自由への戦火~The Liberation of World sea~ 作:ずぅみん
2月18日 西太平洋上空
あれから出航禁止令を言い渡された千歳は複雑な気持ちでなんとかゴールドライン海軍基地まで航海を続け、大人しく基地で書類整理などの雑務を行っていた。そこへ「千歳が暇を持て余している」と、何がどうなったらそんな噂が流れるのかは知らないが、空軍の連中が押し寄せて日本への物資を積む輸送機の護衛をしてほしいと頼み込まれ、今に至る。
現在ガルーダ隊、アヴァランチ隊、ウィンドホバー隊と輸送機5機から成る第2次空輸隊第4輸送部隊はマリネアから積んできた物資を厚木基地に降ろし、マリネアに向けて帰路についているところだ。
今になって思うと、海路で運ぶより空路で運んだ方がリスクも少く、素早く日本に届けることができる。1回の輸送量は限られるものの、その分他の航空基地から分散させて運べばやがて海路と変わらなくなるだろう。
──なぜ海路にこだわったのか…?
自問自答してみるが、かえって頭を混乱させるだけだと気付いた千歳は「海軍上層部の命令だ」と決め付けてそれ以上考えるのを止め、深いため息をついた。
《12回目》
ふいに2番機のシャムロックが何かを数えた。気になった千歳が尋ねてみた。
「何が?」
《ため息の数だ。タリズマン大丈夫か?さっきから機体も安定していない》
《なんだなんだ~?タリズマンらしくないなー。なんかあったのか?》
シャムロックに便乗してアヴァランチもタリズマンの様子を伺ってきた。これ以上心配をかけさせる訳にもいかず、千歳はこの前の一件を事細かに話した。
《その艦隊司令は戦場を理解していない…。その安全圏から出ていなかったら銃撃されて、タリズマンはここにいなかっただろうに…》
《戦場は常に変化するもんだ。柔軟に対応しなければこっちがやられちまう》
シャムロックやアヴァランチ、ウィンドホバーから同意見を言われた千歳は少しだけ心が和らぎ、無線越しに聞こえてくる千歳の声が明るくなった。
「ゴーストアイなら、同じ司令する立場としてどう思う?」
とっさに話していた全員が静まりかえった。ゴーストアイもこれから自分がする返答に全員が注目しているのを悟ったのだろう。言葉を選びながらも慎重に声に出した。
《私だったら…ひとまずタリズマンを出撃させて時間を稼いでもらう。その間に私はタリズマンを支援するいろいろな方法を考えるだろう》
「やっぱり人によって考え方は違うな…。しかし、処分食らってる俺を引っ張ってきて良かったのか?」
《心配するな。アルロス司令には既に話をしてある。彼も深刻な空輸護衛機不足を懸念していたみたいだ》
《さすがはゴーストアイ、相変わらず仕事が早いな!》
《これくらいは当然のことだ》
シャムロックの突っ込みに一同は思わず笑いだした。そんな無線のやり取りに千歳はあの頃の懐かしさを感じていた。それはエメリア・エストバキア戦争時代に作戦を終えて基地へ帰投する際のおしゃべりタイムだ。千歳は絶えず無線のスピーカーから流れてくるそれぞれの声を静かに聞き入っていた。
ふとレーダーに目をやると円弧状の青い線が進行方向から表示されてきた。マリネア連合州国の領海と公海の境い目、ソードライン防潮堤だ。この境界線は連合州国海軍が定めた第1防衛線でもある。大航海時代真っ只中に作られた“海の城壁”は建造された1500年頃から今までのおよそ600年もの間、他国からの侵略を許さなかった。連合州国海軍が慌てるのも無理はないのだ。
しばらく穏やかな気分で空を飛んでいるとゴーストアイから連絡が入った。
《タリズマン、ゴールドライン海軍基地から緊急連絡だ!お前さんの艦隊が敵艦隊と交戦、深刻な被害らしい》
普段冷静なゴーストアイが珍しく切迫した様子で話してきた。千歳は一気に現実へ引き戻された。
「…え?それはどういうことだ!ゴーストアイ!!」
《わからない…詳細不明らしい。ガルーダ隊、今すぐ護衛から離れ、基地へ向かえ》
「何を言う!すぐに引き返して俺たちが支援に向かえばいいだろう!!」
《自分が何を言っているのか分かってるのか!?敵勢力の規模も、武装もわからなければ戦域座標もわからないんだぞ!今までの激戦でタリズマンが生き残ってきたのは、事前な情報と万全な準備をして出撃したからだ。1つも情報が得られないこの状況で出撃したところでどうなるか…それは自分が一番分かってるだろ!!》
