自由への戦火~The Liberation of World sea~ 作:ずぅみん
2月28日 ゴールドハーブ海軍病院
海の荒れが収まり強い風も落ち着いてきた頃、グランシャリオを発見した現場海域の巡視船から負傷者を乗せたジェットヘリが海軍病院のヘリポートへ降り立った。
ヘリの中からストレッチャーに乗せられた冬神がヘリ搭乗員に押し出されてきた。それを今度は病院スタッフが受け取り、病院の中へと押していく。この部分だけを見たらごく普通の病院だが、周囲にMP5を持った千歳やタボールを構えた桜木など武装した海軍兵士がいるために物々しい雰囲気になっていた。
「ロエル、周囲の海域に何か反応はあるか?」
《いや、レーダーにもソナーにも怪しいものは映ってない》
「そうか、警戒を続けてくれ。何かあったらすぐに報告するんだぞ」
《了解》
「桜木さんの方は何か反応ありましたか?」
「いや、ないな。私の方も何かあったら報告をするように言ってある。怪しいものを察知すれば何かしら来るだろう」
その言葉に頷いた千歳はただひたすら冬神の少し後方から桜木と共にずっと周囲を警戒していた。その後手術室に入るなどで千歳たちの下から離れることは少しあったが、何事もなく病室までやってきた。
同日夜、冬神の病室前
病室のドアの前で警戒にあたってからだいぶ時間が経ち、日もすっかり沈んで廊下は薄暗くなった。ロエルエリーザとの定期連絡を終えた千歳が桜木に話しかけた。
「ロエルエリーザと連絡を取りましたが、何もレーダーで捕捉できないみたいです」
「リニアブルーも一緒だ。待てよ、もしかすると…」
「…どうしたんですか?」
「外からの奇襲が考えられないとなると、内部に潜んでいる恐れがある!例えば…記憶障害で名前を名乗れなかった奴だ!!」
「それだ!すぐに奴を確認してきます!桜木さんはここで警戒を」
「分かった」
千歳はMP5を構えながら足音をなるべく立てずに薄暗い廊下を進んで行った。頼りになる照明は足下の非常口誘導灯のみだ。やがて彼の病室にたどり着くと、勢いよくドアを開けて銃を構えた。しかしベッドにその姿はなく、病室の窓がかすかに開いていた。
「桜木さん、やっぱり彼だ!窓から出た形跡がある!」
千歳はすぐに無線で桜木に報告した。
「了解した、警戒にあたる」
タボールを持つ手に自然と力が入る。すると人の気配を察した桜木は素早くその方向に銃を構えた。廊下の奥の暗闇で非常口誘導灯の明かりが何者かの足だけを照らし出し、不気味な感じを漂わせていた。桜木は正体を明らかにするためタボールにつけてあったフラッシュライトをつけた。顔色が悪そうで猫背気味の男は銃を構える桜木に睨みをきかせた。桜木はそれに動じることなく話しかけてみた。
「お前は誰だ?そこで何をしてる」
「…何もしてない」
「よし、では誰だ?名前を言え」
「…」
桜木が名前を訪ねると男は黙りこんだ。すでに確信に変わりつつある桜木はさらに尋ねた。
「お前、マリネアの海軍軍人ではないだろ」
「…」
「…反世界軍とか?」
桜木が言葉を発した次の瞬間、男はいきなり桜木に向かって走り出した。それを見た桜木は男目掛けて大量の銃弾を発射。しかし男はスライディングして桜木の足を払うと、転倒した桜木の首を背後から締め上げた。だが、桜木は頭を思い切り後ろに振り上げ、男が顔面を強打して首を締める手が緩んだうちに素早く脱出した。二人ともすぐに立ち上がると取っ組み合いになり、やがて桜木が相手の背後に回ると絞め技をかけた。相手の身体から力が抜けるとすぐに手を離し、やれやれといった感じで近くに転がっていたタボールを拾った。
「桜木さん、大丈夫ですか!」
大きな叫び声と共に病室の様子を見に行っていた千歳が戻ってきた。
「遅いよー。待ってたら殺られるから落としといた」
「そうですか…とりあえず冬神さんの無事を確認しましょう」
念のため病室の中を確認しようと千歳がドアを開けた瞬間、冬神の持ち物の中から何かを取る男の姿が見えた。千歳は急いでMP5を構えるが、男はそれに反応して千歳のMP5に拳銃を撃ち込み、千歳の手からMP5を弾き落とした。
「こんのやろぉ!」
千歳はMP5を拾わずに腰のホルダーに入ってたPC356を素早く取り出して相手に向けて発砲したが、男は千歳が拳銃を取り出す隙をついて窓から逃げた。その直後、どこからともなくヘリの音が聞こえてきた。
「奴は屋上からヘリで逃げる気だ!屋上へ急ぐぞ!!」
「はい!」
二人は薄暗い廊下を全速力で駆け抜け、屋上にあるヘリポートを目指した。
