自由への戦火~The Liberation of World sea~ 作:ずぅみん
1月5日、ゴールドエリーザ州ロエルエリーザ記念公園
ゴールドマリン州のお隣に位置する、国内で唯一の造船都市があるゴールドエリーザ州。その静かな入り江の一番奥にロエルエリーザ記念公園はあった。この公園を話す上で欠かせないのが、公園の名前にもなっている大戦艦ロエルエリーザだ。全長500mの船体が公園の敷地内にある専用の桟橋に係留されている。
係留タラップの登り口で警備している警備員に海軍証を見せて搭乗許可をもらうとタラップを登っていき、誰もいない大戦艦に乗り込んだ。そして艦橋の根元のハッチに歩み寄ると持っていた鍵でロックを解除し、艦内に入っていった。目指すは艦の最深部、機関室だ。
大戦艦ロエルエリーザ機関室
機関室の水密扉を開けると、中から最低回転数でゆっくり回り続けるエンジンの音が聞こえてきた。
「まだ健在だったか」
そう言いながらアルロスは動き続けるエンジン隔壁を触った。このエンジンは、現在マリネア連合州国海軍が主力としているエンジン、トランジッション式永久機関の設計を1から見直した末に完成した新型エンジンである。正式名、ラジエーション式永久機関…通称『マーキュリーエンジン』を搭載することで推進効率を40%向上し、騒音や振動も従来型より25%抑えることに成功したロエルエリーザは1945年に進水してからずっと第一線で活躍してきた。故にこのエンジンは進水式の初火入れから一切止まることなく155年間動き続けてきたのだ。
しばらく機関室内を見回してみたアルロスだったが、誰もいないのを確認すると水密扉に鍵をして機関室を後にした。
大戦艦ロエルエリーザ艦橋
次にアルロスが足を運んだのが艦橋だ。15年前に退役してから誰もこの空間には出入りしていない。…はずだった。ふと足下を見るとうっすらと埃が積もる床に足跡が残っていた。大きさから察するに女性だろうか。それは二段に分かれた艦橋の上段へ続いていた。上段には艦長席と操舵輪、副長席、砲雷長席がある。アルロスは上段へ続く階段を登った。するとそこには艦長席で丸くなって寝る女の子がいた。彼女はこの艦のメンタルモデル、ロエルだ。1945年の進水式からずっと機関長を務めている。
「…相変わらずだな」
アルロスは安心して眠る女の子の頬に触れようとしたが、手の動きをそのままぴたっと空間で止めた。なぜなら、そのまま触ろうとすれば撃たれるからだ。
「あなたの殺気を感じる力にはつくづく驚かされます、艦長」
アルロスは背後から聞こえる声に脅され、両手を上にゆっくり挙げて無抵抗の意志を示した。
「引き金を引いたって、弾の無駄遣いになるだけだぞ?」
手を上に挙げたままアルロスは振り返った。そこには銃口をこちらに向け、マリネア連合州国海軍の制服に身を包んだ女性が睨みを利かせていた。彼女の名前は
「そうですね、あなたにいくら銃弾を撃ち込んでも死なないんでしたね。それではこの艦のエンジンを止めましょうか」
「いや、それはダメだ。それをやったらロエルも永遠に目を覚まさなくなるぞ。ところで、いつまで銃構えてるつもりなの?」
「あぁ、ごめんなさいね」
そう言って千愛海は腰のホルダーに銃をしまった。そしてしばらく沈黙が続いた後で千愛海が切り出した。
「艦長は何しに来たの?あなたは今、大規模反攻戦に向けてブルーエリアの出港準備を進めてるはずよ」
「実はお願いがあってきたんだ。今回の反攻戦に参戦して…」
「断ります」
予想外の答えに戸惑いながらもアルロスは否定された理由を尋ねた。
「どうしてだ?」
「この艦は15年前に退役しました。もう海軍所属じゃないんです。この艦も、彼女も…」
そう言って千愛海は艦長席で安らかに眠るロエルに目線を移した。外で起きていることも知らずにロエルはまだ夢の中にいた。
「とにかく出撃は許可できません。お引き取りください」
「わかったよ、でもまた来るかもしれない。それまでにもう一度考えてくれ」
残念そうな顔で体の向きをくるっと変えたアルロスはそのまま艦橋から立ち去った。アルロスがタラップを降りて姿が見えなくなるまで千愛海は艦橋の窓から見送っていた。
ゴールドライン海軍基地、大戦艦ブルーエリア
反攻戦に備え、ブルーエリア乗員は艦内から燃えそうな書類や布類を片付ける作業をしていた。千歳は資料室の本棚にあるものを片っ端からダンボールに詰める箱詰め担当を任されていた。
「ったくー、なんでこんなにいらん物を積んでるかなー、この艦は!電子海図あるんだから紙の海図なんていらないだろ…」
「いざって時に必要になるのは間違いないんだ。つべこべ言わずにさっさと詰めろ」
千歳の後ろで箱詰めされたダンボールを台車に乗せる運搬役をしていたウェイク航海長が千歳を急かした。
「わかりましたよ~」
そう言いながら千歳は若干作業ペースを上げた。するとペースに追いつけず、とある書類を床に落としてしまった。
「あ、やっちまった…」
千歳は慌ててその書類を拾い上げた。その時にどんなものか気になって内容を覗いてみた。
「歴代艦長の情報かぁ…」
作業の手を止め、すっかり書類に目を通すのに必死になっていた千歳はやがて艦長詳細のページにたどり着いた。そこに書かれている項目に片っ端から目を通していく。
「アルロスさんはこの艦の初代艦長なのか…」
顔写真つきのいろんな情報が書かれたページに見入っていると、生年月日の項目が目に留まった。千歳は好奇心に勝てず、その項目に書かれた数字を見てしまった。そして声に出して読み上げる。
