自由への戦火~The Liberation of World sea~   作:ずぅみん

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第15話 見えた彼の最後

 1月7日 ゴールドライン海軍基地、基地隊司令執務室

 この日千歳は突然アルロスに呼ばれ、執務室に来ていた。いきなりのことにビクビクしながらもノックして執務室に入り、机上の書類と戦っているアルロスと向かい合って彼の言葉を待った。やがて千歳の存在に気付いたアルロスが書類から目を離さずにペンを走らせながら口を開いた。

「書類関係の仕事はどうも苦手でな、とても手際が悪いんだ。もう少し時間かかりそうだからそこに座って待っててくれ」

「…はぁ」

 千歳は言われた通りにソファーに腰を下ろした。待ち時間を持て余した千歳は今回初めて入った執務室にとても興味を示し、部屋中をあちこち見回していた。するとアルロスが座る机の隣に『基地隊司令補佐』と書かれたプレートが置いてあるだけの机が目に入った。すかさず千歳がアルロスに質問攻めをする。

「アルロスさん、その席は?」

 目線をちらっと書類から隣の席に移し、質問内容を理解してから一度止めたペンを再び動かし、答えを述べる。

「プレートに書いてあんだろ~?その肩書の人がそこに座るのさ」

「どこにいるんですか?」

「いないよ」

「は?」

 アルロスの意外な答えに千歳は思わず変な声を出した。その様子に小さく笑いながら事情を説明し始めた。

「俺は厳密に言うと艦隊司令として動いているが艦隊司令ではない。ここに書いてある通り、この基地を動かす基地隊司令だ。本来なら艦隊と一緒に動くべきではない」

「それじゃあ基地にいないとマズいじゃないですか」

 アルロスは千歳に分かってないな~といった表情を浮かべると、ある程度区切りが付いた書類との戦いを一旦止め、千歳の向かい側にどっしりと腰を下ろして背伸びをした。

「分からないかなー…、考えてみろ?今まで自由気ままに船を操って海を駆けてた人間が、いきなりここに閉じ込められたらどうなる?」

「それは……どうなるんです?」

 全く想像がつかない千歳に大きなため息をつくと、アルロスは解答を述べた。

「航海したい衝動に駆られて頭がイカれちまう」

 あー…それが解答か…分かるかそんなもん!と心の中で思いながらも千歳はそれを口に出さずになんとか堪えた。そして早く本題に移れと言わんばかりの眼差しでアルロスを睨む。

「悪い悪い、さっさと本題に入るとするか。で、その本題なんだがな…」

 本題を切り出したアルロスはさっきのふざけた表情から一気に真剣な顔になった。その変わりようを目の当たりにした千歳もさっきのやる気のない態度から自然と真面目な態度に変わった。アルロスは自分の机に手を伸ばし、書類を手に取るとそれを千歳に無言で差し出した。そしてゆっくりと話し始めた。

「…大戦艦ブルーエリア元航海長、ウェイク・クルーガーに関する報告書だ」

 その言葉を聞いた瞬間、千歳はすぐさま報告書を手に取って隅々まで読み始めた。内容に夢中になって読み続ける千歳にアルロスが続けた。

「死因は頭を強打したことによる脳挫傷だそうだ。敵艦からの攻撃は千歳が防いだものの、衝撃波のみが貫通。それがウェイクに当たって吹き飛ばされた…との調査結果だ」

 アルロスは報告書に書かれた内容を大まかに要約し、まだ読み続ける千歳に聞かせた。千歳もちょうど読み終えたらしく、報告書を机に置くと深いため息をついてアルロスを見た。

「つまり俺の責任ですか」

「あぁそうだ」

 千歳が口に出した瞬間アルロスが即答した。そのあまりの速さにイラッとした千歳は質問の雨を振り掛けた。

「俺が全て防いでいれば航海長は死ななかったと?」

「そうだ」

「自分が海軍を去ればいいんですよね!」

「そうは言っていない」

「ならばなぜ呼び出したんです!」

「全てを伝える為だ」

「自分のせいで航海長は死んだんです!責任を取らせてください!!」

「海軍を去ることが責任を取るということではない」

「ならどうすればいいんですか?!」

「落ち着け千歳ぇ!!」

 アルロスはどうすればいいか分からず目に涙を浮かべ混乱する千歳を怒鳴りつけ、ひとまず落ち着くよう促した。そして千歳にある程度気持ちの整理をさせてから静かな口調で話し始めた。

「何も海軍を去ればいいという訳じゃない。責任の取り方は他にもある。海軍に居続けることだってそうだ。実際、ウェイクに舵を取るように頼まれただろ?」

 その時千歳はウェイクの最後の命令を思い出した。自分が海軍を去ればブルーエリアの操舵輪の前に立つ人がいなくなってしまう…。自分がここでいなくなれば、それはウェイクの遺志に反することになる…。海軍から去る…それは逃げることと一緒だと、アルロスは伝えたかったのだ。千歳は過去に逃げを選び、後悔したことがあったのを思い出した。そして今、自分が同じことを繰り返そうとしていることに気付いた。

「もっと強くなって同じことを繰り返さないようにしろ!それが千歳の今すべきことだ」

 そう千歳に言い聞かせたアルロスは席から立ち上がり、部屋の隅にあったハンガーラックから海軍制服の上着を手に取ると、羽織りながら千歳に話しかけた。

「悪いが、この後は用事が入ってる。気持ちが落ち着くまでここにいるといい。」

「どこへ行くんですか?」

「海軍本部から呼び出しだ」

 約束の時間が迫っていたのだろう。大雑把に答えを返すとアルロスはすぐさま部屋から出て行ってしまった。その切羽詰まったような横顔を見た千歳は、好奇心旺盛な性格のせいでだんだんとアルロスを焦らせている理由を知りたい衝動に駆られ、気付けば口が言葉を発していた。

