自由への戦火~The Liberation of World sea~   作:ずぅみん

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第16話 異国の地

 1月7日 ソードライン防潮堤W-270稼動壁沖

 神城姉さんから作戦指令書を受け取ったアルロスは千歳と一緒にゴールドライン海軍基地に戻り、非番で基地のあちこちでくつろいでいた海藍艦隊の艦長たちを呼び出して早々と艦を出航させ、すでに防潮堤の一番西にある稼動壁沖を航行していた。前回アルロスたちが偵察を行った稼動壁からは時計回りに2つ目のところにある。防潮堤近海の制海権はすでにマリネアが奪還し、今は防潮堤全ての稼動壁が開放されている。

「航海長、日本までの針路の状態は?」

「えー…今のところは異常なしです。が、今後南西から上がってくる低気圧が勢力を増してくるので急激に大時化になると思います。この低気圧と艦隊の針路がぶつかるのは2時間後。もし敵が攻撃を仕掛けるとしたらこのタイミングを狙ってくるはずです」

 ときどき砲雷長のミゼッタにも目線を合わせながら千歳はアルロスに説明をした。すると一通り説明を聞いたアルロスが突然拍手し始めた。

「さすがだ千歳。俺はあらかじめ今回の針路には目を通して把握していた。千歳が果たしてどんな説明をするか楽しみにしていたが…完璧だ!針路上に障害物があり、それがどの方向に進んで、いつ針路にぶつかる、それで敵がこう動く…船乗りの基本が出来ている。千歳はきっと優秀な船乗りになれる」

「光栄です!ウェイク航海長の真似をしただけなのですが…」

「普通の人はただ手本を見て聞いておしまいだ。ところが千歳はそれを真似した。意味あることを真似するのは、それが大切だと気付ける人だけだ」

 持論を述べたアルロスは千歳に微笑むと全艦に号令を発した。

「本艦隊はこれより日本の主要軍港ヨコスカを目指す。桜木、レーダーで怪しい影が映ったら片っ端から叩け!」

《了解!それとヨコスカじゃなくて横須賀な》

「あーもう!わかったよ!!いちいち突っ込むな」

 そんなアルロスと無線越しの桜木との言い争いを背に千歳はただ舵を握り前を見据えた。横波を食らえば針路が逸れないように舵を抑え、大波が迫れば速度を調整し波に突っ込まないようにする…。復原力がない艦だが、特徴とクセを掴んで慣れればどうってことはない。

「そろそろ敵が仕掛けてくる頃だと思うのですが…ミゼッタさん、どんな感じですか?」

「んー…全然反応がないね。GEWSが捕捉してはいるけど、一番近い敵は北東1840kmの海域に4隻ってとこかな。今すぐに襲撃してきそうな敵は全くなし」

「…了解です」

 千歳が腑に落ちない顔をしたのでミゼッタは思わず聞き返した。

「どうかした?」

「いや、さっきから輸送船が大波に揉まれて大変そうなので…しかも積み荷はあまり揺らすなと聞いたし、針路を変えて低気圧から出た方がいいのかなと思ったり…」

 舵輪を握りながらも千歳は輸送船の方へ振り向き、その中に積まれている荷物を心配した。しかしそこへアルロスがアドバイスをした。

「安心しろ。積み荷は時化でも耐えられるように防振構造になっている。低気圧から出たら海賊に狙われるリスクが高まるから、公海にいる時間を減らすためにも最短距離を突っ切れ」

「了解です」

 アドバイスを受けた千歳はそのまま針路を維持し、一路横須賀を目指し続けた。

  

 1月30日 日本海軍横須賀基地

 何事もなく無事に横須賀港に入港した海藍艦隊は接岸すると、すぐさま支援物資を降ろす作業を開始した。その間は周辺の警戒がおろそかになるため、今神海紗希の空母エルゼスと冬神零瑠の空母グランシャリオは東京湾内で艦載機を上げて関東近海の索敵を、艦隊唯一の桜木のイージス艦リニアブルーと戦艦・駆逐艦数隻は東京湾から房総半島沖を航行しながら日本全土の広範囲から迫ってくる物はないか遠距離索敵を行っていた。

