自由への戦火~The Liberation of World sea~   作:ずぅみん

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第22話 新生ロエルエリーザ

 3月10日 ゴールドエリーザ海軍基地改修ドック

 マリネア最大の海軍基地の改修ドックに入ったロエルエリーザ。そのドックの前のちょっとした広場に新しく配属された500名が整列していた。その光景を見た千愛海とロエルは驚きの表情を見せていた。彼女達がその反応をするのも無理はない。なんと千歳は彼女達に何も言わずロエルエリーザへの編入を決めていたのだ。

「艦長…正直こんなにいらないと思うけど?」

「私も同感だ、キャプテン」

「ふむ…じゃあロエルに尋ねるけど、久々の出港で排水量14000tの巡洋艦リニアブルーを曳航しながら敵空母やその航空隊と戦ったの、覚えてる?」

「えぇ、覚えてるけど…?」

「あの戦闘が終わった後に激しい疲労感に襲われたはずだ」

 ロエルが記憶を辿っていくと確かに千歳の言う通り、どっと疲れていたのを思い出した。

「今回の出港はしばらく帰ってこれない。だからといって敵がウヨウヨしてる外洋でのんきに休んでいる訳にもいかない。そこで人が入り、自分達の負担を軽減する…今回の編入はそれが狙いだ」

「だとしたら幹部クラスの十数名だけでいいのでは…」

 ロエルの質問に答えた直後に今度は千愛海から聞かれた。出港前の疑問をなるべくなくすため、千歳は詳細に答えた。

「ただ単に役割分担して自分やロエルの疲労を軽減するためなら副長の言う通りだ。今までは被弾したことがなかったから少数人数でも良かった。だが今回は被弾する危険度が今までよりもずっと高くなる。少人数体制で被弾したら誰が応急措置をする?」

「確かにそうね…。けど次回からは私達にちゃんと言ってからにして!」

「わかった。そういえば今回の改装でイージスシステムを搭載した」

「はぁ!?」

 千歳が指差す方を見ると艦橋の真上にある通信マストに見慣れぬ円盤状のアンテナと真新しいレドームが複数個搭載されていた。

「あれが…SPY-1レーダー?随分小さいけど…」

「あぁ、アメリカの設計通りに作ったら簡略化できるところが幾つもあったんで、やってみたらあんなに小さくなったらしい。マリネアの技術力は流石だよ」

「なんでこの艦に積んだの?」

「次の航海では必要不可欠だからだ。下手したら頭の上をICBMが飛び交うことになる」

 その言葉に疑問を抱いた千愛海が追求してきた。

「どういうこと?」

「反世界軍にビィラスエンジンの設計図とICBM デューイの発射コードが入ったUSBメモリーを奪われた。海軍上層部は反世界軍を指揮した人物がアルロス・マーリンだと睨んでいる」

 千愛海は彼の名前が出た瞬間に驚きと動揺を隠せなかった。彼女もまた千歳と同じ反応だったのだ。それを見た千歳は自分と同じ気持ちをさせまいと、すかさず励ました。

「きっと何かの間違いだ。アルロスさんが裏切るはずがない」

「えぇ…私もそう思ってる」

「…そろそろ時間だな」

 ロエルエリーザ艦長だけに与えられる特別な懐中時計を懐から出して時刻を確認すると、一回だけ深呼吸をして500名の隊列の前へと歩いていった。そして隊列の真ん前で足を止めて隊列へ向き直ると、千愛海から号令が発せられた。

「総員、艦長へ敬礼ッ!」

 隊列の敬礼に応えるため千歳もゆっくりと敬礼を返す。

「直れ!」

「大戦艦ロエルエリーザ艦長の瑞帆千歳だ。諸君の中には初めて戦艦に乗る者もいるだろう。だがここで必要なことは丁寧に教えるつもりだ、心配しなくていい。見ての通り艦長と言っても諸君がイメージするほど歳を取ってない。お互い、仲良くやろうじゃないか。それじゃあ準備ができた者から乗り込んでくれ」

 千歳の呼掛けと共にそれぞれ足元に置いていた荷物を抱え、順番に乗降タラップを登っていった。すると乗り込む様子を見ていた千歳が千愛海に歩み寄ってきた。

「全員持ち場に付き次第、出港準備を進めてくれ。自分はリニアブルーにちょっと用事がある」

「わかりました」

 小走りですぐ近くの係留桟橋に停泊している巡洋艦リニアブルーへと駆け寄ると、乗降タラップの近くに立っていた桜木に声をかけた。

「桜木さん、もうVLSの中は見ましたか?」

「いや、これからだが?」

「リニアブルーのVLSの一角に艦船搭載用のデューイが20発積んであります」

 その言葉を聞いた桜木の表情が一気に曇る。それを聞いてから声量が小さくなった桜木は千歳の耳もとで話し始めた。

「弾頭には?…何が積んである?」

「空です。マリネア連合州国海軍が配備されているデューイを廃棄し、新型のICBMに入れ換える予定らしいので廃棄する物を譲って貰ったんです」

「そうか、そいつはホッとした。空弾頭のICBMなんか積んで何に使うんだ?」

「ロエルエリーザに乗員500人とイージスシステムを載せました。出港してからは目標を捜索しつつ、乗員の訓練とイージスシステムの試験をするつもりです。その為の標的ですね」

