パンツ脱いだら通報された   作:烈火1919

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67.ガーくんにも苦手なものは存在するみたいです

 ギラギラと自己主張が激しすぎる太陽と、水面がキラキラと輝くほどの澄んだ海。 白い砂浜には綺麗な貝殻と家族連れや若者たちが顔を輝かせながら、ときには幸せそうに語らいながら歩く。

 

「スカさん、あそこの人のサイズはなんだとおもう?」

 

「E……いや、Fカップではないだろうか、ひょっとこ君」

 

「挟まれたいな」

 

「挟まれたいねぇ」

 

 そう──俺たちは海に来ているのだ。 昨日は荷物を置き適当に喋ってスカさん達が来るまでだらだら過ごし、夕食を食って教導を聞いて終了した。

 

 なのは達の言葉を信じるならば、ここから先の行動は自由ということになるな。 まぁ、自由行動といっても今日の海は兼ねてから計画をしていたので全員参加になるわけだけど。

 

「それよりもスカさんや。 海には男のロマンがある。 というかだな、海は母親なんだよ。 そう、俺たちは海から生まれてきたようなものなんだ。 そしてその母親が目の前で俺たちを包み込もうとしている。 さぁ──俺たちの取るべき行動は?」

 

「ふっ、ひょっとこ君。 無論にして愚問だよ。 私達の取るべき行動は一つ」

 

 スカさんと頷き、一目散に目の前に広がる海へと駆けていく。

 

「「おかあさぁああああああああああああああああああああああああああああああん!!!」」

 

 トリプルループを決めながら海へとダイブする俺とスカさん。

 

 夏の暑い日差しも届かないこの海の中は涼しく、そして気持ちよく、ついつい足を思いっきり伸ばしてしまう──

 

 ビキッ

 

「……スカさん、足が攣った」

 

「だからあれほど体操をしようと私は提案したんだよ!?」

 

 見事に足を攣ってしまった。

 

 

           ☆

 

 

「いいかお前たち。 あいつの行動とは真逆なことをしろよ。 立派な大人になれるからな」

 

「ヴィータさん、ひょっとこさんが必死でSOSを出してるんですが」

 

『みんなーー! たすけてーー! 皆のアイドルが溺れちゃ──』

 

「大丈夫だ。 ドラゴンボールで復活する」

 

「殺すこと前提ですか!? いまある命を助けましょうよ!?」

 

「大丈夫だスバル。 あそこには変態仮面もいるんだ。 なんとか──」

 

『ウーノ君!? 助けてくれ! 紙袋が海水で大変なことに──』

 

「ひょっとこ!! 来世の未来で会おうな!!」

 

「誰か助けてください! 完全にヴィータさん見捨てる気です!?」

 

「まったく……あいつらは何をやってるんだ……」

 

 人間状態のザフィーラが呆れながらも、素早い動きでひょっとこたちの元へ行く。

 

『ほら肩に捕まれ。 安心しろ、助けてやるから』

 

『帰れガチムチ! シグシグとかそこらへんのムチプリ呼んでこいよ!』

 

『はいはいわかったわかった……、それじゃお前は一人で頑張ってこい』

 

『ごめんザッフィー!? 謝るから、謝るから俺を助けて!?』

 

「…………チッ」

 

 ザフィーラに助けられているひょっとこをみて、ヴィータは心底面白くなさそうに舌打ちをした。

 

 

           ☆

 

 

「いいかお前たち。 海を舐めるなよ。 海は怖いんだ。 いつ足が攣るかもわからないし、ときには流されることもある。 サメなどが来ないとも限らない。 海ってのは怖いんだ」

 

「ひょっとこ、お前の足痙攣してるぞ」

 

 ヴィータが震える足にトーキックをかます。

 

「いたッ!? やめてロヴィータちゃん。 俺いま必死で年上としての威厳を保ってるんだから!」

 

「いや完全に無理だろ。 見てみろ、新人達の目。 『この人には言われたくねぇ……』 みたいな顔と目だぞ」

 

 みるとスバルとティアの目は完全にひょっとこのことを見下すような目であり、キャロとエリオも困ったような乾いた笑いを口にしていた。 流石反面教師のひょっとこである。

 

 しかしそれでもめげないひょっとこ。 ごく自然な動作で痙攣中の足を揉み答える。

 

「いいんだよ。 俺の行動でなのはたちの可愛い教え子が海の怖さを知ってくれるんなら」

 

「お前の行動で新人達が得た教訓は、お前のバカさ加減だけどな」

 

 恰好よく潮風を体に浴びせながら言い切るひょっとこに、間髪いれずにヴィータがそう返す。

 

 辺りを数分の静寂が支配して──

 

「よーし! 体操はじめっぞー!」

 

 ひょっとこはいつも通りなかったことにした。

 

