自由への戦火~The Liberation of World sea~ 作:ずぅみん
11月30日 ゴールドマリン海軍基地、イージス駆逐艦スリザリー
マリネアのなかでゴールドランドに次ぐ規模を誇るゴールドマリン海軍基地。ここに、海軍に入ってからまだ間もない新兵が配属された。
「おい、新米。もうどこの科に入りたいとか決まったのか?」
「そうですね、やっぱり俺的には砲雷科がいいですね。イージス艦の醍醐味と言ったら大量のミサイルを撃つことです」
昼食にがっつきながらそう語るのは18歳の新兵、瑞帆千歳(みずほちとせ)だ。彼は金華翔爛高校卒業で、アルロスから推奨され海軍に入隊し、実際に本物の武器に触れられるという充実感に満たされた毎日を送っていた。実は戦艦ブルーエリアでの武力衝突以降、アルロスの案内で同じ基地に所属する別の艦隊に移動し、経験を積んでいたのだ。
同日同時刻 イギリス
時同じくして、イギリスから全世界にある宣言が発表された。その宣言に、世界中の海洋国は衝撃を受けた。
「今日を持って、我が欧州国家連合はここに、世界中の海を手中に収める事を宣言する。マリネアの支配から、再びこの欧州を世界一の海洋国として蘇らせるのだ!」
その宣言を聞いたイギリス国民は再び欧州の時代がやってくる期待に胸を膨らませ、大きな歓声を上げた。そしてその歓声に答えるように壇上で手を振っているのがミッチェル首相だ。彼のこの宣言は、あっという間に全世界へ配信された。
マリネア連合州国海軍機関
その頃、イギリス、日本、アメリカに引き続き、事実上世界中の海を支配し、平和を維持している4代目海洋治安維持国であるマリネア連合州国の海軍機関局長、神城は部下と一緒に、冷静に生中継されているテレビ画面を見て一言つぶやいた。
「今度はイギリスがいかれちゃったのね…。でも今更イギリスに何ができるのかしら?一応全国の海軍基地の警戒レベルを2段階引き上げてレベル3にして」
「了解しました。全国の海軍基地に通達します」
呆れた表情でテレビを見る神城の横でアルロスが腕を組み、同じテレビ画面を見てつぶやいた。
「恐らく世界はこの流れに乗るな。国連が我々の事をよく思っていないんだ、主要国の合流は避けられまい」
「そうね、早めに手を打つとしましょうか。手遅れになる、その前に…」
「よろしく頼む。俺もできる限り協力する」
そういうとアルロスは向きを変え、部屋を出ていった。
ゴールドマリン州海軍基地、イージス駆逐艦スリザリー食堂
昼食を取っていたスリザリー乗員は食堂に置かれたテレビに釘付けになり、口を開けたまま止まっていた。
「先輩…どういうことですか?」
千歳は突然のことに意味が分からず、現在の雰囲気を壊さないよう声を潜めて先輩に訪ねた。
「俺もわからん。ただ、イギリスのこの発言は、冷静に聞かなければ我らマリネアへの宣戦布告にも聞こえる。戦争にならなければいいが…」
するとそこへ基地全体に警報が鳴りだした。海軍機関本部から発令された、警戒レベルを1から3への引き上げを伝える警報だ。スリザリー全乗員は昼飯を素早く口の中へかきこむと、走って自分の持ち場へ散って行った。
イージス駆逐艦スリザリー艦橋
「本艦、緊急出港準備。砲雷長、レーダーの影を一切見落とすな。航海長、第1防衛線で哨戒を開始する」
「了解しました」
スリザリー艦長、レイン・カールスは自分の周囲に設置された計器を一通り眺め、情報収集をするべきだと判断。フィリップ航海長とロガー砲雷長に命令を下した。そこへやや遅れをとった千歳がやってきた。
「すみません、遅れました」
「あぁ~瑞帆、お前はまだ新米だ。遅れるのは、最初のうちは仕方がない。さて、瑞帆は監視員でもやってみるか?」
遅れたことをレインに謝罪した瑞帆だが、レインはそれを了承し、瑞帆に双眼鏡を差し出した。瑞帆は双眼鏡を受け取ると、左舷ウィングに向かい、双眼鏡を構えた。
「おっと、今日は航海科監視員担当だな?そうか~瑞帆は航海科に入りたいんだな?」
「自分は砲雷科志願です」
瑞帆は双眼鏡を覗きながらフィリップ航海長に返答した。異常がないままスリザリーが全速力でソードラインへ航行を続けていると、水平線上に延々と伸びる物体が見えてきた。それを瑞帆が見つけた。
「ソードライン防潮堤…」
「瑞帆、お前はソードラインの堤防の事をどんだけ知ってるんだ?」