 千歳の説明を聞いていた桜木は終始頷きながら今後の動きをイメージしていた。しかし説明を聞いている途中でICBMのもう1つの目的に気付いた。

「イージスのテストに乗員の訓練… もう1つ目的があるだろ?」

「察しの通りです。アルロスさんは必ず何処かから見ているはずです。当然ICBMの発射も察知する…。それで向こうが焦って発射できる米露どちらかのミサイルサイロをハッキングし、手に入れた発射コードでICBMを発射…」

「その発射時のハッキングの足跡を辿って奴らの位置を特定する…。要は奴らへの餌って訳だな?実に理にかなってるじゃないか」

「まぁ…全てうまく行くとは思ってません。想定外の事態が起きたら臨機応変に動くだけです。あと、外洋に出たらお互いが索敵レーダーに映る範囲なら自由に動いていいです」

「2隻分の索敵範囲を有効に使って効率を上げるんだな?」

「さすが!その通りです!」

「これくらい少し考えれば分かるってもんだ」

 桜木とほぼ会話が済んだ頃、ロエルエリーザから連絡が入った。

《艦長、出港準備整いました》

「わかった、すぐに向かう」

 

 大戦艦ロエルエリーザ

 艦長席に腰を下ろした千歳は艦橋の窓の上に設けられた艦長専用の計器から何も問題無い事を確認し、出港の際の最終判断を下した。

「出港を許可する」

「了解、ロエルエリーザ出港する 。港内出力、バウスラスター稼働、係留策を解け」

「機関、港内出力まで上昇。スクリューへ動力接続」

「甲板、岸壁との係留策を解け」

 千歳から千愛海へ下った命令が幹部へ伝達され士官へと流れていく。テンポよく繰り返される復唱のリズムに千歳は気持ちよさを感じた。少人数では感じられないことだ。

「岸壁との距離開く。7m…8m…9m…離岸クリアランスを確保」

「了解、機関微速前進」

 やがて港を出たロエルエリーザとリニアブルーはそのまま速度を上げながら防潮堤を越え、外洋へ出ると打ち合わせ通りリニアブルーは針路を変えて水平線の彼方へ消えた。艦長席から立ちあがり、航海レーダーに歩み寄るとレーダー手と共に確認した。

「これが水平線までの視認範囲だな?」

「はい、50kmになります。そして本艦の索敵範囲がこれで、500kmです。ただし、これはSPYレーダーが機能している場合で、航海レーダーだと200kmまで低下します」

 レーダー手は説明しながらレーダーをいじり、それぞれの範囲を説明した。

「なるほど…わかった、ありがとう。副長!」

「何でしょうキャプテン」

「CICへ行ってくる。しばらくブリッジを頼む」

「了解です」

 

 大戦艦ロエルエリーザCIC

 他の部屋よりも分厚い水密扉を開けると、モニターと計器ばかりの息が詰まりそうな世界が広がっていた。外の様子を伺う窓はおろか、ここだけ二重の隔壁で区切られているためにマーキュリーエンジンの音さえも聞こえない。

「あぁ艦長」

 声がした方向を向くとそこには新たに砲雷長に任命された人物が挨拶をしに歩み寄ってきていた。千歳は頭の中でロエルエリーザ艦内にあるサーバーに保存されている乗員名簿から彼の顔を照合し、名前を割り出した。

「君が砲雷長のドレイ・フリークか」

「はい、なぜ私の名前を…?こうしてお会いするのは初めてのはずですが…」

「乗員名簿をあらかじめ見ていたからな」

「なるほど、そうでしたか!」

「まぁ、見ての通り海軍内でも最年少の艦長だ。楽に接していい」

「ですが、歳は近くても上官は上官で…」

「これは艦長命令だ」

「……わか…った」

 ドレイの返事に「よし」と頷いた千歳は次にたくさんの計器と向き合っている乗員達のことを尋ねた。

「イージス要員はどんな感じだ?」

「全くの素人とまでは言いま…言わないが、全員錬度が高いとも言えない。例えるなら“新造イージス艦に配備されて1ヵ月”と言ったところか…。もし万が一こちらがミスして被弾しそうになったら…メンタルモデルであるあなたが制御して構わない」

「わかった。接敵する前に1年まで上げたいな」

 ドレイと談笑していると索敵レーダーに反応があった。すかさず索敵担当官が詳細を調べる。

「なんだ?これ…高速で移動する小型のアンノウを感知」

 やがてその小さな影は詳細が判明するとロエルエリーザの大きな脅威に変わった。

「ICBMが本艦に向けて接近中!!」

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