自由への戦火~The Liberation of World sea~   作:ずぅみん

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第14話 焦り、のちに後悔

 1月5日 ソードライン防潮堤近海

 外海へ出てからジャミング艦がいる防潮堤南側へ進路を変えた海藍艦隊。全員が落ち着かない様子で刻一刻と迫るその時に備えていた。やがて水平線の向こうから砲弾が飛んでくるのを千歳は見逃さなかった。

「敵弾、来る!」

「迎撃開始!主砲、散弾撃ち方始め!!」

「了解!主砲、撃ちぃ方始めぇ!!」

 いつものようにアルロスが命令を下し、ミゼッタが引き金を引く。主砲の散弾で初期迎撃を済ませるアルロスの常套手段だ。

「第1波迎撃完了!第2波来ます!!」

 アルロスの目に映ったのはおびただしい数の砲弾やミサイルだった。その状況にニヤッと笑みを浮かべたアルロスは冷静に指示を出し始めた。

「攻撃機、今のうちに攻撃に移れ」

《了解です!》

「桜木、自由に動いていい。大半の迎撃は任せた」

《了解した!》

「戦艦隊、ザコ共を叩いて目標を丸裸にしろ。俺達は目標を狙う」

《了解!》

「ミゼッタ、照準を目標へ。千歳、頼むぞ」

「はい!」

 千歳はアルロスから頼まれたことを瞬時に把握した。自分の役目…それはこの艦隊を自分の力で守ることだと。それを自覚した千歳は艦隊に所属している艦船の仕組みを全て思い出し始めた。千歳が持っている力はその物の仕組みを知っていないと効果を発揮しないという性質を持つ。艦隊にいる全ての艦を守るため、空いた時間を利用してアルロスから借りた艦船設計図や諸元表に目を通していたのだ。

 やがて得た艦船データを頭の引き出しから全て引っ張り出し終えると右手を砲弾が飛んでくる方向へ伸ばし、ぼそっと呟いた。

「効果発動、全無効」

 しかし、砲弾の雨はまっすぐ飛んでくる。心配になったウェイク思わず千歳に問いかけた。

「おい千歳、大丈夫か?」

「大丈夫です。任せてください」

 次の瞬間、海藍艦隊へ多数の砲弾が着弾し、巨大な水柱が艦隊を包囲した。しかし舞い上がる水しぶきから姿を現した海藍艦隊は健全なようであった。

「千歳の力、流石だな」

「訓練を積み重ねてきた賜物です」

「そうだな、その調子で頼む。よし、俺たちの反撃だ。全艦一斉射!」

「全門、撃ち方始め!撃てぇーっ!」

 うまく連携の取れた反撃で敵護衛艦隊を次々に沈めにかかる。猛反撃をしてくる海藍艦隊に反世界軍艦はなす術がなく、ただ沈むことしかできなかった。

「敵護衛艦隊、ほぼ無力化しました。」

「よし、大口径単装砲、射撃用事!目標、ジャミング艦!」

「…装填完了、射撃用意よし!」

 艦橋後方、通信マストのすぐ後ろにある大口径単装砲がゆっくり旋回し、やがて射線上にジャミング艦を捉えた。ミゼッタは今か今かと引き金を握る手に汗を滲ませ、そのときを待った。

「第1射、撃t「緊急回避!面舵いっぱい!」

 アルロスが射撃命令を出そうとした瞬間、急にアリアが艦の針路を右に変えた。すると艦を転進させた直後にブルーエリアのすぐ脇をレーザーがかすめ、ブルーエリア延長線上の同じ海藍艦隊所属の戦艦に命中するコースを辿っていた。

「しまった!」

 すぐに千歳は艦隊全域から目標の戦艦に絞り、力を集中した。しかし、船体中央にレーザーが命中してしまった。

「損害報告!」

《はっ!艦中央右舷に浸水多数!傾斜復元不能!》

「くっ…!近くの駆逐艦は救助に当たれ!他の艦は援護に回せ!!砲雷長、ジャミング艦を沈めろ!」

「了解です!」

 無線のスピーカー越しに聞こえてくる被弾した戦艦艦長の焦る声と、その背後で微かに聞こえる幹部たちの慌ただしさにブルーエリアの乗員たちは恐怖を覚えた。次は自分たちかもしれない…そんな気持ちが乗員の心を支配していた。しかし、それを吹き飛ばすかのように突如として艦全体が揺れた。ミゼッタの手によって大口径単装砲の引き金が引かれたのだ。

「砲弾命中!船体中央より断裂、沈みます!」

「GEWSはどうだ?」

「GEWS回復!先程の光学兵器の発射地点を特定!西へ200km!!」

「よし、大口径単装砲、第2射準備!」

「第2射射撃準備、照準固定急げ!」

 大口径単装砲は砲自体がとても大きいので旋回に時間がかかる。非常に強力な油圧式旋回モーターを採用しているが、それでも毎秒10°とこの時代の砲にしては「デメリット」と言われるほど遅い。

