パンツ脱いだら通報された   作:烈火1919

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73.翠屋で頑張ります!

 カランカラン──

 

「いらっしゃいませ~、喫茶翠屋へようこそ! 2名様ですね、こちらへどうぞ~」

 

 こんにちは、翠屋の“天使”高町なのはです! 翠屋の“天使” 高 町 な の は です!

 

 時空管理局に勤めてる魔導師であり、これでも一応エースオブエースと呼ばれています。

 

 ……あれ? 私って魔導師だよね? たしか魔導師だったはず……。

 

「ヴィータちゃん、わたしって魔導師だよね?」

 

「設定上魔導師だな」

 

 どうやらわたしはちゃんと魔導師みたいです。 最近、自分が魔導師だということを忘れそうになります。 そういえば、わたしはこれでもSランク以上の魔導師でした。

 

 そんなわたしですが今日は実家の翠屋でウェイトレスをやっています。 実家に帰るときはいつもやっていることなのですが、今日はなんと──

 

「スバルー、お冷どこに運ぶんだっけ?」

 

「あっちだったと思うけど……」

 

「パパー! アメさんもらったー!」

 

「ガークンモ!!」

 

「おいひょっとこ。 シュークリーム追加な」

 

『担担麺お願いしまーす!』

 

「おい誰だ、どさくさに紛れて担担麺注文したバカは」

 

 今日はなんと六課の面々が翠屋を手伝ってくれるそうです!

 

 わたしの目の前にはスバルとティア、一生懸命頑張ってるエリオにキャロに、新人達の面倒を見ながらも自分の仕事をキッチリこなしているヴィータちゃん、わたし達の愛しい娘のヴィヴィオ。 そして──エプロンを着てお菓子や軽食を作っている彼。

 

 そして今日はお父さんとお母さんがいません。 なぜなら今日は彼がお父さんとお母さんを休ませるために皆に声をかけたのですから。

 

 

           ☆

 

 

「ママー、あさだよー」

 

「ふぇ……? あ、あれ……もう朝なんだ……」

 

 ぺちんぺちんと頬に誰かの手が当たるのと、頭上から声かけられた声に目を覚ます。

 

 目を開けた先にはにっこり笑顔のヴィヴィオがわたしに「おはようママ!」と抱きついてきた。

 

 わたしはそんなヴィヴィオを抱きしめながらおはようの挨拶をして、一足先に部屋から出たであろうフェイトちゃんの後を追って自分の部屋を出た。 そういえば……昨夜のフェイトちゃんはちょっとそわそわしてたなぁ……。

 

「おはよー」

 

『おはよう』

 

 リビングに行くとフェイトちゃんとリンディさんにアルフさん、エイミィさんやエイミィさんの子供たち。 そしてお兄ちゃんにお姉ちゃん、お父さんが既に席に座っていた。

 

「おはようなのは。 今日は遅かったな」

 

「うん、昨日はしゃぎすぎちゃって……。 そもそも俊くんが上半身裸で出てくるのが悪いんだよ」

 

 まったく……何を考えてるんだかあのバカは。

 

「って、あれ? 俊くんは?」

 

「俊なら母さんと朝飯を作ってるぞ」

 

「へー。 って、まあ当たり前か」

 

 忘れがちだけで基本的に俊くんはうちの家事担当なんだし。 料理もそれなりにおいしいし。 そこらへんの人には負けないし。

 

「それにしても俊くんはどこに出しても恥ずかしくない男の子に成長したよね~。 平均スペックも高いし、ルックスもいいし、学生時代からモテたしね」

 

「お姉ちゃん、俊くんはどこに出しても恥ずかしいよ」

 

 いや、俊くんほど恥ずかしい人物はいないといっても過言ではないくらい恥ずかしい。

 

 だからこそ、こうしてわたしとフェイトちゃんが引き取ってるんだから。

 

 椅子を引いてヴィヴィオと二人、フェイトちゃんの隣に座る。

 

「……なに、その笑みは」

「なにも~?」

 

 無視無視。 お姉ちゃんに付き合うだけ無駄だよね。

 

 そう思っていると、丁度いいタイミングで俊くんとお母さんが談笑しながら入ってきた。

 

 ……そういえばわたしはすごいお母さん似なんだよね。 ということは……いま俊くんの隣で談笑してるのがわたしで、さっきまで台所で俊くんと料理をしてたのがわたしで──

 

「……ちょっといいかも」

 

 いや、本当にちょっとだけだけどね? でも──アリだよね、そういうの。

 

「おお、おはようなのは。 丁度いいところにきた。 ちょっと大事な話があるんだが、来てくれないか?」

 

