自由への戦火~The Liberation of World sea~ 作:ずぅみん
3月10日 ソードライン防潮堤外洋、大戦艦ロエルエリーザCIC
突如現れたICBMにイージス要員が慌てる中、艦の指揮官である千歳は顔色一つ変えずに冷静に命令を出した。
「戦術、ICBMの弾頭の割り出しと発射地点の特定を!レーダーは周囲の警戒を厳となせ!ソナーは海中の異音を聞き逃すな!」
「了解!」
分析結果を待っている時間が惜しい。そう思った千歳は海図台の上から艦内連絡の受話器を取り出し、艦橋へ繋いだ。
「ブリッジ聞こえるか?」
《こちらブリッジ、こちらでもレーダーでICBMを捕捉しました》
「よし、艦の針路を右に90度変えて機関両舷全速前進。ICBMの目標が本艦か見る」
艦橋
「了解しました」
会話を終えて受話器を置くと千愛海は艦橋全体に聞こえるように声を張った。
「針路を変更する。両舷全速前進、面舵いっぱい、針路010!」
「了解。機関出力上昇、両舷全速前進よし」
「おもぉぉかぁぁじいっぱーい!」
次第に加速し最高速度に達した後、操舵手が舵輪を右へいっぱいまで回した。
CIC
《針路変更完了》
「ICBMの解析終了。米国のICBM『UGM-133 トライデントD5』です!2150km離れた潜水艦から発射された模様!現在第3エンジン点火開始、再突入まであと4分!…あっ、誤差修正しました!」
「やはり狙いは本艦か…」
海図台に手を付き、台上の全面に施された電子海図に合成されたICBMのアイコンを千歳はじっと睨みながら対策を考えた。時間が経つに連れてこちらができる対策は限られてくる。とりあえずやるしかない…そう決意した千歳は命令を下した。
「ICBMを迎撃する。SM-3発射!」
「了解!SM-3発射!」
「UGM-133 トライデントD5にセット。第1射、ッてぇぇ!」
主砲の後方にあるVLSが素早く開くと、ブースターエンジンに点火されたSM-3が大量の炎と煙を巻き上げながら高度を上げ、やがて雲の中へ消えていった。
しかしこれで満足しない千歳は万が一に備えてバックアップも準備させた。
「もしミスった時の為にSM-3第2射スタンバイ。シースパロー対空ミサイル、ヴェルミカ対空ミサイルも準備しとけ。速射砲とCIWSはいつでも撃てるように」
ヴェルミカ対空ミサイルとはマリネア独自開発のミサイルである。再突入体が複数搭載されていると考えられる場合、SM-3が弾頭を迎撃するとまだ能力を喪失していない再突入体が落ちてくる恐れがある。ヴェルミカはそういった、単一目標を迎撃した際に発生した複数の再突入体にある程度近付くと搭載されている小型ミサイルを射出、脅威を完全に排除するというものである。
「了解!シースパロー、ヴェルミカ、スタンバイ!」
「シースパロー、ヴェルミカにトライデントのリアルタイムデータをセット、スタンバイOK」
「SM-3第1射、命中まであと30秒!」
レーダー担当官が声を上げた。CIC中央で全てに気を配らせていた千歳がレーダー担当官の座席の後ろに立ち、腕を組んでその瞬間を待った。
「5秒前、4…3…2…1…。目標消失!」
レーダー画面からICBMのアイコンが消えたのと同時に千歳は海図台に駆け寄り、頭上の受話器を取った。
「両舷ウイング、ICBMの方向に何か見えるか?」
《こちら右舷ウイング、ICBMを迎撃したものと思われる煙を視認しました。迎撃成功です》
ずっと待ちわびたその言葉を耳にしたCIC要員に喜ぶ者はおらず、逆に深いため息が相次いで聞こえてきた。千歳も艦長席にどしっと腰を落とすと大きいため息をついた。
「はぁ…疲れた……ICBMの迎撃なんて初めてだ、砲雷長」
「えぇ、自分もです…。でもCIC要員にはいい経験になったんじゃないですか?それにロエルエリーザのイージスシステムも試せた訳だし」
「まぁそれもそうだな。…ってか敬語に戻ってるんだけど」
「やっぱり自分はこっちの方がいいですね」
「そうか…」
しばらく艦長席に座って目を閉じてゆっくりしていた千歳だったが、何かを思い出すとソナー担当に声をかけた。
「そういえばソナー、ICBMを撃った潜水艦はどこ行った?」
「少々お待ちを…」
