうにかなるかも。 知り合いにサーカス団の団長いるからちょっと相談して、もし指導ができるのであればその方向で行こうかな」

 

「あの……俺たち犯罪者になりたんだけど……」

 

 困ったような顔で俺たちをみる自称犯罪者。

 

「何言ってんだ、サーカスをするならあんたらは“時間を盗む”ことになるんだぜ? 次元犯罪者だってマネできないことだぜ?」

 

 演目中は、客席の人達の時間を自分たちに全て集結させるんだ。 これ以上、すごい犯罪がどこにある。

 

「泣かせたいんだろ? 女と子どもを」

 

 その一言が決めてとなり、自称犯罪者たちはサーカス団を結成することになった。

 

 

           ☆

 

 

 晴れておっさんから1万をもらい、ヴィヴィオを預かってもらったシャマル先生にうまい棒をおごったあと、仲良く手をつなぎながら帰ってきた。

 

「おかえり、二人とも」

 

「お、なのはが早いなんて珍しいな。 生理?」

 

「それ平気で聞くこと? ちなみに違います!」

 

「なのはママー! モフモフして~!」

 

「はーい、モッフモフー!」

 

「きゃー! かわいいー!」

 

 なのは……それホコリをとる掃除道具なんだけど……。

 

 新品を使ってくれたのでまだよかったけど、使用済みのをヴィヴィオに押し当てたらとんでもないことになってたよな。

 

「ところでフェイトは? 一緒じゃないの?」

 

「うん、ちょっとキミに確かめたいことがあってね。 ──“エースオブエースはね? 残虐非道で極悪鬼畜。 血も涙もないエースでさ。 人を人だと思ってなくて、犯罪者が泣いて謝っても冷たい目で『……その罪、死をもって償え』とか言っちゃう人なんだよね”」

 

 ビクッと体が反応する。

 

「これに聞き覚えはないかな……?」

 

「違うんだッ!? 俺はこんなこと微塵も思ってなくて、むしろ俺だけはなのはの本性知ってるっというか!?」

 

「私さ……。 今日、管理局の本部に行ってきたんだけど。 会う人会う人に最敬礼されるし、妙に避けられるから、何事かと思って調べてみたら──やっぱりキミにいきついたよ」

 

 なのはの底冷えするような声。 もうヴィヴィオなんて泣き出しそうだ。

 

 俺は努めて明るく振る舞いながら、ガクガクと震える足を押さえつけて笑顔でいった。

 

「俺はなのはの全てを受け入れるよ」

 

「それじゃ、これも受け止めてね?」

 

 スナップを利かせてビンタを打つ練習をするなのは。 もう泣く寸前で俺をみるヴィヴィオ。 そんなヴィヴィオに笑いかけながら、俺はいった。

 

「ヴィヴィオ。 よくみておけ! これが、男の勇姿だぁああああぁぁぁああああああ!」

 

 土下座は失敗に終わった。


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