「へ? だ、大事な話? ふ、二人だけで?」

 

「ああ、いやフェイトも一緒で──」

 

「ほらいくよ俊くん!」

 

 俊くんの手を強引に掴んでリビングから台所へ引っ張り込むわたし。

 

「で、で? 大事な話って?」

 

「お、おう。 いやあのな? 今日さ、俺たちで翠屋を回して士郎さんと桃子さんに休暇をあげようかと思ってるんだけど……」

 

「はぁ……」

 

「え!? なにその溜息!? 俺何も悪いことしてないよね!?」

 

「チッ……」

 

「あ、あの……なのはさん?」

 

「で?」

 

「え?」

 

「続きは?」

 

「あ、うん。 昨日のうちに新人達や八神ファミリーやスカさんには話をつけてあるから、あとはお前次第なんだけど……。 ほら、翠屋の跡継ぎって正式的にはお前だろ?」

 

 まぁ……それはそうだけど。 そういえば、なんでだろうね?

 

 そのとき、わたしの頭にふと閃く。 とある仮説。

 

 ──これって、ようは練習……?

 

 わたしと俊くんで翠屋を回せるかどうか……試すってこと?

 

 は~ん……成程。 俊くんは言外にそう言いたいんだね。

 

 まったく……そんなに照れなくってもいいのに。

 

「いいよ。 二人で頑張ろうね!」

 

「ああ、皆で頑張ろうな! 士郎さんと桃子さんには話をつけてくるから!」

 

 俊くんがお父さんとお母さんに話しをつけているので耳にしながら、わたしは小さく拳を作る。

 

「よし──がんばろ!」

 

 

           ☆

 

 

 で、蓋を開けてみれば──

 

「ロヴィータ、そっちのテーブルにコレ運んでくれ」

 

「はいよ。 ティア、そっちの注文取ってくれ」

 

「パパー! またアメさんもらったー!」

 

「ガークンモー!」

 

「俊、クリームってこんな感じ?」

 

「おお! うまいよフェイト! 味もいい感じ!」

 

「俊~、小銭が足らないんやけどー!」

 

「ああちょっとまってくれ! そこに『担担麺お願いしまーす!』 うっせえよ、さっきから!! 担担麺はねえから帰れ! 金だけ置いて帰れ!」

 

 なんで……こんなに忙しいの……!!

 

 六課の面々が慌ただしく店の中を駆けずり回る。 いつもの翠屋ならここまで忙しくないのに……。 これじゃ俊くんと落ち着いて話すこともできないよ。

 

『混んでるなー、やっぱり』

 

『そりゃしょうがねえよ。 ひょっとこさんが帰ってきたんだから皆会いたいんだよ』

 

 ……こういうとき、彼の意味不明のスキルが憎い。

 

 いっそのこと友達がいないキャラならよかったのに……。

 

 そういえば──今日は俊くんとフェイトちゃんがやけによそよそしい感じがするのも気になる。

 

 例えば──

 

『きゃッ!? ご、ごめんね俊。 手が当たっちゃった……』

 

『いやッ、俺こそごめん! だ、大丈夫か?』

 

『う、うん……』

 

 なんなのよ! なんなのよ、あの初々しい距離感は!!

 

 なんで微妙に空間があいてるの! なんで隣に並んでるのに微妙にスキマがあいてるの!

 

 撃とうか!? そこにディバインバスター撃ち込もうか!?

 

 轟け! わたしのディバインバスター!!

 

 

           ☆

 

 

 なんというか……昨夜の一件以来、フェイトとの距離感が保てない。

 

「おいひょっとこ。 スバルが摘み食いしようとしてるぞ」

 

「またか……。 おいスバル!」

 

「ふぁい?」

 

「摘み食い中じゃねえか!?」

 

 スバルに声をかけると既に口にチーズケーキを含んでいた。

 

 なんという早業。 でもやめてくれ。

 

「今日はお前の大好きな、なのはさんの翠屋を回してるんだ。 いいか? お前がここで頑張るとなのはさんがとても喜んでくれるぞ。 もしかしたら抱きついてくれるかもしれないな」

 

「ほ、ほんとですか!?」

 

 きたねえからチーズケーキ飛ばすな。

 

「ああ、当たり前だ。 俺の知ってるなのはなら絶対抱きつくはずだ。 一番頑張った人に栄誉を讃えて必ず抱きつく」

 

「うほおおおおおおおおおおおおお!! 頑張ります! なのはさんの処女のために頑張ります!」

 

 横からピンク色の魔力弾が一発飛んできて、スバルの顎を砕く。

 