「えーっと…食料と燃料と…あっとはー…」

 千歳は物資リストを片手に持ち、漏れがないかを確認する作業にあたっていた。アルロスはといえばさっきから姿が見当たらず、ブルーエリア艦内をくまなく探して挙句の果てにはアリアにも聞いたが彼女もわからないと首を横に振った。これじゃあ日が暮れるよ…と思っていると周囲からの視線に気づいた。さっきから見られているのだ。視線が感じた方を見回すとそこには日本海軍艦艇が停泊していた。よく見ると自分たちマリネア連合州国海軍の艦艇を見ようと多くの船乗りたちがデッキへ出てこちらを眺めていた。さらには司令部の窓や敷地内のあちこちなど、全方位からたくさんの日本海軍兵が千歳たちを見ていたのだ。

「…なんだ、日本人は好奇心旺盛か珍しいもの好きか?」

「それ千歳が言う?」

 声の方向を見るとミゼッタがブルーエリアの甲板から物資リストを片手に突っ立ってる千歳を見下ろしていた。

「千歳も相当好奇心旺盛だと思うけど?」

「え?あ、あの…それは…」

「ふふ~ん、ぐうの音も出ないねw」

「からかうの止めてくださいよ!ミゼッタさん!!」

「まぁ、無理もないさ。私たちはずっと防潮堤の内側で引きこもってたんだ。私たちが外に出るようになってから公式に他国を訪れたのはこれが初めてだし…」

 千歳が再びリストに目線を落とした瞬間、今度は後ろから声をかけられ、驚いた千歳は素早く振り返った。するとそこには日本海軍の制服に身を包んだ経験豊富そうな男性が立っていた。初めて見る他国の海軍制服に千歳は思わず彼の頭から爪先までまじまじと見てしまった。

「アハハハ!そんなに珍しいかな?」

「いえ!自分は他国の制服を見るのが初めてでありまして…」

「申し遅れた。私は日本国防海軍関東方面防衛隊第2艦隊司令、本田政刻(ほんだまさとき)である。マリネア連合州国の支援を心から感謝する」

「マリネア連合州国海軍海藍艦隊大戦艦ブルーエリア航海長、瑞帆千歳です。困っている人を助けるのが船乗りの精神と教わりましたので、これくらいは当然です」

「すでに紹介していたか。では私からの紹介は不要だな」

 どこからともなく現れたアルロスがぼそっと呟いた。千歳はアルロスの姿を見るなり大声を出した。

「あっ!探したんですよアルロスさん!!どこ行ってたんですかー…」

「悪いな、先に本田司令と挨拶していた」

「いい若者が入りましたねアルロス司令。まさに海軍軍人の鑑だ」

「えぇ、お陰様で我が海軍では一目置かれる存在です」

「なるほど、それは実に羨ましい」

 アルロスと本田の談義が続く中、突然海藍艦隊の敵襲を伝える警報が鳴り響いた。それから数秒経ってから横須賀基地でも警報が鳴った。どうやら誤報ではなさそうだ。すぐにアルロスが現状の確認を始めた。

「ミゼッタ、どうした!」

「リニアブルーから緊急入電!GEWSにてアンノウン捕捉、房総半島沖1000kmに1隻確認!向かってくる!」

 ミゼッタはブルーエリアの艦橋から送られた音声を腰に下げた無線機で聞きながらアルロスに逐一報告した。

「リニアブルーに迎撃要請!沈めて構わない」

「了解!」

 アルロスからの命令を受け取ったミゼッタは全速力で甲板を駆け抜け、艦橋へと急いだ。

 

 東京湾浦賀水道、イージス艦リニアブルー

「大戦艦ブルーエリアから撃沈許可が出ました!」

 CICの片隅で無線台に張り付いていた無線技士が桜木に報告した。桜木は薄暗い空間に浮かび上がるいくつものモニターに表示されている内容に気を配りながら命令を出していった。

「ハープーン2発、発射」

「データ入力完了、照準誤差リアルタイム修正よし!ミサイル先読みプログラム作動良好!ハープーン、撃ち方始め!」

「了解!ハープーン発射、サルボォ!!」

 砲雷課乗員により放たれたハープーン2発はオレンジ色の火炎を吹き出しながら敵艦へと高度を上げた。

「着弾まであと20分…」

 モニターに表示された、敵艦に迫るハープーンのアイコンを桜木はじっと見つめた。実を言うと彼には自信があった。演習や今までの戦闘でもこの艦から放たれたミサイルは全て命中していた。同じくこの艦に迫ってきたミサイルはマリネアが誇るイージスシステムで全て迎撃している。そんな今までの経験から、今回放ったミサイルも狂うことなく命中すると全員が心のどこかで思っていた。艦長である桜木もそうだ。「今回も当らないことなどない…」桜木はただじっと画面を見つめた。