「俺も行きます、アルロスさん!!」

 

 首都ゴールドランド州マリネア連合州国海軍機関本部

 アルロスのBMW i8でゴールドライン州にある海軍基地から海岸線に沿って国内をぐるっと一周するように繋がっているシーサイドハイウェイを飛ばし、首都ゴールドランド州にある連合州国海軍機関本部へ到着した。正門の警備にあたる守衛に2人とも海軍のIDカードを提示して敷地内の駐車場にアルロスの愛車を停めると、正面玄関ロビーの受付にてIDカードによる本人確認、所持物検査など厳密な検査を一通り受け、2人は施設内の目的地へと向かった。

 途中、初めてのものだらけで興奮する千歳にアルロスが話しかけた。

「どうだ?海軍機関本部は」

「すごいです…施設の規模が全然違います…」

「まぁ、一応連合州国海軍の中枢だからな。専用のスーパーコンピューターもあれば、国内最大級の天体望遠鏡もある。ここはいつ外部からハッキングされてもいいように、使用されているシステムは毎月アップデートされる。我が国の基地の中でもとんでもないバケモンだ」

 そんな会話をしているとアルロスがとあるドアの前で立ち止まった。千歳もアルロスの横に並び、あなたのタイミングでどうぞとアイコンタクトを送った。何の変哲もない普通のドアだが、向こう側にそれなりのものがあるのだろう。アルロスは意を決してドアノブを回してドアを開けた。

 

 マリネア連合州国海軍機関本部メインベース管制センター

 ドアの向こう側に広がる光景を目の当たりにした瞬間、千歳は言葉が出なかった。そこはマリネア連合州国海軍に所属する全ての艦船を自由に動かすことができる空間で、マリネア連合州国海軍の頭脳とも言える場所、メインベース管制センターだったのだ。規模は映画オデッセイに出てくるNASAミッション管制センターより一回り大きいくらいで、前面の壁にある多数のモニターにはリアルタイムで所属艦の動向が表示されている。室内中央にある直径3mのアクリル製地球儀には地球の衛星画像とレーダーで捕捉された世界各国の航空機や艦船が合成されたリアルタイム映像が映し出され、千歳はすぐにマリネアが開発したGEWS(地球規模早期警戒システム)の映像だと悟った。

 画面の青い光で支配された空間を、アルロスを先頭に進んで行くと彼が探していたその人はGEWSアクリルアースが見下ろせる席に座っていた。見つけたアルロスはその人に近づきながら声を掛けた。

「やぁ、姉さん!」

「来たのね、アルロス。彼が瑞帆千歳?」

「あぁそうだ。千歳、紹介しよう。こちらが連合州国海軍のトップ、マリネア連合州国海軍機関局長の神城海紗希(しんじょうみさき)様だ」

「あなたがあの時最後まで情報を提供してくれた瑞帆千歳ね、よく生きて帰って来たわね」

 身長はやや高めで全体的なシルエットがスラッとしているせいか、見事に海軍制服を着こなしているように見える。海軍のトップに立つにはそれなりの年数と経験を積まないといけないのだが、彼女は見た感じとても若いと思ったのが千歳の第一印象だった。神城は一言発すると千歳と握手を交わした。

「いえ、乗員全員は救えませんでしたが…」

「仕方がないわね…そういうときもある。アルロスから非常に好奇心旺盛だと聞いたわ。あなたも聞く?」

 おそらくアルロスが呼び出された理由だろう。直感で千歳はそのように感じた。特に断る理由もなかったため、千歳は頷いてアルロスと一緒に聞くことにした。すると神城は自分のデスクから書類を取り出し、それをアルロスに手渡した。

「次の作戦指示書よ。同盟国の日本から備蓄していた資材が無くなりかけていると救援要請が入ったわ。その他にもマリンズ条約加盟国から次々に支援要請が入ってきてるの。時間が無くなってきたわ。防潮堤を突破して、まずは日本の支援に向かってちょうだい」

「…マリンズ条約?」

「えぇ、我々マリネアが世界の島国47ヶ国にいろんな支援をするために日本と主導で結成した条約機構よ。正式名称は海洋国家支援条約機構。経済連携はもちろん、災害復興支援や軍事的支援も行う幅広い条約ね」

「まぁこれに関してはNATOの連中やワルシャワ条約機構の連中もあまり良くは思っていないがな」

 アルロスが神城の説明に補足を加えた。千歳にはなぜ東西諸国から良く思われていないのかが一瞬で把握できた。単純に言えば東西諸国が睨み合って保たれていた世界の力の均衡が、突如現れた『第三勢力』のせいで一気に不安定になったからだ。力の関係が一対から三角関係になり、どれかがどれかと結びついて残りを潰しやすくなる。実際に水面下では東西諸国双方からマリネアを引き入れようと交渉を持ちかけられたらしい。もっとも、マリネア連合州国はどちらの陣営にも属さずに第三勢力として貫く姿勢を保持したのだが。

「それではすぐに艦隊を出撃させる。千歳、基地に戻るぞ」

「了解しました」

 アルロスはくるっと向きを変えると急ぎ足でメインベース管制センターの出口へ向かい、千歳も神城に一礼すると彼の後について行った。その2人を見送った神城は微笑みながら頷くと目線を再びGEWSアクリルアースに戻すと、今後の海賊の動向を予測しながらその対応策について考える作業に没頭し始めた。

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