「1915年…9月1日生まれ…」
生年月日を見て混乱した千歳は運搬役のウェイクに尋ねてみた。
「航海長…アルロスさんは今、いくつですか?」
「ん?歳か?…確か、30歳と自分で言ってたっけなぁ。どうした?急に…」
書類に目を通して固まる千歳に気付いたウェイクが千歳に歩み寄り、手に持ってる書類を覗き込んでしゃべりだした。
「あぁ、これか。当てにしない方がいいぞ?その情報」
「え、なぜです?」
「確かにその書類に嘘の記載をしてはいけない。だが、100歳を超えても海軍軍人をやってるって話は聞いたことが無い。ただ、その書類について1つ言える事は、正規の書類じゃないってことかもな」
「初めっから偽造書類ってことですか…?」
「あぁ、そうだ。偽造書類を作っておけば、知られたくない情報も漏れずに済む。ましてや大戦艦の艦長ともなれば、なおさらだろう」
「そうですか…」
確かに、最初から偽造書類を作っておけばそこから情報漏えいすることはない。しかし、こんなところに偽造書類を置いておくか?と千歳は辺りを見回した。ここはブルーエリアの艦橋真下に位置する資料室。艦内の警備システムは強固なもので外部からの侵入など不可能だろう。それにこの資料室にはブルーエリアの船体設計図など、トップシークレットと言えるものがずらっと置かれている。そんなものが置いてあるのに、1つだけ偽造資料が置いてあるのも不思議な話である。結局千歳は片付けしてる間ずっとそれが気になって作業に集中できなかった。
数時間後…
片付け終わってからしばらくして、どこかへでかけていたアルロスが帰ってきた。ひとまず千歳は作業の報告をすることにした。
「アルロスさん、資料室の片づけ終わりましたよ」
「そうか、お疲れさん」
報告してる間も例の事が気になってアルロスと目を合わせることができなかった。報告の際、千歳はこっそりアルロスを肩からつま先まで見てみた。とても100年以上生きているとは思えない。
「…千歳、どうした?」
「えぁ!?いえ、何でもないです…」
無意識のうちに考え込んで険しい顔になってたようで、それを気にしたアルロスに声をかけられているのにやっと気づいた千歳は変な声を上げてしまった。どうすればいいのかあたふたした千歳はアルロスに一礼し、そのまま勢いよく艦橋を飛び出した。
大戦艦ブルーエリア後部甲板
「ったく!あれを見てから全く集中できない!!」
そう呟きながら若干荒っぽい足取りでやってきたのは3番主砲が設置されている後部甲板だ。3番主砲の真ん前で立ち止まると海軍に入ってから手渡された自分の軍刀に興味を持った。
「そういえば一度も抜刀したことがなかったな」
千歳は柄に右手をかけ、一気に引き抜こうとした。しかし鞘から抜けるはずの刀身が出てくることはなく、ガツッと何かに勢いよく引っかかったまま鞘全体が持って行かれそうになって終わった。
「なんだ?これ…レプリカか?」
試しに耳元に鞘から抜けない軍刀を近づけ、本体を軽く振ってみた。すると中の空間で金属が当たって音を立てているのがわかった。本物だとわかった千歳は再びやってみることにした。
「今度こそ…」
柄を右手で握り体制を構え、千歳は再び引き抜こうと力を加えた。すると後ろから伸びてきた手が千歳の右手を掴み、引き抜く前に柄を手前に回す動作をした。そして次の瞬間、柄に続いて鋭く光る刀身を全て引き抜くことができた。
「我がマリネア連合州国海軍の軍刀は全てロック機構付きだ。ちゃんとマニュアル読め」
全て抜けた刀身をただ眺める千歳に、背後から心配して追いかけてきたアルロスが声をかけた。
「あ、アルロスさん…」
「一体どうしたんだ。今日一日様子が変だったぞ。何か俺に聞きたいことでも?」
う…読まれてる…。そう思った千歳は率直に聞いてみた。
「アルロスさんの生年月日って…いつですか?」
千歳が聞いた直後、2人の間に無言の時間が流れた。アルロスさんは嘘の回答を準備しているのだろうか?それとも真実を話すか迷ってるのか…?千歳が様子を伺っているとアルロスが話し始めた。
「俺は1915年9月1日生まれだ。184歳かな」
「…どうしてそんなに長生きなんですか?現在のマリネアの医療技術でも100歳が限界なのに…」
千歳の知らないものはとことん調べるという性格が、アルロスの核心に迫っていく。こいつはホントに怖い奴だ…アルロスはそう思った。
「実は俺はこのブルーエリアの艦長であると共に、とある大戦艦の艦長兼メンタルモデルを兼任している。」
「艦長が…メンタルモデル?」
「あぁ」
アルロスの説明によるとマリネアが開発した永久機関は人間が勤める機関長だけでは制御することができない。そこで特殊な力を持った人間を訓練し、永久機関を制御できるようにした存在が「メンタルモデル」である。メンタルモデルになった人間は永久機関が壊れる瞬間まで成長が止まり、壊れた場合はそこから再び成長を始める。つまり、機関が壊れなければ永遠の時間を生きることができるのだ。
「千歳も欲しいか?永遠の命が…」
そっとアルロスが千歳に問いかけた。
「いや…自分はいらないです」
意外と早かった返答にアルロスは驚いた。よくよく思い返してみれば彼には必要ないのかもしれないとアルロスは思った。なぜなら彼は、すでに力を持っているからだ。
「まぁいい、しばらくしたら出港するぞ。それまでに準備しとけ」
「…了解です」
くるっと向きを変え、艦橋へ歩き出すアルロスの後ろをくっつくように千歳も付いて行った。