自由への戦火~The Liberation of World sea~ 作:ずぅみん
3月2日 首都ゴールドランド州マリネア連合州国海軍機関本部
ブルーメモリー盗難の報を受けた連合州国海軍のトップである神城はある人物と面会していた。神城と相対するように椅子に深く腰を降ろしている彼女が身に纏う海軍制服はとてもきらびやかであり、神城の海軍制服と比べても比にならないほどである。もちろんマリネア連合州国海軍制服は世界の先進国の中でも派手と言われる方なのだが、神城より一層派手で制服全面にその人物の荘厳さが表れていた。
「あっつい…」
今まで上着をマントのように羽織っていた神城より若い女性は濃紺を基調として所々金色の刺繍が施された、勲章がいっぱい付いている上着を近くにいた厳ついガードマンに渡すとリラックスした様子で椅子に座り直した。
「暖房効き過ぎてたかしら?」
「まぁ…無駄に立派な海軍制服のせいだな」
気を使う神城に彼女は笑顔で返した。しかし神城の浮かない表情を見て彼女から笑顔が消えた。
「事態は深刻なのか…」
「私のとこのエージェントによれば、アメリカとロシアの発射コードもそれぞれ奪われたそうよ」
頭を抱えながらため息まじりで話す神城に思わず彼女もつられてため息を洩らした。
「とはいえ、こんなことをする犯人のだいたいの目星は付いてる…」
「…と言うのは?」
「あんたのとこからこっちにやってきた男。悪いけど勝手にそちらにいた時の経歴を隅々まで調べたわ。そして見つけた」
「…何を?」
「…彼の原動力」
そして神城は持参していた鞄から書類を差し出した。彼女はゆっくりと手に取って文面を眺めてみた。それは何かの詩のようであった。すでに暗記していたのか、神城が冒頭を読み上げた。
「もはや世界は、終わりの時代を迎えた。人は争いを繰り返している。根本的原因を取り除いてこそ、真の平和と言えるのではないだろうか」
「思い出した…彼が結構昔に書いた詩『真の平和』だな。まさか…」
「えぇ、その詩の内容が現実になる…」
しばらく二人が黙ったまま過ごしていると、相手が沈黙を破って話を始めた。
「そういえば違う話になるが、彼はそちらの“幸運な海兵”をとても可愛がっていたな」
「それはこの子のことかしら?」
またしても神城は自分の鞄からまた別の書類を取り出した。それは瑞帆千歳の海軍に入ってからの履歴書だった。
「この子がミズホチトセ…」
まるで年頃の女の子が、自分の興味持つ新しい物を見るかのようにまじまじと、それこそ履歴書に穴が空きそうなほど隅々までじっくりと目を通していく。その記入欄に余白がないほどびっしりと文字が敷き詰められた履歴書は彼女にとって最も惹かれる物になっていた。
「こんなに“濃い”履歴書は初めてだ…」
興味津々な様子で履歴書を眺める彼女を見て何か閃いた神城は彼女にある提案をしてみた。
「その子、ここに呼ぶ?」
「え!いいのか?」
「えぇ、今彼には待機命令が出てて基地で暇を持て余してるはずよ」
「この機会、逃すわけにはいかないな」
彼女の返事に頷いた神城は制服のポケットからスマホを取りだし、どこかにひと言ふた言話すとすぐに切ってしまった。その様子を見てた彼女は目をきらきらさせて彼が来るのを今か今かと待ちながらワクワクしていた。
同時刻 ゴールドライン海軍基地係留桟橋、大戦艦ロエルエリーザ
その頃千歳は天気がいいからと言って特にやることもなく、何となく気が向いたので桟橋から釣りをしていた。だが、釣りを始めてから全く釣れていない。
「魚いるのかよこれw」
途中で飽きた千歳はロエルエリーザ艦内の倉庫に釣竿を放り投げ、艦内食堂の冷蔵庫から勝手に取ってきたラムネを開封し、艦首の椅子になりそうな適当な出っ張りに腰を降ろして飲み始めた。
「…キャプテン・フランク」
背後から声がしたので振り返ってみると千愛海が立っていた。千愛海は千歳の隣に腰を降ろした。
「それ俺のことか?」
「そうよ」
「もうちょっとカッコいいあだ名にしてくれよ」
「アルロスさん見たいに?」
彼女の口から出たその名前を久々に聞いた千歳は思わず千愛海を見た。
「アルロスさんを知っているのか?」
「海軍で知らない人はいない。彼に憧れて海軍に入った人もいっぱいいる。彼はこの艦の艦長で、舵取りや重要な決断など間違えたことは一度もなかった。それなのに…」
さっきまで勢いがあった彼女の口調が一気に静かになった。俯く千愛海の表情を伺おうと千歳が覗きこむと、彼女の頬に涙が流れた。急いで涙を拭うと千愛海は話を続けた。
「…アルロスさんは今もどこかで生きてるはずよ。蒼き将軍と呼ばれた彼がそう簡単に沈むはずないもの」
「そうだな…」
千愛海を励まそうと手を伸ばした瞬間、艦といつも連絡取れるように肌身離さず持っていた無線がタイミングを図ったかのように鳴り響いた。やむを得ず応答する。
「どうした?」
《姉さんから艦長に呼び出しだよ》
「わかった…」