「着弾まであと5秒…着弾!」

 ハープーンのアイコンは敵艦のアイコンの真上で消滅した。しかし敵艦のアイコンは依然として接近を続けた。

「どうした!」

「2発とも外したようです…」

「第2照準、第3照準も定めろ!」

「了解!射撃用意よし!撃ち方始め!」

 再びリニアブルーからハープーンが2発放たれた。だが今度は敵艦100m手前でミサイルが制御を失い、水平方向に回転しながら海面へ落ちていった。

「艦長…!」

「一体何が起きているのだ…」

 モニターに映る敵艦アイコンに桜木がよく目を凝らすと、ときどきノイズが走る度にアイコンが不自然な動きをしていた。それに気付いた桜木はブルーエリアへ無線を繋いだ。

「…アルロス、偵察を頼む。小型で、かつ、一番機動性の高い機体だ」

 

 日本海軍横須賀基地、大戦艦ブルーエリア

「偵察?」

《あぁ、あれは半径100m以内にミサイルが入ると誘導システムを無効化するジャミングが発せられているみたいだ。心当たりあるだろ?》

「確かそんな感じの奴、うちの海軍にいたな。あれはイージス艦アイソン・ウェルバード型だ」

《そうだ。そいつの弱点は完全なマニュアル誘導状態の、弧を描くような弾道で音速で迫ってくるミサイルだ。そこで偵察機を1機上げて敵艦にナビマーカーをセットしてほしい。あとはこっちで殺る》

「了解した」

 受話器を置いたアルロスは「さて、どうしたものか…」と思考を巡らせた。海藍艦隊の2空母には偵察機として富士重工から購入した彩雲2が搭載されているが、艦載機の中では大型機の部類に入る。機動力は抜群だが、今回敵艦にギリギリまで接近するのを考えると彩雲2では被弾率が高くなる。ましてや相手が現代の対空番長のイージス艦となると従来艦よりも格段に被弾率は上がるだろう。その後もアルロスは自分の艦隊で何か条件に当てはまる機体はないかと必死に空母に積んでいる機体を思い当ったが浮かんでくるものは戦闘機ばかりだった。

 ふとアルロスは千歳と目があった。そしてニヤッと何か企みを思いついたような笑みを浮かべると千歳に声をかけた。

「千歳のエアバイクはブルーエリアに積んであるか?」

「…はい、ありますが?」

「偵察機になってくれ」

「…はぁ!?え、偵察機材とか一切積んでないですよ?」

「敵艦にナビマーカーをセットするだけでいい。やり方は簡単だ、この銃型のミサイル誘導用レーザー照射器をミサイルが着弾するまで敵艦に当て続ければいい。危険は承知だ。しかし今は千歳しかいない」

「……了解しました」

 千歳は差し出された照射器を受けとると走ってブルーエリア後方にある格納庫へと向かった。

 

 館山沖、イージス艦リニアブルー

 あれから断続的にミサイルを撃ってみたものの全て結果は同じだった。リニアブルーを含むイージス艦ガーランド・ガルーナ型は主砲として単装速射砲を前向きに2基、後ろに1基搭載しているがいずれも対空用なので対艦には役に立たない。だが最悪の場合、大きな効果は期待できないが敵艦への使用はやむを得ない。こうしている間にも敵艦との距離はどんどん詰まっていく。敵艦はアイソン・ウェルバード型でほぼ確定だろう。だとすれば相手の主砲は速射砲2基で射程は50km。一方ガーランド・ガルーナ型は射程70km。「まだ有利な方か」と桜木は額に汗を滲ませながらも冷静に分析した。

 すると東京湾から極低高度を高速で移動する物体をレーダーが捉えた。すかさずレーダー手が報告する。

「小型の物体が東京湾から急速接近!これは…?」

「エアバイクだ!しかし誰が?あれはマリネア国内でしか出回ってないはずだ…」

 CICにいた全乗員がモニターに映る小さな影をじっと眺めていると無線が鳴り響いた。すぐに桜木が応答した。

「こちらリニアブルー」

《こちら瑞帆千歳、もう少しで現場海域に到着します!》

「千歳!?なんでこんなところに!ここは危ない、下がれ!」

《自分が偵察機になります!なので桜木さんたちはマニュアルホーミングでミサイルを発射してください!》

 桜木は返答に迷った。ここで了承すれば千歳は戸惑うことなく敵艦に接近し、 ミサイルが当たるまでナビマーカーを照射し続けるだろう。今彼が乗っているのはエアバイク。一発でも当たれば致命傷になりかねない。しかし、ここで断れば代わりの偵察機が来るまでの時間稼ぎをしなければならない。千歳を寄越したのはアルロスの判断だろう。恐らく空母艦載機に求められる性能を満たす機体がなかったのだろう。だからこそ千歳が来たのか…。アルロスの考えを読み取った桜木は返答した。

