自由への戦火~The Liberation of World sea~   作:ずぅみん

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第13話 防潮堤の外

 1月5日 キャンベルマリーネ海軍機関本部

「ソードライン防潮堤のS-210区画ね、了解」

 ある人物からの報告を受けた神城は無線の受話器を置くと最新の情報に更新された電子海図を眺めた。そこには現在包囲している反世界軍の艦隊のうち、1区画だけ1隻も存在しない海域があった。「これのことか…」と神城は目を細めた。これが本当のことならば、今が最大のチャンスとなる。

「まずは様子見で近くにいる1艦隊だけ回そう。すぐに出れるように他の艦隊も集結させといて」

「了解、各艦隊に打電します」

 神城は一か八かの賭けに打って出ることにした。

 

 ソードライン防潮堤内S-220区画 海藍艦隊大戦艦ブルーエリア

 防潮堤に沿って反時計回りに周回していると海軍本部から連絡が入った。無線台のたまたま近くにいたアルロスが応答した。

「こちらブルーエリア艦長、アルロスである。…S-210区画の偵察?…りょーかい」

 受話器を置いたアルロスの不満そうな顔に千歳が尋ねる。

「偵察ですか?」

「あぁ、ソードライン防潮堤S-210区画の偵察だ。そこだけ反世界軍が包囲してないんだと。偵察かぁーつまらんなぁ…。どうせなら撃ちあいがしたかった…。しかもよりによって一番近くにいる我が艦隊だ…」

「そりゃ…一番近くにいる艦隊に行かせた方が時間的に節約できますからね。まぁその上層部の判断は妥当というか…理にかなってるというか…」

「まったく…偵察すればいいんだろ?偵察すれば…」

 ぶつぶつと止まらない文句を言いながらも無線チャンネルを艦隊に合わせ、空母2隻に連絡した。

「空母エルゼス、グランシャリオへ。偵察要請だ。サイウン2をソードライン防潮堤S-210区画へ飛ばしてくれ」

≪了解。それと『サイウン』じゃなくて『彩雲』ね≫

「はいはい、異国の名称は発音しずらいんだよ…」

 指示を出し終えたアルロスは無線台の席から立ち上がると、状況確認のために艦橋左舷の見張り台へ出て艦隊全体を眺めた。新たに戦艦2隻、航空戦艦3隻、巡洋艦5隻、イージス艦2隻、アイアス艦と呼ばれるマリネアが独自開発した対潜特化型イージス艦が2隻加わり、一気に18隻の艦隊に成長した。現在艦隊は大戦艦ブルーエリアを中心とした輪形陣で進んでいる。空母はブルーエリアの後方左右に配置している。艦隊の左側、今見える位置にいる空母がグランシャリオだ。アルロスは備え付けの双眼鏡でグランシャリオの飛行甲板を見た。誘導員の指示でこれから偵察機、彩雲2が発艦しようとしている。彩雲2は太平洋戦争中に旧日本海軍が艦上偵察機として運用していた『彩雲』を、日本国防海軍がジェット偵察 機として新規開発した機体で、現在の日本国防海軍の主力偵察機でもある。ジェット機ならではの速度と最新の多様な観測機材を搭載した彩雲2はとても使い勝手がよく、敵勢力の奥地でもスピーディーに、かつ、鮮明に偵察ができてとても評判がいいそうだ。マリネア連合州国海軍もその評判を聞きつけて日本国防海軍に掛け合ったところ、同盟国関係にあったことが功を奏し、メーカーの富士重工業から先月納品されたのだ。つまりはこれが初めての現地運用ということになる。

「日本の実力、お手並み拝見といきますか」

 アルロスがそう呟いた瞬間、カタパルトが作動し彩雲2が大空に放たれた。数分おきに発艦した彩雲2はそれぞれ扇状に10度ずつ分かれてS-210区画の方角へ目指した。

 

 空母グランシャリオ管制塔

 航行指揮から艦載機運営をするため管制塔に移った冬神零瑠(とうがみれいる)はレーダーを眺めて偵察状況を見守っていた。

「しっかし…GEWSが使えないと不便だな。GEWSさえ使えればこんなもの、一瞬で終わるのに…」

 彩雲2によってS-210区画のレーダーで見える範囲が広がっていくのを見ながら零瑠は呟いた。実は最近になって突然GEWSの画面に砂嵐や霧のようなものが表示され、すっかり役に立たなくなっていたのだ。連合州国海軍整備科が何度も整備を試みたのだが症状が改善されることはなく、結局外部からの妨害電波照射によるものだと判断された。

 やがて彩雲2全機がS-210区画に到達した。確かに船舶の反応は1隻もない。確信した零瑠はアルロスに報告した。

「こちら空母グランシャリオ、偵察海域に反応なし」

《こちら空母エルゼス、同じく反応なし》

《ブルーエリア了解、彩雲2を戻して直掩機を上げてくれ。もしもの場合に備える》

《エルゼス了解》

「グランシャリオ了解」

 今まで張り付いていたレーダー画面から離れ、管制塔の窓に歩み寄りながら手で管制官に『偵察隊、帰艦。直掩機、発艦準備』と合図した。受け取った管制官は『了解』と右手を上げ、早速偵察隊への帰艦要請を打電した。

 

 大戦艦ブルーエリア

 各空母からの報告を受け取ったアルロスはソードライン防潮堤S-210稼動壁1km手前で艦隊を止め、本部へ報告を開始した。

「こちら海藍艦隊大戦艦ブルーエリア、偵察海域に反応なし」

《了解した。これより稼動壁を解放する。警戒を厳となせ》

「了解。…艦隊各艦に告ぐ、対水上警戒を厳となせ」

 いよいよ千歳がずっと憧れていた外の海、太平洋に足を踏み入れることになる。民間人のままでは絶対にたどり着けなかった領域に千歳は興奮と不安を覚えた。防潮堤から出るということは、いつでもマリネア本土の支援を受けられるとは限らない…つまり、自分の身は自分で守らなければならないことになってくるのだ。

