自由への戦火~The Liberation of World sea~   作:ずぅみん

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第19話 荒海の空母

 2月19日 海藍艦隊消失海域、大戦艦ロエルエリーザ艦橋

 敵機の大編隊がロエルエリーザの最長射程圏内に入るまであと1分に迫った。ロエルはときどきレーダーで敵機との距離を測りながら、焦ることなくマリネア本土に定めた針路を巡航速度で進んでいた。しかし、最大射程に入っても何か武装を撃とうとはせず、ただ敵機との距離を詰めるだけだった。そしてある程度敵機との距離を縮めたところでようやくロエルが動きを見せた。

「マーキュリーエンジン、最高回転数まで上昇。蓄電開始…」

 千歳はこの時ロエルがなぜ蓄電を始めたのか分からなかった。大量の電力を必要とする武装をロエルエリーザは搭載していないからだ。ロエルエリーザを始めとするマリネア艦船に搭載されている電磁砲は蓄電しなくても十分に動かす事ができる。むしろ蓄電して一気に大電流を流すと壊れてしまう。

「敵機との距離14000m。最大蓄電量到達、コンデンサ破損防止のため蓄電を停止する」

 千愛海もロエルの動きに合わせてただ状況を報告するだけだった。気がつけば千歳だけが独りで迫り来る敵機にハラハラしていた。そして、そのときは突然にやってきた。

「距離10000mを切った」

「コンデンサ解放準備、動力炉への回路接続、セーフティーロック解除」

「…動力炉への接続確認…ロック解除OK」

 千愛海の報告と同時に二人が若干慌ただしくなった。そして蓄電したコンデンサと動力炉を接続する作業を終えると、ロエルが再びタイミングを測り、静かに号令を下した。

「…コンデンサ、解放」

 次の瞬間、動力炉の中にある反重力鉱石が強い光を放ち、ロエルエリーザの周りに強力な衝撃波が発生した。瞬く間に広がっていく衝撃波に敵機は避けることもできず、衝撃波にぶつかって次々に墜ちていった。

「すごい…一体何が…?」

 千歳は窓際で黒煙を上げて落ちていく敵機を見ながら呟いた。

「ロエルエリーザの空間制圧武装だよ。武装と言っても反重力鉱石に瞬間的だけど莫大な電圧をかけることで空気を振動させて衝撃波作ってるだけだから、どっちかって言うと私の応用技術かな」

「そんな事ができるのか!そしたらこっちの反撃だな!すぐに敵空母へ攻撃を…」

「その必要は不用です、キャプテン」

「え?」

 千愛海から放たれた言葉に千歳はポカーンと口を開けたままロエルを見て思考停止した。今攻撃しなければ再び艦載機を飛ばされてしまう。それは千愛海やロエルも知っているはずである。

「なぜ攻撃しない…?」

「それは…敵空母に対する攻撃が終わっているからです。更に言えば、敵空母は大破して沈みかけています」

 その証拠に投影モニターにGEWSによるリアルタイム映像が映し出され、大破した空母が次々に誘爆を起こしながら沈んでいくのが瞬時に把握できた。

「一体いつの間に…」

「あの空母は元マリネアの正規空母で、イージスシステムではないもののそれに迫る命中精度を誇る迎撃システムが搭載されてる。それを無力化して一発で仕留めるにはミサイルをレーダーで探知されずに攻撃するしかない…」

「そこで航空機迎撃の際に使用した衝撃波を“壁”として敵のレーダー波を反射あるいは屈折させてミサイルを隠すことでその迎撃システムを無力化しました。ミサイルが目視できた頃には手遅れって訳です」

「なるほど…」

 二人の説明を聞いてしばらく考え込んだ千歳はロエルの方に向き直り、このように提案した。

「やっぱりロエルが艦長にならないか?」

「…え?えぇ!?」

「ちょっと!海軍本部からの命令を無視する気ですか!?」

「自分よりも二人の方がこの艦のことを知っています。それにロエルが艦長になった方が艦の性能をより引き出せる。今回の戦いでそれがわかった…」

「でも…」

 千歳が思ってることを全て吐き出した後、ロエルが恐る恐る口を開いた。

「でも…私は戦い方を知らなければ防潮堤の外も知らない…。艦長は私より知ってるはずよ。だったら私よりもあなたの方が絶対いい」

 ロエルの小さく震えながらも説得する姿に千歳はやがて冷静になっていった。程なくして落ち着きを取り戻した千歳はゆっくりと頭を下げて謝罪した。

「自分だけ勝手に取り乱していた、すまなかった…」

「…いいんですよキャプテン、あなたはまだやってきたばかりで分からないことばかりなんですから」

 その後ロエルエリーザはマリネア本土の気象台から送られてきた予報に時化の兆候を見つけると急いでマリネア本土を目指した。

 