ゴーストアイがある程度言い終えたところでシャムロックが優しく千歳に話しかけた。
《ゴーストアイの言う通りだタリズマン。燃料計を見てみろ。俺たちにはもう飛べる燃料がない…。こんな状態で戦うのは不可能だ。一旦基地に戻って態勢を立て直そう》
今まで特に気を配っていなかった燃料計を見ると針がすでに0目盛りギリギリのところまで来ていた。現在の空域からゴールドライン海軍基地まででちょうどと言ったところだろうか?とても引き返して戦っている余裕などない。
「く…ぅ…ちくしょォ!!」
エンジンを目一杯吹かし、出せる最大の速さでゴールドライン海軍基地を目指した。
ゴールドライン海軍基地艦隊司令部
着陸して駐機場にF-15を停めるとすぐさま機体から飛び降りて航空司令部から艦隊司令部へと向かった。
するとそこには連合州国海軍の二番目に偉い人、神城姉さんの右腕でもある海軍機関副本部長マリル・オアシルがいた。彼女は深刻な表情を浮かべたまま、千歳の方へ向き直って固く閉ざされた口を開いた。
「千歳くん、あなたの耳にも既に入っていると思うけど…先程、GEWSの衛星偵察映像にて海藍艦隊の被害状況が確認できた。大破がイージス艦リニアブルーと空母グランシャリオの2隻、あとは…見当たらなかった…」
あまりにも急な展開で千歳は言葉が出て来なかった。それでも何かをしゃべろうと頭をフル回転させた。
「自分は…どうすれば…」
「あなたに神城局長から伝言を預かってきた。あなたには航海長から艦長に昇格してもらい、早速任務にあたってもらう」
「自分が…艦長!?しかし…空いてる艦は現在、海軍にはないのでは…」
「確かに今海軍に空いてる艦はない。ただし“現役では”の話ね。とりあえず隣の州の記念公園に向かってくれ。千歳くんの艦はそこにある」
「…了解しました」
ゴールドエリーザ州ロエルエリーザ記念公園
千歳は言われた通り、ゴールドエリーザ州にやってきた。ここにはマリネア国内最大の規模と設備を誇るゴールドエリーザ港がある。その存在は千歳も知っていたのだが、今初めて知ったこともあった。まさか昔実際に動いていた大戦艦が記念公園として保存されているなんて…。
係留されているロエルエリーザの横に降り立った千歳はその姿をまじまじと眺めた。全体的なシルエットは日本海軍の戦艦金剛型と似ているが、全長が500mと長い上に主砲が42cm連装砲5基、副砲が15.5cm連装砲8基、対空速射砲が4基と当時の建造スタイルを反映させたかのような感じだ。悪く言えば時代の流れに合っていない。主にミサイルで殴りあう現代の戦闘には砲が多いような気がする。しかしよく目を凝らしてみると主砲・副砲には光学武装が併用できるように冷却機構が施されていたため、瞬時に光学砲も撃てると察した。
しばらくロエルエリーザを眺めていると千歳の元に係留タラップの警備にあたっていた警備員が近寄って声をかけてきた。
「失礼致します。瑞帆中佐でしょうか?」
今まで中尉だったのに、呼ばれた時に中佐と呼ばれた千歳は自分の昇格スピードに若干戸惑いを隠せなかった。
「…えぇ、そうですが」
「お待ちしておりました。本部より連絡を受けております。どうぞ、中へ」
大戦艦ロエルエリーザ艦橋
「瑞帆中佐をお連れしました!」
「入れ」
「はっ!失礼します」
ブリッジと書かれた扉をノックすると中から女性の声で返答があった。警備員は扉を開けると千歳に道を譲り、千歳が中に入ったところでゆっくりと扉を閉めた。
千歳が中をキョロキョロ見回しながら前方へ歩んで行くと後方段上の副長席に金髪ショートヘアーのスタイルのいい女性がじっと千歳を眺めていた。千歳はとっさに彼女の身に纏っている海軍制服の階級章と科章を見て副長なのだと悟った。
「あら?私と同じ階級ね、どうしたの?もしかしてこの艦に異動になったの?」
「まぁ…そんなとこです」
「この艦はもう動かないのに…」
「え?」
彼女は段上から降りてくると千歳に歩み寄り、話を続けた。
「この艦は退役して記念艦になったの。あなたも見れば分かるでしょう?」
「あの…もしかして連絡来てないですか?」
彼女は「なんのこと?」と首を傾げた。それに全てを察した千歳は説明を始めた。
「先程、海軍本部から連絡があり、ロエルエリーザは現役復帰します。海軍本部長より、この艦の艦長になるよう任命されました」
