自由への戦火~The Liberation of World sea~ 作:ずぅみん
3月26日 オホーツク海サハリン近海、大戦艦ロエルエリーザ艦橋
大勢の反世界軍艦に囲まれたロエルエリーザとリニアブルー。2隻だけでは戦力差は明らかだ。再び艦橋に戻ってきた千歳は今出来ることを考え、片っ端から命令を出していった。
「桜木さん、イージスシステムをフル活用して防空のみ集中してください!」
《おう!任せろ》
無線越しに威勢良く返事した桜木は後ろの幹部たちに力強い声で命令を出してる最中に無線を切った。「桜木さんらしい…」と思いながら千歳はロエルに指示を出した。
「ロエル、気象情報や敵の配置など全てをデータ化して演算結果を全武装の照準に反映させるんだ。今の霧では君の演算結果が頼りだ」
「わかった」
「エンジンとスクリュー、それに操舵を俺の管理下に置くぞ。ドレイは敵弾が飛んでくる方向を、アイゼルは視認範囲の監視を、千愛海はダメージコントロールを頼んだ」
「了解」
それぞれに指示を出しながら艦橋中央の操舵輪の前に歩み寄った。操舵輪からは死角が極力できないように設計されているため普段は見晴らしがいいのだが、今は霧が一帯を覆っているために白くて何も見えない。その霧の中に反世界軍が紛れていると思うと、千歳の表情はより一層険しくなった。そしてゆっくり操舵輪に手をかけると意を決したように呟いた。
「よし、かかって来い!」
するとその言葉を待っていたかのように一斉に敵が攻撃を仕掛けてきた。レーダーと外の風景を交互に見ていたドレイが報告を始める。
「グリッドNo.037から082にかけてミサイル群A、114から156の範囲にミサイル群B、180から砲弾群A、220から278、306から349にそれぞれ砲弾群B、C接近!距離36000m!!」
「ドレイ、残り5000になったら伝えてくれ」
「…え、はぁ!?あの…迎撃は!」
ドレイが不安になるのも無理はない。ロエルエリーザから5000mのところまで迫ってから迎撃するのでは遅すぎるのだ。しかし千歳はちゃんと迎撃できる手段を整えていた。「アレを使うのか…」というような目でロエルが千歳を見てきたので彼も余裕の表情で返した。だがその手段を知らないドレイは切羽詰まった感じで報告した。
「残り5000m!!!」
「コンデンサ解放!」
その言葉と同時に千歳はコンデンサのセーフティリレーを解除し、開放された高電圧が動力炉に流れ込み衝撃波を発生。ロエルエリーザの周囲に現れた衝撃波にぶつかり、迫っていた砲弾群とミサイル群は全て消えた。
千歳は迎撃してからすかさず艦のレーダーを駆使して敵艦の詳細な情報の収集に取り掛かった。
「この煙突の独特の傾き方、エーメイド型か…それにベイトルード型、ライアン・モーリス型…ロエル、照準固定はまだか!早ければあと10秒で第2射が飛んでくるぞ!」
「予測以上に演算処理に時間が…」
自分の周りに浮かび上がる演算画面のウィンドウを手であちこちに移動させながら集中している。だが、敵は待ってはくれない。むしろこれを好機とばかりにお構い無しに撃ってくる。
「グリッドNo.092よりミサイル!」
「右に回す!CIWSで迎撃だ!」
「了解!CIWS AAWオート!」
ロエルエリーザ右舷に搭載されたCIWSが目標を自動補足し、迫っていたミサイルを全て撃ち落とした。だがこれでは埒が開かないと思った千歳は強硬手段に打って出ることにした。
「アイゼル、敵の密度が高い所は?」
「艦隊の南東部、グリッドNo.134方向!」
「よし、グリッドNo.134へ転舵、機関全速前進!」
舵輪を勢いよく右に回した千歳はエンジン出力を最大にして加速すると、目の前の敵巡洋艦の中央側面を目掛けて思いっきり突っ込み、船体を真っ二つに引き裂いた。衝突しても勢いの衰えないロエルエリーザはそのまま2隻目、3隻目と立て続けに体当たりして沈めた。