 2月26日 ゴールドライン海軍基地、大戦艦ロエルエリーザ艦長室

 非常に発達した低気圧が襲来して数日が経過した。予報は見事に当たり、6mの大波が時折基地の防波堤を乗り越え入ってくる様を千歳は雨粒が叩きつける窓越しにぼーっと眺めていた。

 すると突然艦長室のドアがノックされ、千愛海が部屋に入ってきた。彼女は少し驚いた表情でじっと見つめる千歳に声をかけた。

「キャプテン、これを渡すのを忘れていました」

 そう言って差し出した手の中には懐中時計が握られていた。不思議そうに受け取った千歳はそれをじっくり眺めてベッドに腰を下ろす千愛海に尋ねた。

「この懐中時計は?」

「艦長となった人に贈られる特別な懐中時計です。艦長である証みたいなもので、その艦ごとにデザインが違うんですよ」

「ほう…」

 千歳はしばらく懐中時計をさまざまな角度からじっくりと眺め、満足すると懐にしまった。そしてまだベッドに腰掛けてる千愛海を見てはぼそっと呟いた。

「まだ何かありそうですね」

「えぇ…」

 何か複雑な表情の千愛海は覚悟を決めると思いきって口に出した。

「その…敬語をやめてもらえますでしょうか?」

「…え」

「前から若干気になってたのですが、艦のトップであるキャプテンが部下に敬語はおかしいと思うんです」

「そうか…じゃあ副長も敬語をやめてください」

「え!?」

「交換条件です。自分はどうも堅苦しい現場は苦手なので…」

 予想外の反撃を食らった千愛海はしぶしぶタメ口で千歳に話しかけてみた。

「わ、わかった…じゃあ敬語…止めるわ」

「おう…それでいい」

 二人の間に沈黙の時間がしばらく流れた後、何か用事を思い出したのか急に立ち上がった千愛海は千歳に一礼し、艦長室を去った。

 

 同時刻 ソードライン防潮堤W-270区画

 その頃、マリネアの海の警察であるマリネア海洋保安庁の巡視船が防潮堤近海を哨戒していた。マリネアの船舶の中で最も復原力があり、索敵もそれなりにできる巡視船を哨戒に使わせてほしいと海軍から要請があったのだ。もちろん、海軍艦にも嵐くらいではびくともしない艦船はいるのだが兵装の関係で重心が上にある艦が多く、まともに横波を食らえば転覆してしまう恐れがあった。そのため今回の哨戒で最初から荒れた海で海難救助をする想定で設計された巡視船が抜擢されたのだ。

「しかし…ひどい時化ですね。さっきから全く前が見えません」

 操舵輪を握る航海長がぼそっと呟いた。彼が見つめる窓の外は大粒の雨が叩き付け、もはやワイパーはその意味をなしていない。マリネア本土の気象台から送られてきた予報には今後更に悪化するとのことだった。

「この大雨じゃ、レーダーも役立たずだろうな…」

 一つ一つ大波を乗り越えて行くと外の風景に船長が違和感を覚えた。さっきから見ている風景に奥行きを感じられないのだ。そしてどんどん進んでいくにつれ、その気付かなかった迫り来る“前方の壁”に船長の顔は真っ青になった。

「機関全速後進!」

「機関全速後進、アイサー!」

 船長から号令が発せられ、航海長が復唱して航海士へと伝えられていく。航海士がエンジンテレグラフを思いっきり全速後進へ引き下げたことで反動によって乗員全員が前に投げ出されそうになった。船が完全に止まったところで船長が状況把握を始めた。

「本船の位置は?」

「防潮堤の2km外側です」

「いつの間にか防潮堤に近づいてたということは?」

「有り得ません。防潮堤の位置はしっかり把握してます。現にレーダーに表示されてます」

 航海レーダー担当官は船長にレーダー画面を確認するよう促した。確かに画面には巡視船と平行に防潮堤が映っている。

「じゃあこれは何だ…?探照灯照射」

「了解、探照灯照射します」

 強い光を放つ探照灯が4つ灯され、それぞれが空中に光軸を描きながら対象物を隅から隅まで照らしていく。その光景を見ながら航海長とレーダー担当官が話始めた。

「こんなデカい物、レーダーに映ってもいいはずなんだが…」

「確かに…。なぜレーダーに映らない…」

 すると探照灯の1つが物体に書かれた数列を捉えた。その数列を見た瞬間、操舵室にいた全員が驚いた。

 書かれていた数列は71…。最近行方不明になっていたマリネア海軍の空母グランシャリオのハルナンバーだったのだ。そして船長の命令を受けて通信士が本土に連絡を入れた。

 