「階級が少佐のままよ」
「これは緊急事態が発生したので間に合わないままここに来たからです!」
「緊急事態とは?」
「大戦艦ブルーエリア含む大半の海藍艦隊所属艦艇が……沈みました」
その言葉を放った瞬間、彼女の表情が動揺していることに気付いた。千歳はそのまま続きを話した。
「本艦に与えられた命令は至急戦域に急行し、大破艦2隻と生存者を救助すること…時間が無いんです!手伝ってください!!」
「…わかった。すぐに艦を出す!…ただ、この艦はメンタルモデルが2人必要なの。今はロエル1人だからこのままじゃ動かせない…。そのためにはあなたになってもらう必要がある」
「…り、了解しました」
意外なことだった。まさか自分がメンタルモデルになるなんて思ってもいなかったからだ。しかしなったところで何ら変わることもないため、そんなに抵抗も感じなかった。
「ロエル、今すぐ艦橋に来なさい!艦長引き継ぎと緊急出航よ!」
副長が艦内放送で呼び掛けるといつの間にか砲雷長席に座っていた。千歳の元に駆け寄ってきた銀髪ポニーテールの千歳より少し背が小さい女の子、ロエルは千歳の顔を見るなり尋ねてきた。
「あなたが新しい艦長?」
「あぁ、そうさ」
「私はこの艦のメンタルモデルのロエル、よろしくね」
ロエルが握手しようと手を差し出してきたので千歳はそれに応えて握手しようと手を彼女の手を握った。すると身体中から握った手に向かって何かが流れていく感覚を覚えた。しばらくするとその感覚は収まり、それと同時にロエルが手を離した。
「終わったよ、艦長引き継ぎ」
ロエルからそう言われて千歳は全てを把握した。さっきの感覚が“全身の時間が止まる感覚”だったのだ。驚いている千歳に今度は副長が声をかけた。
「申し遅れました。私がこの艦の21代目副長、金剛千愛海です。よろしくお願いします」
「自分は瑞帆千歳です。早速ですが、出航します!」
「了解。艦長、エンジン回転上げられる?」
「え、どうやってやるの?」
「艦のエンジンを意識して出力を上げるイメージをするの」
「よし…」
千歳はロエルエリーザのエンジンに意識を向け、頭の中でスロットルに手を伸ばして開く方向に倒すイメージを思い浮かべた。すると次第にエンジンが唸りを上げ、出力が増していくのが実感できた。簡単に言うと直感で艦を操作している感じだ。
「そうそう、いい感じ!操舵もそんな感じだからすぐ慣れるよ。私は火器管制担当だから戦闘は安心していいからね」
「…了解」
まだ感覚をはっきりと掴めず、不安定になる回転数の微調整を頑張りながらロエルの話にしっかりと受け答えをした。
「しかし…ブルーエリアとは全く別物だな…。感覚が全然違う」
「そりゃそうですよ。艦の形も違えば重量バランス、エンジンまで違うんですから…。時間無いんですよね?早く慣れて下さいね、キャプテン」
「そんな無茶な…」
「ブルーエリアみたいな失敗艦と比べたらだいぶ操艦しやすいはずです」
「さっきから言い方が酷いっすね…」
千歳は千愛海と言葉の応酬を繰り広げながらも舵を操作してゴールドエリーザ港の出口へ艦首を向けると、それぞれの機器のチェックを始めた。
「各メーターよし、羅針盤よし、各通信設備、GPS、GEWSよし。機関は?」
「最大回転数まで上げたけど異常なし!」
「ダメコン、その他の艦に異常あるところは?」
「異常は認められません、出航を許可します」
「ロエルエリーザ、出航!」
「よっしゃ!15年ぶりの海だ!!」
艦がゴールドエリーザ港の防波堤から出た瞬間、ロエルが艦橋の窓に飛び付いて外の景色を眺めた。
「誰かがまだ生きてるかもしれない…急がなきゃ!」
そう呟きながら千歳は回転数と出力を上げ、速度を上げ続ける。それに危機感を抱いたロエルが止めに入った。
「あまり回転数上げすぎると冷却が追い付かなくなって焼き付くよ」
「あ、了解」
「キャプテン…時間的猶予はどれくらいかわかります?」
「うーん…艦の損傷具合にもよりますが、マリネア艦は生存性重視なのでイージス艦ガーランド・ガルーナ型は20時間、空母グランシャリオ型は30時間もの予備浮力があります。現場海域に敵がいなければ、ですが…」
「GEWSで探したけど敵は見当たらないね、大丈夫だよ」
「よし、現場海域へ急ごう!」
千歳は生存者がいることを祈りながら現場海域へ艦を走らせ続けた。