「あぁ、あの堤防ですか?私は、我が国の領海ライン上に建ってる事だけしか知りませんが…」
水平線上に黒く顔出す堤防を、双眼鏡で眺めながら航海長の問いに答えた。その返答を聞いた航海長は落胆した様子だった。
「そんなもんか…。海軍大学校ではそんなもんしか教えないのか。国防上、結構重要なんだけど…」
「そうなんですか」
「あぁ、あの堤防は荒波や高潮を防ぐためだけではない。我が国の安全を脅かす魚雷という名の津波や、砲弾の雨をも防いでくれる。この堤防はある意味結界の境目だよ。少なくともこの堤防の内側は、平和だ」
「…平和ですか」
『平和』…その単語を呟いた瑞帆は再び双眼鏡を覗いた。ひたすら続く水平線と防潮堤…それをじーっと辿っていると、防潮堤から発砲煙が上がっているのが見えた。
「本艦2時方向より砲撃煙視認、確認されたし」
瑞帆の報告を受けたフィリップとレインは目視で、ロガーはレーダーで確認を行った。確かに防潮堤から煙が上がっている。
「なんだ?演習か?」
「そんな訳ありません。ここは演習禁止海域に指定されています」
フィリップとレインが話をしていると、ロガーから報告が上がった。
「レーダーにて確認。所属不明艦5隻が侵入!防潮堤が破壊されています!!」
「何を言っている!?あの防潮堤は10mあるんだぞ!!」
「実際に防潮堤に穴が開いています!」
「くそ!至急海軍本部へ報告!応援要請!総員、対艦戦闘用意!三度警告に則り対処する!!」
イージス駆逐艦スリザリーは速力を上げると煙が上がる防潮堤へと急いだ。すると煙の中から次第に不明艦が姿を現し始めた。
「駆逐艦2、重巡2、戦艦1か…。我が艦1隻だけでも対処できるな。不明艦への警告を開始!」
「了解!警告開始!!」
≪所属不明艦に告ぐ。こちら連合州国海軍である。貴艦隊は領海侵犯している。すぐに引き返せ。さもなくば撃沈する。≫
イージス駆逐艦スリザリー左舷ウイング
本艦から発せられる1度目の警告が終わり、相手艦の反応を伺う時間を瑞帆は双眼鏡を構えながら過ごしていた。数分後、無視し続ける相手艦に2度目の警告が発せられた。
≪繰り返す。所属不明艦に告ぐ。こちら連合州国海軍である。貴艦隊は領海侵犯している。すぐに引き返せ。さもなくば撃沈する。≫
すると次の瞬間、相手艦から鋭い殺気を感じ、相手艦前方が一瞬光ったのを瑞帆は見逃さなかった。そう、これは…。
「敵艦発砲!敵艦発砲!!」
「警告中止!緊急回避!!」
「了解!緊急回避!!」
瑞帆の報告からレインが発した命令をフィリップはすばやく復唱し、アクセルを一気に前回まで押し上げ、急速に舵を左に切った。ぐっと体が後ろに持って行かれる感覚と同時に船体が遠心力で右に傾いてゆく。次の瞬間、スリザリーのわずか16m右に敵の砲弾が着弾した。着弾と同時に艦が激しく揺れる。
「本艦右舷に至近弾!」
「このまま全速を維持!フィリップ、ジグザグに進め!ロガー、遠慮するな、飛んでくるものは全て叩き落とせ!!」
「了解!」
その後、2人は自分の仕事に集中し始めた。フィリップは飛んでくる砲弾やミサイルをかわし、ロガーはかわしきれないミサイルを迎撃しながらも反撃、敵艦に命中させるなど、これまで積み上げてきたものを遺憾なく発揮していた。しかし、3隻を沈めたところで限界が見え始めた。
突然大きく揺れる艦。ロガーが報告した。
「左舷後部機関室に被弾!」
「大丈夫だ、一発くらいじゃ沈まん!隔壁閉鎖!」
「更に左舷水面下に被弾!速力低下!…マズい」
「千歳!海軍本部に救援要請と情報提供を!」
「了解です!」
揺れる艦橋内を駆け抜け、なんとか無線台にたどり着いた。あとは連合州国海軍の無線バンドを選択し、伝えるだけなのだが、またしても強い揺れが艦を襲い、千歳はうっかり受話器を落としてしまった。さらに浸水が増し、急速に傾斜したことで受話器が千歳から離れていってしまった。
「くそぉ!」
幾度となく襲ってくる揺れと傾斜に耐えながら再び受話器を掴んだ千歳は必死に叫んだ。
「こちらイージス艦スリザリー、至急救援を求む!現在イギリス艦と交戦中!5隻のうち3隻は沈めた。残る2隻から集中砲火を食らっている!場所はソードライン防潮堤内側、艦級は…」
海軍本部に戦力を伝えようとした瞬間、凄まじい炎が周囲を包む込み、千歳もそれに巻き込まれてしまった。そして次の瞬間、弾薬庫に誘爆し、周囲は激しい光に包まれた。