「よし!千歳、アイソン・ウェルバード型には射界の死角が存在する。ミサイルが着弾する10秒前には離脱しろ!マリネア海軍艦に詳しいなら、わかるよな?」

《了解!》

 千歳はリニアブルーとの並走から針路を変え、再び極低高度で敵艦へ急いだ。

 やがて水平線の彼方からだんだんとマリネア国旗を掲げていないイージス艦アイソン・ウェルバード型の独特な形のマストが見えてきた。それと同時に敵艦から対空兵装が火を噴き、次々と千歳に襲いかかった。

「ゴールドマリン州最速をナメられちゃ困るなぁ」

 千歳は体を右に倒し、針路を急速に右に反らして速射砲と対空ミサイルを交わした。そして波の谷間を利用して相手のレーダーから姿を消しながらその距離を詰めていった。すると今度は自動追尾を開始したCIWSが千歳に向けて対空射撃を始めた。マリネアのイージス艦には命中率を上げるために迎撃対象の未来位置を先読むプログラムが内蔵されている。射界の死角へ入ろうとする千歳を銃弾の雨が容赦なく襲い、千歳はなかなか一定の距離から近づけずにいた。

 状況を打開するため千歳は腰のホルダーから拳銃を取り出し、弾幕を避けながらCIWSのレーダーめがけて銃弾を一発撃ち込んだ。すると攻撃目標を捕捉できなくなったCIWSはそのまま動作を停止し、完全に沈黙した。CIWSを仕留めた千歳は艦橋とVLSとの間に退避するとミサイル誘導レーザーを照射し始めた。

「レーザー照射開始、ミサイル照準ロックよし!」

《了解、ハープーン発射!》

 あとは着弾するまでレーザーを照射し続けるだけなのだが、艦内から銃を持った乗員が千歳に向かって銃撃してきた。やむを得ず銃撃から回避するため射界の死角から出た千歳は再び速射砲と後部CIWSの弾幕に晒されながらも片手でエアバイクを操縦しながらレーザーを当て続けた。すると遠くの方から轟音が聞こえてきた。リニアブルーが放ったハープーン対艦ミサイルだ。千歳は敵艦にミサイルを迎撃されるのを防ぐため、ぎりぎりまで自分が囮になることにした。そして敵艦の迎撃対象が千歳からミサイルに切り替わった瞬間に千歳は敵艦から離脱。すぐそこまで迫っていたミサイルに対応できなかった敵艦は艦橋前方にあるVLSに被弾し、激しい爆発と共に沈み始めた。

 敵艦が完全に沈黙したことを確認した千歳は針路を変え、共に戦ったイージス艦リニアブルーに敬礼をしながら横須賀基地に停泊する大戦艦ブルーエリアへと向かった。

 

 横須賀基地、大戦艦ブルーエリア

 ブルーエリアの艦橋に戻ってきた千歳は、またいつものようにアルロスから褒められると思いながら一連の状況を報告した。しかしアルロスの口から予想もしなかった返答が返ってきた。

「なぜすぐに射界の死角から出たんだ!」

「武装した乗員が銃撃してきたため、やむを得ず出たんです」

「話が違うぞ!離れるタイミングもだ!着弾する10秒前と言ったはずだぞ。だが千歳は4秒前まで留まっていた!これについては?」

「ミサイルがすぐに撃墜されると思っていました。なので自分が囮になろうと…」

「身の程をわきまえろ!千歳はこの艦の航海長だ!俺は千歳に危険が及ぶまいと考えた結果を教えた。千歳のことを思って最善案を考えたのになぜ無視する!?」

「実戦は作戦通りにはいきません!今回は臨機応変に対応した結果です」

 一通り怒りがこもった口調でお互いが応酬すると落ち着きを取り戻したアルロスが一息ついて話し始めた。

「まぁいい、こうやって怪我せず帰ってきたんだ。しかし命令違反は命令違反だ。千歳にはこの航海が終わった後、しばらくの出航禁止を言い渡す」

「舵は誰が取るんですか?」

「千歳がいない間は、俺が取ろう」

「…はい、わかりました」

 出航禁止令を言い渡された千歳はがくっと肩を落とし、しょんぼりしながらも返事をした。

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