 ゴールドライン海軍基地艦隊司令部

 空母グランシャリオ発見の報はすぐさま千歳がいるゴールドライン海軍基地に届けられた。廊下を急ぎ足で歩きながら千歳はすぐ隣を歩く桜木にあれこれ質問責めをしていた。

「冬神さんは無事ですか?」

「救助されたが意識不明だ。いつ目を覚ますか分からない」

「グランシャリオの方は?」

「防潮堤の外の暗礁で座礁しているらしい。まだ周辺海域が荒れてるから回収は後日になるそうだ。攻撃を受けて航行不能になっているところに時化で流されたんだろう」

「救助者の中に不審人物は?」

「今のところ記憶障害で名前を答えられない奴が1名いる」

「なるほど…」

 二人はとあるドアの前まで来るとノックして中からの応答を待った。しばらくして中から声が聞こえてくると千歳はドアノブを回して桜木と共に中へ入った。

「失礼します」

 部屋の中に入ると机の書類にメガネをかけて目を通す1人の女性がいた。入ってきた千歳と目が合うと席から立ちあがり、かけていたメガネを机の上に置くと千歳の元へ歩み寄った。

「貴官が瑞帆千歳か。私はドィナット・ユージィ、新しくゴールドライン海軍基地の基地隊司令になった。よろしく頼む」

 千歳は彼女の自己紹介中、頭からつま先までを一通り見回した。なんというか…ぶっきらぼうな感じがする。女性なのにどこか男っぽいのだ。そんな彼女に千歳は少し不安を覚えた。

「大戦艦ロエルエリーザ艦長、瑞帆千歳です。よろしくお願いします」

「そんで君は桜木和幸だね?」

「はい、巡洋艦リニアブルー艦長、桜木和幸です」

「さて…実に興味深い君達とはもっと長く会話をしていたいが、そういう訳にもいかないのでまた今度の機会にするとしよう。今回君達を呼び出したのは他でもない。先程発見された空母グランシャリオの冬神艦長が入院する病院が決まった。君達には冬神艦長を護衛してもらいたい」

「冬神さんの護衛…ですか」

「あぁそうだ。連合州国海軍中央情報局や国際情報統合局、外務省情報部に保安警察庁諜報部が揃って冬神艦長暗殺を目論む情報を察知した。実に不自然である」

 千歳はユージィの言いたいことを瞬時に把握した。

「なぜ我が国の全ての諜報機関が察知できたのか…ですか」

「そうだ。特に外務省情報部は最近創設されたばかり…つまり新米集団だ。犯人たちがなぜそんな新米にもわかるレベルで情報を流したのか気になってしょうがない」

 少し考え込んだ千歳は1つの可能性を示した。

「艦船から発せられた可能性があります」

「艦船から?」

 予想外の場所にユージィは思わず聞き返した。確かに、諜報機関から発せられた場合だと複雑に暗号化されてから発信されるため、他機関に察知されても解読できずに終わる。しかし艦船からだと自分の仲間に伝える必要があるため、比較的簡単な暗号で済まされることがある。千歳はその可能性があると指摘したのだ。

「艦船からとなると、反世界軍の仕業も考えられます」

「なぜ奴らだと?」

「奴らは航行不能に陥ったマリネア海軍艦に乗り込んでは技術を奪おうとします。恐らくグランシャリオにも乗り込んで何かしらの技術を奪おうとしたところを冬神さんに見られ、口封じで…」

「そこまでにしよう」

 千歳がまだ話してる最中でいきなりユージィが制した。

「これ以上の詮索は余計な先入観を生むだけだ。護衛のやり方は好きにしていい。以上だ」

「了解しました」

 基地隊司令執務室を後にした二人は廊下を歩きながら会話を始めた。

「射撃の腕はどうだ?千歳。今度の護衛は銃が必要不可欠だぞ」

「ヤバいかもしれないです。海軍に入ってから戦艦のトリガーしか引いてませんから。メンタルモデルの力をフルに活かせば軍刀だけで倒せますけど?」

 千歳のその言葉を聞いた瞬間、桜木は大きくため息をついた。

「あのな千歳…人間らしくしようぜ!相手がメンタルモデルならまた別だけど…」

「うーん、仕方ないですね…。桜木さんの艦にMP5かG36C積んでます?できれば両方ほしいです」

「武器くらい自分で調達しろよw」

「とりあえず現場へ行って下見から始めましょう」

「そうだな」

 二人はゴールドライン海軍基地を後にすると下見をするためにお隣の州にあるゴールドハーブ海軍基地の敷地内にある海軍病院へ向かった。

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