自由への戦火~The Liberation of World sea~ 作:ずぅみん
3月28日 西太平洋海域 大戦艦ロエルエリーザ
月明かりに照らされた夜の海に不気味に浮かび上がる漆黒の大戦艦、それを睨みながら千歳は頭の中でずっと考えていた。ここで抵抗すれば彼らの遠距離地上砲とやらがすぐさま火を噴くだろう。砲撃されれば全地球早期警戒衛星GEWSを使って射撃地点を特定できるが、地上砲のデータが不明なため迎撃に不安が残る。その状態で迎撃しながら地上砲自体に攻撃となるとリスクがとても高い。とすれば、大人しく拿捕されるしかないのか・・・。
《繰り返す。武装を解除し投降せよ、さもなくば撃沈する》
再度聞こえてきた警告に思考を中断させられた千歳はある決断をした。
「・・・相手の要求を飲むことにする」
驚きの判断に艦橋にいた者全員は動揺を隠せなかった。幹部たちが次々と抗議の声をあげる。
「キャプテン!?」
「正気ですか!」
「落ち着け、拿捕通告をするなら普通のオープンバンドでもいいはずだ。それなのにわざわざマリネアの秘匿回線を使ったのがとても気になる。おかしいと思わないか?」
千歳の説得に幹部たちは口を閉ざす。それを見た千歳は早速接岸準備をするように命令した。
反世界軍、大戦艦シャンデローザ
「ふむ、抵抗するより拿捕を選んだか・・・」
艦橋の窓際でシャンデローザの艦長ドーラー・レジャルドが右手だけで双眼鏡を支えながらロエルエリーザの動向を注視していた。その後ろでシャデルが自分の席である副長席に腰かけ、航海日誌に記入をしながらつぶやいた。
「賢明な判断です。下手に抵抗して艦を失っては何もできませんから・・・」
「それもそうだな。それにしても・・・優秀な船乗りそうじゃないか」
窓辺に寄り掛かりながらドーラーはタラップを渡ってくる、明らかに艦長と思われる男のことをじっと見つめた。
応接室
静かな空間に壁掛け時計の時を刻む音が響きわたる。テーブルを挟む様にしてロエルエリーザとシャンデローザの両艦長が相対して座っていたが、お互いに相手の顔を見たまま何も話そうとしない。と、その状況を打開するために先に動いたのは千歳だった。
「ずっとさっきから気になっていたのですが、いいのですか?付き添いもなしに・・・」
千歳が気になるのも無理はない。実はこの部屋にはこのシャンデローザの艦長と自分の二人しかいないのだ。これで拿捕されているとは到底思えない。
「あぁ、気にするな。最初からお前の事を拿捕するつもりなんてないからな」
あまりにも予期しなかった言葉に、千歳は僅かに眉間にしわを寄せた。
「それは、どういう意味です・・・」
「我々に対する敬語、それに君の姿勢から見て、薄々感付いているのだろう?これが単なる拿捕では無いことに・・・」
「・・・はい、普通ならわざわざ秘匿回線を使う必要なんてありませんから」
「ふむ・・・君はやはり優秀な船乗りのようだ。我々の意図を汲んでくれた事に感謝しよう。私はマリネア連合州国海軍所属、大戦艦シャンデローザの艦長ドーラー・レジャルドだ。君の話は、アルロスから常々聞いている」
彼はスラスラと何気なく話しているが、千歳にはいろいろと気になりすぎてどれから突っ込めばいいのか分からなくなった。とりあえず情報を整理することにする。
「えっと・・・マリネア海軍所属ですか?」
「あぁそうだ、あえて内通者として反世界軍に入って海軍本部に情報を流している」
「アルロスさんを知ってるのですか?」
「あぁ、あいつとは同期でな・・・」
「そう・・・ですか・・・」
ひと息ついたところでドーラーはテーブルの上に置かれていた紅茶をひと口飲むと、再び口を開いて話を始めた。
「ところで、これからどうするんだ?」
「どうするとは・・・?」
「アルロスはとんでもない計画を始動させた。あまり時間は残されていない・・・」
ドーラーは横に置いてあった鍵付きの施錠された鞄からタブレットを取り出すと、起動して千歳の前に置いてみせた。
「・・・
「あぁ、彼の経歴は知ってるか?」
「はい。過去にマリネア王国海軍に所属していたとか聞きました」
「そうだ、昔知り合ったばかりの頃に話をしたが・・・あいつは危険だ。とても過激な思想を持っている・・・」
ドーラーの切迫した様子に嘘ではないことを千歳は確信した。彼の説明を聞きながらさらにタブレットの内容を読み進めていく。
「争いの根本的原因である人類を地球上から消し去る、ですか・・・。わざわざ米露双方から核の発射コードを奪ったのも頷けますね」
「分かるだろう?彼は本気だ・・・」
「早速海軍本部に連「いやダメだ」
本部に報告しようとした千歳をドーラーがすぐさま制した。
「なんでですか?!」
「君たちのことはアルロスに全部伝わる!今私と会っていることも、君の行動も逐一だ!今までそういう経験はなかったかね?」
その言葉を聞き、千歳はすぐにサハリン近海の戦いを思い出した。まるで来るのが分かっていたかのように包囲されていたあの戦いだ。
「かなり近くに内通者が・・・?」
千歳のそっと口にした言葉にドーラーはゆっくり頷いた。
「とても身近な所にいる・・・」