自由への戦火~The Liberation of World sea~ 作:ずぅみん
11月30日 マリネア海軍機関本部
「スリザリーが沈められた!?」
「はい。ソードラインで哨戒中、突破してきたイギリス艦船を発見したので警告する為に併走していたところ、攻撃してきたそうです」
神城はたった今入ってきた情報に耳を疑った。今まで突破されることのなかったソードライン、第1防衛線が突破されたのだ。さらに悪い知らせは続く。
「ソードライン内に侵入したイギリス艦船は1隻でなく5隻で、艦隊だったとのことです。そのうちの3隻はスリザリーが撃沈、2隻が未だ本国を目指しています」
ここまで説明を聞いてきた神城だったが、ここである違和感に気付いた。入ってくる情報がやけに詳しいのだ。
「それは誰からの情報?」
「スリザリー乗員からですが…名前は名乗りませんでした。報告の途中で通信が途絶えました」
「そう…」
神城はそういうとマリネア連合州国全体の地図とその周辺にある連合州国管理海域の海図が合成されたレーダーを眺めた。連合州国の南のソードライン付近には連絡を絶ったスリザリーのマークと、ソードラインに侵入したイギリス艦船と思われる不審船5隻のそれぞれのマークが表示されていた。それを見た神城はつぶやいた。
「まだ防げる…。管理海域の哨戒艦全艦に通達する。現在ソードライン内南方海域を航海中のイギリス艦隊は撃沈対象である。近くの艦は現場海域に急行、その他の艦は警戒を厳にせよ。以上、本部からの通達を終える」
受話器を置いた神城はレーダーモニターを見た。その後ろ姿に海軍機関副本部長マリル・オアシルが声をかける。
「果たして、本当に防げるのでしょうか?」
「信じるしかないわ…。奴ら、ソードライン内側6海里まで進んでる。こんなに攻め込まれたのは480年ぶりよ」
神城はそう言って、マリルの顔を見た。マリルは神城の真剣な表情に何も言えず、下を向いてうつむいた。
マリネア連合州国最高議会議場
本日、ここである案件が可決された。参加者9人のうち賛成8人、反対1人という結果だった。唯一反対したのは大戦艦ブルーエリア艦長大佐、アルロスだった。彼が反対した案件の名前をアリオン最高議会議長が読み上げた。
「本日の議会、中国に対する宣戦布告の案件を賛成8人、反対1人で可決しました」
連合州国第零管区特務機関特殊警察庁
「なんで今日の案件は反対だったの?」
不思議そうに最高議会参加者で第零管区特務機関局長のエルシアが訪ねてきた。アルロスはこれまでの議会で一度も反対をしなかった。それなのに今回の案件で初めて反対したのには訳があると思ったのだ。
「今のところ、中国の言動や行動に、日本に対する挑発は見られますが、まだ力をもって制する程ではないと思います。みんな、中国の思うがままに動かされてるんですよ。こっちが先に手を打てば、中国はさらにエスカレートし、そのうち核を持ち出すかもしれない…」
真剣な表情でアルロスはエルシアの問いに答えた。しかし、エルシアの次の言葉はアルロスの予想を覆した。
「あっちが核を持ち出そうと、我がマリネアの軍事技術力には及ばないわ。日本にもそれなりの護衛をつけるつもりだしね」
「最高議会参加者は平和ボケしてるんですよ。我が国の
「連合州国の
その時アルロスは思った。“こいつも平和ボケが始まった…”と。うんざりしていると、彼のスマホがポケットの中で連絡が来ていることを伝えた。アルロスがポケットから取り出し、画面を見るとそこには大統領から「再招集」とだけ書かれていた。
「エルシア、再招集だそうです」
「何それ?」
「…再招集です。最高議会に戻りますよ」
そう言って二人は向きを180度変え、来た道を戻り始めた。
連合州国最高議会議場
「悪いね、呼び戻して」
議場に入るとアーレン大統領が呼び戻したことを詫びた。アルロスは「いえいえ、お構いなく」と手を振って意思を伝えると自分の席へ座った。周りを見渡すと、どうやら自分たちが最後だったようだ。周りを確認したアルロスは足を組んで席に深く腰掛け、目を閉じてゆっくりし始めた。全員揃ったところを確認するとアーレンは話し始めた。
「再び招集してすまない。君たちを呼び戻したのは他でもない。状況が切迫している。単刀直入に言おう。イギリス艦5隻が領海侵犯した。現在も領海に侵入している。我が海軍所属イージス艦が領海から出るよう警告したが砲撃を受けて沈んだ」
ある程度現状を伝えると議場内がざわめき始めた。
「領海侵犯って…第1防衛線のソードラインに侵入したってことか!?」
「海軍のイージス艦は何やってんだ!」
「480年間、侵入されることなんてなかったのに!」
議場が騒がしくなる中、一人の男が声を発した。
