パンツ脱いだら通報された   作:烈火1919

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57.お祖母ちゃんだと年寄りだけど、ママのママだと若いイメージがあるよな

 高町なのはとフェイト・T・ハラオウンが仕事に行ってから数時間が経った。

 

 ひょっとこはリビングのテーブルにノートを広げ電卓とノートの二つを交互に見ながらなにやら忙しなく指を動かしていた。 そんなひょっとこを下から見上げながら、ヴィヴィオがひょっとこに声をかけた。

 

「ねぇねぇパパー?」

 

「ん~?」

 

「どうしてそんなかっこうしているの~?」

 

 作業しているひょっとこのノートよりもヴィヴィオが気になったこと、それはひょっとこの恰好であった。 正確にいうならば、ひょっとこの着ている服が気になったのだ。

 

「パパではない、女装中はカナちゃんと呼べ」

 

「でもきもちわるいよ~?」

 

「いいんだよ、家には娘とペットしかいないんだから。 佐川急便の宅配まではパパこの恰好で大丈夫だから」

 

 とんだ恥知らずだった。

 

 ひょっとこの女装姿は腋出し巫女衣装である。 ヴィヴィオは丁度ひょっとこの腋が見える位置におり腋を凝視していた。

 

「ほらおいで」

 

 そういって腋だし巫女衣装でヴィヴィオを膝の上に乗せるひょっとこ。 ついでにガーくんも自慢の脚力でピョンとテーブルの上に乗る。

 

 若干行儀悪いが、二人がいないときなのでひょっとこもたいして咎めようとしない。

 

「いやさ、やっぱり夏って暑いじゃん? いくら家の中でクーラーかけてるからって意外とズボンの中のパンツは蒸れたりするもんなんだよ。 さっきまで庭の草むしりしてたパパはね、丁度シャワーも浴びたし心機一転として巫女服を着てるわけだよ。 すんげぇスースーしててちょう気持ちいいし。 やっぱりパンツが蒸れるのは気持ち悪いじゃん? ヴィヴィオはパパのパンツが気持ち悪いのと、パパが気持ち悪いのはどっちが嫌?」

 

「パパー」

 

「お前は最高の娘だよ。 でもパパの最高の息子も可愛がってあげないといけないから我慢してくれ」

 

「ん~……? よくわかんないけどわかった!」

 

 言葉巧みに自前のマシンガントークでヴィヴィオの頭を混乱させながら、ちゃっかり自分の変態的コスプレを正当化させたひょっとこ。 止めるブレーキとなる、なのはとフェイトがいなければやりたい放題の男である。

 

「ねぇねぇパパ? これなにやってるの?」

 

「ん? ああ、これね。 これは家計簿といってだな。 まあパパやママ達が生活する上でどれだけお金が残っているのかを把握しないといけないのだよ。 だからこうやって空いた時間にパパは家計簿をつけているのさ」

 

「う~? ほぅ~?」

 

 ひょっとこの説明にヴィヴィオは首を何度も左右に動かす。 どうやらヴィヴィオにはちょっとだけ難しかったようだ。 それに気づいたひょっとこは、苦笑しながら

 

「まあ、早い話がエロ本だよ。 プライベートエロ本さ」

 

 と、ありえない場所に着陸させた。 どんな航路を描けば家計簿という場所から滑走してエロ本という場所に着陸するのか甚だ疑問であるところだ。

 

「ガーくん、冷蔵庫に冷やしたイチゴあるから取ってきてくれ。 あとコンデンスミルクも」

 

「ワカッタ! ガークンモッテクル!」

 

 ひょっとこに頼まれた、ヴィヴィオ専属のペットにして騎士であるアヒルのガーくんが頷きながらテーブルから降り、冷蔵庫のほうに向かう。 その手足で器用に冷蔵庫を開け、冷えたイチゴが乗っている皿とその隣に置いてあるコンデンスミルクを取り、ひょっとことヴィヴィオが待つ場所に戻ってくる。

 

「ご苦労様、ありがとうな、ガーくん」

 

「オヤスイゴヨウ!!」

 