 新人達を横一列に並ばせて体操をはじめるひょっとこ。 背伸びや肩回し、屈伸に震脚、アキレス腱伸ばしと一通りのことを行う。 エリオとキャロは素直にひょっとこの言うことを聞き、体操し、スバルとティアナは目の前の男が体操をしないことで足を攣った場面を目撃しているのでこちらも大人しく従う。

 

 ひょっとこの隣ではヴィータも控えめながら体操を行っている。 ヴィータの水着は赤のサロペット付きビキニである。 肌の露出も水着にしては極端に少ない代物である。

 

「ロヴィータちゃん、いくらなんでもそれはないだろ。 自分の幼児体型もあるけどさ。 なんなら俺のもってるスクミズ貸そうか?」

 

「いやまて。 お前いま自分がどれだけ変なこといったか気付いてるのか? なんでお前がスクミズもってんだよ」

 

「ぐへへ……」

 

 ひょっとこの気持ち悪い笑い方に、ヴィータはすかさず痙攣中の足を蹴る。

 

 おうッ!? と言いながら倒れるひょっとこ、そんなひょっとこの背中に誰かが思いっきり飛び込んできた。 飛び込んできたといってもひょっとこにはそこまで痛みは感じないほどの強さだ。 そんなことができる人物にひょっとこは一人だけ心当たりがあるので、後ろを振り返る。

 

 そこにはひょっとこの予想通り、向日葵が描きこんであるビキニで決めているヴィヴィオの笑顔があった。

 

「えへへ、パパー、どーん!」

 

「こーらヴィヴィオ。 パパの足はいま危ない状態にあるんだからやめなさい」

 

「パパー、ヴィヴィオかわいい?」

 

 ひょっとこの話など聞かずにくるりとターンするヴィヴィオ。 凹凸などは存在しないが、その笑顔だけでひょっとこの顔は笑顔になる。

 

「かわいいぞ、ヴィヴィオ。 もうパパがヴィヴィオの婿になりたいくらい」

 

「だったらヴィヴィオはパパのおよめさんになってあげるー!」

 

「やっほーーい!」

 

 座ったまま拳をあげるひょっとこ。 ヴィヴィオはそんなひょっとこの胸に飛び込み抱きつく。 そんな光景を周りの人は微笑ましそうにみていた。

 

「ところでヴィヴィオ。 ガーくんは?」

 

「ガーくん? ガーくんなら、あそこだよ?」

 

 ヴィヴィオの指さす方に目を向けると、ものすごいはしゃぎっぷりでガーくんが海に向かって猛ダッシュしていた。

 

『ワーイ!! オヨグゾー!!』

 

「ガーくん! ここは海水だからガーくんには──」

 

 ボシャン!

 

『ベタベタスルー!!?』

 

「あぁ……遅かったか」

 

 アヒルは基本的に淡水に暮らすので、海水には抵抗があるようだ。 それはガーくんとて同じらしい。 ドタドタとベタベタとヴィヴィオとひょっとこの方に走っていくと、涙をためながら

 

「ガークンカエル!」

 

 と、言い出した。

 

「ダメだよーガーくん。 いまきたんだから」

 

「イヤー! ウミキラーイ!」

 

 困ったように宥めるヴィヴィオに、ガーくんは首を左右に振りながら拒否する。

 

『あのアヒル喋ってねえか……?』

 

『ありえねえだろ……。 動物園に連絡したほうがよくねえか……?』

 

 ガーくんの姿をみて、周りの一般人がそうひそひそ話をする。

 

 そんな一般人に向かってひょっとこは困った笑顔を浮かべながら話しかける。

 

「いやー悪いな、このアヒル俺の家族でさ」

 

『あれ? ひょっとこさんじゃないすか。 海鳴に帰ってきたんすか?』

 

「まぁ、一週間の滞在だけどな」

 

『なるほどねぇー、ひょっとこさんがかかわってるなら納得できるな。 ひょっとこさんいるなら、俺たち翠屋に遊びにいきますね』

 

「おう、一人1万落としていけよ」

 

 そう手を振りながらガーくんに目線を向けていた一般人の男たちと別れる。

 

 周囲の人間もひょっとこの姿を確認したのち、何事もなかったかのように思い思いの行動をとっていく。 ときたまひょっとこに話しかける人達もいる。

 

 それを外側からみるティアナとスバルとヴィータ。 エリオとキャロは近くで砂遊びをはじめたようだ。

 

「ヴィータさん……ひょっとこさんが絡んだら魔法でも納得してくれそうですね、ここの人達って」

 

「というか、ひょっとこさん海鳴でもこんな感じなんですか」

 

 ヴィヴィオと膝に乗せたまま、フレンドリーに話しかけてくる一般人にこれまたフレンドリーに返すひょっとこをみてティアナがヴィータに疑問を投げる。

 

 その疑問にヴィータは面倒そうな顔をしながら答えた。

 

