自由への戦火~The Liberation of World sea~ 作:ずぅみん
3月29日 西太平洋海域
だんだん朝日が昇っていく大海原をロエルエリーザとリニアブルーは広めの間隔を取りながら、引き続きマリネア本土を目指していた。黒い戦艦シャンデローザはというと、ロエルエリーザを解放してからは早々と潜航して追跡不可能な状態になっていた。
「シャンデローザの追跡シグナルは探知不可か?」
「…はい、反応ありません」
「シグナルを切った上に無音潜航でくらませたか…」
はぁ…と小さくため息をつくとソナーモニターからゆっくり離れ、艦長席に深く腰を下ろして艦の損傷確認を始めた。
「各所の損傷は軽微か…」
「一応今後の戦いの為に修復しておくべきかと」
「そうだな…航海長、近くに無人のドックはあるか?」
「ちょっと待ってね〜」
アイゼルは自分の席の電子海図を操作し、周辺海域を探し始めた。
「あったよ〜、現在地から北北東へ12kmのところにあるエーデル島のエレイン基地。ここは島自体が放棄された場所たからぴったりだと思う」
「よし、そこを目指そう。リニアブルーにも伝達」
「了解~」
エーデル島エレイン基地
ロエルエリーザは先の戦闘で破損した箇所をあらかじめ積み込んであった予備パーツへ交換するためドック入りをした。もちろんこの島は無人島であるため、交換作業は全て乗員たちの手に頼らざるを得ない。作業中の光景を見て長時間動けないと悟った千歳は係留桟橋で周囲警戒に当たるリニアブルーに立ち寄った。
イージス巡洋艦リニアブルー艦橋
「なぁ、千歳…いつまでそうやってるんだ?」
桜木が艦橋の壁にもたれかかってスマホをひたすらいじる千歳に声を掛けた。この状態ですでに数時間は経過しているのだ。
「いつもなら"ちょっと島を探検してくる"とか言い出すのに珍しいじゃないか」
「まぁ~今はちょっと気分じゃないんでね~。歩き回ると疲れますし」
「そうか…」
再び二人の間に静寂な時間が流れた。時計の秒針が時を刻む音だけが周囲に響く中、さらに桜木が切り出した。
「艦の修復は離れてていいのか?ここは居ても退屈するだけだし、他の場所に行ってもいいんじゃないか?」
「艦の作業は全て副長に任せてあります。それに、他の場所もそれなりに退屈だったのでここが一番かなって」
「なるほどな…」
あれこれ話しかけてみたが千歳は一向に動く気配がない。一体いつまでこんな事が続くのか、桜木が思った瞬間にそれは起きた。
突如として静寂を切り裂くように無線の呼び出し音が鳴ったのである。千歳がふと顔を上げて無線台を見ると連絡をよこした相手艦の艦名が書いてあった。『イージス艦レイモン・サウザー』マリネア連合州国海軍で初めて反世界軍に奪われたイージス艦の名前である。すかさず桜木が通話拒否を押し、無線台の前に立ち塞がって誤魔化そうとした。それを見た千歳はすっと立ち上がり、それまでいじっていたスマホを懐にしまった。
「随分懐かしい艦名でしたね」
その言葉に桜木は動揺を隠せない様子だった。
「これは推察ですが、おそらく反世界軍からの定時連絡確認だったんでしょう。定時を過ぎても連絡が無いから向こうから寄越した、そんなところでしょうか?」
「違う、間違いだ…」
「では敵である反世界軍のイージス艦から何らかのミスで海軍所属艦に無線を寄越したとでも?」
「さてはお前、これを狙って…」
もう言い逃れ出来ないと思ったのか、大きく深呼吸した桜木はゆっくりと話しだした。
「千歳、分かってくれ。これは我が国の…マリネアの為の戦いだ」
「国を裏切り、味方の船を沈めてどこが国の為の戦いだ!!」
桜木の言葉で千歳は一気に怒りをあらわにした。
「冷静になれ千歳。我が国は今まで大きな脅威など皆無で国民全てが平和ボケしてしまった。その結果が防潮堤を突破されてもすぐに動こうとしなかった無能な政府を作り上げた。このままではいずれ好機とばかりに他国に攻め込まれ、マリネアは消滅するだろう。それを千歳は良しとするのか」
「現状のままでいいとは思っていないです。やり方が、気に食わないだけで」
千歳はそう言うと腰に下げていた軍刀に手をかけると柄を回しロックを外した。これでいつでも鞘から刀を引き抜くことができる。
「そうか、それが千歳の答えか…だが、今回は戦わずして勝ちだな」
千歳が周囲を見渡すと、銃を構えた幹部たちが千歳を取り囲んでいた。察した千歳は刀に手を携えたまま言葉を発した。
「なるほど…これでは勝ち目がないですね。ですが、自分の勝ちです」
なにぃ…?と桜木は眉をひそめた。誰がどう見ても銃口の数が圧倒的に多い桜木側の方が有利だ。しかしその状況でも千歳は不敵な笑みを絶やさなかった。なぜなら、あるものを待っていたからだ。
《お取り込み中失礼しますよ桜木さん》
突如無線のスピーカーから聞き覚えのある声が聞こえてきた。それに千歳はニコッと微笑んだ。
「遅いですよまったく。やられたらどうするんですか」
不意を突かれた幹部たちは慌てて音声の発信源を特定し始め、そして幹部の1人が桜木に報告した。すぐに双眼鏡を取り上げて水平線上を見つめると、泡立つ海面の中から急速浮上してくる漆黒の戦艦が見えた。静かに双眼鏡を下ろした桜木は冷静に怒りながらゆっくり呟いた。
「なるほど、そりゃ敵わない訳だ…降参だよ」
《それでよろしい。桜木さん、あなたを国家反逆罪で拘束します》