「照準固定急げ!」

「固定完了まであと10秒!」

 あまりの遅さにアルロスが思わず語尾を荒げる。敵は今頃、誤差を修正して次こそ当てに来るだろう。ここで自分たちが何か反撃しなければ敵の誤差修正を妨げれずに反撃の隙を与えることになる…。その状況を理解していた周囲の艦隊所属艦が次々に敵艦に攻撃をしていたが、放ったミサイルはあっけなく撃ち落され、全くと言っていいほど敵艦には通用していなかった。

 そして千歳が見た物は、エネルギーが砲塔に蓄積されて射撃準備が完全に整った敵艦の姿だった。

「…こんのやろぉ!」

 千歳はありったけの力を集めて敵の砲撃に備えた。すると敵が発射する直前、全く反対の方角からミサイルが着弾し、敵艦は弾薬庫に誘爆して沈んだ。だが千歳がほっとしたのもつかの間、敵艦が沈むまさに直前に彼らは引き金を引き、レーザーを撃ってきたのだ。しかもそれはブルーエリアの艦橋に直撃する照準だった。

「緊急回避!面舵いっぱい!」

「これ以上舵を切ったら更に照準固定が遅れるぞ!!」

「いや、回避が先だ!千歳、防いでくれ!!」

「はい!」

 艦橋のあちこちから怒号が飛び交う中、千歳は飛んでくるレーザー光線に狙いを定めた。そしてレーザー光線はブルーエリアに命中することなく船体を突き抜けた。

「ふぅ…」

 もう敵はこの海域にはいない。小さく一息ついた千歳は後ろを振り返った。すると操舵輪の前に立っているはずのウェイクの姿が見当たらない。キョロキョロと艦橋を見回すと、端っこでぐったりしているウェイクを見つけた。すぐに千歳がウェイクの元へ駆け寄った。周囲のみんなも千歳の行動でウェイクが倒れているということに初めて気が付いたようだ。

「航海長!どうしたんですか!?航海長!!」

「わからない…。何かに…吹っ飛ばされて…ぐっ…」

 千歳のすぐ後に駆け付けたアルロスがウェイクの具合を見ながら周りに命令を出す。

「どうした!ウェイク!!アリアは艦長代理を引き継いでくれ。ミゼッタはまだ周辺海域を警戒するんだ。すぐに医務室へ…」

「艦長…自分はもう…」

「何を言ってる!頑張れ!!」

 どこかを強く打ちつけたのか、ウェイクは激痛に耐えながらも自分のそばに落ちてた、連合州国海軍の制帽である航海長がかぶるためのカウボーイハットを千歳の頭に雑に乗っけると、痛みを感じさせない笑顔で千歳に話しかけた。

「千歳、航海長としての…最後の命令だ…。お前が…この艦の舵を取れ……!」

「航海長!?自分はまだ…」

「ち…ちとせぇ…頼むよ…。…なぁ?」

 ウェイクは涙ぐむ千歳にニコッと微笑むと最後の力で支えていた頭をガクッと垂らし、力尽きた。

「…こ、航海長ぉ…」

「…千歳、俺はウェイクを医務室へ運んでくる。舵を取れ」

 最後の言葉に驚き、千歳は慌ててアルロスの顔を見た。その顔は目元まで帽子を深くかぶって表情を窺い知ることはできなかったが、恐らく悔しがっているだろう。

「ウェイクの最後の言葉を聞いただろ?この艦の舵を握るのは…千歳、お前だ」

 アルロスは動かないウェイクを抱えるとそのまま何も言わず艦橋を後にした。その場にいる全員が千歳を見つめる中、千歳は恐る恐るウェイクが立っていた操舵輪の前に立った。帆船時代から伝統として受け継がれている大きな木製の舵だ。マリネア連合州国海軍が時代の変化と共にいろんな機械をデジタル化してきたのに対し、唯一進化する必要がなかったのだ。せめて進化したとしてもパワーステアリングと左右回転数省略化くらいだろう。

「とりあえずこの海域の制海権は確保した。あとは後続の艦隊に任せて、私達は一旦退こう。針路反転、基地に戻る」

 操舵輪の前に無言で佇む千歳にアリアが声を掛けた。

「…了解です。機関、巡航出力まで上昇、針路を反転します。」

 千歳は静かに復唱しながらおぼつかない手付きで出力レバーを操作し、舵を握る手に力を込めた。いざ回してみると舵の見かけによらず、思いのほか軽く回った。すると舵を切りすぎたのか遠心力で艦上構造物が外側に振られ傾斜し、転覆してしまいそうなくらいまでバランスを崩した。驚いた千歳は慌てて舵を戻したため、転覆からの危機を脱した。

「お世辞にも大戦艦ブルーエリア型はバランスがいいとは言えない。船体の割に重武装なこの艦は復原力が他の大戦艦と比べて極端に少ないから、舵を切りすぎると転覆することがあるので気をつけて」

「…了解しました」

 まだウェイクのことが忘れられないまま、千歳は浮かない表情をしながらも舵を握り、ブルーエリアの進路を取り続けた。そして、これが軍人の宿命なんだと必死に理解しようとしていた。自分は力を持っているが、周りには持っていない人もいる。次に死ぬのは周りの誰かかもしれないし、自分かもしれない…。だったらそれまで、悔いのない生き方をしよう。それが軍人の覚悟だ…。千歳が軍人というものを理解した瞬間だった。

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