「演算完了!照準固定よし!」
「手当たり次第沈めて構わない、撃ち方始め!」
次の瞬間、ロエルエリーザのありとあらゆる武装から砲弾やミサイルが周辺の敵艦に向けて放たれた。ロエルの演算によって弾道が最適化された砲弾やミサイルは敵艦の弾薬庫にクリティカルヒットして大爆発を起こし、瞬く間に敵艦は海底へ姿を消した。
「雑魚は全部沈んだか?」
「現在、反応はリニアブルーしか認められません」
「よし、調査に戻るか」
本来の目的に戻ろうとした時、突然無線からノイズが聞こえてきた。偶然無線台の近くにいた千歳が受話器を取ってよく聞き取れるように周波数を合わせた。
「こちらマリネア連合州国海軍、大戦艦ロエルエリーザ。貴艦の所属と航海目的を」
《航海目的は、ない》
クセのある独特の低い声を聞いた瞬間、千歳の顔から余裕の笑みが消えた。不穏な空気を感じ取った千歳はすぐに逆探知をして正確な場所を特定するよう手で合図した。
「久しぶりですね、アルロスさん。…いや、マリネアの裏切り者!」
《その調子だと、相変わらず元気そうだな》
逆探知を命じた通信士に目をやると、逆探知成功のハンドサインが返ってきた。それを見た千歳は再び前を見据えた。
「なぜ我が国を裏切ったんです?」
《安心しろ千歳、私は他の裏切り者と違って自分の欲望のために動いたのではない》
「だったら何のために…!」
「今から教えてやる」
受話器のスピーカーからではなく、自分のすぐ後ろから聞こえた声にハッとした千歳はすぐに後ろを振り向いた。するとそこには銃口を千歳の額に向けて引き金に指をかけたアルロスが立っていた。じっと照準越しに見つめる目にかつての彼の面影はなく、ただ冷酷さが滲み出ていた。
「忘れましたか?自分は死なないんですよ」
「そうだったな。では、こうしよう」
するといつの間にか千歳とロエルにしかアクセスできないロエルエリーザのコントロール系統に忍び込んでいたアルロスはエンジン回転数をアイドリング回転から止まりそうな回転数にまで急激に下げた。すると千歳が胸元を抑えてその場に崩れ落ちた。
「お前こそ忘れたか?お前はこの艦の艦長だ。エンジンが止まればお前も死ぬ」
千歳が締め付けられるような胸の苦しみに耐えながらアルロスをじっと睨んでいると、彼は続けて話した。
「どうやら、無線信号を逆探知してエンペラーを攻撃しようと位置を特定していたみたいだけど、今となってはそれすらできないだろう。ロエルエリーザのコントロールシステムはすでに掌握済みだ。お前は反撃すらままならない…」
「…どうして!…なんで…!」
今までずっと信頼して彼を信じていた千歳の目には、裏切られた悲しみで涙が浮かんでいた。それをよそにアルロスは事の経緯を話し始めた。
「千歳。お前は今、マリネアがどういう状態か分かっているか?」
突然の質問にただうずくまりながら聞く事しかできない千歳はただ何も反応せずアルロスを眺めたままだ。
「今までマリネアは世界の最先端を常にリードし、その誇りを輝かせていた…。だが今はどうだ?アメリカやロシア、更には中国までもがマリネアに追い付こうと必死になっている。それに比べて我々は過去の栄光で慢心し、国のトップも平和ボケすらしている。そしてその結果が、600年も突破されなかった防潮堤に大穴を開けられた!」
アルロスの言い分に千歳は何も言い返すことができなかった。今のマリネアの危機管理に苛立ちを募らせるアルロスは更に続ける。
「千歳、お前はまだ関わるべき案件ではない。分かったら大人しく退け」
するとアルロスは持っていた拳銃の引き金を引き、千歳のすぐ後ろにあったエマージェンシーボタンを銃弾で作動させたと同時に、掌握していたコントロールシステムでロエルエリーザを自動航行に設定した。
「…周りに流されるな、自分を貫け」
「アルロス!話はまだ終わっt…」
最後にアルロスがいた方を千歳が振り返ると、すでに彼の姿はそこにはなかった。