自由への戦火~The Liberation of World sea~   作:ずぅみん

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第26話 2番艦

  3月27日  西太平洋海域、大戦艦ロエルエリーザ

  暖かな春の日差しを浴びながら、穏やかな洋上を進むロエルエリーザ。その第1主砲の砲塔の上に千歳が寝転んでいた。アルロスに奪われた指揮系統を奪還するために徹夜で頑張っていたが、彼の思考回路がそろそろ限界に達していたのだ。

「彼は何をやってくれた・・・?」

  そう呟いてみるが、考えられる箇所は全部見て回り、片っ端からトラブルシューティングをかけた。不幸中の幸いは、アルロスがロックした自動航行設定の目的地がマリネア本土になっている事だろうか。

「何やってんのよ?キャプテン」

  甲板上から副長の千愛海が声をかけた。

「少し頭を冷やしてんだ。この艦のシステムは複雑すぎる・・・。膨大な量の回路分析にトラブルシューティング、現行型戦艦はもっと簡略化されてるぞ・・・。『動く骨董品』やら『生きた歴史の証人』やら言われるのがよく分かる・・・」

「だろうと思ったわ。これ、なんだと思う?」

  そう言って彼女はコードが繋がった端末のようなものを投げてきた。これを受け取った千歳は端末を見るなり即答した。

「これは外部から操艦するための受信処理端末だ。こいつもトラブルシューティングしたが問題なかったぞ・・・」

「いいえ、それが原因よ。ロエルが解析をかけたら、それが常時受信状態になって外部操艦モードになってたわ。さらに外部操艦を維持するためにマリネアのAクラス暗号でハイレベル暗号処理化されてた。まぁ・・・ぶっこ抜きによる強制終了には勝てなかったみたいだけど?」

「じゃあ、これで全ての系統の操作権限を奪還した?」

「えぇ、そういうことよ」

  試しに千歳がロエルエリーザの舵を操作すると、さっきまでびくともしなかったのが自分の思った通りに動くようになった。

「もう防潮堤がそろそろだけど、引き返して彼を追う?」

「いや、引き返してアルロスを追うぞ。今ならシグナルは消えていないはずだ」

  千歳は砲塔の上から千愛海の前の甲板目掛けて飛び降りたが、体勢を崩して倒れかけた。それをすかさず千愛海が支える。

「しばらくは入渠が必要ね、今のあなたじゃ戦闘なんて無理よ。艦もあなたも、少し休めたらどう?まともに寝てないでしょう?」

「・・・そうするか。じゃあ艦長室で休むとするよ、このあとの指揮の引き継ぎを頼む」

「了解、キャプテン」

 千歳が艦内へ消えた後、千愛海もしばらくしてから彼の後に続いた。

 

 艦橋

 すっかり水平線の向こうに日が沈んで空がだんだんと暗くなる頃、艦橋で幹部たちとゆったりとした時間を千愛海は過ごしていた。

「こんな穏やかな気持ちで眺める夕暮れは久々ね・・・」

「そうだね~、作戦行動中なのを忘れるくらいだ・・・」

「念のため言っておくけど、忘れちゃダメよ?航海長」

「分かってますよ?副長」

 やがて日没時刻を迎え、辺りがすっかり暗くなった頃に昼寝から起きてきた千歳が艦橋へやってきた。

「みんなおはよ~」

「おはようございます、キャプテン。ゆっくりできましたか?」

「あぁ、お陰様で。変わったことはあったか?」

「いいえ、特に何も。平和な海ですよ」

「平和、ねぇ・・・」

 艦橋の入り口から窓際に歩み寄った千歳は目を細めながら外の漆黒の世界を眺めた。しばらくの静寂な時間が艦橋に流れた後、ロエルが何かに気付いたらしく言葉を発した。

「・・・艦長、エンジンをアイドリングまで落としていい?」

「どうした?」

「いや・・・この艦にそっくりなエンジン音が海中から聞こえる・・・」

「ふむ、許可しよう。ソナー、聞き取れるか?」

「やってみます」

 ソナー担当官の表情が次第に困惑したものに変わっていく。いてもたってもいられず、ソナー担当官に尋ねた。

「どうだ?」

「全く一緒です・・・同型のエンジンを搭載した何かが海中にいるようです・・・」

「同型のエンジン?!ロエルエリーザと同型の艦ってことか!?」

「それは有り得ません、マーキュリーエンジンを搭載した艦はプロトタイプであるこの艦(ロエルエリーザ)とそれを基に建造された2番艦のシャンデローザだけですが、すでにシャンデローザは海賊によって奪われており・・・あっ」

「あ・・・」

 千愛海の話で全てを察した艦橋にいた者はあまりの事にしばらく呆気にとられていたが、すぐにハッと我に返った千歳が冷静に指示を下した。

「対艦戦闘用意!相手は真下だ、急げ!!」

「敵艦浮上してきます!深度100m!浮上まであと25秒!!」

「相手の予測浮上座標に主砲照準セット!」

「照準固定完了、射撃用意よし!」

 間に合った、あとは浮上を待つだけだ・・・千歳は海面が泡立つところをじっと見据えた。ロエルエリーザの武装は全て、敵艦が浮いてくるであろう海面が泡立つ部分に向いている。浮上してくればロエルエリーザの総攻撃を受けることになる。そうとも知らず敵艦は浮上を続け、ついに相手の艦橋の最上部が海中から姿を現した。

「敵艦、視認!!」

 海中から浮上してくるに連れて、だんだん相手の全容が明らかになる。2番艦という事もあり、武装の配置から細かなアンテナの数までロエルエリーザとそっくりだ。ただ、色が最速の海賊船として名を馳せた帆船ブラックパール号を彷彿させるような、漆黒の外観を覗けばだが・・・。

 しかし、全く予想していなかった事態が千歳を襲った。

「・・・なっ!?敵艦より交信要求!マリネア連合州国海軍の暗号コードを使用しています!」

「海賊がマリネアの暗号コードだと!?」

 千歳たちがパニックになるのも無理はない。暗号コードはマリネア海軍のみで使用される連絡回線で用いられ、極秘作戦の内容通達にも使われる秘匿回線である。そのため他国軍はおろか、マリネア空軍でさえも解読不能なほどの暗号化処理が施されている。更にその暗号コードを解読するためのキーはセキュリティ向上のために定期的に解読キーが変更され、マリネア海軍本部から解読キー変更の通達が届く。故にマリネア海軍に所属していないと使えない連絡回線なのだ。

「海軍本部が送信先から裏切った艦を削除していない・・・?」

「それはないはずだ、最重要事項(トップシークレット)も送られてくる回線よ!?」

「そんな事は今はどうでもいい。まずは応答してみない?」

 ますます混乱する艦橋内を、若干口調を強めたロエルの言葉が響き渡った。冷静さを取り戻した千歳は未だに呼び出しを続ける受話器を取り上げ、交信チャンネルを開いた。

「こちら・・・マリネア連合州国海軍、大戦艦ロエルエリーザ・・・」

 自身の所属と艦名を伝え、数秒待ち続けた。そして小さくノイズが聞こえる受話器の向こうから、敵艦の艦長と思われる声が聞こえてきた。

≪こちら、反世界軍所属 大戦艦シャンデローザ。貴艦はすでにこちらの遠距離地上砲の照準に捉えている。武装解除し、全員投降せよ。さもなくば撃沈する≫

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