「学校にもたまにいるだろ。 学校の名物生徒や名物教師。 アイツはそれとおんなじで、海鳴の名物人間みたいなもんだからな」

 

「いい方か悪い方か、どちらですか?」

 

「勿論、両方だよ」

 

 溜息混じりの声を出すヴィータであった。

 

 

           ☆

 

 

「あ~、しんど。 そりゃさ、いきなり海鳴から消えたから色々と憶測は飛び交うと思うけど、どうしてほとんど『あいつ変な食べ物食って死んだらしい』なの? おかしくね? それ絶対になのはの役目だろ」

 

「なのはママの?」

 

「そうそう、なのはママの」

 

 ヴィヴィオの頭を撫でながら作ったパラソルの下に敷いてあるシートに座る。 いまきてるのはヴィヴィオとガーくんとスカさんとヴィータと新人達、そしてザッフィーである。

 

 大人組はもう少し後にくる予定だから……来てないのはなのはとフェイトとはやてとシグシグとシャマル先生とウーノさんか。 シグシグとウーノさんいる時点で心配ないな。 なのはも海鳴では恐怖の対象的な意味で有名人だし。

 

 はぁ……それにしても──

 

「ガーくん、いい加減諦めろ。 根性で海水適正Sにするんだ」

 

「ウゥ……デモカイスイニガテ」

 

「困ったな~……」

 

 ヴィヴィオの隣で顔を項垂れているガーくん。 まいったね、あのガーくんが海水のべたべた苦手だなんて。 ガーくんの尋常じゃないスペックで仇となり、感覚が鋭くなってるのかな?

 

「はっはっはっはっは! こういうときに私がいるのだよ!」

 

「あれスカさん。 なにそのオイルみたいなの」

 

「よくぞ聞いてくれたひょっとこ君! これは海水でも淡水のような状態に感じられるオイルだよ! これを全身に塗ればガーくんもベタベタに悩ませることはなくなるぞ!」

 

「ホント?」

 

「勿論だとも、私に不可能なことはないよ。 さぁ、ヴィヴィオ君。 これをガーくんに塗ってあげなさい」

 

「はーい!」

 

 スカさんがヴィヴィオにオイルを渡す。 ヴィヴィオはそれをもらい、ガーくんの全身にぺたぺたと塗っていく。 ガーくん気持ちよさそうだな。

 

「なぁ、スカさん。 これって人間にも効果あるの?」

 

「ふむ、効果はあるものの、あくまで感じることができるだけだから結果的には海水を浴びているのと同じだよ」

 

「あー、なるほど。 スカさんなら触れた海水を淡水に変えることができる薬くらい作れそうだけど」

 

「うむ、本当はそれをしたかったのだが……30分ほど前に急遽作ったので、勘弁をお願いするよ」

 

「いや、30分じゃ普通作れないよね。 スカさんやっぱ天才だわ」

 

 ヴィヴィオのほうをみると、丁度ガーくんの全身に塗り終えたところであった。 ガーくんはもう一度挑戦しにいくらしく海のほうへと一目散に駆けて行った。

 

「パパー?」

 

「ん? どうしたヴィヴィオ? トイレか?」

 

 そう聞くとヴィヴィオはぶんぶんと首を横に振って、かわりにさっきのオイルを差し出しながら笑顔で言った。

 

「ヴィヴィオにもぬって!」

 

 ……これは困った。 いや、本当に困った。 やってあげたいけど……ここでヴィヴィオにオイルを塗ろうものなら間違って穴に指を入れてしまうかもしれないし……、そんなことになったら俺はこの先どうすればいいというんだ。 確実になのはとフェイトに家を追い出される。

 

 しかし──

 

「はやくー!」

 

 ヴィヴィオには他意はないわけで、ここで俺が拒否するとヴィヴィオは悲しい思いをするだろうし……せっかくの海の思い出を俺の我儘で辛い思い出にはさせたくない。

 

「よーし、ヴィヴィオ。 それじゃパパが全身をべたべたと触っちゃうからな~!」

 

 そうして俺はヴィヴィオに触れる──前に誰かの手が肩に置かれる。

 

 後ろからでもわかるこの怒気。 きっと背後には修羅がいるに違いない。

 

「俊く~ん? 面白いことしてるね~。 オイル塗る相手が違うんじゃないかな~?」

 

「はっはっは……ヴィヴィオが俺に頼んだんだよ。 いわば、俺以外にはオイルを塗らせたくないわけであって、これにより俺がお前らに怒られるということは──」

 

『ヴィヴィオ、フェイトママがオイル塗ってあげようか?』

 

『わーい! フェイトママだいすきー!』

 

「……なのはさん」

 

「……なに?」

 

「……娘とのスキンシップは大丈夫だよね?」

 

「そうだね。 けど──オイルはわたし的にアウトかな」

 

 脱臼で済んでよかったです。

 


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