「……すいません、調子のってました」

 

「まぁ……今日は俺もなのはも真剣だから、お前もそれなりに頑張れ」

 

 一気にテンションが落ちたスバルをみて、思わず頭を撫でる。 なぜかこちらにも魔力弾が飛んできた。 無差別すぎるだろ、翠屋の天使。

 

 冷や汗を垂らす俺のことなどお構いなしに、スバルはなにやら固く決心を誓ったように拳を握りしめて問う。

 

「ひょっとこさん、今日の私は本気です! スバルのイケメンターンです! さぁ、指示をお願いします!」

 

「家に帰って大人しくしといてくれ! 以上!」

 

「いらない子ですか!? 私はいらない子なんですか!?」

 

 目の前で暴れ出すスバル。 だってお前……摘み食いしかしてないじゃん。 しかも客の食い物つまんでいくし。

 

「それじゃ、後は頼んだぞロヴィータ」

 

「嫌な所でバトンパスしてくれるな……」

 

『青髪はいらない子ですか!? 魔女化したからいらない子なんですか! 私だって魔女化しますよ!?』

 

「ほら、スバルのソウルジェムをアイゼンと粉砕してやれ」

 

「アイゼンが穢れるからやだ」

 

「しょうがない、アルティメットなのはに頼むしか『担担麺お願いしまーす!』 帰れっていっただろうが!!」

 

 ひょっとこがいつまでも担担麺を注文する客を探し出そうとしていると、背後から誰かが抱きついてきた。 そしてそのままひょっとこの口に何かを押し込んだ。

 

「まあまあ、そうカッカしたらあかんで俊。 はやて様特性プチケーキでも食べて落ち着くことや」

 

「……。(もぐもぐ) おぉ! これうまいよはやて!」

 

「料理やお菓子作りは乙女の嗜みやで? 俊もこんな女の子をお嫁さんにもらったほうがいいんとちゃう?」

 

 抱きつき、俺の口に自分が作ったプチケーキを食べさせたはやては、そのまま俺の正面に回り込みながらそう言ってきた。

 

「確かに……朝、桃子さんと料理してて二人で料理を作るのは楽しかったかなぁ」

 

 

「うんうん、そうやろ? やっぱり二人で肩を並べての料理は新婚さんの気分もあるしな~」

 

「あー、わかる。 二人並んできゃっきゃうふふな感じだよな」

 

 まぁ、うちは俺以外が台所に立つことなんてありませんけどね。 というか、危ないので二人には包丁を持たせたくありません。 それで怪我したら俺は包丁作った会社を訴えるね。

 

『…………』

 

「あ、そうそう。 そういえば、前に俊と並んでご飯作ったな。 ほら、蕎麦のときの」

 

「ああ、そういえばそうだったな。 まぁ、あのときは楽しかったな。 出来もまあまあの仕上がりになったみたいだし」

 

『…………………』

 

「なんなら、もう一回作る? 二人で肩を並べて」

 

「おっ、いいなそれ! 俺もまたはやてと料理を作れて──」

 

 ちょんちょん

 

「ん? どうしたのなのは?」

 

「えっと……その……、ちょ、ちょっと二人で軽食でも作らない? 二人で」

 

「軽食くらいなら俺一人で作るけど。 オーダーはいったの?」

 

「い、いやそういうのじゃなくて……。 ただ、作りたいな~……なんてことを思ったり」

 

 視線をあっちこっちに動かしながらそう言うなのは。 抱きつきたい。

 

 けどまぁ──確かになのはと二人で作るのもアリだよな。

 

「それじゃ、二人で作ろっか」

 

「う、うん!」

 

 厨房を指さしながら、なのはと歩こうとする──すると、

 

「それじゃわたしもケーキ作る作業を再開しよーっと」

 

 と、はやてが厨房へ向かっていった。 ああ、まだ作ってる途中だったのか。

 

 って、あれ?

 

 そういえばフェイトもいたような──

 

「あ、俊。 ショートケーキができたよ!」

 

 笑顔でショートケーキを見せながら駆け寄ってくるフェイト。 しかしその歩みも俺の40cm手前で止まる。 やっぱり……昨日のことだよな。

 

 きっとフェイトも恥ずかしがってるんだよな。 はぁ……嫌われたらどうしよう……。

 

「って、いかんいかん。 なのは軽食だけど──」

 

 ナポリタンにでもしようか。 そう声をかけようと振り向くと

 

「……なのは……まけないもん……」

 

 何故か両手で拳を握ってるなのはがいた。

 

 今日の翠屋……乗り切れるかな?

 


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