「わーい、イチゴさんだー! ねぇねぇたべていい~?」

 

「いいよ~。 ほら、ガーくんも食べな」

 

「ワーイ!」

 

 コンデンスミルクをイチゴにかけ、おいしそうに頬張るヴィヴィオ。 と思ったら、もう一つイチゴを手に取りコンデンスミルクをたっぷりかけてガーくんの口に運ぶ。 ガーくんはイチゴをもしゃもしゃと噛んだあと、おいしかったのかバク転をする。

 

「ガーくん、家計簿がえらいことになるからバク転はやめてくれ。 せめてタップダンスにしてくれ」

 

「ワカッタ!」

 

「え!? タップダンスできんの!?」

 

 ひょっとこの言葉に頷いて軽快なビートを刻みながらタップダンスを決めてくるガーくん。

 

「半端ねえ!? うちのペット半端ねえ!?」

 

 まさに万能なペットである。

 

 ペットのポテンシャルに感嘆しながらも目の前の家計簿に目を落とす。

 

「え~っと、夏だから電気代が上がるのはしょうがないな。 何度も何度も思うけど、なのはとフェイトって金持ってるよな。 そのおかげで俺が仕事しないで済むけどさ」

 

 自分が大好きな人達の給料の高さに驚きつつも、自分が仕事をしないですむ喜びに頬を緩めるひょっとこ。 どれだけ仕事をしたくないのか、このセリフから滲み出ている。

 

「ねぇねぇパパー? ヴィヴィオもこれきたいー」

 

「そうだなー……それじゃ作るか、巫女服」

 

「やったー!」

 

 喜ぶヴィヴィオの頭を撫でながら、つけ終えた家計簿を閉じた──ところで、傍に置いていた自分の携帯電話が振動する。 ひょっとこはガーくんに携帯を取ってもらいディスプレイで電話先の相手を確認することに。 そこに映し出されていた名前は、

 

「この時期に桃子さんということは、十中八九帰省のことだよな。 はい、もしもし?」

 

『あ、俊ちゃん? 日がな一日だらだらしてる俊ちゃんことだから暇だと思うけど、いま空いてるかしら?』

 

「……まあ、あいてますけど……。 一応、俺だって仕事してますからね?」

 

『あら? どんな仕事をしてるのかしら?』

 

「自宅警備の仕事ですね」

 

『帰ったら二人でちょっとお話ししましょうか? 大丈夫、優しくするわよ?』

 

 何故だろう……。 最後の“優しくするわよ?”がめちゃくちゃエロくて艶のある声で正直なんか理性が飛びそうなんだけど──めっちゃ怖い。

 

 というか──

 

「痛い痛い痛いッ!? ヴィヴィオちゃんっ!? 爪楊枝はパパの太ももを刺すために作られたものじゃありませんよ!?」

 

「パパー、イチゴもうないよぉ~?」

 

「そんなことくらいでパパの太ももを刺さないでくれるかなぁ!? これは絶対なのはの影響だろ!? 俺こんな爪楊枝で人刺すようなマネしないもん!」

 

「えへへ~。 パパだいすき」

 

「ほめてないほめてない!? 一言もほめてないからね!?」

 

 なにがそんなに嬉しいのか、ひょっとこの胸付近に頬を当てスリスリと頬ずりするヴィヴィオ。

 

『あら俊ちゃん。 私達の自慢の娘をバカにする気かしら?』

 

「へ!? い、いやそういうわけでは……。 なのはは俺だって自慢の人ですし……」

 

『きゃーー、もう照れちゃって!』

 

「あの……なんで女子高生みたいなテンションなんですか。 拾い食いでもしたんですか? というか、年を考えてくださいよ」

 

『あ? 調教されたいの? ふふ、あなたたちと会えるから嬉しくて。 まあ俊ちゃんとはもう会ったけど、それでも嬉しいものよ』

 

「うっ……! えっと、今後はどんなことがあっても定期的にちゃんと帰ってきます」

 

『よろしい。 それで、もうそろそろ帰ってくるのかしら?』

 

「あ、はい。 え~っと、来週の月曜から一週間泊りがけで帰ろうかと思ってます」

 