病院屋上ヘリポート
息を切らしながらも屋上へやってきた二人は近くで屋上を警戒していた海軍兵士に声を掛けた。
「何か問題は起きなかったか?」
「いや、不審なことは特に何も…」
「そうか…」
ふと周辺上空を見回すとこちらに真っ直ぐ飛んでくるヘリの航空灯が見えた。念のため、桜木がリニアブルーに確認を取る。
「本日この時間帯で飛行を予定していたヘリはあるか?」
《少しお待ちを…いえ、該当機体ありません》
「わかった。当たりだな千歳」
「えぇ、そのようですね」
静かに答えた千歳は周辺で警戒している海軍兵士に大声で伝えた。
「現在飛行予定のヘリは存在しない!よってあれは犯人の逃走用だ!攻撃して構わない、撃て!!」
千歳の号令で屋上にいた海軍兵士がヘリに銃弾を浴びせまくる。しかしヘリの装甲はあらかじめこんなことになるのは予測済みだったかのように強化されており、兵士たちの銃撃にびくともせず何食わぬ顔でホバリングを続けた。ひとしきり兵士からの銃撃を受けると今度はヘリに搭載された機関銃が兵士目掛けて火を噴いた。猛烈な火力に付近の物陰に隠れてやり過ごすことしか出来なかったが、銃撃が止んだ一瞬の隙をついて反撃しようとした瞬間、閃光弾が投げ込まれて眩い光で千歳たちは視界を奪われてしまった。
全員の視力が回復しないうちにヘリポートに着陸したヘリに1人の男が駆け寄って乗り込み、その瞬間に離陸を開始した。せめて顔だけでもと千歳はまだ眩む目を必死に凝らしてヘリに乗り込んだ男の顔をよく見た。そして彼の顔を見て千歳は愕然とした。なんと彼は千歳たちが屋上へ来たときに最初に声を掛けた人物だったのだ。だんだん病院から離れていくヘリを見ながら千歳はロエルエリーザに無線を繋いだ。
「ロエル!今病院から離れたヘリを撃墜できるか!?」
《ダメ…ロックオンできない。強いジャミングで大まかな位置しか…》
「ピンポイントジャミングか…光学観測でマニュアル射撃管制に切り替えろ!逃げられるぞ!!」
《了解!》
間もなくしてロエルエリーザから砲弾が飛んできた。風切り音がだんだんと近くなり、千歳の頭上からヘリへと飛んでいく。しかしどれもヘリのギリギリを掠めるばかりでなかなか命中しない。そしてヘリは雲の中に入って千歳の視界から消えた。
《本艦の射程範囲外に出ました…》
「GEWSで追えるか?」
《完全に雲の中に隠れているのでGEWSは無効です…》
「…了解した」
通信を終えた千歳は桜木に歩み寄り、いまだに眩む視界に苦しむ彼に手を差しのべた。
「撤退しましょう」
「あぁ…今回は私達の負けだな」
ゴールドライン海軍基地艦隊司令部基地隊司令執務室
後日、千歳はユージィに冬神を護衛したが何かを盗まれたという内容で報告した。報告を聞いた瞬間、ユージィの顔が少し曇った。その顔に疑問を覚え、千歳が問いかける。
「盗られてはいけない物ですか?」
「とてもヤバい物だ」
頭を抱えながらユージィは返した。彼女の妙に焦った表情に千歳の興味が湧いた。
「何を盗られたんです?」
「USBメモリーだ」
「中には何が入ってたんですか?」
「あまり言いたくはないんだが…我が国が開発したトランジッション式永久機関『ビィラスエンジン』の艦船搭載用設計図だ。それと…」
「もう1つあるんですか?」
「…ICBM GLCC-129『デューイ』の発射コードが入ってる」
それを聞いた千歳はどん底に落とされたような気分になった。マリネアが開発した大陸間弾道ミサイルGLCC-129『デューイ』は射程10000kmを誇り、米露双方の核弾頭も搭載できる4段式の弾道ミサイルである。国内に実戦配備されている弾道ミサイルの中で一番古いが、改良が進められて誤差0.5kmまで抑えられている。サイロからはもちろん、艦船や潜水艦からも発射できる。
「日本にもデューイを配備させるんですか!?」
「上層部が決めたことだ。私が決めたことではない。といっても参考で日本に説明する程度らしいが」
「発射コードを知っていれば発射は可能なんですか?」
「彼らには厳しいだろう。USBを奪ったとはいえ、中に入っている発射コードは全てトップシークレットレベルの暗号化がされている。解読には時間がかかるだろう」
「しかし解読したらすぐにでも使うでしょうね」
「あり得るな。今後の動向に関しては追って伝える。しばらく待機せよ」
「了解しました」
千歳が部屋から出るまで見送ると自分の机に戻り、電話の受話器に手を伸ばした。そして海軍内の短縮番号をかけると要件を話し始めた。
「もしもし姉さんか?ブルーメモリーが奪われた」