千歳は千愛海を気にしながらも駆け足で後部格納庫へ向かい、自分のスカイジェットで指示された場所へと向かった。
首都ゴールドランド州マリネア連合州国海軍機関本部
指定された部屋の前にやってきた千歳はドアをノックする前に、ふと自分が呼び出された理由を考えてみた。なんか悪いことしたか?特に心当たりはない。もしかしたら褒められる…?いやいやそれはないだろと心の中で首を振り、ノックしてドアを開けた。
「失礼します」
「どうぞ」
千歳を最初に出迎えたのは神城ではなく、見知らぬどっかの国の海軍制服を着た、女の人と呼ぶよりは女の子と呼んだ方がしっくりくる若さの女性だった。彼女は千歳本人を見るなり歩み寄って千歳をジロジロ観察し始めた。
「君がミズホチトセかぁ~…実に興味深いな…」
「あ…あのー…」
千歳の戸惑いをよそに女性は千歳の髪を撫で、それこそ瑞帆千歳というものを自分の手で確かめるべくペタペタと千歳の身体中の感触を確めだした。
「あぁ…彼女はそういう性格だから大目に見てあげて」
二人のやりとりを見ていた神城が部屋の奥で面白そうに眺める。千歳は早くこの状況から打開するべく神城に助けを求めた。
「神城姉さん、この人は…?」
「彼女はお隣の海軍のトップよ」
「お隣…?」
今まで千歳を触り続けていた女性は敬礼して自己紹介を始めた。
「初めまして。マリネア王国海軍総海将のデイレオーネ・クラリスだ。私と神城は古くからの付き合いでな、こうして二人で密会してはお互いの情報交換をしている」
「マリネア…王国?」
国名を言われてもいまいちしっくり来ない千歳にクラリスがスマホを取りだし、地図を立体投影して何やら操作し始めた。マリネア連合州国の首都ゴールドランド州からクラリスの指が北東へ飛び、国内最大面積の湖であるセントリア湖を拡大した。すると湖の中央に東京23区くらいの面積の島が見えてきた。クラリスの指はこの島を指して止まった。
「ここがマリネア王国だ。お隣と言うより内側と言った方が正しいな」
「マリネア王国海軍は我が連合州国海軍より就役艦艇数は少ないものの、1隻の戦力が高いために我が海軍以上の戦力があるとされているわ」
「そのマリネア王国海軍のトップがなぜここに?それになんで自分が呼ばれたんです?」
「これから話すことがお嬢様にも君にも関係があることだからよ」
神城はすでに机の上に広げられていた複数の資料を千歳に差し出した。それはマリネア連合州国海軍のある人物が離反し、反世界軍を仕切っているという報告書だった。千歳はさらに読み進めた。
「諜報活動を進めた結果、一人の連合州国海軍軍人が反世界軍との艦隊戦で死んだように見せかけ、連合州国海軍を離反した…さらにその人物を調べた結果、過去に過激思想と受け取れる詩集を発表していたことが判明。最近のICBM発射コードの相次ぐ盗難も彼の仕業であると判明した…彼と言うのは?」
「アルロス・マーリンよ」
その人物の名前を聞いた瞬間、千歳はにわかに信じられなかった。彼は海藍艦隊の指揮を執っており、艦隊の大半と共に海に没したと千歳は聞いた。彼女たちに反論をぶつけてみる。
「ですがアルロスさんは海藍艦隊が壊滅した海戦で死んだはずじゃ…」
「王国海軍のとある基地で異動願を出した艦長がいてな。アルロスにとてもよく似た人物だったそうだ。その証拠に王国海軍艦に標準搭載されている艦船追跡用のシグナルが出港して防潮堤を出た後すぐに切られた。まだ彼が王国海軍にいた頃、艦船追跡シグナルの脆弱性を指摘していた唯一の人物がアルロスだっだ」
千歳は言葉が出なかった。自分を海軍へ誘った張本人が海軍を離反など…仮にそれが本当だとしてもそうせざるを得ない状況に置かれているだけだ、自分の意志で離反する訳がない…千歳はそう思った。
「次の作戦を大戦艦ロエルエリーザ艦長に言い渡すわ。出港準備を整え次第、緊急出港してアルロスの計画を阻止して。何としても、どんな手段を使っても…」
「…わかりました」
今まで見たことがなかった神城の表情に千歳は事態の深刻さを再認識した。
「彼の暴走を止めるためなら、王国海軍も協力しよう」
「必要なものがあれば用意するわ。何かあれば報告するように」
「はい…。では早速なんですが…ロエルエリーザの乗員を500人手配してください」
神城とクラリスは艦の設備ではなく人員を要求したことが予想外だった。メンタルモデルなら艦の操船から索敵、攻撃や通信まで全て1人で行うことができるからだ。しかも千歳はロエルと二人でメンタルモデルをやっている。つまり余程のことがなければ処理落ちなどトラブルは起こらないので、神城とクラリスは千歳たち二人で充分だと思っていた。
「他には?」
「ゴールドエリーザ海軍基地の改修ドックを空けといてもらいたいです。今はこれくらいです」
「わかった。準備しておきましょう」
「お話は以上でしょうか?」
「えぇ、もう大丈夫よ」
「わかりました。自分はこれで失礼します」
そういって部屋を後にした千歳の心は疑問と覚悟に揺れていた。