 しばらくして、ゆっくりと稼動壁が動き始めた。これまで何回か見てきたが、大抵は向こう側で反世界軍艦が包囲してるなどで出れずに終わっていた。今回は何も起こらないでほしい…千歳はそう願っていた。誰もが静かに、ゆっくり開いていく稼動壁を見つめていた。そして稼動壁の完全解放が完了した。その海は誰もいない、広くて静かな海だった。

「よし、出るぞ。数十年ぶりだな…。機関前進」

「了解、機関前進」

 海藍艦隊の軍艦が1隻、また1隻と慎重に太平洋へ出て行く。そしてついに艦隊全艦が太平洋への進出を完了した。

「これが太平洋…」

 千歳は窓際に歩み寄り、その海をまじまじと見つめた。そんな姿に舵輪の前で佇む航海長ウェイクが話しかけた。

「いったい何がそんなに珍しいんだ?防潮堤内の海と何ら変わらないのに…」

「外の海は終わりがないじゃないですか!いつか自分が艦長になって、自由に海を渡り歩きたいんです!」

 キラキラ目を輝かせながら話す千歳を見て、ウェイクは理解に苦しんだ。

「俺にはわからんなぁ…」

「俺はわかる気がするな」

 話を聞いていたアルロスが千歳に同意した。

「思い返せば奴も千歳くらいの時によくそう言っていたものだ。…奴にそっくりだな」

「奴…とは誰のことですか?」

「マリネア連合州国海軍の中で最も海を愛し、最も自由を求め、そして…最も孤独だった男だ」

「それ、答えになってないですよね」

 遠い目で答えたつもりをしているアルロスに対して千歳が軽いツッコミを入れた。すると2人のやり取りを聞いていたアリアが近づく何かに気付いた。

「…!本艦近海に感あり!」

 その言葉に艦橋にいた全員が外を見るとブルーエリアのすぐ目の前を漆黒の大戦艦がゆっくりと通過していた。その近さに思わずウェイクが声を上げた。

「い、いつの間にこんな距離まで…!」

 一同がじっとその大戦艦を見ていると、相手の艦橋から発光信号が発せられた。それをアルロスが読み上げる。

「我、艦隊ノ復活ヲ歓迎ス…奴は元気そうだな」

 彼からのメッセージを読み上げたアルロスは微笑みながら千歳に話しかけた。

「さっき話していたのは彼のことだ。彼と千歳が似ているんだ」

「あの人…ですか」

 千歳はその人を探そうと必死に向こうの艦橋に目を凝らした。するとこちらを見続ける艦長らしき人物の影を見つけることができた。しばらくこちらを見続けたその人影は、艦橋後方へ振り返って奥にいる誰かに何かを伝えた後、前へ向き直った。すると次第に相手艦の速度が増し、海藍艦隊から離れる針路を取った。千歳は漆黒の大戦艦が小さくなって消えるまで目の奥に焼き付けていた。

 すこし間を置いてアリアがまた言葉を発した。

「海軍本部より連絡を受信。艦長宛です」

 再びアルロスが無線台に近づき、受話器を手に取った。相手はやはり神城姉さんからだった。

「はい、アルロスだ。無事に外海に出た。反世界軍艦は見当たらない。…あ?…近海にか?…それを沈めればいいのだな!位置データをすぐに送ってくれ!!」

 1回目の連絡とは打って変わって今回のは元気ハツラツな様子だ。見た感じから敵と殴り合う予定だというのがすぐにわかった。

「GEWSが使えなくなっている原因と思われる妨害電波を発している艦が近くにいる。これを叩くぞ」

「ジャミング艦…ですか?」

「あぁ。こいつは航空機とは違い、レーダーサイトや衛星から発射される強力なレーダー波も妨害する厄介な奴だ。航空機だと搭載できるジャマーの能力が限られるからな」

 アルロスが説明を続けていると、海軍本部から送られてきた位置データと当海域にいると思われる艦船のデータが送られ、それぞれモニターに表示された。

「こいつはジャミング専用だ。よって自衛するための武装…砲やミサイルは、見ての通り搭載されていない。乗っているとすればCIWSが少々…。積載武装がこれだけしかないため、護衛が強力な場合が多い。大抵は空からの脅威を排除するためイージス艦がいるだろう。さらにジャミング艦は耐久性に優れている。装甲は戦艦並に固い。何か質問は?」

「なんでこんなに詳しいんですか?」

 アルロスが一通り説明を終え、質問を募集すると千歳がすぐさま食いついた。

「なぜこんなに詳しいのですか?それにこのデータはどうやって…」

「このデータは連合州国海軍中央情報局のエージェントが各国海軍に潜入して収集したデータベースから送られ、現在就役中の世界の海軍船舶の情報がすべて見れるようになっている。俺は興味があるから各国の観艦式にお邪魔してその時にいろいろ学んだのを覚えただけだ。他に質問は…?」

 艦橋にいる全員を見まわしたアルロスだったがこれといって質問は無いようだった。次の瞬間、アルロスが声を上げた。

「皆の者!聞いていたなァ!!これより艦隊行動に移る。対艦戦闘用意!」

≪了解!≫

 アルロスの声に反応した艦隊各艦の艦長たちが一斉に返事をし、それぞれ戦闘準備に取り掛かった。これから本格的な海戦になる。千歳はこれから始まる今までに経験したことのない海戦を前にして覚悟を決めた。




1ヶ月に1話ペースになってしまいました…(汗
ゆっくりではありますがこれからもよろしくお願いします
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