自由への戦火~The Liberation of World sea~   作:ずぅみん

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第24話 雪と氷の海

 3月14日 日本海軍横須賀基地、大戦艦ロエルエリーザ艦橋

 この前曳航してきたロシア潜水艦を日本海軍に引き渡した千歳たちは魚雷による損傷を直すために横須賀基地にあるドックに入っていた。

「何か得られる物はあった?」

 唐突にロエルは艦長席で航海日誌の片隅にロエルの似顔絵を真剣に書く千歳に話しかけた。実はロエルはロシア潜水艦を日本に渡した直後の内部調査で千歳がちゃっかり潜水艦内に入っていたことを知っているのだ。

 さっきまで動かしていた鉛筆をピタッと止めるとロエルの方に向き直り、その後しばらく間を開けてから千歳は答えた。

「…特に何もない。ただ艦内の注意書やバルブ、スイッチなどのロシア語を何ヶ国語にも翻訳したものが書かれたテープが至るところに貼られてた」

「反世界軍は多国籍…」

 艦長席の前で立って話を聞いていた千愛海が呟き、千歳が「その通り」と彼女を指差した。しかしそこに千歳の補足情報が追加された。

「多国籍と言っても全て欧州地域の翻訳で、アジア地域の翻訳は一つもなかった。つまり反世界軍は欧州系の人間で成り立っている」

「あの…つまりは?」

 千歳の考察に追い付けなくなってきたロエルが尋ねた。それに千歳はにこっと笑いを浮かべながら考察を続ける。

「現在の反世界軍による世界各国海軍の被害状況は欧州が著しい。だとすれば反世界軍が欧州国家連合の船を大量に持っているのは容易に想像できる。もし仮に欧州の船を使って我々マリネアを防潮堤の外から囲ったとしたら…?」

「我々は勝手に欧州国家連合が一方的に侵攻してきたと勘違いして欧州と戦争を始める!」

「そうだ。我々を囲っていたのは欧州じゃない。欧州国家連合の旗を掲げた反世界軍だ!…という訳です姉さん」

《なるほどね~、その筋だったら欧州の連中から『君たちと戦いたくない!』といった内容の連絡が頻繁に来るのも頷けるわ…》

 いきなり聞こえてきた神城姉さんの声にロエルと千愛海は「いつの間に!?」と驚いていた。それを気にせず神城姉さんは続ける。

《でも、あのミッチェル首相のテレビ演説はどう説明するの?》

「あれは反世界軍側であらかじめそっくりさんで作成した偽演説を会場に来てた中継車経由で流したんでしょう。隕石の軌道管理システムに入り込んだり、米露双方の最高機密(トップシークレット)である核ミサイルコードを盗んだりと、ハッカーは凄腕のはずです。偽演説映像を流すことなど簡単なことです」

《取り敢えず、欧州への開戦準備を撤回して自国防衛重視にシフトさせるわね》

「お願いします」

 神城との連絡を終えた直後、千歳がいきなり何かを思い出した。

「あ…」

「どうしました?キャプテン」

「そういえば潜水艦の中に暗号機みたいなものが置いてあった。たぶん第二次世界大戦中ロシアで運用されていた暗号機だ。恐らく反世界軍は暗号でやり取りしている」

「だったら…NCIO(海軍中央情報局)で暗号の傍受、解読ができるはずじゃ… 」

「もしかしたら暗号がNCIOの監視をすり抜けているのかもしれない 。通信内容が怪しくなければNCIOは拾わないからな」

「しかし…奴らが暗号でやり取りしてる以上、解読しないと奴らの動きは把握できません」

「取り敢えず、分かったことを本部に伝えておこう」

 千歳は通信手に今回の考察した内容を最重要項目とし、高度な暗号化を施した上で本部へ送るように命令した。

 

 反世界軍大平洋方面作戦司令本部第7連合艦隊 航空戦艦グランドマスター

「報告、世界中に散らばっていたマリネアの艦船が太平洋域に再集結しつつあります!」

「何だと?計画通りに進んでいるのではなかったのか!」

 部下からの報告にアルロスは声を荒げた。するとアルロスの隣で椅子に腰掛けていたアリーズが口を開いた。

「私たちの罠に気付いたのね。まず先に“彼”を消さないと…」

「“彼”…とは?」

 アリーズの椅子に歩み寄り、彼女の声が聞きやすくなるようにしゃがんだアルロスにアリーズが話を続けた。

「いるでしょ?あなたのお墨付きの“彼”が…あなたに代わる、マリネア海軍の中心になりつつある人物…。私達の罠がバレたのも彼が一枚噛んでるでしょう」

 アリーズの言葉にしばらく考え込んだアルロスは頭の中に一人の顔と名前を思い浮かべた。最初に出会ったときはまだ一般人で、そこからアルロスが船乗りの世界に引き込んだ人物…。