 ひょっとこはガーくんに頼んで壁にかけてあるカレンダーを取ってきてもらうことに。 ガーくんは自慢の脚力を活かしてカレンダーを取りひょっとこに渡した。 ひょっとこはそのカレンダーのとある週の月曜日に赤ペンで『帰省』と書いてそのまま日曜日まで引っ張る。

 

 危惧していたなのはとフェイトの予定がいつでもよくなったので、ひょっとこの予定より前倒しにする形である。

 

『あら、一週間でいいのかしら? もっと居てもいいのよ? それに俊ちゃんは“あっち”の家にも帰るでしょう?』

 

「いえ、“あっち”のほうは自分一人のときに行きますよ。 今回は高町家の家に帰省です」

 

『そう。 それで、何人来るのかしら? はやてちゃん達も来るんでしょう?』

 

「まあ、そうなりますね。 あ、詳しくはまた後日連絡することになりますが、なのはが教導してる新人たちと他数名くると思います。 なので、結構な人数になると思いますよ」

 

 きっと、スバルとティアはなのはの水着目当てで来るだろうし、エリオとキャロもフェイトが来るのだから一緒についてくるだろう。

 

 八神ファミリーは参加が決まってるようなものだし、スカさんも予定があいてると思う。 可能ならおっさんも呼びたいものだ。 そう頭の中で思いながら指折りで数えて電話の向こうの桃子に知らせる。

 

『それじゃ、こちらも頑張っておもてなしをしないとね。 勿論、俊ちゃんも手伝うのよね?』

 

「ははっ、そりゃ当たり前ですよ。 桃子さんと一緒に家事ができるのなら俺もうなにされても耐えることができますよ」

 

『それじゃ、道具一式揃えておくわね。 大丈夫、ちゃんと皆にも教えるから!』

 

「すいません、何が大丈夫なのかわかりません。 むしろ桃子さんの頭のほうが大丈夫じゃないですよ」

 

 そんな会話を交わしながら、桃子と談笑を楽しむひょっとこ。 そこに、客を知らせる電子音が聞こえてきた。

「あ、ちょっとまってください。 ガーくん、みてきてくれる? 知らない人だったら、とりあえず気絶でもさせといて」

 

「ワカッタ! イッテクル!」

 

 とてとてと玄関に歩いていくガーくんを見送るひょっとこ。 そんなひょっとことガーくんを交互にみながら、ヴィヴィオは

 

「……パパー、ガーくんばっかりはたらかせちゃダメだよー? なのはママとフェイトママにおこられちゃうよー?」

 

 と、もっともなことを言う。

 

 ヴィヴィオの声は電話越しの桃子にも聞こえていたらしく

 

『俊ちゃん。 自分ばっかり楽しちゃダメよ?』

 

 と、子どもを叱る母親のように少し厳しい口調で怒る。 いや、桃子にしてみればひょっとこは実の息子のようなもの。 怒って当然であり、叱って当然なのだ。 甘や

かすだけが子育てではない。 そう思う桃子だからこそ、さっきまでの楽しい談笑の口調ではなく、厳しい母親の口調で声をかけるのだ。

 

「うっ……す、すみません」

 

 電話越しだというのに頭を下げるひょっとこ。 その下げた拍子に、ヴィヴィオとおでこがコツンと当たり二人でえへへと笑い合う。

 

「それじゃ玄関に行きますから切りますね」

 

 席を立ちながら桃子との会話を終わらせようとする──が、桃子のほうはそうはいかず何か重大な案件をいましがた思い出したかのように、ひょっとこに切り出した。

 

『そうそう俊ちゃん? 今日ね、リンディさんがあなたとヴィヴィオちゃんが上手く生活できてるのか視察に行く、って言ってたわ。 ついつい忘れてたわ、ごめんなさい』

「……成程。 俺に死ねというわけですね……」

 

 乾いた笑みとカラカラの声で桃子に告げるひょっとこの眼前には、ガッツポーズをしているガーくんと明らかに気絶してるリンディ・ハラオウンの姿があった。

 


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