「そのイージス艦は応戦したんですか?」
議場が一気に静かになり、ざわついていた者が一気に彼の方を向いた。目線をまっすぐ大統領に向けたアルロスは大統領からの答えを待った。
「応戦する時間がなかったそうだ」
「艦隊は5隻構成だったんですね?」
「あぁ、沈む寸前に報告があった」
「沈められたイージス艦はいつ作られたものですか?」
「つい数週間前に進水式を終えた最新鋭艦だ」
「…その領海侵犯船は本当にイギリス艦ですか?」
「沈められたイージス艦の報告によれば、イギリスの国旗を掲げていたそうだ」
しばらく質問の嵐をして、アルロスは考え込んだ。何か納得がいかないのだ。そして、つぶやいた。
「おかしい…」
「何がだ」
「数週間前に進水式を上げたばかりの我が国最新鋭のイージス艦が応戦できずにあっけなく沈んだ…。しかもたった5隻の戦力に…。我が国の最新鋭艦ならば搭載している武装も防御もシステムも、全て我が国の最高水準のものです。厳正な性能テストで250対1で戦っても互角に渡り合える結果でした。それに対抗できる艦をイギリスが持っていると思いますか?」
「私も信じられない。だが現実で実際に沈んでいるのだ!」
数分の質疑応答が続いた後、議場内に静けさが戻った。しばらく考え込んだアルロスは決心したように席から立ち上がった。
「大統領に進言します。先程採決された対中国開戦案を撤回し、近い内に勃発する恐れのある…対世界全面戦争への対策及び準備案を議題に出してください」
アルロスが発言し終わったと同時に議場のあちこちから笑い声が聞こえてきた。それに頭に来たアルロスは叫んだ。
「何がおかしい!」
「対世界全面戦争への対策と準備だとよ」
「何をしゃべり始めるかと思えば…」
「我が国の軍事力の前では無力も同様」
「そんなもの、戦争が始まる直前に考えればいい」
数々のヤジに晒されたアルロスは一旦頭を冷やす為に黙り込んだ。そして言いたいことを全て整理したアルロスがゆっくりとしゃべり出した。
「この国、マリネア連合州国は…近い内に世界地図から消えるな」
「何だと…?」
「当然だろ。こんだけ我が国の軍事力が完璧だと平和ボケしてる輩がいるんだからなぁ!!」
「黙ってりゃいい気になりやがって…」
はぁ…と1つ大きなため息をつくと、アルロスはこの国が近い内に消える理由を話し始めた。
「我々の同盟国日本は太平洋戦争中、大艦巨砲主義を掲げ、それを過信し、油断して周りを冷静に見る目を失っていた。時に1945年、実際に世界最強の戦艦大和は沈んだ…。今我々もそれと同じ局面を迎えている!」
「何だと?」
「我々は防潮堤を築き、外部からの脅威を排除した。だがしかし今はどうだ?防潮堤に邪魔され外の様子は見えない。挙げ句の果てには防潮堤を壊され侵入、しかも迎撃に向かった最新鋭のイージス艦が撃沈。これでもまだ我が国の軍事力が世界一と言えるのか?」
今までに起こった事実を突きつけられた参加者達は皆黙ってしまった。自分達が思い続けてきた世界一の軍事力が崩れようとしている…。実際にイージス艦が沈められた…。時間が経つにつれ、参加者達の表情が暗くなってきた。その様子を見たアルロスはアーレン大統領に切り出した。
「大統領、議題に出してもらえますか?」
「了解した。アルロスが提出した案を議題にかける。賛成の者は起立せよ」
次の瞬間、アルロスはすかさず立ち上がり、賛成の意志を示した。周りを見てみると、まだ表情が暗いままだ。
するとその中からエルシアが、気が付けば神城とユリウスも立っていた。
「神城姉さん…」
「私もこの案件には強く賛成するわ。世界各国の脅威が増してく中で自分達だけ足踏みしてるのもおかしな話でしょ?それにスリザリーを沈めた奴らに敵討ちしたいの」
「俺もぜひ協力させてくれ。何かできることがあると思うんだ」
そう名乗り出たのは連合州国空軍のトップ、ユリウス・ファーラスだ。彼が現役時代、アルロスの艦隊と組んで共に戦ったことがあった。さすが最前線で戦う人にはこの危機感が伝わるようだ。
「国を守らないでどうする!既に領海侵犯は始まっているぞ!」
すると今でも座っていた人の中から1人が立ち上がった。それを見た人々が1人、また1人と立ち上がっていき、ついには全員が起立。賛成の意思を示した。議場内を見回し、確認をとったアーレン大統領が口を開いた。
「決まりだな。アルロスの案件を全会一致で可決した」
「よし!早速迎撃します!我が国の最新鋭イージス艦を沈めたんだ…ただ者じゃない」
「そうね、あなたの大戦艦ブルーエリアを出してちょうだい。遠慮は、いらないわ」
「了解。大戦艦ブルーエリア、出撃します!」
神城とアーレン大統領、議場に敬礼すると、アルロスは自分の大戦艦が停泊するゴールドマリン海軍基地へと急いだ。