「…あぁ、“彼”か。だとすればこうなったのは自分の責任だな。自ら起こした問題は、自らの手で解決しなければ…。艦を1隻頂くぞ」

 彼の進言をアリーズは静かに頷いて了承すると、アルロスは険しい表情で足早に管制塔を後にした。それを見計らってアリーズは後ろに立っていた副指揮官に静かに告げた。

「そろそろ私も準備に入る。用意せよ」

「それは現作戦の本格実行を意味します。何があっても戻れませんよ。発動は一度きり…アルロスさんにも伝えなくていいんですか?」

「えぇ…もう限られた時間は僅かだ。彼もそれは知っている。手後れになる前に、実行するのだ」

 アリーズは静かに、だが決意に満ちた目で副指揮官に訴えた。彼女の固い意思を悟った副指揮官はゆっくり頷いた。

「わかりました…準備します」

 一礼し、管制塔から副指揮官が去るのを見送ると窓の外を眺め、呟いた。

「荒海の 怒りに燃えし その我が身 葬り去るは 母国と共に…」

 

 3月26日 オホーツク海サハリン近海、大戦艦ロエルエリーザ

 日本で損傷箇所を修復したロエルエリーザはマリネア本国からの命令で、海賊と接触するリスクを避けるため日本沿岸を北上しながらオホーツク海までやってきていた。NCIO(海軍中央情報局)の解析によると最近、オホーツク海から頻繁に反世界軍の通信を傍受したというのだ。そのため、ロエルエリーザとリニアブルーに先行調査を命じたのであった。

 あいにく天候は霧がひどく、視界ゼロの状態だった。「こんな状態ではろくに戦闘もできない…。ましてやこの海域に関して相手が詳しいとなるとこちらがより不利になる…」窓越しにそう思った千歳は自然と険しい表情になった。

「艦長?大丈夫か?」

 ふいに航海長のフォルニード・アイゼルが声をかけた。我に返った千歳は「ぁあっ!いや、なんでもない!」と変な返事をした。

「まーた自分の世界に入ってたのか?艦長」

「そんな訳ないだろ?海軍本部の連中のことだ。なんでこんな天候なのに調査させるかなーって…」

「わかる、こんな霧じゃ調査どころじゃないね。まるで目を閉じて操艦するようなもんだもの」

 アイゼルは今までマリネア連合州国海軍の大型艦を乗りこなしてきたベテランだ。元気がある最近の女の子、というような感じで、その華奢な見た目で大型艦の大きな舵輪を回すギャップに目を奪われる。ロエルエリーザに乗る幹部で唯一と言っていいくらい千歳とはフレンドリーだ。

「現在速力は?」

「13ノットだ」

「よし、それでいい。この天候じゃGEWSによる高解像度偵察カメラは無意味だな…」

「GEWSの静止衛星は宇宙のレーダーサイトの役割も果たしているからリアルタイムでロエルエリーザのレーダーに反映できるよ」

 千歳の呟きに自分の席の計器をじーっと眺めていたロエルが反応した。

「その通り。だからロエルエリーザの索敵レーダーと組み合わせて3次元解析し、レーダーを立体化する。できるな?」

「えぇ、お安い御用だね」

「いざというときはその“電子の目”を使おう。と、なると…あとは光学観測照準か」

「それに関しては立体化レーダーにリンクさせて従来通りレーダー観測照準で使うしかないですね」

 ロエルエリーザ乗員の中で下手したら千歳よりも詳しいかもしれないドレイ・フリークが、膨大な情報量の全武装のコントロールシステムが収められたタブレットを操作しながら答えた。それに千歳が頷く。

「よし、万全の態勢を整えるぞ」

「了解です」

 各種設定完了してからしばらくして索敵レーダーに反応が現れた。

「レーダーに反応!方位060に反世界軍艦!」

「方位280にも反応!」

「ついに来たか。自分はCICに行く。ブリッジを頼んだぞ」

「わかりました」

 

 CIC

 CICに降りてきた千歳は索敵レーダーに表示された敵の配置を見て驚いた。

「完全に囲まれてます…艦長」

 状況をずっと見ていたドレイが千歳に静かに告げた。索敵レーダーのモニターに歩み寄ってみるとドレイの報告通り、特に後方に反世界軍艦が集中して包囲網を構築していた。千歳はこの配置に違和感を覚えた。

「おかしい…」

「…何がです?」

「こんなに綺麗に囲まれるなんて…まるで最初から本艦がここに来るのを分かっていたみたいじゃないか?」

 千歳の口から出た言葉に、CICにいた全員が千歳の方を振り向いた。乗員の視線を気にした千歳はドレイに耳打ちした。

「どこかから情報が漏れてる恐れがある…」

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