素早くヘッドセットをつけた担当官はソナーを操って聞こえる音を頼りに海中に潜んでいる潜水艦の居場所の特定を試みた。目を閉じて耳を澄ませ、海中に身を隠す潜水艦に神経を尖らせる。
「いました!方位330、距離およそ1000m!本艦にさらに接近!」
「いつの間に!?」
「違う!これはまた別の潜水艦だ!モーターの音が全く別物です!」
「すぐに国籍を割り出せ!相手との位置関係を3Dモニターに投影しろ」
「3Dモニター投影します」
すると千歳の目の前の電子海図台上に現在海域の海底地形図とお互いの距離が浮かび上がった。そこに今さっき判明した潜水艦の国籍も追加表示された。
「ふむ…今度はロシアか。本艦すぐ近くを航行中のロシア国籍潜水艦に告ぐ。こちらマリネア連合州国海軍、大戦艦ロエルエリーザだ。貴艦の位置は把握済みである。本艦への接近を止め、 通常航行への変更を求む」
千歳は受話器を取り出し、無線越しに相手の説得を試みた。しかし潜水艦は針路を変えず、直進してくる。
「繰り返す。こちらマリネア連合州国海軍、大戦艦ロエルエリーザ。ロシア国籍潜水艦に告ぐ!本艦への接近を止め、通常航行に戻れ!」
その時、何かを察したソナー担当が大声で千歳に報告した。
「潜水艦急速浮上!魚雷発射管の注水音確認!攻撃体制です!!」
「体当たりするつもりです!このままのコースだと舵とスクリューをやられます!」
「取舵いっぱい、バウスラスター稼働。後部主砲、避けた直後に浮いてきた潜水艦を撃て」
「後部主砲、潜水艦の未来位置に照準セット完了、いつでも撃てます!」
千歳は3Dモニターで自分と相手との位置関係を、腕を組んでじっくりと眺めていた。そして潜水艦とロエルエリーザが十字配置になった瞬間、千歳が力強く命じた。
「主砲、撃て!」
「主砲、ッてぇぇ!」
次の瞬間、艦後部から強い震動を一瞬感じたと同時に艦の外から目標に命中する音が聞こえた。
《敵潜水艦に命中!外郭に損傷を確認、浮上します》
「後部主砲そのまま待機、相手に武装解除し投降するようコンタクトを取れ」
「了解しま…あ、敵艦魚雷発射!敵艦後方より4発接近!扇状に散開!!」
「機関両舷全速前進!取り舵いっぱい急げ!CIWSで迎撃せよ!」
「了解!CIWS目標捕捉、迎撃開始!」
敵潜水艦から扇状に放たれた魚雷がロエルエリーザ後部を捉えた。しかし魚雷1発は千歳の迅速な回避命令により命中コースから逸れることができた。残る2発はCIWSが光学観測で捕捉、迎撃して残るは1発となった。
「迎撃急げ!」
「ダメです!海面の乱反射で光学観測が機能しません!」
「なら手動照準で迎撃だ!各自、被弾に備えろ!」
しかしCIWSの弾幕をすり抜けた魚雷はまっすぐ船体に突っ込み、機関室付近で炸裂した。すぐに千歳がダメージを確認する。
「損傷報告!」
「機関室水密区画に浸水!拡大の様子なし、航行・戦闘共に続行可能!」
「よし、全ての主砲を敵艦にセットしろ」
「了解!」
ロエルエリーザに搭載されている全ての主砲が浮上して停止した敵潜水艦を捉えた。砲撃手から射撃準備完了の報告を受けた千歳が射撃命令を出そうとした瞬間、艦橋から連絡が入った。
《ブリッジよりCIC。艦長、すぐにブリッジに来てください!》
「…どうしたんだ?砲雷長、ここは頼んだぞ」
「了解しました…」
切迫した様子の千愛海の声と突如呼び出された理由に疑問を感じながらも、艦長席から立ち上がった千歳はすぐにブリッジへと向かった。
艦橋
千愛海は艦橋に上がってきた千歳を見つけるとすぐに彼を窓際に誘導し、双眼鏡を渡して窓の外を指差しながらすぐに見るように急かした。千歳はその勢いに流されつつ双眼鏡を覗き、その光景に驚いた。
潜水艦の司令塔から続々と乗員が甲板上に集まり、司令塔の上からは乗員が艦内にあるもので作った即席の白旗をこちらに降っている。更には発光信号で攻撃の意思がないことを伝えてきた。
「どうしますか、キャプテン」
「乗員を艦内に収容、潜水艦は曳航し、最寄り港に寄港したのち本国に判断を仰ぐ」
「了解しました」
公海上で長時間停止していると付近の海賊に狙われる危険があるため、手早く曳航準備を済ませたロエルエリーザは足早に最寄り港の日本海軍横須賀基地へ向かった。